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◇希生さんちへ
「キュンで」*優月
しおりを挟むしばらく、くっついてたけど。
「玲央、起きよー?」
七時だし、せっかくいつもとちがうところに居るし。
希生さん達が寝てたら、お庭お散歩もいいなぁと話すと、玲央がいいよ、と笑ってくれた。
部屋にある洗面台で顔を洗って、身支度を整える。
「なんか、ほんとにあちこち、ホテルみたい」
「そう思う?」
「そうとしか思えない……ていうか、この部屋だけで、すごく広いし」
「まあ、そうだな。このベッドとテーブルだけじゃもったいないよな」
「うんうん」
泊まる部屋だから十分なのだろうけど。
置いてあるテレビもめちゃくちゃでっかい……。
「なんか、別に聞きたいわけじゃないんだけど……一か月のお給料が、どれくらいだと、こういうお家を建てられるんだろう??」
「……さぁ。オレも分かんねーな」
「うーん……謎だねぇ」
そう言いながら、鏡の前で髪をとかしてたら、玲央が近づいてきた。
「ブラシ貸して」
「あ、うん」
持ってたヘアオイルをオレの髪につけてくれて、とかしてくれる。
優しい手つきに、ちょっと玲央を振り返る。
「玲央は、やっぱり美容師さん、似合うね」
「この前も言ってたな」
「うん。だって、なんか……似合うんだもん。もう、カリスマ美容師っていうのになれちゃうよ、絶対だよ」
「はは。そう?」
「うんうん」
「カットが下手だったら?」
「うーん。もう、立ってるだけで? あ、こんな風に、最後のスタイリングみたいなのするだけでいいと思う。女の子、皆、玲央にやってほしいだろうなぁ……」
ふ、と玲央に笑われるのだけれど。
「あ、男子も玲央にやってほしいと思う。なんか、玲央にされるとカッコよくなる気がすると思うし」
うんうん、と頷いてると、玲央はますます可笑しそうに笑ってから。
「じゃあ、優月も今、カッコよくなってる気がしてる?」
「えっ」
「今、オレがやってるから」
「……んー、うん。カッコよく、はあれだけど、でも、玲央にセットしてもらって学校行くと、なんか違うって言われるよ」
「そうなのか?」
「うん。なんか今日おしゃれ、とか。……ていうか、そうだ、それで、オレね」
「うん」
「今までのオレって、どう思われてたんだろ?って、ちょっと思ったの」
あはは、と笑いながら言うと。
「セットしないサラサラだったからなー、優月」
オレの髪を弄って、ちょっと毛先を跳ねさせる。
「こういうのちょっとするだけでも、セットしたって感じになるからな。少しは見た感じ違くなると思うよ」
確かに、少し……ていうか、大分違う。
「いつもの優月は、いじってない感じが可愛いと思うけど」
「……」
「たまにはセットするのもいいよなー?」
はい、おわり、と言うと、玲央はくるっと、オレを自分の方に向けて見つめる。
「可愛いよな」
そう言って、なんだかやたら優しく笑うので。
胸の中はきゅんの嵐だったりする。
「でもオレ、なんもつけてない、サラサラの髪にさわってんのも、すげー好き」
多分、玲央は、オレをキュンすぎで、 息ができなくしようとしてるのかな。と。そう思ってしまうレベル。
ダメだな。
玲央が美容師さんになって、女の子も。いや。男の子もだな。
可愛いとか、カッコいいとか、似合うとか、普通に褒めただけで。
めちゃくちゃ玲央のこと好きになってしまいそう。
うん。美容師さんは、なるべく避けてもらう方向で……。
…………って、別に玲央、美容師さんになるって言ってなかった。
キラキラした顔して、オレの髪に触れて、「ここもうちょっと……」とか、なんかこだわってる玲央を、下から見上げながら。
ふふ、と笑ってしまった。
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