【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

星井 悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「5分間」2/2

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 言えば、いい。

 兄弟に戻るって。
 ほんの、短い言葉を言えば。

 ずっと迷って悩んできたこと、悩む必要も、なくなる。

 何年か後に、笑って、兄弟として、話せてる、かもしれない。

「―――……言わないなら、キスして、オレのものにするから」
「……っ……」

「……あと、三十秒だよ」
「――――」

 ――――言わないとダメだって、思うのに。

「彰。オレと離れること、完全に諦めてもらうよ。いいの?」
「……っ……」

 頬に、仁が、触れる。
 そのまま、する、と首の後ろに手が滑った。

 立ち上がってオレを見下ろしてくる仁を、見上げる。

「……あと十秒」
 時計に視線を向けて。それから、またオレをまっすぐ見つめ直す。


「――――っ……兄弟……」

 オレの口から、その言葉が漏れて。
 うなじに置かれた仁の手がわずかに震えたけれど。そのまま数秒。

 仁は、至近距離で、じっと見つめてくる。

「時間切れだけど……言いたい事あるなら、のばすよ……どうする? 兄弟、の続きは何?」

 ……のばしてくれるんだ。 ほんと……何でこんなに優しいんだ……。
 こんな。――――逃げてばっかの、オレに。


「……仁……ごめん」
「――――うん……?」

「……ごめん……でも……オレ」

 ……この答えを言うのが、ものすごく怖いけど。
 ほんとにこれで、いいのか、まだ全然分からないけれど。


「……兄弟――――なんか……戻りたくない」

 言ってしまった瞬間、堰を切ったように、涙が溢れ落ちた。


「――――え……? ……は ? なに?」


 仁は、そんな声を出して。
 少しの間、泣いてるオレの肩に触れたまま。
 真正面から、呆然と、見つめてきていたけれど。


「……今、なに? 兄弟に戻りたくないって言ったの?」
「――――っうん。 ごめん……」

「はあー?? ――――ごめんって言うから、逆の意味かと覚悟したのに……」
「……っ……だって……それがいいとは、思えない……から……」

 ぼろぼろ、もう、完全に涙腺がおかしくなったみたいに、涙が止まらなくて。
 呆れたように彰を見ていた仁は、ちょっと待っててと言って消えて、すぐタオルを持って戻ってきた。

「とりあえず号泣すんの、とめてくれる……?」
「……ん……っ……」

 ぐしぐしと、顔を拭かれ、タオルを渡されて、それからティッシュも何枚も渡される。

「はい、鼻かんで」
「……ん」

 でもまだ止まらない、拭いても意味がない位。
 
「つーかさ……なんで、先にごめんっていうんだよ……」
「……って、オレと付き合うのが……仁にとっていいとは、思えない、から……」

「――――ほんと、変な思考、こじらせてンな……。あそこで、ごめんとか出ちゃうところが、もう、意味わかんない」
「――――っ」

 なんて言われたって、ごめんって出るよ。
 ……良いとは思えない。なのに。

 兄弟に戻る、離れたいって、どうしても、口にできなかった。
 ――――絶対、言いたくなかった。

 だからもう、ごめんしか、出てこなかった。

「――――諦めた? ……オレと離れるの」

 顔をタオルで隠してると、頭に仁の手が乗って。
 よしよし、と続けて撫でられた。

 躊躇うけれど。

 ――――もうオレ。
 離れたいって、言えなかった。


 こんなにこんなに、長い間考えてきたのに。
 結局、五分で、結論を出した。

 ――――ばかみたい。


 ――――でも。

 兄弟に戻りたいって。
 仁と離れたいって。

 言えなかったというその事実が、すべてな気が、する。


 まだ全然色んなこと、割り切れてないけど。


「――――うん」

 頷くしかなかった。
 仁と。……しばらく、生きていってみることに、する。
 

「……だけど……仁がオレと居たくなくなったら……すぐ言ってね」

 タオルに隠れたまま、そう言ったら。

「はー??? もうほんっと、彰、頭おかしい」

 タオルを少し下げられて、目を合わされる。

「つーか、もう瞳ぇ、真っ赤だし。なにまだ泣いてんの。泣き止んでよ……」
「……」

「つか、やっとこれから、一緒に居ようねって思うとこで、何で居たくなくなった話とか、されンの、オレ。……どーしよ、彰、すっげー、めんどい……」
「……めんど」
「面倒だったらやめるとか言ったら、そろそろ本気で怒るけど」

 ぐ、と、口ごもる。
 タオルで目を拭いて、鼻をティッシュでかんで、ふ、と息をついた。

「……彰って……ほんと、たまに年上と思えない……」

 目の前で、呆れたような顔してる仁が、少し、笑った。

「……まあ……優しすぎて考えすぎて、めんどいってのは、分かってたんだけどさー……。でも、ここまでとは思わなかったけど……ま、いっか。オレと離れるのは、諦めたんだよね?」
「――――ん……」

「……つーか、早く泣き止んでよ。オレ、キスしたいんだけど」
「……」


「つか、何でまた泣く――――あー、もういいや」


 仁は、オレの頬から耳の後ろに手をかけて、ぐい、と引いて。


「……」

 唇を、重ねてきた。


 至近距離の、仁をただ見つめていたら。
 ――――涙がまた溢れた。

「……ごめん、仁……」
「……つか、今度謝ったら、ほんと怒るよ……」

 そんな風に言いながらも、声は優しくて。

「とりあえず今は――――兄弟に戻る、離れるってのを諦めてくれただけでいいよ。今はね。とりあえずだからね」

「……」

 すりすりと、頬を撫でる、仁の手。

 
「オレと居たいっていう言葉は、いつか言わせるから」

 めちゃくちゃカッコ良い弟は。

 久しぶりに見た気がする、鮮やかな、笑顔で。
 ――――そんな風に、言い切ると。



 深く、唇を、重ねてきた。





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