「恋の熱」-義理の弟×兄- 

星井 悠里

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楓side

 
 ふと気がつけば、あれだけ響いていた蝉の鳴き声がピタリと止んでいた。


「……っ、ふ……」
かえで……」

 抱き締められて、唇が深く触れた瞬間、我慢できなくなって。
 オレは、初めてだったけど。夢中で、唇を、あわせた。
 
 キスする前はうるさい位に鳴いてた蝉は、気づいたら、もう鳴いてない。
 いったい、どれくらい――――……キス、し続けてるんだろう。オレ達。


 ラグの上に倒されたオレの上に乗ってる響也きょうやは。
 オレの頭の横に腕をついて、何度も、深いキスを繰り返す。

 静かな世界に、キスする音だけが響いてる気が、する。


「響、也……」

 響也の背に回していた手を動かして、オレにキスしてる響也の頬に触れさせた。

「楓……」

 その手を掴まれて、手の平に、キスされる。
 キスされながら、ちら、と見つめられて。熱をはらんだ瞳に、どき、と心が揺れる。キスされた手から、ゾクリとしたものが這い上がって、目を細めた瞬間。また、唇が重なってくる。


 響也は、半年前にできた、一つ下の弟。
 オレの母と、響也の父が再婚した。

 去年、再婚が決まる前に、初めて響也の父と響也に会った日に。
 オレは、嘘みたいに、恋をした。

 高二になるまで誰も好きになったことが無かった。
 モテても、全然、まったく興味なし。女にも男にも、心動いた事が、かけらもなかった。

 多分オレは、その類の感情が抜けて生まれてきたんだろうなあと自分で思っていたし、それはそれでいいやと、思っていた。

 なのに。何でか……響也に、反応した。心が。

 会った時の響也は、遠目でお世辞にも柄が良くなかった。
 制服は頭の良い私立のブレザーだったけど、派手に着崩されている感じ。開いた首元が見えた。

 頭のいいとこだろうが、居るとこには居るんだろう。
 パッと見、絶対ヤンキーだと思った。

 うわ、オレ、あれと、兄弟になんの?
 しかも、一個下とか。余計やりずらい。

 来年受験なんだけど。勘弁してくれ、マジで。母さん。

 そう思ったのだけれど。女手一つで育ててきてくれた母が、プロポーズされたと、嬉しそうだったのを思い出して、ため息を堪えた。

 すぐ近くまで歩いてきた、父候補と弟候補。
 仕方なく、覚悟を決めて、まっすぐ顔を向けた。

「――――……」

 父候補に少し挨拶してから、弟候補の響也に視線を向けた。

 整った顔と、ピアスが一緒に目に入ってきて。
 柄悪い、とますます思ったのに。

 無言で見つめ合う内に、鼓動が速くなって。
 息が、まともにできなくなって。
 目が、離せなかった。

 その後、四人で一緒に食事をしたけど。何を話したのか、覚えていない。
 たまに視線が絡む響也の瞳と、その時の鼓動の速さしか残らなかった。


◇ ◇ ◇ ◇


「響也……」

 キスされながら呼ぶと、ぐい、と顎を取られて、真正面から見つめられた。

「……楓。なに考えてる?」
「……初めて、会った、日……」

「ああ。……それの何?」

 唇を指でなぞりながら、先を促してくる。

「……オレに惚れた日、だろ?」

 ニヤ、と笑う。色っぽい、義理の弟。


「――――……オレが楓に惚れた日でも、あるけど」

 偉そうな言い方。

「ていうか…柄悪かったなーと思って……」

 クス、と笑うと。

「ひとつ上位で、ナメられたくないって思って行ったから」

 笑う響也の唇が、また重なってきた。


 母とオレが、父と響也の家に入ったのが今年の二月。オレの受験が本格化する前にと、二年生の内に家族になった。

 夏休みが始まってすぐの週末。父母が二泊の旅行に発った今朝。
 それを見送って家に入った時だった。

 同居以降、上っ面で辛うじて保っていたオレ達の均衡を。
 響也が破った。


「……オレ、今から出て、夕方帰ってくるから。――――……楓」
「――――……」

「帰ってくるまでに、誰かを呼ぶか、楓が誰かのとこに行くか」
「――――……?」

 急に、何、言ってるんだろうと思って、黙って聞いていたら。
 響也は、不意に、オレの頬に触れた。


 驚いて、動けなかった。


「それか、オレのになるか。決めろよ」
「――――……」

 至近距離から、強い瞳でオレを見つめて。
 手を頬から首筋に、滑らせて。

 オレが、びく、と震えた瞬間。
 手を離す。


「一人でここに居るなら、そういう意味だって思う。違ったら、もう二度と触れない。……分かる?」


 ……オレは、小さく、頷いた。


「半日あげる。――――……考えて」


 オレが、辛うじてもう一度頷くと、響也は家を出て行った。


 そのまま。自分的に、勉強をするフリはしてみたものの。
 まったく頭に入ってこないので、早々にもう諦めた。

 昼を適当に食べた後。
 ――――……ソファで倒れたまま午後を過ごした。

 リビングの大きな窓から聞こえてくる蝉の声が、うるさくてうるさくて。
 入ってくる太陽の光も熱すぎて。

 響也は、今どこで、何を考えてるんだろうと、すごく思う。

 「一人でここに居たら。そういうこと」

 今まで、お互いがどう思ってるかとか、話した事はない。
 オレがただ、初めて好きになったと思っていただけ。

 響也は、普段は、オレとはほとんど話さない。たまに用事がある時だけ。

 ……ただたまに、無言でじっと、見つめられる。
 射抜くみたいな、瞳で。

 それだけの関係で、この数か月やってきたのに。

 急に、オレのにするとか――――……。
 唐突すぎて、意味が分からない筈なのに。

 でも結局、オレは、誰のことも呼ばず、誰にも声を掛けず。
 ――――……ただ、響也が帰ってくるのを待っていた。




「ただいま」

 玄関の鍵が開く音がして、オレは急いで玄関に向かった。
 玄関が開いてると、ますます蝉の鳴き声がうるさい。


「――――……おかえり」

 そう言うと、響也はちら、とオレを見た。

「一人?」
「――――……」

 声を出さずに頷くと、響也は「ん」と、ビニールを差し出してきた。


「弁当。先、食べよ」
「――――……ん」

 まだ温かい弁当をテーブルに並べて、向かい合って、一緒に食べた。


 蝉の声が、すごい。
 オレ達、二人揃って黙ってるから。それしか聞こえない。


「……ごちそうさま」

 そう言ってから、お茶を飲んでると。
 先に、食べ終わってた、響也が立ち上がって、片づけよ、と言う。

 片づけ終わると、響也は、リビングのカーテンを閉めた。


「……楓、来なよ」

 窓の所で振り返った響也に、手を差し出されて。

 ごく、と鳴る喉。
 前に進まない、足。

 でもゆっくり近付くオレを、響也は黙って待ってて。
 触れる距離に近付いた瞬間、腕をとられて、抱き締められた。


「オレ――――……すげえ時間、やったよな?」
「……ん」

「勘違いじゃねえよな?」
「――――……」

 オレは、響也の腕の中から、響也を見上げて。
 そのまま、惹かれるみたいに、唇を重ねさせた。


「……勘違いじゃ、ない……」

 すぐに、深く、唇が重なってきて。
 熱くて、溶けるみたいなキスに、奪われた。


◇ ◇ ◇ ◇


 それから数えきれない位キスを繰り返して。
 立てなくなってから、ラグの上で押し倒されて、続いたキス。

「楓」
「……ん……ン?」

「……シャワー、浴びよ」
「――――……」

 まっすぐ響也を見つめて。
 ……オレは、頷いた。



 もう、蝉は、鳴いてない。



 夜は、静かな。

 二人だけの、時間。



「人生初の、一目惚れだし――――……もう限界。諦めろよな」

 太々しい感じで、響也は言うけど。

 オレは人生初めて人を好きになったんだし。
 その上、オレも一目惚れ。

 完全に、初恋の一目惚れなんだから、オレのが重いはず。
 ……響也の方が諦めろよな。


 オレのが重いことをいつ言うか。
 楽しみだったりする。





 静かな――――……熱い、夜は。
 これから。
















- Fin -








お読みいただき、ありがとうございました。
準備出来次第、響也sideをアップします。
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