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儀式の日

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支度が全て整い、儀式が始まる。
ユージュアルは柔らかく微笑み、綺麗だと褒めてくれた。
ユージュアルは黒をベースにしたタキシードに重そうな黒いマントを羽織っている。このマントも代々伝わる衣装だ。

ユージュアルは白や青、緑が好きみたいですが、黒もよくお似合いです。
「これからも、僕に君を守らせてほしい」
「私も、出来る限りユージュアルを守ります!」
「守るよりも、支えてほしいな」
ユージュアルはそう言って苦笑いした。


儀式といっても、一般的な結婚式とそう変わらないと私は思います。
親族が数人。教会のようだけど、ずっと薄暗い地下の神殿で行われます。


灯りは蝋燭を使用し、青い炎にぼんやりと照らされている緩やかなスロープを下へ降りるように、リーシュは1人進み、ユージュアルと神父が待つ祭壇へ向かう。

ちょうど真ん中の平らな部分まで来た時、窓という窓が全て開かれた。
外の昼間の光が春一番と共に飛び込んで蝋燭の青い炎を消してしまった。
暗がりで目が慣れたリーシュは眩しくて眼を瞑り、しゃがんでしまう。


「警備はどうした!!」
「儀式の最中だぞ!何が起きている!」
「リーシュ様!ユージュアル様!マラクス様!」
「俺は此処だ!ロジー」
「マラクス様!ご無事でしたか」
「あぁ、なんともない」
「・・・族、でしょうか?」
「いや、俺が族だったら水責めする。ここは地下だしな」
ロジーは一瞬寒気が走ったが、マラクスはこんな非常時でも落ち着いている。流石と褒めるべきと思い内心で褒める。
「・・・というと?」
「狙いはピンポイント。それ以外は眼中に無いって事だよ。こんな日だ。例えば・・・花嫁とかな」
「リーシュ様ですか!?」
「そうなると、花婿に任せるか。花嫁奪還は、新郎新婦が試されるから、俺たちはのんびり待とう」
「ま、マラクス様!?何を呑気な!」
「俺は出来るだけ長くリーシュを可愛がりたいんだよ。ま、・・・ケガでもさせていたら、あの世でも捕まえてお仕置きだけどな」
普段爽やかな笑顔のマラクスが闇を誘うように笑った。先程感じた寒気が温度がさらに低くなった。のんびりしているように見えるけど、一切隙がない方だ。
「ひっ!」
「さ、戻ってコーヒーでも飲もうか。行くぞロジー」
スタスタと上に上がるエレベーターに向かっていった。
「はぁ、まだ子離れ出来ないんですか?・・・ま、マラクス様?お待ち下さい!マラクス様!!」






あっという間に連れ出され、混乱と太陽を直視してしまった為、しばらく目が見えにくく、意識がぼんやりしている。ほとんど音だけが頼りだ。
誰かに抱えられていたが足が地面につくように降ろされた途端に、しゃがみ込んでしまった。

警備の声が近く、お気に入りの噴水の音が聞こえているし、足元に芝生を感じてここが中庭だと気づいた。

フードを被っているが、抱えられた時の印象といい、年齢はそんなに私と変わらない気がする。
逃げないのかと聞いてみると、灯台下暗しだと、笑った。
「おーい大丈夫か?」
「まだ眼がチカチカしてます。慣れるまで暫くかかりそうです・・・」
「世話のやけるやつだなぁ」
そう言ってカラカラと笑う。

視界が悪い事もあって入学式の初恋の人を思い出してしまったが、あの人はこんな事しない!と強がりながら悪びれていない様子をとがめる。
「大体、あなたのせいですよ!神聖な儀式がぶち壊しじゃないですか!?」
「ぶち壊す為にしたからな」
「・・・そうですか。それで、目的は何ですか?欲しいモノは宝石ですか?お金ですか?」
「・・・確認したかっただけだ」
「え?」
「今日一日ずっとその顔してるのか?とても花嫁とは思えない」
「あ、あなたには関係ない事です。それに、今日は儀式の日です。笑うなんてご法度です」
「顔じゃない」
「顔って言ったのはあなたです!」
「もっと奥だ。心で笑ってない。それに、今日だけじゃないだろ。ずっと泣いてる」
「え?」
思考が一時停止する。ずっと見ていたという風に聞こえる。

「リーシュ!!」
「あーあ見つかった。早かったなぁ」
また笑ってる。逃げる様子も無い。まるで見つけてもらいたかったような口ぶりだ。
「悪あがきかい?相変わらず懲りない男だね?」
「ユージュアル?お知り合いですか?」
「何だ?まだ気づいてなかったのか?鈍すぎだろ」
彼はそう言ってフードを取る。

「し、シャズさん!?」
「よっ!」
「・・・っ!な、何考えてるんですか!?私を誘拐してどうするんですか!?」
「誘拐じゃねーよ。花嫁強奪したの」
「い、意味同じです!!どうして・・・!私、もうあなたに逢いたくないんです・・・!」


「・・・余計なお世話?」
その一言で一気に空気が凍りついた気がした。
そういえばエンスさんから聞いた事があります。シャズさんは怒るタイミングがわかりやすい。急に無口になるって。
でも、今は怒ってほしい。私を嫌いになってほしい。
「はい・・・」
「あっそ」
シャズさんはそう言って去って行った。お願い。そのまま振り返らないで。


驚いた。リーシュがこんなにはっきりシャズを拒絶した。寝ぼけていたアレは一体なんだったのだろう
「リーシュ、大丈夫かい?」
僕はそっとリーシュの顔を覗いた。
「り、リーシュ?どうしたんだい?何でそんな顔して泣いてるんだ!?」
「・・・そんな顔?今、私どんな顔してます?」
「何かに堪えているような、悲しみを我慢しているみたいだ」
「そうですか・・・。最近私の中でずっとケンカしているんです」
「中で、ケンカ?」
「はい。頭ではわかっています。でも、何処か深い奥でずっと私が私に問いかけるんです。本当に?後悔しない?って。押さえても押さえても膨らんで・・・!私、私は、もうどうしたらいいのかわからない!!」
「リーシュ・・・?一体どうし
「私が知りたいです!どうして、いつも頭にシャズさんが出てくるんです!もう考えたくないのに!でも逢えただけで嬉しくて、悲しくて・・・!何か考えてみればいつもシャズさんは好きかな?嫌いかな?って考えている私がいるんです!どうしてこんなに振り回されているのかわかりません!私、どうしちゃったんですか?ユージュアル・・・」
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