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傾国
幼い側仕えの傷
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城を出て、視察はちょくちょく行っていた。もちろん、賢者テラスを連れてだ。皇帝は一人行動は基本、出来ない。万が一のことがあるといけないからだ。ないけどな。私に武力で勝てる者はいない。
しかし、行先が魔法使いの所となると、テラスが必要になってくる。私は、見習い魔法使いの剣術や体術の修行を見に行った。
テラスは剣術や体術については、それほど熱心に見ていないのだろう。まあ、魔法使いに重要なのは、魔法だ。剣術と体術は、万が一の時の防衛と、あとは精神修練のようなものである。
見に行ってみれば、ハガルはいた。あれほど小さい子だ。すぐに見つかる。
「何をやっている!?」
テラスはハガルの相手を見て、叫んだ。何故って、ハガルより倍以上は年上の男だからだ。
ハガルの相手としては、年上すぎる。ハガルに歳が近い子どもだと、七歳くらいの子がいた。その年頃から、どんどんと人数が増えていっている。
ハガルの相手は、年齢差がありすぎるので、手加減をする立場だ。ところが、ハガルは抵抗出来てはいるが、やはり、激しく打ちのめされていた。
「どういうことだ。ハガルは大事な大魔法使いの側仕えだぞ!? こんな怪我をさせるなんて」
「側仕えには代わりの者がなればいいではないですか。こんな小さな子どもがやることに、アラリーラ様も文句が言えないだけです」
見習い魔法使いたちが、ハガルを嘲笑い、嫌がらせのように体術や剣術で怪我をさせて、大魔法使いの側仕えを降ろそうとしていた。
「大魔法使いの側仕えの人事は、私が決めることだ。貴様らが口出しすることではない!!」
「ですが、体術も剣術も、このような未熟な者は、もっと、修練をするべきです」
「テラス、そいつらの妖精を盗れ」
私の命令に、テラスは口答えをする見習い魔法使いどもの妖精を全て、盗った。バカだな。テラスは名前だけの賢者ではない。実力があって、賢者となった男だ。
私は適当な木剣を見習い魔法使いから取り上げる。
「相手をしなさい」
私が誰なのか、わからないのだろう。見習い魔法使いたちは、わけもわからず、向かってくる。
バカバカしい。若い頃は、戦場にも立った。今も、訓練をしている。もう一度、戦場に立ち、敵を斬り殺すつもりだからだ。
たかが見習い魔法使い数人など、相手にならない。私は、さっさと見習い魔法使いどもを打ちのめした。
「こんなことして」
「妖精のいない魔法使いなど、本当に弱いな。弱すぎだ」
「誰か、手伝え!」
「貴様ら、私の皇帝に妖精を向けるのか!?」
テラスが激怒した。途端、見習い魔法使いたちは、私の正体を知って、真っ青になった。
私は、口答えをした見習い魔法使いの胸倉をつかみあげる。
「私のような年寄りにも勝てないくせに、随分とデカい口をきくな、若造。このまま、騎士団の訓練に放り出せ。テラス、盗った妖精は、そのまま、染めてしまえ。返すな」
妖精をテラスのものとしてしまったら、もう二度と、妖精は元の妖精憑きに戻ることはない。妖精を盗られた見習い魔法使いたちは、もう、ただの人以下だ。
「ダメだ、返してあげてください!」
ところが、ハガルは私に縋るように見上げて、願う。この場では、いつもの丁寧な口調ではない話し方だ。姿だって、平凡である。だけど、ハガルだ。偽装された姿といえども、私は心が動かされてしまう。
本来ならば、皇帝に口ごたえることは、妖精憑きとしても許されない。ここは、ハガルも罰を受けなければならなくなる。
「何故かな?」
私は、相手が子どもだから、という体裁で、ハガルに疑問を返す。どう見ても、ハガルは一方的に、暴力を受けていた。ハガルがこの見習い魔法使いどもを助ける理由はない。
「生まれた時からずっと、側にいるんだ。いなくなったら、寂しくなる! 俺だったら、そうなる!!」
相手のことを思いやる、優しい子だ。生家が、そう、教育したのだろう。その言葉に、心が打たれた。
「許さん!」
しかし、皇帝としては、この見習い魔法使いたちは許してはならない。将来、この見習い魔法使いが魔法使いとなった時、国を揺るがすこととなるからだ。
これまで、甘い顔しか見せてこなった私が、厳しい顔を見せて、ハガルは途端、顔を歪めて、泣き出した。
「陛下、妖精憑きは貴重です。そうそう、減らすものではありません。鞭打ちで良いでしょう。ほら、ハガル、泣き止みなさい」
テラスはよりにもよって、私の前で泣いているハガルを抱き上げる。テラスがやることは、間違っていない。五歳児が泣いているのだ。そりゃ、大人が抱き上げるしかない。
泣いたハガルは、偽装がはがれていた。そう、テラスはハガルの素顔を隠すために抱き上げたのだ。そして、その素顔で、ハガルは私を怯えたように見てくる。これには、私の心をかなり抉ってきた。
「わかった。鞭打ちの後に、妖精を返しなさい。テラス、こちらに来なさい」
「子どもを降ろせないのですが」
「そのままでいい」
理由なんて、テラスがどうにかしてくれる。私はテラスに抱き上げられたハガルを筆頭魔法使いの屋敷に連れて行った。
ハガルはすっかり、私に対して、怯えてしまっていた。グズグズと泣いている。その泣いている姿でさえ、心打たれる美しさだ。たちが悪いな、これ。
「ほら、手を見せなさい」
ハガルはテラスからは離れたが、私のいうことなど、きかない。手を膝の上で握りしめて、固く口を結ぶ。
「怪我をしないように、命じただろう」
「相手を打ち負かせれば、そうなります。まだ、出来ませんが」
「私が代わりに打ち負かしてやった。もう、ハガルには、剣術と体術の訓練は禁止とする。いいな、テラス」
「そうですね。そうするべきでしょうね」
「私は絶対に勝ってみせます!! ラインハルト様、信じて待っててください!!!」
実際、いつかは打ちのめすのだろう。ハガルの剣術を見ていれば、それはわかる。ハガルは剣術も体術も、確実に身に着けている。ただ、体格差で負けてしまっているだけだ。それも、あと一年で、ハガルはどうにかしてしまえるだろう。ちょっと、騎士団にハガルを放り込めば、体格差をも克服出来るだろう。その目で、私の剣術を見たので、たぶん、それもすぐ体得してしまう。
男の子だから、負けず嫌いな部分が出てきた。そこは、子どもらしい、とついつい私は表情を緩めてしまう。
「許さん。もう、剣術と体術はするな。お前は、もっと別のものを身につけなさい。筆頭魔法使いに必要なのは、別のことだ。剣術と体術の時間は、私が色々と教えてやろう」
「………」
「ハガル、ほら、傷をいますぐ、消しなさい」
「………」
「親御さんが心配するだろう」
「はい」
生家の家族まで出せば、素直にハガルは体の傷を全て、治してしまう。
「これまで、よくもまあ、生家に傷のことは知られなかったな」
私でさえ気づいた傷だ。生家だと、肌を見せることもあるのだ。気づかないはずがない。
「そこは、目くらまししましたので、簡単です」
「私には、そういうことはするな。いいな。ほら、新しい菓子だ。来なさい」
テラスは見習い魔法使いの後始末があるので、部屋を出ていった。
私とハガル、二人だけとなったので、ハガルは素直に私の膝に座る。もう、そこが定位置だと、ハガルは思い込んでいた。まだまだ、子どもだ。
「ハガル、もっと体を大事にしなさい」
「妖精憑きは、とても頑丈です。そこまで大事にする必要はありません。ちょっとした切り傷なら、すぐに治ります」
「そういうことがあったのか?」
「包丁を使った時に、ありました。今は、包丁を使っていないので、そういうことはありません」
「そうかそうか。もうそろそろ、ハガルが作った菓子を食べたいものだな」
「作りたいのですが、材料がありませんので、今だに作れません」
「そうか。では、食堂に連れて行ってやろう。材料は一通りあるぞ」
「お願いします」
ハガルはただ、決まった部屋に行くだけで、筆頭魔法使いの屋敷を全て歩き回ることはなかった。忙しいので、出来なかったのもあるが、ハガルは言われたことしかしないのだろう。五歳児だというのに、悪戯一つしない。
私はハガルを抱き上げたまま、食堂に行く。私がハガルを腕に抱き上げたままやってきたため、使用人たちが驚いていた。
私は使用人たちに命じて、ハガルの前に材料を並べる。ハガルは頭の中では、すでに、分量や作り方は覚えているのだろう。
面白い光景だった。人の手で行われるべき工程を全て、魔法で行うのだ。それには、使用人たちまで目を奪われた。
しかも、ハガルはまだ五歳児だというのに、時を操る魔法まで使いこなしていた。だから、ものの数分で、菓子は出来上がる。
ただ、形まではうまくいかない。皿の上に積み上げられる不格好な菓子は、子どもらしい。ハガルは、その菓子を一枚、私の口に持ってきた。ハガルの中では、菓子は、手を使って食べさせるものなのだろう。私は笑ってしまうが、食べた。
「甘いな」
「分量はあっています。そうですか、ラインハルト様は、もう少し、甘くないほうがいいですか?」
「そうだな」
「わかりました」
何か操作したのだろう。別の皿に、甘くする材料が落とされる。そして、もう一度、ハガルは私の口元に菓子を持ってくる。仕方がないので、食べてやる。
「丁度いいな。すごいな、こんなことも出来るのか、ハガルは」
「形も、もっと綺麗に出来るようにしてみせます。待っていてください」
「そうか」
私は人払いをした。使用人たちは、食堂から出ていく。
ハガルは人払いをされても、何も感じない。いつものように、ハガルは素直に私の膝に座らされる。
「手を綺麗にしよう」
私はハガルの手を舐めた。
ハガルは呆然と、私の行為を見上げる。菓子に触れた手を丹念に舐められ、ハガルは瞳を揺らした。
「あ、ラインハルト様、それ、汚い、ですよ」
「甘いな、ハガルの手は」
「菓子を、触った、ので」
「体の傷を確認しよう」
私は抵抗出来ないうちに、ハガルの服を脱がせた。理由さえ与えてしまえば、ハガルは抵抗しない。
見えないところにもあった傷は、本当に消えていた。綺麗なものだ。
「さて、大丈夫か、調べてみよう」
大丈夫だとわかっているが、私はあえて、ハガルの肌を撫でるようにして触れる。
「あ、ラインハルト様、くすぐったいです」
ハガルは悪戯されているというのに、気づかない。ただ、軽く身をよじって、笑う。
「ハガル、このように、服を脱がせられるようなことは、私だけだ。いいな」
「はい、わかりました」
「本当に、私の言いつけを守っているか、毎日、調べよう」
「もう、剣術も体術も禁止されたんです。怪我をすることはありません」
「そうとは限らないだろう。いいか、何かされたなら、全て、話しなさい。お前の体に傷をつけるということは、皇帝に傷をつけるようなものだ」
「どうしてですか?」
「筆頭魔法使いは皇帝のものだ。ハガルは将来、絶対に筆頭魔法使いになる。そんなお前を傷つけるのだ。皇帝のものを傷つけるようなものだ」
「では、傷つけられないように、気を付けます」
穏やかに笑うハガル。私はさらに深みに入った。ハガルに軽く口づけしてしまう。
ところが、ハガルは抵抗しない。
「口付けは、したことがあるのか?」
一体、誰だ? 私のハガルに口付けをするとは。黒い想いが胸をよぎる。
「母がよく。あと、弟や妹にも。いけませんか?」
「家族と、私だけだ。いいな」
私はさらに深くハガルに口付けする。意味なんてわからないが、ハガルは素直に私の口付けを受け止めた。
ハガルの剣術と体術を禁止したことで、生傷は見ている限りには減ったようだ。しかし、毎日、服を脱がせてみれば、何か傷が出来ている。
「また、私に隠し事か。悲しいな」
「ラインハルト様を心配させたくなくて。もう、そのような顔をしないでください」
私がちょっと悲し気にすると、ハガルはすぐ、瞳を揺らして、私の顔を撫でる。どうにかして、ご機嫌をとろうとしている姿は、愛らしい。相手は子どもで、しかも男だとわかっていても、その姿には、どうしても惹かれてしまう。
ノックをして入ってきた賢者テラスは、私の膝の上で半裸となっているハガルを見て、さすがに驚いた。
「ハガル、何故、そのような恰好を!?」
「私が命じた。また、生傷があるといけないから、確認のためだ。ほら、また、怪我をしている」
「またか。ハガル、誰にやられたか、言いなさい」
「………」
ハガルは黙り込んで、私の胸に顔を押し付ける。こういう所が、子どもだ。
「困ったものだ。負けず嫌いなことは、悪い事ではないが、この事は、後々、大変なことになるぞ」
テラスはこれ以上、ハガルに聞き出そうとはしない。それ以前に、出来ないのだ。こんな五歳児だが、すでにテラスは妖精憑きとして負けているという。
「それで、何か用か?」
「ハガルの勉強についてです。一応、必要な本は全て、部屋に置きました。わざわざ、皇帝陛下自らがハガルの教育をしなくていいですよ」
にっこりと笑っていうテラス。明らかに、ハガルから私を引き離したいのだろう。
「わかりました。わからない所がありましたら、テラスとラインハルト様に聞きます」
ハガルは優秀だ。本だけで、ほとんど知識を吸収するのは、目に見えている。
「そんな、私が教えてやるのに」
ちょっと、ハガルを揺さぶってみる。さて、どう答えるかな?
「少しでも早く、ラインハルト様のお役に立てるようになりたいので、頑張ります」
「さすが、次期筆頭魔法使いだな。良かったですね、皇帝陛下」
なんとも真面目な解答に、私は黙り込むしかなかった。
ハガルがいなくなると、テラスは呆れたように、私を見る。
「ハガルに傾倒しないでください。二代前の筆頭魔法使いに狂った皇帝や女帝のようになりますよ」
「わかっている。しかし、必要なことだ。ハガルは、私を皇帝というより、第二の父親として見ている。母親にはそれなりに甘えさせてもらっているようだが、やはり、弟妹のほうが重きに置かれているせいで、寂しいのだろう。父親役は、ハガルさえ言ってしまうほど、最低だからな。独り占め出来る愛情が嬉しいのだろう」
二代前の筆頭魔法使いとハガルは、まず、育ち自体が違う。
皇帝を狂わせたという筆頭魔法使いは、生家からは完全に縁を切らせ、完全に帝国主導で教育し、育てた魔法使いだ。まず、親というものは知らない。愛情なんて、かけらほども感じたことすらない。だから、教育されるがままに、帝国のための善悪を植え付けられ、その通りに動いているだけだ。普通だったら、とても優秀な筆頭魔法使いで終わっただろう。ところが、見た者全てを狂わせてしまう美貌が、そうさせなかった。筆頭魔法使いとして、皇族には逆らえず、最も血の濃い皇帝が手放さなかった。さらに、恐ろしいことに、戦争では、この筆頭魔法使いだけで敵国の兵を蹂躙するという、とんでもない凶事を見せつけたのだ。人離れした美貌と人離れした力を征服出来る皇帝は、狂うしかなかった。幸いなことに、この筆頭魔法使いは、愛情にはかけらほども興味を示さなかった。与えられるままに受け入れるだけだ。帝国を良い方向へと向ける、ただそれだけのために、皇帝を四代に渡って操ったのだ。
ハガルは、拾われた頃から、母親の愛情を受けていたのだろう。愛情深い子どもだ。血の繋がりがないことを知らず、ただ、母親を思慕し、家族を大事にすることを徹底的に教えられた。そこに、私という理想なのかもしれない父親のような皇帝が現れた。母親は、弟妹たちにとられてしまったが、私は皇帝なので、短時間といえども、独り占め出来る。幼心に、私に依存したのだ。このまま、私に依存させていかせ、私に逆らえないように、少しずつ、教育していくつもりだ。
そうすれば、万が一にも、私だけの犠牲ですむだろう。
現在、最強の魔法使いであるテラスですら、ハガルは抑えきれないという。筆頭魔法使いの儀式では、全ての魔法使いと、ある程度の妖精を抑え込めるように魔法が施されている広間で、次期筆頭魔法使いを抑え込むのだ。そうしないと、背中に契約紋となる焼き鏝を押すことが出来ない。契約紋がない最強の妖精憑きを皇族の血で縛ることが出来なくなるのだ。
「ハガルには、私に依存させる。そうすれば、いつか行うこととなる筆頭魔法使いの儀式で、私の存在が抑止力にはなるだろう」
「全ての魔法使いを総動員させてば、どうにかなります。あなたはまだ、皇帝を続ける必要があります」
「いいか、私が体を張って、ハガルを抑え込む。儀式では、私の命は二の次だ。絶対に成功させろ。筆頭魔法使いの代わりはいないが、皇帝の代わりは、残念ながら、探せばいる。いざとなったら、ハガルに皇帝を操らせろ」
「………わかりました」
「さて、どこまで、あの子どもは私を受け入れるのやら」
ある意味、真っ白な子どもだ。当然だ。見た目はともかく、ただの五歳児だ。どれほど優秀だといえど、経験が足りない。
その経験も、これから植え付けられる知識で補い、化け物となっていく。
「絶対に、剣術と体術はやらせるな。あんな化け物に与えたら、私でも抑え込めなくなる」
「わかっています。バカな魔法使いや見習い魔法使いには、私のほうで黙らせます」
「ついでだ。皇帝の顔を覚えさせろ。私が抜き打ちで行って、誰も私が皇帝だと、気づかなかったのは、腹が立った。見習い魔法使いどもにとっては、皇帝は大した存在ではないようだな」
神の使いである妖精を持って生まれる、という妖精憑きは、プライドが高い。そこが、帝国にマイナスに働くことがある。
妖精憑きは帝国の所有物である。見つかってすぐ、力を発揮する赤子の頃に、そう、契約させるのだ。あのハガルでさえ、帝国の所有物としての契約を施される。この契約には、必ず、帝国のために身をささげる、というものが含まれている。だから、帝国のためには働くのだ。しかし、皇帝のために働くわけではない。だから、間違った認識が出てしまうことがある。
今回、私が稽古場に顔を出した時のようなことが、起こるのだ。だいたい、賢者テラスが付いている男が、そこら辺の平民なわけではない。貴族だとしても、高位貴族だ。そういうことすら、頭に入っていないのだ。
「もう少し、厳しくするべきですね。ついでに、あなたに歯向かった見習いどもですが、まだまだ、ハガルに嫌がらせをしていますよ。どうしますか?」
「ハガルが告げ口するまでは、待っているしかあるまい。私が口出しするのは、イヤがっているし、たぶん、心配されるのが、嬉しいのだろう」
怪我など、隠してしまえばいいんだ。それをあえてやらないのは、ハガルなりに、甘えたいだけだ。
「そういうところが、まだまだ子どもだな」
ハガルが皇帝を操るには、まだまだ、子ども過ぎた。
しかし、行先が魔法使いの所となると、テラスが必要になってくる。私は、見習い魔法使いの剣術や体術の修行を見に行った。
テラスは剣術や体術については、それほど熱心に見ていないのだろう。まあ、魔法使いに重要なのは、魔法だ。剣術と体術は、万が一の時の防衛と、あとは精神修練のようなものである。
見に行ってみれば、ハガルはいた。あれほど小さい子だ。すぐに見つかる。
「何をやっている!?」
テラスはハガルの相手を見て、叫んだ。何故って、ハガルより倍以上は年上の男だからだ。
ハガルの相手としては、年上すぎる。ハガルに歳が近い子どもだと、七歳くらいの子がいた。その年頃から、どんどんと人数が増えていっている。
ハガルの相手は、年齢差がありすぎるので、手加減をする立場だ。ところが、ハガルは抵抗出来てはいるが、やはり、激しく打ちのめされていた。
「どういうことだ。ハガルは大事な大魔法使いの側仕えだぞ!? こんな怪我をさせるなんて」
「側仕えには代わりの者がなればいいではないですか。こんな小さな子どもがやることに、アラリーラ様も文句が言えないだけです」
見習い魔法使いたちが、ハガルを嘲笑い、嫌がらせのように体術や剣術で怪我をさせて、大魔法使いの側仕えを降ろそうとしていた。
「大魔法使いの側仕えの人事は、私が決めることだ。貴様らが口出しすることではない!!」
「ですが、体術も剣術も、このような未熟な者は、もっと、修練をするべきです」
「テラス、そいつらの妖精を盗れ」
私の命令に、テラスは口答えをする見習い魔法使いどもの妖精を全て、盗った。バカだな。テラスは名前だけの賢者ではない。実力があって、賢者となった男だ。
私は適当な木剣を見習い魔法使いから取り上げる。
「相手をしなさい」
私が誰なのか、わからないのだろう。見習い魔法使いたちは、わけもわからず、向かってくる。
バカバカしい。若い頃は、戦場にも立った。今も、訓練をしている。もう一度、戦場に立ち、敵を斬り殺すつもりだからだ。
たかが見習い魔法使い数人など、相手にならない。私は、さっさと見習い魔法使いどもを打ちのめした。
「こんなことして」
「妖精のいない魔法使いなど、本当に弱いな。弱すぎだ」
「誰か、手伝え!」
「貴様ら、私の皇帝に妖精を向けるのか!?」
テラスが激怒した。途端、見習い魔法使いたちは、私の正体を知って、真っ青になった。
私は、口答えをした見習い魔法使いの胸倉をつかみあげる。
「私のような年寄りにも勝てないくせに、随分とデカい口をきくな、若造。このまま、騎士団の訓練に放り出せ。テラス、盗った妖精は、そのまま、染めてしまえ。返すな」
妖精をテラスのものとしてしまったら、もう二度と、妖精は元の妖精憑きに戻ることはない。妖精を盗られた見習い魔法使いたちは、もう、ただの人以下だ。
「ダメだ、返してあげてください!」
ところが、ハガルは私に縋るように見上げて、願う。この場では、いつもの丁寧な口調ではない話し方だ。姿だって、平凡である。だけど、ハガルだ。偽装された姿といえども、私は心が動かされてしまう。
本来ならば、皇帝に口ごたえることは、妖精憑きとしても許されない。ここは、ハガルも罰を受けなければならなくなる。
「何故かな?」
私は、相手が子どもだから、という体裁で、ハガルに疑問を返す。どう見ても、ハガルは一方的に、暴力を受けていた。ハガルがこの見習い魔法使いどもを助ける理由はない。
「生まれた時からずっと、側にいるんだ。いなくなったら、寂しくなる! 俺だったら、そうなる!!」
相手のことを思いやる、優しい子だ。生家が、そう、教育したのだろう。その言葉に、心が打たれた。
「許さん!」
しかし、皇帝としては、この見習い魔法使いたちは許してはならない。将来、この見習い魔法使いが魔法使いとなった時、国を揺るがすこととなるからだ。
これまで、甘い顔しか見せてこなった私が、厳しい顔を見せて、ハガルは途端、顔を歪めて、泣き出した。
「陛下、妖精憑きは貴重です。そうそう、減らすものではありません。鞭打ちで良いでしょう。ほら、ハガル、泣き止みなさい」
テラスはよりにもよって、私の前で泣いているハガルを抱き上げる。テラスがやることは、間違っていない。五歳児が泣いているのだ。そりゃ、大人が抱き上げるしかない。
泣いたハガルは、偽装がはがれていた。そう、テラスはハガルの素顔を隠すために抱き上げたのだ。そして、その素顔で、ハガルは私を怯えたように見てくる。これには、私の心をかなり抉ってきた。
「わかった。鞭打ちの後に、妖精を返しなさい。テラス、こちらに来なさい」
「子どもを降ろせないのですが」
「そのままでいい」
理由なんて、テラスがどうにかしてくれる。私はテラスに抱き上げられたハガルを筆頭魔法使いの屋敷に連れて行った。
ハガルはすっかり、私に対して、怯えてしまっていた。グズグズと泣いている。その泣いている姿でさえ、心打たれる美しさだ。たちが悪いな、これ。
「ほら、手を見せなさい」
ハガルはテラスからは離れたが、私のいうことなど、きかない。手を膝の上で握りしめて、固く口を結ぶ。
「怪我をしないように、命じただろう」
「相手を打ち負かせれば、そうなります。まだ、出来ませんが」
「私が代わりに打ち負かしてやった。もう、ハガルには、剣術と体術の訓練は禁止とする。いいな、テラス」
「そうですね。そうするべきでしょうね」
「私は絶対に勝ってみせます!! ラインハルト様、信じて待っててください!!!」
実際、いつかは打ちのめすのだろう。ハガルの剣術を見ていれば、それはわかる。ハガルは剣術も体術も、確実に身に着けている。ただ、体格差で負けてしまっているだけだ。それも、あと一年で、ハガルはどうにかしてしまえるだろう。ちょっと、騎士団にハガルを放り込めば、体格差をも克服出来るだろう。その目で、私の剣術を見たので、たぶん、それもすぐ体得してしまう。
男の子だから、負けず嫌いな部分が出てきた。そこは、子どもらしい、とついつい私は表情を緩めてしまう。
「許さん。もう、剣術と体術はするな。お前は、もっと別のものを身につけなさい。筆頭魔法使いに必要なのは、別のことだ。剣術と体術の時間は、私が色々と教えてやろう」
「………」
「ハガル、ほら、傷をいますぐ、消しなさい」
「………」
「親御さんが心配するだろう」
「はい」
生家の家族まで出せば、素直にハガルは体の傷を全て、治してしまう。
「これまで、よくもまあ、生家に傷のことは知られなかったな」
私でさえ気づいた傷だ。生家だと、肌を見せることもあるのだ。気づかないはずがない。
「そこは、目くらまししましたので、簡単です」
「私には、そういうことはするな。いいな。ほら、新しい菓子だ。来なさい」
テラスは見習い魔法使いの後始末があるので、部屋を出ていった。
私とハガル、二人だけとなったので、ハガルは素直に私の膝に座る。もう、そこが定位置だと、ハガルは思い込んでいた。まだまだ、子どもだ。
「ハガル、もっと体を大事にしなさい」
「妖精憑きは、とても頑丈です。そこまで大事にする必要はありません。ちょっとした切り傷なら、すぐに治ります」
「そういうことがあったのか?」
「包丁を使った時に、ありました。今は、包丁を使っていないので、そういうことはありません」
「そうかそうか。もうそろそろ、ハガルが作った菓子を食べたいものだな」
「作りたいのですが、材料がありませんので、今だに作れません」
「そうか。では、食堂に連れて行ってやろう。材料は一通りあるぞ」
「お願いします」
ハガルはただ、決まった部屋に行くだけで、筆頭魔法使いの屋敷を全て歩き回ることはなかった。忙しいので、出来なかったのもあるが、ハガルは言われたことしかしないのだろう。五歳児だというのに、悪戯一つしない。
私はハガルを抱き上げたまま、食堂に行く。私がハガルを腕に抱き上げたままやってきたため、使用人たちが驚いていた。
私は使用人たちに命じて、ハガルの前に材料を並べる。ハガルは頭の中では、すでに、分量や作り方は覚えているのだろう。
面白い光景だった。人の手で行われるべき工程を全て、魔法で行うのだ。それには、使用人たちまで目を奪われた。
しかも、ハガルはまだ五歳児だというのに、時を操る魔法まで使いこなしていた。だから、ものの数分で、菓子は出来上がる。
ただ、形まではうまくいかない。皿の上に積み上げられる不格好な菓子は、子どもらしい。ハガルは、その菓子を一枚、私の口に持ってきた。ハガルの中では、菓子は、手を使って食べさせるものなのだろう。私は笑ってしまうが、食べた。
「甘いな」
「分量はあっています。そうですか、ラインハルト様は、もう少し、甘くないほうがいいですか?」
「そうだな」
「わかりました」
何か操作したのだろう。別の皿に、甘くする材料が落とされる。そして、もう一度、ハガルは私の口元に菓子を持ってくる。仕方がないので、食べてやる。
「丁度いいな。すごいな、こんなことも出来るのか、ハガルは」
「形も、もっと綺麗に出来るようにしてみせます。待っていてください」
「そうか」
私は人払いをした。使用人たちは、食堂から出ていく。
ハガルは人払いをされても、何も感じない。いつものように、ハガルは素直に私の膝に座らされる。
「手を綺麗にしよう」
私はハガルの手を舐めた。
ハガルは呆然と、私の行為を見上げる。菓子に触れた手を丹念に舐められ、ハガルは瞳を揺らした。
「あ、ラインハルト様、それ、汚い、ですよ」
「甘いな、ハガルの手は」
「菓子を、触った、ので」
「体の傷を確認しよう」
私は抵抗出来ないうちに、ハガルの服を脱がせた。理由さえ与えてしまえば、ハガルは抵抗しない。
見えないところにもあった傷は、本当に消えていた。綺麗なものだ。
「さて、大丈夫か、調べてみよう」
大丈夫だとわかっているが、私はあえて、ハガルの肌を撫でるようにして触れる。
「あ、ラインハルト様、くすぐったいです」
ハガルは悪戯されているというのに、気づかない。ただ、軽く身をよじって、笑う。
「ハガル、このように、服を脱がせられるようなことは、私だけだ。いいな」
「はい、わかりました」
「本当に、私の言いつけを守っているか、毎日、調べよう」
「もう、剣術も体術も禁止されたんです。怪我をすることはありません」
「そうとは限らないだろう。いいか、何かされたなら、全て、話しなさい。お前の体に傷をつけるということは、皇帝に傷をつけるようなものだ」
「どうしてですか?」
「筆頭魔法使いは皇帝のものだ。ハガルは将来、絶対に筆頭魔法使いになる。そんなお前を傷つけるのだ。皇帝のものを傷つけるようなものだ」
「では、傷つけられないように、気を付けます」
穏やかに笑うハガル。私はさらに深みに入った。ハガルに軽く口づけしてしまう。
ところが、ハガルは抵抗しない。
「口付けは、したことがあるのか?」
一体、誰だ? 私のハガルに口付けをするとは。黒い想いが胸をよぎる。
「母がよく。あと、弟や妹にも。いけませんか?」
「家族と、私だけだ。いいな」
私はさらに深くハガルに口付けする。意味なんてわからないが、ハガルは素直に私の口付けを受け止めた。
ハガルの剣術と体術を禁止したことで、生傷は見ている限りには減ったようだ。しかし、毎日、服を脱がせてみれば、何か傷が出来ている。
「また、私に隠し事か。悲しいな」
「ラインハルト様を心配させたくなくて。もう、そのような顔をしないでください」
私がちょっと悲し気にすると、ハガルはすぐ、瞳を揺らして、私の顔を撫でる。どうにかして、ご機嫌をとろうとしている姿は、愛らしい。相手は子どもで、しかも男だとわかっていても、その姿には、どうしても惹かれてしまう。
ノックをして入ってきた賢者テラスは、私の膝の上で半裸となっているハガルを見て、さすがに驚いた。
「ハガル、何故、そのような恰好を!?」
「私が命じた。また、生傷があるといけないから、確認のためだ。ほら、また、怪我をしている」
「またか。ハガル、誰にやられたか、言いなさい」
「………」
ハガルは黙り込んで、私の胸に顔を押し付ける。こういう所が、子どもだ。
「困ったものだ。負けず嫌いなことは、悪い事ではないが、この事は、後々、大変なことになるぞ」
テラスはこれ以上、ハガルに聞き出そうとはしない。それ以前に、出来ないのだ。こんな五歳児だが、すでにテラスは妖精憑きとして負けているという。
「それで、何か用か?」
「ハガルの勉強についてです。一応、必要な本は全て、部屋に置きました。わざわざ、皇帝陛下自らがハガルの教育をしなくていいですよ」
にっこりと笑っていうテラス。明らかに、ハガルから私を引き離したいのだろう。
「わかりました。わからない所がありましたら、テラスとラインハルト様に聞きます」
ハガルは優秀だ。本だけで、ほとんど知識を吸収するのは、目に見えている。
「そんな、私が教えてやるのに」
ちょっと、ハガルを揺さぶってみる。さて、どう答えるかな?
「少しでも早く、ラインハルト様のお役に立てるようになりたいので、頑張ります」
「さすが、次期筆頭魔法使いだな。良かったですね、皇帝陛下」
なんとも真面目な解答に、私は黙り込むしかなかった。
ハガルがいなくなると、テラスは呆れたように、私を見る。
「ハガルに傾倒しないでください。二代前の筆頭魔法使いに狂った皇帝や女帝のようになりますよ」
「わかっている。しかし、必要なことだ。ハガルは、私を皇帝というより、第二の父親として見ている。母親にはそれなりに甘えさせてもらっているようだが、やはり、弟妹のほうが重きに置かれているせいで、寂しいのだろう。父親役は、ハガルさえ言ってしまうほど、最低だからな。独り占め出来る愛情が嬉しいのだろう」
二代前の筆頭魔法使いとハガルは、まず、育ち自体が違う。
皇帝を狂わせたという筆頭魔法使いは、生家からは完全に縁を切らせ、完全に帝国主導で教育し、育てた魔法使いだ。まず、親というものは知らない。愛情なんて、かけらほども感じたことすらない。だから、教育されるがままに、帝国のための善悪を植え付けられ、その通りに動いているだけだ。普通だったら、とても優秀な筆頭魔法使いで終わっただろう。ところが、見た者全てを狂わせてしまう美貌が、そうさせなかった。筆頭魔法使いとして、皇族には逆らえず、最も血の濃い皇帝が手放さなかった。さらに、恐ろしいことに、戦争では、この筆頭魔法使いだけで敵国の兵を蹂躙するという、とんでもない凶事を見せつけたのだ。人離れした美貌と人離れした力を征服出来る皇帝は、狂うしかなかった。幸いなことに、この筆頭魔法使いは、愛情にはかけらほども興味を示さなかった。与えられるままに受け入れるだけだ。帝国を良い方向へと向ける、ただそれだけのために、皇帝を四代に渡って操ったのだ。
ハガルは、拾われた頃から、母親の愛情を受けていたのだろう。愛情深い子どもだ。血の繋がりがないことを知らず、ただ、母親を思慕し、家族を大事にすることを徹底的に教えられた。そこに、私という理想なのかもしれない父親のような皇帝が現れた。母親は、弟妹たちにとられてしまったが、私は皇帝なので、短時間といえども、独り占め出来る。幼心に、私に依存したのだ。このまま、私に依存させていかせ、私に逆らえないように、少しずつ、教育していくつもりだ。
そうすれば、万が一にも、私だけの犠牲ですむだろう。
現在、最強の魔法使いであるテラスですら、ハガルは抑えきれないという。筆頭魔法使いの儀式では、全ての魔法使いと、ある程度の妖精を抑え込めるように魔法が施されている広間で、次期筆頭魔法使いを抑え込むのだ。そうしないと、背中に契約紋となる焼き鏝を押すことが出来ない。契約紋がない最強の妖精憑きを皇族の血で縛ることが出来なくなるのだ。
「ハガルには、私に依存させる。そうすれば、いつか行うこととなる筆頭魔法使いの儀式で、私の存在が抑止力にはなるだろう」
「全ての魔法使いを総動員させてば、どうにかなります。あなたはまだ、皇帝を続ける必要があります」
「いいか、私が体を張って、ハガルを抑え込む。儀式では、私の命は二の次だ。絶対に成功させろ。筆頭魔法使いの代わりはいないが、皇帝の代わりは、残念ながら、探せばいる。いざとなったら、ハガルに皇帝を操らせろ」
「………わかりました」
「さて、どこまで、あの子どもは私を受け入れるのやら」
ある意味、真っ白な子どもだ。当然だ。見た目はともかく、ただの五歳児だ。どれほど優秀だといえど、経験が足りない。
その経験も、これから植え付けられる知識で補い、化け物となっていく。
「絶対に、剣術と体術はやらせるな。あんな化け物に与えたら、私でも抑え込めなくなる」
「わかっています。バカな魔法使いや見習い魔法使いには、私のほうで黙らせます」
「ついでだ。皇帝の顔を覚えさせろ。私が抜き打ちで行って、誰も私が皇帝だと、気づかなかったのは、腹が立った。見習い魔法使いどもにとっては、皇帝は大した存在ではないようだな」
神の使いである妖精を持って生まれる、という妖精憑きは、プライドが高い。そこが、帝国にマイナスに働くことがある。
妖精憑きは帝国の所有物である。見つかってすぐ、力を発揮する赤子の頃に、そう、契約させるのだ。あのハガルでさえ、帝国の所有物としての契約を施される。この契約には、必ず、帝国のために身をささげる、というものが含まれている。だから、帝国のためには働くのだ。しかし、皇帝のために働くわけではない。だから、間違った認識が出てしまうことがある。
今回、私が稽古場に顔を出した時のようなことが、起こるのだ。だいたい、賢者テラスが付いている男が、そこら辺の平民なわけではない。貴族だとしても、高位貴族だ。そういうことすら、頭に入っていないのだ。
「もう少し、厳しくするべきですね。ついでに、あなたに歯向かった見習いどもですが、まだまだ、ハガルに嫌がらせをしていますよ。どうしますか?」
「ハガルが告げ口するまでは、待っているしかあるまい。私が口出しするのは、イヤがっているし、たぶん、心配されるのが、嬉しいのだろう」
怪我など、隠してしまえばいいんだ。それをあえてやらないのは、ハガルなりに、甘えたいだけだ。
「そういうところが、まだまだ子どもだな」
ハガルが皇帝を操るには、まだまだ、子ども過ぎた。
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