男装の皇族姫

shishamo346

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婚約解消のすすめ

婚約解消させたい人たち

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 無事、貴族の学校の入学試験が終わって、合格通知も亡くなった母の実家に届いた。それを婚約者ヘリオスがわざわざ、届けてくれた。
 その時、たまたま、王都からお忍びで、筆頭魔法使いティーレットが遊びに来ていた。筆頭魔法使いが女帝の側にいないって、どうなんだろう。
 ティーレットは当然のように私にべったりと給仕している。それをじっと見ているヘリオス。
「アーサー、いつの間に、妖精憑きが二人になったの?」
「これには、言えない、深い事情があって」
 一目見れば、ティーレットの美貌は妖精憑き特有だとヘリオスもわかる。だけど、ヘリオスにティーレットの正体は話せない。ティーレットが普通の服を着ているお陰で、筆頭魔法使いだとはバレていない。
 ヘリオスは、私の合格通知とは別に、私のみが記名した婚約破棄の書類をばんと机に叩きつけた。
「婚約解消、しないから」
「ヘリオスのご両親としては、もう事情も違うから、一旦、婚約解消しよう、という話だよ。ほら、私は男で、ヘリオスは女で婚約してるから。昔と今では、事情も変わっている。爵位を継げる私と結婚したい男はいっぱいいるだろうし」
「好きな男でもいるというのか!?」
「いないいない。だいたい、領地にずっといて、社交すらしてないんだよ。そんな出会いすらないよ」
「絶対に別れない」
「いやいや、婚約だから、別れる別れないじゃないよ」
「だったら、男と女として、お付き合いしよう」
「そういうのは、婚約解消してからだよ」
「それはしない」
 うまくいかないなー。ヘリオスだけが婚約を望んでいるだけで、それ以外は、婚約解消を望んでいるのだ。貴族の婚姻で、周囲から祝福されないと、結局は離婚することとなる。円満の夫婦生活って、周囲との祝福が大事なのだ。
 仕方なく、妖精憑きキオンに、溜めに溜めた王都からのお手紙を机の上にドンと運ばせた。
「ヘリオスは将来有望だから、辺境のど田舎でくすぶるのは勿体ないんだって」
 とんでもない形相になって、ヘリオスは、私宛に送られてきた手紙をつかんでは目を通し、を繰り返した。
 このお手紙、王都での十年に一度の舞踏会が終わってから、ずっと、続いている。
 身の程を知れ。
 身を引け。
 婚約で縛り付けるな。
 田舎者同士で結婚しろ。
 そういった内容がいっぱい、私宛に王都の学校のヘリオスのお友達から送られてきたのである。それは、男も女もいっぱいだ。
「ヘリオス、学校では人気者なんだね。私みたいな田舎者には、ヘリオスは勿体ないよ」
「実の父親を去勢するようなアーサーこそ、すごい人だよ!!」
「それは言わないように」
 その噂が流れた途端、私の縁談は軒並みなくなる。実の父親を裏切ったからって、去勢するような女の婿には、誰もなりたくないだろう。浮気したら去勢されるかもしれないからね。
 学友から大反対のお手紙だけならばいいのだ。
「皇族のご学友からも、お手紙をいただいてるんだなー」
 さすがに立派なお手紙なので、私は別に保管していた。皇族のお手紙って、もう、皇命だから。別れろ、と皇族に言われたら、別れるしかないのだ。皇族が口にしたことは、絶対である。
「綺麗な人ですか?」
「………」
 無言になるヘリオス。皇族のご学友は女性だ。きっと、ヘリオスのことが好きなんだ。皇族が望めば、ヘリオスを愛人に出来る。
 皇族相手となると、ヘリオスはそれ以上、何も言えない。きっと、ヘリオスのご両親にも、皇族から、有難いお手紙が届いているのだろう。そりゃ、婚約破棄させたいよね。
「アーサー、待ってて。説得するから」
 ヘリオスは婚約解消の書類を破り捨てて、席を立った。
 ヘリオスの見送りは、妖精憑きキロンが行った。私は筆頭魔法使いティーレットの接待である。ほら、筆頭魔法使いのご機嫌取りは、秘密とはいえ、皇族の役割だ。
 ティーレットは、私の傍らに立ったまま、皇族からの手紙を手にとった。
「生意気な女め。僕のアーサーの物を横取りしようとするとは、思い知らせてやる」
「私が皇族なのは、内緒なんだから、ダメだよ」
「アーサー、任せて。僕が筆頭魔法使いになった以上、この女は終わりだ」
 一瞬にして、貴重な皇族からの手紙が消し炭になった。
「婚約解消でいい。いずれは、するつもりだった」
 こんないっぱい、反対の手紙を貰ったからではない。
 ヘリオスはこんなに人気者だ。昔からそうなんだ。人を引き寄せる魅力のある人なんだ。そこに性別は関係ない。
「帝国の法が変わって、女でも爵位を受け継げるようになった。もう、ヘリオスが私に縛り付けられる必要はない。ヘリオスが可哀想だ」
「アーサーは可哀想じゃないの?」
「………そういうこと、言われたことがない」
 誰も、私を憐れんでいない。憐れむ必要がないのだ。
「私は両親が貴族で、将来は子爵になることが決まっている。貴族の次男三男なんかに生まれてみろ。将来のことを考えないといけない。私にはそれがない。可哀想じゃない」
「誰がそう言ってるの?」
「皆がそう言ってる」
「皆って」
「まず、亡くなった母、去勢された父、祖父母、親戚の皆さん、義母に義兄に義妹も、そう言っているな。あ、領主代行には、私が生まれてきて助かった、と喜ばれたなー」
「ねえ、アーサー、もう、こんなトコ捨てちゃって、僕と一緒に王都で暮らそう。王都には、いっぱい、楽しいことがあるよ。アーサーは、もっと遊ぶべきだよ」
「もう、一生分、遊んだ」
「いつ?」
「母が亡くなってから、父によって、一年間、小さな小屋に閉じ込められた、あの時、キロンといっぱい遊んだ。もう、十分だ」
 たった一年、一年も、私は妖精憑きキロンに囲われるように、あの小屋で、自堕落に過ごした。もう、十分だ。
 私が過去に意識を飛ばすと、筆頭魔法使いティーレットは、後ろから優しく抱きしめてくれた。





 婚約者ヘリオスを怒らせてから一週間後、辺境のど田舎にある我が家の前に、皇族様の馬車が停まった。
「どうして、誰も彼も、先ぶれ一つくれないかなー。田舎だから、暇だと思ってるのだろうか」
「王都はこう、忙しそうだよな」
 私の文句交じりの冗談に、妖精憑きキロンが笑顔で乗ってくれる。
 いきなり来たから、出迎えた使用人は倒れた。まさか、皇族様がやってくるなんて、一生涯、経験することなんてないだろう。
 幸い、今日は筆頭魔法使いティーレットがお忍びで来ていない。良かった、鉢合わせなくて。皇族だと、ティーレットを見れば、筆頭魔法使いだとバレてしまうだろう。
 我が家の使用人が使い物にならないので、皇族が引き連れてきた側仕えとかが、勝手に取り仕切ってくれる。私を呼びに来たのも、皇族の護衛である。
「皇族がわざわざ来たというのに、出迎えがないなんて、無礼である」
 先ぶれ貰ってないけど。そんな言葉を飲み込む私は偉いなー。
「まさか、このようなど田舎に皇族様が来るなんて、冗談だと思っておりました」
 勝手にやってきた皇族様の顔を立ててやった。皇族は悪くない。悪いのは私だ。
 というわけで、私は勝手に応接室でくつろいでいる皇族様の前で膝をついた。絶対に椅子なんかに座ってはいけない。
 この場にいるのは、皇族様だけではない。どうやら、貴族の学校のご学友まで引き連れていた。
「遅いわね。わたくしは忙しいのよ。待たせないでちょうだい」
「申し訳ございません。田舎は、全てがのんびりですから、ついつい、足が遅くなりました」
「何か、臭うわね」
「今の時期だと、堆肥ですね。糞尿ですよ。いい肥料になります」
「な、なんて所なの!? そんな物を使っているなんて」
 お前が口にする野菜を育てるために使ってるんだよ。喉から出てしまいそうだけど、私はぐっと飲み込んだ。ほら、皇族様は農業なんてしないから。知らないのは仕方がない。
 皇族様のご学友は私を冷笑する。そうだよね、ご学友となるくらいだから、農業なんか無縁な人たちだもんね。そんなお前たちも、堆肥で育った野菜を口にしてるんだよ。ざまあみろ。
 表面上は笑顔で、心の中では毒づいた。
「いつまでもそこにいると、首が痛いわ。椅子に座りなさい」
「ありがとうございます」
 やっと皇族様から許可を貰えたので、私は皇族様の斜め前に座る。決して、正面に座っちゃいけないんだよ。無礼だから。
 私の対応に、皇族様のご学友が舌打ちなんかした。きっと、無礼を指摘したかったんだろうね。田舎者だけど、それなりの教育は受けているんだよ。
 私の傍らには、妖精憑きキロンが立った。キロンはそれなりに力のある妖精憑きだから、かなりの美形である。キロンを見て、皇族様はちょっと見惚れる。
「これはまた、田舎には勿体ない、綺麗な男ね。そんなぱっとしない田舎者の側よりも、わたくしの側に来なさい。わたくしは将来、女帝となるのよ。そなたをわたくしの愛人にしてあげます」
 いきなり、不穏なことをいう皇族様。それ、聞き方によっては、皇位簒奪宣言だよ。この場に女帝レオナ様がいなくて良かった。あの人、ちょっと間違えると、すぐ剣抜いちゃうから。十年に一度の舞踏会でも、女帝レオナ様に対して失言してしまった皇族は、次の日には首無し死体となっていたという。そんなこと、教えなくていいのに。
 私はあえて沈黙する。下手に突っ込んだら、面倒だ。笑顔を貼りつかせて、私は皇族様が目的を口にするのを待った。
 キロンは無表情で、何も言わない。皇族様相手に、不愛想だな。とても無礼なことなんだけど、皇族様は気にしない。不愛想でもいいなんて、美形は得だね。
「お前の周りには、いい男ばかりね。田舎者には勿体ないわ。全て手放しなさい」
「私は何一つ、持っていません。勝手にくっついているだけです」
「アーサー!!」
 妖精憑きキロンの存在を迷惑、みたいに遠まわしに言ってやると、キロン、半泣きで私に迫ってくる。
「まさか、俺を捨てるつもりか!?」
「だって、キロン、欲望のためには、私を裏切るから」
「俺は絶対にアーサーから離れないからな!! そこの女、アーサーに余計なことを言うな!!! 俺はアーサーに捨てられちゃうだろう」
「だったら、わたくしの元に来なさい。わたくしはお前を捨てたりしませんよ。さあ」
「俺はアーサーがいいんだよ!!」
 せっかくの皇族様のお誘いを拒否する妖精憑きキロン。うん、妖精憑きだから仕方がない。
 しかし、皇族様は、力いっぱい拒否されたので、顔を真っ赤にして怒った。
「わたくしが、その田舎者に劣るというのですか!?」
「え、お前のどこがいいの?」
「どこって、わたくしは皇族ですよ。未来の女帝ですよ」
「それがどうした。皇族なんて、いっぱいいるだろう。アーサーは一人だ」
 皇族を有象無象扱いする妖精憑きキロン。さすが妖精憑きは見方が特殊だ。妖精憑きって、執着すると、そこに一直線だよね。身分とか、そういうの、関係ないんだよね。
 無礼な物言いのキロンに、とうとう、護衛とかが動き出した。だけど、瞬間でキロンは魔法で吹き飛ばしてしまう。
「お前、まさか、魔法使いか!!」
「俺は、アーサーの妖精憑きだ。俺からアーサーを奪うヤツは、例え皇帝だって、容赦しない」
「ふん、皇族相手に、お前の魔法が通じるわけがないでしょう」
「あ、やめっ」
 私がキロンを止めるよりも早く、キロンの魔法が発動した。皇族様は、ご学友ともども、部屋の端へと吹き飛ばされたのだ。
「キロン、何やっちゃったの!!」
「通じないって、自信満々にいうから、やってみた。ざまあみろ」
 そりゃ通じるよ!! お前、筆頭魔法使いを引退して賢者となったラシフ様よりも強い妖精憑きなんだから!!!
 妖精憑きキロンは表向きは野良の妖精憑きだ。事情があって、私が面倒を見ている。しかし、キロンは、私が皇族だと発覚した時、ラシフ様の妖精が守護につこうとしたのを邪魔したのだ。お陰で、私は皇族でありながら、筆頭魔法使いの妖精の守護がついていない。
 筆頭魔法使いを越える妖精憑きキロンの魔法を皇族を守護する筆頭魔法使いの妖精が勝てるはずがないのだ。
 ちょっと吹き飛ばされた程度だってのに、皇族様、痛みで動けない。泣きながら、「痛い痛い」と訴える。
「なんてことをしたんだ」
「皇族を傷つけるなんて」
「すぐに、報告するんだ!!」
「この者は、帝国に仇名すものだ!!」
 皇族様のご学友が冷静にも、側仕えや護衛に命じる。それを聞いて、護衛の半分が屋敷を飛び出して行った。
 こうして、私は大変な立場となった。





 皇族様の護衛が駆けこんだのは、近くの神殿である。神殿であれば、王都と連絡の手段を持っているからだ。この騒ぎに対応したのは、辺境の教皇フーリード様である。だいたいの事情を皇族様の護衛に聞いてすぐ、王都の神殿に報告したという。
 そして、今回の騒ぎを治めるために、とんでもない人たちがやってきた。
 私は大人しく捕縛された。まさか、縄でぐるぐる巻きにされる日が来るとは、情けない。
 私が命じたので、妖精憑きキロンは大人しくしていた。いや、大人しくなったんだな。私を捕縛する時、何度もキロンは命令違反を侵してくれた。その度に、私はキロンを殴る蹴ると罰したが、それは逆効果だった。
 皇族様が魔法で吹き飛ばされる、なんて不祥事である。出てきたのは、筆頭魔法使いを引退して賢者となったラシフ様と、お忍びでやってきた女帝レオナ様である。
 まさか、女帝がやってくるなんて、誰も思ってもいなかった。適当な皇族が来るだろう、と予想していた。
 いや、私はわかっていた。女帝レオナ様は、面白そうだ、と無理矢理、やってくると。あの人は、そういう女帝なんだよ!!
 女帝レオナ様を前にして、皇族様は真っ青である。私のような下々の前では偉そうにしていたが、腕っぷしでのし上がった女帝レオナ様を前にして、生きた心地がしないだろう。ほら、気分一つで、レオナ様、皇族だって殺すから。
 女帝レオナ様は、部屋にある一番いい椅子に座って、膝をつく下々を見下ろした。その中には、皇族様も含まれた。いくら皇族といえども、帝国で一番の権力者である女帝を前にして、立っていてはいけないのだ。
「おい、アーサーの拘束を解け。妖精憑きのお気に入りにこのような所業すると、妖精の復讐を受けるぞ」
「は、はい」
 我先に、たくさんの手で私の拘束が解かれた。私がどういう立場なのか、これだけで伝わった。
「ありがとうございます、レオナ様」
「そんな、他人行儀な口をきくな。俺様とアーサーの仲だろう。ほら、隣りに座れ」
「………」
 無言を貫く私。私と女帝って、そんな仲良しというほどの仲じゃないよ。やめてよ、周りの視線がこーわーいー。
 女帝レオナ様は、ぽんぽんと隣りにあいた席を叩く。そうですよね、皇帝は間違えないし、一度言ったことは覆さないもんね!! 私から折れるしかなかった。
 私が皇帝の隣りに座れば、すぐ、妖精憑きキロンが傍らについた。
 立派な皇族様は膝をついたままで、ど田舎の貴族は女帝レオナ様の隣りで座っているなんて、とんでもない事だよ。皇族様、屈辱に震えている。
「話はだいたい、聞いた。なーんだ、皇族と名乗りながら、魔法で吹っ飛んだんだってな。なっさけないなー」
「な、何か、その者がやったんです!!」
「何を? 帝国最強の魔法使いの守護がついている皇族が、そこら辺の妖精憑きの魔法に負けるのか?」
「きっと、賢者の力が落ちたのです」
「ただの皇族である、貴様がいうのか。帝国で二番目の権力者である賢者の実力が落ちたと」
「っ!?」
 皇族様、失言だと気づいた。
 いくら筆頭魔法使いを引退したとはいえ、賢者ラシフ様の実力が落ちた、なんて、皇族が言ってはいけないのだ。帝国最強の魔法使いを皇族が従えているのだ。引退しても、賢者ラシフ様が帝国最強であることは変わらない。
 さて、どういう解決をするのやら。私は女帝レオナ様を見る。この騒ぎを収拾させるには、レオナ様が動くしかないのだ。
「そういえば、お前、まだ、皇族の儀式を行っていないな。もうそろそろ、筆頭魔法使いも儀式の火傷が回復して、使えるようになっただろう」
「もう、すっかり元気に、飛び回っていますよ。一人前の筆頭魔法使いとなるためには、皇族の儀式を執り行わないといけませんから、いい加減、やらないといけませんね」
「その前に、皇族失格者がここで出たな」
「………は?」
 女帝レオナ様の言葉に、皇族様はついつい、顔をあげて、間抜けな声を出した。
 女帝レオナ様と賢者ラシフ様が、冷たく、皇族様を見下ろしていた。
「皇族にそこら辺の妖精憑きの魔法が通じるわけがないだろう」
「そうですね」
「あ、そ、そんな」
 恐怖に震えて、皇族様は無様な姿で後ずさる。皇族様、間違いを侵してしまったことに、気づいたのだ。
 女帝レオナ様は、椅子から立つなり、一瞬で皇族様の前に立った。その時には、レオナ様は腰にあった剣を抜き放っていた。
 そして、皇族様の首が宙を舞った。
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