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Pルート

3日目 爆発四散!!

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[闘技場:観客席]
一体どれほどの人がこのトーナメントを見に来ているのだろう。数万人がは座れるであろう観客席はほぼ埋められており、舞台は熱狂で包まれている。

「第六試合勝者、バファリン!!ワキオ選手の槍による猛攻に気合で耐え抜き、一気にカウンターで場外に吹き飛ばしたぁぁぁあああああ!!」

大きな歓声と共に熱狂はさらに増していく。
そんな中、ワキオを応援していた俺とマルタはそんな歓声とは真逆の反応をしていた。

「まじか...途中まではワキオが押してたと思ったんだけどなぁ」

「惜しかったですねぇ、ワキオ君」

「それでは、第七試合出場の選手は会場入口での待機をお願いします」
司会の声にマルタがハッとした顔になる。

「次は僕の番ですか...緊張しますね。も、もし負けても責めないでくださいね...」

「いやそんな事しないけど...まあ、頑張れよ!」

精一杯の応援でマルタを見送った。
第七試合のマルタの相手はこの国で有名な戦士らしいが、どんな奴なんだろう。

「さあ、続いて第七試合を開始します!まず一人目の選手。ワキオ選手同様昨日突然エントリーした謎の戦士マルタ!!使う武器は弓矢!はたしてどのような戦いを魅せてくれるのでしょうか!!選手入場!!」

歓声とともに緊張した歩きでマルタが舞台に上がる。
そんなに緊張して勝負に支障が出ないか心配だが、今は信じるしか無い。
そう思っていると、俺の横の席に先程敗北したワキオが座る。

「すまねぇ!調子乗ったわぁ!!」

両手を合わせて全力謝罪するワキオ。

「いやいや、お前はよく頑張ったよ!あのゴリラにあそこまで立ち回れたんだから」

ワキオの背中を優しく叩きながら慰める。実際、あそこまで立ち回れるとは思ってなかったし、相手が悪かったとしか思えない。

「それより、今はマルタの試合を応援しようぜ」

「そうだな、でもあいつ大丈夫かな?戦闘前であの緊張具合」

ワキオが少し元気を取り戻すと、司会の声が闘技場に響く。

「二人目の選手、な、なんとこの国一番の爆裂魔法使いが出場!国王直属の護衛の一人にして小さな爆弾魔の異名をもつ男、プロ-ド!!」

突如試合会場の周りに大きな爆発音とともに七色に爆発を起こる。
すると煙から小柄の男の子?が姿を現す。赤いタンクトップにダボダボな黒ズボン、頭には黒い布を巻いている独特な服装だ。

「昨日のガキでやんすか。なにやら事情があるようでやんすが、勝負は勝負」

と言いながら両手に小さな爆弾を取り出す。

「ば、爆弾...」

「安心するでやんす。今回使う爆弾は爆発しても怪我はあまり負わない特別性。安心して食らってくれでやんす!」

なにやら物騒なことを言うプロ-ド。

「両者準備はよろしいでしょうか、では第七試合開始ぃい!!」

合図とともにプロ-ドは両手の爆弾をマルタに投擲する。

『アクティベートマジック:アローアシストブレスレット』

マルタは詠唱と共に弓矢を構えると、右腕の腕輪が白く光る。

『アクティベートマジック:マルチアロー』

そのまま2つ目の詠唱を唱えると、宙の爆弾目掛けて矢を引く。

そのまま空を切りながら飛ぶ矢は途中で分裂し、二つの爆弾に直撃する。

”ドガン!!”

会場に大きな爆発音が二つ鳴ると共に、白い煙が辺りを漂いマルタは標的を見失ってしまう。

「え、煙幕...だったら」
と一冊の本を取り出すと、宙に放り投げる。

『アクティベートマジック:索敵の書』

本は白い光をネットのように会場全体に広がる。すると会場の端、マルタから見て左側に小柄の男のシルエットが煙の中を白く光る。

「見つけた!!」

マルタは弓を構えてその方向に矢を放つ。
勢いよく発射された矢は空中で三本に分裂するとまっすぐ男に目掛けて飛んでゆく。

「そんなマニアックな魔導書!よく見つけたでやんすね!」
煙の中で浮き彫りになっているシルエットは身軽にジャンプし矢を躱した、かに思われた。

「!?」

躱された矢は標的を追跡するように突如進む方角を変えた。
マルタの右腕に装備された魔道具。本来は訓練兵が的を当てやすいように作られたそれは、ある程度的に近ければ自動で追跡をしてくれるという便利な魔法が組み込まれている。弓の才能がありながら弓を扱ったことがないマルタにはぴったりな魔道具だった。

「これは面倒でやんすね」
地面から離れてしまっては逆に身動きができず、本来ならそのまま矢に直撃してしまうだろう。しかし相手は国王直属の戦士。

プロ-ドは焦る表情をみせず、足に取り付けられた魔道具を起動させる。

小さな爆発音とともにものすごい勢いでプロ-ドは空へと飛んでいく。

「この魔道具はオイラの爆発の衝撃を利用して緊急回避や遠くへの移動が可能な便利品。だけどこのように上手く扱えれば爆発の衝撃を抑えて自由に宙を舞うことも可能なのでやんす!」

「説明ありがとうございます...」
プロ-ドが説明に夢中になっている間にすでにマルタは弓を引いていた。

「おっと、あぶないでやんす」

だが器用に爆発を利用するプロ-ドは放たれた矢をたやすく躱していく。
マルタの肩に収納されていた60本の矢も残り10本ほどになっていしまった。

「...」

突然矢を放つのを止めたマルタは、プロ-ドの爆発によってできた煙の中に身を隠す。

「見えない場所からの狙撃なら当たるとでも思ってるんでやんすか?」

プロ-ドは余裕そうに会場の中央に浮いている。
姿をくらましたマルタを探そうと下を向いたその時――

突如会場の様々な箇所から10本の矢が垂直に打ち上がる。

(全ての矢を放った...?)

それらはプロ-ドの前後の高さまで上ると、向きをプロードの方向に変更して突き進む。

「あ、貴方が中央に来るのを待ってました」

声の方向には全ての矢を打ち終えたマルタが立っていた。

「貴方が回避できていたのは爆破の衝撃で逃げ場にまっすぐ飛べたから...つまり逃げ場にも矢を配置しておけば、爆破の衝撃でしばらく方向転換できない貴方はそのまま矢に突っ込むことになる...」

プロ-ドはハッと周りを見る。10本の矢はプロ-ドの逃げ場を潰すように四方八方を囲っていた。

「これで終わりです!」

「なかなかやるでやんすね」
ニヤリと笑ったプロ-ドは、手をまっすぐ伸ばして詠唱を唱える。

『ブラストマジック:ブロウウィンド』

プロ-ドの周りから大きな爆風が起きるとマルタの追尾弾はあっけなく吹き飛ばされ床に落ちてしまった。

「そ、そんな...」

愕然とするマルタの前にプロ-ドは降りてくる。

「本当は本戦まで魔法は使わないつもりでいたでやんすが、面白いものを見せてくれたお礼においらも少しだけ本気を魅せてやるでやんす」

マルタはそういうと片手を前に突き出す。

『ブラストマジック...』

会場に5つの大きな魔法陣が現れる。赤色の魔法陣達は次第に一つに重なると、

『ビッグ...バン!!!!』

プロ-ドの叫びとともに会場に大きな爆発が発生する。
観客の方まで届く爆風と共に爆音が響き渡る。

...

...

次第に会場を覆う大きな煙は消え、中の様子が見えてきた。

そこに立っていたのは...プロ-ドだった。

「だ、第七試合勝者、プロォォォオド!!凄まじい爆裂魔法と共にマルタ選手をリングアウトォ!!」

プロ-ドから少し離れたところにマルタが倒れているが、服や肌に傷などは見えなかった。

「見た目だけの爆発だから殺傷能力はほぼゼロのはずでやんすが...衝撃で気絶しちゃったようでやんすね」

よいしょと小柄ながらマルタを持ち上げると、プロ-ドは観客に手を振りながら出口へと出ていった。

[闘技場:VIPルーム]

「ほほぉ、これは見事な爆発じゃったなぁ」

王様はプロ-ドの戦いを見て大層喜んでいる。

「ですが、これで残りはあの方一人となってしまいましたね」

「うーむ。この戦いでも発動しないということは、やはり彼らは予言とは関係なさそうじゃな」

王様は神妙な顔をしながら姫様(アリス)に話す。

「それは...どうでしょうか。リリスの話を聞く限り先程の二人はからは反応がなかったようですし」

「つまり次の試合でもしかしたら発動すると?」

「昨日彼らと話しましたが、その時はこの石は反応しませんでした」

とネックレスについている金色の石に手をやる。

「ですが、極限の状態、使わざるを得ないような状況なら...もし隠し持っているならそれを見れるかもしれません」

[闘技場:会場入り口]
ゆっくりと息を吸って、はく。何回か深呼吸をして緊張を和らげる。
次の試合で、俺達の運命が決まる。
負ければ一生この世界に永住。勝てば本戦に進み元の世界に帰れる可能性が広がる。

マルタもワキオも全力で挑み、白熱した勝負を繰り広げてくれた。俺もあいつらの分まで頑張んなきゃ...

「本来来る予定だった隣国からの登録選手の遅刻による集団棄権により10試合から8試合までに突如変更されたこのトーナメント予選もついに最後の試合になりました!!」

「最終試合を盛り上げてくれるのは、この二人だぁぁあああ!!」

観客の歓声がこっちまで聞こえてくる。

「まず一人目、身元不明の剣士。カナタ!はたしてどのような戦い方を魅せてくれるのでしょうか!!」

ゆっくりと、そして普段通りの歩きを意識して会場に上がる。
床には先程までに繰り広げられた歴戦の傷が見える。

「そして二人目!はるばる遠くの国から来た戦士、影刃(エイジン)!!」

目の前に現れたのは、黒い忍び装束を着て、短刀を背中に背負った...いや、明らかに忍者だった。

「拙者、江戸国からこの催しの話を聞き仕った、名は影刃でござる。以後お見知りおきを」

俺の目の前には漫画やアニメ、映画とかで見たことがありそうなコテコテな服装の男がそれっぽいポーズで立っている。

「お主の名前はカナタ殿でござるか」

ござるかじゃねえよ。なんでこのファンタジーの世界でこんな忍者!って感じの忍者がいるんだよ。

「拙者このような場所に来るのは初めて故、少々緊張しており、勝負に支障が出ないか心配でござるが」

忍者はそういうと両手で印を結ぶ。
そういう構えでいいんだ...
そう思いながら俺も腰の剣を鞘から抜き構える。

「両者準備はよろしいですね、では予選最終戦、開始!!」

「死力を尽くさせてもらうでござる!」

『忍法:影分身の術』

試合開始とともに俺の周りに大量の影刃が現れる。

がちもんの忍術使えるんだぁ...

とりあえず魔道具を使用しようとすると、
影刃の影分身は会場から溢れ出しリングアウトした。

「「 あ 」」

お互いに声を出す。

闘技場は沈黙に包まれる。

「え~これはどのような判定になるのでしょうか」
と司会者が関係者とゴニョゴニョ話すと、

「ルールでは分身系の魔法は地面につく前に解除しなければリングアウト判定になるようです。よって、勝者カナタァァアアアアア!!!!」

うぉおおおおおおおおおお!!

と会場が盛り上がる。
もはやなぜ盛り上がっているかわからない。

「無念」
影刃は片膝をつき下を向いている。

「えーと、イェーイ!!」

もう、どうでもいいや!勝ったし!

[闘技場:VIPーム]
観客席とは裏腹にこの部屋には不穏な空気が流れていた。

「隣国と連絡を取ったところ、どうやら向こう側にも使節団の位置が把握できていないようです」

「ふむ。昨日到着しない時点でおかしいとは思っていたが」

「それと、アディビアの森の出口付近の兵士が行方不明になりました」

「なんじゃと!?」

国王と金髪の騎士が深刻そうに話をしている。

「両方の事件に繋がりがないとは思えません。明日の本戦は欠場しますので、今からでも捜索を開始します」

「いや、その役目はオイラに任せるでやんす」

騎士の前にプロ-ドが現れる。

「プロ-ド。だがお前も本戦に勝ち上がったはず、それにトーナメントに出たということは何か叶えたい願いがあるはずだ」

「それはレイン様も同じでやんす。上司にお手を煩わせないのも部下の役目、とでも思っておいて欲しいんでやんす」

「…」

プロ-ドの説得を聞きレインが黙ると、

「ではプロ-ドとリリスにこの件を任せよう、レインは明日の本戦に向けて備えよ」

「ハッ」

プロ-ドの姿が見えなくなると、王様の隣に座っていたアリスが喋りだす。

「お父様、明日の本戦でカナタさんが当たるのは誰でしょうか」

「そうじゃな、明日の順番は完全ランダムだからのう、もしかしたらシード枠になるかも知れぬな」

「それをこちらで操作するのは可能ですか?」

「ははっ、突然何を言いおる」

「もしできるのであれば、彼にはレインを当てさせたいのですが」

「レインを?だが何故」

突然の提案に困惑する国王にアリスは続ける。

「彼の能力を確認するためには、レインに任せるのが一番手っ取り早いです。本当は今日の試合で見せてもらいたかったのですが、試合がアレでしたし」

「ふぅむ、だが何故試合で?直接聞くのはだめなのか?アリスよ」

「もし彼が隠し持っていた場合、バレた彼が何をしでかすか分かりません。それに自身の能力を知らないなら彼には知る責任があります。そのためにもレインに極限まで彼を削ってもらう必要があるのです」

王様は数秒間考え込むと

「少し運営と話をしてくる」

といい護衛と一緒に席を立っていった。

「お嬢様、もしもの時はアレを使用するということでよろしいですね」

会話を黙って聞いていたレインが口を開く。

「ええ、でもその判断は貴方に任せるわ」

彼女のネックレスについている金色の石は夕日に照らされて一層美しく照らされていた。

[宿屋]
「はあ、疲れたぁ」

「とりあえずカナタが一回戦突破かぁ」

全員疲れてベッドに入る。

「まあ俺は戦う前に勝手に相手が負けてくれたけど」

でもなんで忍者がこんな世界にいるんだろう。ファンタジーだぜ?魔法だぜ?

「じゃあ僕たちは明日観客席から応援してるんで、がんばってくださいね~」

「そだな、頑張れよカナタ~俺達の未来はお前に委ねられ...zzzZZZ」

話の途中で寝るな。まあいいや。俺も寝よ...

何か夢を見た気がした。
何か、大事な夢。
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