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Dルート

4日目 復活

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※この話には嘔吐表現があります。

[???]
「カナタ?ダメでしょ!遊んだ後は物を片付けないと!」
...母さん?

「えー!じゃあまだあそぶ!」

「早くしないとご飯抜きよ」

あれは...小さい頃の俺か?
今では少し恋しく感じる家の中。

「おかあさん!かたづけたよー!ごはんちょうだーい!」

乱雑におもちゃをしまった小さい俺はドタバタと走り子供用の椅子に座る。
そういえば母さんは俺がいなくて大丈夫かな?

「今日のご飯はハンバーグよ」

「わーい!」

「「いただきます!」」

小さな俺は手を合わせるとフォークを既に何個分に切られ食べやすくなっているハンバーグに突き刺す。
てかこれはなんだろう、夢?
窓から外の景色を見ようとしたが、窓の外は全て白で統一されており、地面はおろか空すらもない。

「そういえば、おとうさんってとおくにいったんでしょ?いつかえってくるんだろうね!」

俺はそれを聞くとあることを思い出し、和室に向かおうとする。
だがいくら歩いても前に進まない。それどころか家自体が段々崩れてきている。
なんだ?

「カナタ、お父さんはね?あなたの...」

やがて床や壁が崩壊して、底の見えない奈落に落ちていく。

「...だからね...」

ついに小さな俺と母さんが座った椅子も奈落に落ち、姿が見えなくなっていく。

母さん!!

俺も追いかけるために飛び込もうとするが、見えない壁に阻まれる。
やがて白い景色は黒く染まっていく。

―――お前なに一人で突っ走ってんだよ!あのおっさんも逃げろって言ってただろうが!
―――急いでこっちに!ぼ、僕たちが注意を引きますから!
―――貴方のせいで死ぬのです!貴方のその愚かな行動のせいで死ぬのですよ!!
―――お前は力を得たことで気が大きくなっているだけだ

頭の中で沢山の声がぐるぐる回りながら響いてくる。
やめろ!やめてくれ...頼むから...

―――おい

俺を...

―――おい

このまま一人にさせてくれ...

「おい、起きろ」

重い瞼を開ける。目に映るのは、見慣れない場所と知らない人。

[避難所:病室]
目を開けるとそこはベッドの上だった。目につく壁はゴツゴツとしており、照明の明かりが薄暗く部屋を照らしている。
ふと失くなった左腕のほうを見るとそこにはやはり左腕はなく、代わりに断面を包帯で巻かれていた。

「ようやく起きたな。丸一日眠っていたからこのまま死んでしまわないか姫様が心配してたぞ」

右上から声がする。そこには金髪ロングで甲冑を着ている男がいた。
こちらを見る透き通った水色の目は全てを見据えているかのように思わせる。

「ここは...?」

「ここは闘技場から遠く離れたとある山の地下に作った避難所だ。一般市民全員が入れるように多くのスペースを用意しているんだが、なんせ地下だからな。太陽光は届かないし土の匂いもする。それに食料が100日分しか持たない」

騎士は俺のベッドの横に座りながら詳しい説明をしてくれる。

「あなたは?」

「俺の名前はレイン。エルフィンダール王国で王直属の騎士団の団長を務めている者だ」

騎士...だんちょう?ダメだ、頭が回っていない。
右手で頬を叩いて無理やり脳を叩き起こす。
だんだんあの現場で起きた出来事が思い出されていく。

「あの蝶の男はどうなったんですか!?それに市民の避難は!?」

「俺が来た時には蝶男は闘技場の中央で体を二つに切断された状態で死んでいた。闘技場内の市民はほぼ全員無事にこの避難所に移送済みだ」

蝶男が死んだ?どうやって?確か俺と...マルタとワキオに大きな光を放って...それで..腕が塵になって.........
その後の記憶が思い出せない。

「では次は俺が質問していいか?俺が到着した時、突然空の敵戦艦が破壊されると共にそこからお前が落ちてきた。リリスはお前が戦艦目掛けてバリアを破壊しながら飛んでいく姿を見たと言う。一体そこで何があった?」

戦艦が破壊?空から俺が?
次々と覚えのない出来事が告げられ頭がこんがらがっていく。

「え~と、よく覚えてないんです。最後に見た景色は自分の腕が失くなった所だし...貴方の言っている出来事も全然覚えがない...」

「...」

騎士はじっと無言で俺の顔を見つめている。
いや本当に知らないんですけど...気まずいな。

「ああ、そういえば包帯ありがとうございます。それに傷も塞がってるし」

「体は治療班が治癒魔法で治していた。その包帯はリリスが特別な魔法をかけてくれたようだぞ。確か出血を抑え痛覚を感じなくなる高度な遮断魔法...だったかな」

兵士は顎に右手を当て、どんな魔法だったか思い出そうとしている。
まあそういうのは別にどうでもいいんだけど...

「あ、そういえば、ワキオとマルタって言う人見ませんでしたか?友達なんです!一緒にこの世界に落ちてきたからリリスさん辺りが何処かに隔離してると思うんですけど」

「友がいたのか?では後でリリスに場所を聞いておこう」

そういうと騎士は席を立ち上がりベッドから離れていく。

「まだ動けないなら安静にしていろ。俺はこれからやる事があるのでここで失礼する」

...あ、そういえば。

「やっぱり友達の場所は聞かなくて大丈夫です」

思い出した。

「どうしてだ?別に俺達に気を使うことはないぞ?」

思い出したくなかった。

「...?まあいい。また後で話がある。それまで安静にするように」

レインは静かにドアを閉めると、部屋の中は俺一人になる。

何忘れてんだ?俺。だってあいつらは、

―――どんな気分ですか?自分の実力を見誤り無謀にも私に挑んだ結果、助けに来てくれた仲間は死んだ!

俺のせいで死んだんじゃないか。
すぐそこのゴミ箱を片手で掴むと、そのまま顔を突っ込む。

「オェッ...うっ...オエエ...」

あの光景が思い浮かび口から吐瀉物が吐き出される。
俺のせいで死んだ...俺が...あんな事しなければ...

ゴミ箱を地面に戻すと、そのままベッドの中に籠もる。

俺が...殺した...

[避難所:広場]
多くの人が配給の食事を受け取り、魔法によって照らされている地下広場は活発さを見せている。
広場の先にある壇上の端では二人の男女が話し合いをしていた。

「それで、リリス。周辺国はどうなった?」

「レイン様のおかげで迎撃準備が出来ていたから、人的被害は抑えられたけど、土地はあの戦艦によって壊滅。遠すぎて魔法は届かないし、近づこうとしても敵の兵士に邪魔をされる。隣国とか強い兵士がいる国はいくつか戦艦を破壊できたようだけど、小国は...」

「これでもまだ被害はましな方だ。問題は、次にいつ敵の攻撃が来るか...」

大柄な男ブレドと、リリスは一昨日起こった出来事についての話し合いをしていた。

「それについて何十人かの敵兵士を昨日からプロ-ド達に拷問させてるわ、既に数人は自決してしまったようだけれど」

「敵があの戦艦と軍勢に対し我軍は一昨日の戦いで大量に戦死...」

「バリア外の敵はプロ-ドと野良の戦士たちに任せたんだけど、野良の方はほぼ負傷か戦死で動けないし、治療班も足りてない。10日以内にこの場所がバレて同じ攻撃をされたら、今度こそ滅びるわよ」

シリアスな雰囲気を漂わせる中、小柄の男がそこに割り込んでくる。

「リリスー!ブレドー!朗報でやんす!拷問でついに敵の居場所を吐き出したでやんすよー!」

「でかしたわ、プロ-ド!」

場が一気に明るくなる。

「それで、居場所は?まさか空の上とか抽象的なものじゃないだろうな?」

「安心するでやんす。敵はオイラ達の国の真上。雲の上に隠れているそうでやんすよ!しかも一番でかい戦艦には、なんちゃらローク?っていう親玉もいるようでやんす」

ブレドの懐疑的な目にニヤリと笑いながら返すプロ-ド。

「虚偽はない?ちゃんと魔法かけた?」

「勿論でやんす!少しずつ体に小型爆弾を詰めて脅していったら泣き出しながらペラペラと喋ったでやんすよ!」

その拷問方法には二人共ドン引きをする。

「空の上か...リリスの魔法ならギリギリ届くか?」

「やったことは無いけど...まあ試すしかないわね」

「それで、これからどうするでやんすか?」

ポカンとするプロ-ドに二人は不敵な笑みを浮かべる。

「決まってるじゃない」

「本丸を叩きつぶすぞ」

[避難所:壇上]
怪我なく生還できた市民数万人はほとんど全員広場に集まっている。人々はざわわざと話をしているが、一人の男が壇上に上がったことで一斉に静かになる。
金髪ロングで甲冑を着た男は壇上の真ん中まで歩いた所で、この場の全員に話す。

「騎士団長のレインだ。現在国王様は心身の疲弊により休養をなさっている。なので、エルフィンダール王国の代表の言葉を、代理でこの方に行ってもらう。心して聞くように」

その言葉を言い終えると、一人の少女が壇上に上がっていく。それをみて市民たちは再びざわつく。

「あれってまさか...姫様?」

「国王が疲弊って、大丈夫なのかよ」

姫様、アリスは壇上のレインの横に立つと、深呼吸をしてから言い始める。

「休養中の父の代理を務めさせていただきます。アリス・ヘルタールと申します。まず、突然国を離れこのような場所に移送したことを、心より謝罪いたします」

そう言うとアリスは国民にむけて頭を下げる。

「現在この国は敵兵との戦闘により甚大な被害を被っています。土地は破壊され、兵は負傷、医療班も足りず、食料もあと約100日ほどで尽きてしまうでしょう。他国も同じような状況、いえ、もっとひどい状況です。強国でさえ多くの民と土地を失い、小国は未だに連絡すらつきません。それほどの脅威がこの星にやって来たのです」

国民はそれを聞きガヤガヤと騒ぎ出す。だがそれを気にせずにアリスは続ける。

「皆様も一度は聞いたことがあると思います。500年前に預言者マーリンが残した最後の予言。今より遠く。星からの黒い兵地に落ち、この星赤く染まる。この予言は今の今まで起こることはなく、いつしか作り話と言われると、次第に忘れ去られてきました」

そういうと姫様はレインから一冊の本を受け取り、ページを開く。するとそこから大きな靄とともに文字と映像が浮かび上がっていく。

「我々は魔力という偉大な恩恵を受けて生きていき、ついに魔道具という便利なものを作り上げることにも成功しました。ただ、魔力に頼り切った結果、技術の発展が大きく遅れ、更に259年前の世界平和条約により大きな戦争は起こらなくなり、兵力は激減しました」

本を閉じ、さらに言葉を続ける。

「この過去と、魔法...魔力に頼り切って技術の発展を怠った我々の惰性が、この悲惨な結果を招いてしまったと言えるでしょう。ですが、まだ全てが終わったわけではありません。まだ、あなたがた民がいます。どんなに街が破壊され、技術や道具を失っても、民がいれば再び土地は再建され、技術はよりよいものへと進化します。だから決して希望を捨ててはいけません。再び立ち上がり、我々の星を取り戻しましょう!」

その言葉によって市民全員が拍手を送る。避難所に漂っていた悪い空気が消えていき、士気が取り戻されていく。

「小さかった少女が、あんなにも立派に...」

「ブレド、貴方が泣いてる姿初めてみたわ」

アリスの演説を横で聞いていたブレドとリリス、そしてプロ-ドは演説が終わるのを待ちながら密かに感動していた。

30分後...

「見事な演説でした!このブレド、感激しております!」

「どんだけ泣いてんのよ。姫様の前よ!もっと男らしくしなさい」

人気がなくなった広場では、5人の男女が話しあっていた。

「レイン。私をここに引き止めたということは、なにか策を思いついたと受け取っていいのかしら?」

「はっ!休養中の国王様の代わりに、今から伝える作戦の実行許可をお願いしに参りました」

「わかりました。では内容を言いなさい」

レインは真剣な顔になると冷静に作戦内容を伝え始める。

「では詳しい作戦内容をお伝えします。まず最初に、敵艦隊の本拠地に少数精鋭の部隊で潜り込みます。メンバーは私とリリス、ブレド、それとプロ-ド。追加で影刃と呼ばれる異国からの戦士を入れます。彼は非情に優秀な隠密魔法を使い一昨日の戦いでかなりの戦績を残しました。」

そういうとレインは影刃と呼ぶ男の情報が載っている紙をアリスに見せる。

「江戸国ですか。たしかにあそこには珍しい魔法を扱う人がいるとか」

「はい。ちょうど『願いの杯』のトーナメントに出場するために数日前から来ていたようです」

レインは紙をしまうと話を続ける。

「リリスの魔法を使い敵のリーダー格がいると思われる戦艦に潜り込んだ後は、影刃の隠密魔法を使いリーダー格を各個探しだします。見つけた場合は暗殺し、見つからなかった場合はプロ-ドの爆裂魔法で戦艦を破壊し別艦に移ります。もしもリーダー格と正面から戦闘する場合は、私とブレドで対処します。統率者を失った他の戦艦は地上に報復をしてくる、もしくは宇宙へ退散するでしょうから、地上に降りた際には最大限の兵士で応戦、退散した際には我々が捕虜を捕まえ敵のいた惑星や技術、この星を襲った理由などを洗いざらい吐かせます。作戦決行は明日、必ずこの星を取り戻すと約束しましょう」

「...わかりました、作戦を許可しましょう。ですが決して誰も死なず生きて帰ること。それだけは約束してください」

「何言ってるでやんすか!オイラ達はいままで姫様や国王様を外敵から守り抜いてきた精鋭でやんすよ!どんと大船に乗った気でいて欲しいでやんす!」

「では、頼みましたよ。貴方達にこの星の命運がかかっています」

「「はっ!!」」

4人は姫様に固い約束を結ぶと、プロ-ドとリリス、ブレドは広場を出ていき、その場にはレインとアリスだけが残った。

「姫様、私達も移動しましょう」

「...そういえば、カナタさんとはお話をしたのですよね?何か情報は得られましたか?」

「いえ、まだ目覚めたばかりで体調も悪そうだったので、この後もう一度話を聞いてみようと思っています」

「貴方やリリスの証言を聞くに、彼が空に飛び上がった直後、戦艦が次々と破壊したそうですね。恐らく核石の力によるものでしょう。ただ不可解なのはその事を彼は覚えていないという事」

広場の出口に向かいながら話をする二人。

「暴走...でしょうか」

「分からないけど、もしその力を使えるなら、明日の戦いで大きな戦力になるかもしれない」

その言葉にレインは驚いた表情をみせる。

「彼を?」

「貴方にしては珍しい表情をするのね?」

「ですが彼は今左腕を欠損していますし、今は休んだ方がいいのでは?」

それにニコッとした笑顔でアリスは返す。

「彼はあの時左腕から大剣を、両足からはバッタのような黒い物を生やしていたのよね?ブレドとの戦いの際は複製のような能力かと思っていましたが、それを聞いてある力を思い浮かびました。私の考察が合っていれば左腕の件もどうにかなるかも知れません」

「その能力というのは...?」

[避難所:病室]

ベッドの中は暗くて、暖かくて、嫌なことを忘れさせてくれる。

...

ドアが開かれる音がする。

...

バサッと布団を剥がされ、小さく丸まっている体が照明に晒される。
入ってきた人物はブレドだった。

「...あ」

「酷い有様だな」

ブレドは俺のベッドの横にある椅子に座ると、こちらを見つめている。

「なんの用ですか...」

「...」

ブレドは黙って俺の顔を見つめている。

「...俺を責めに来たんですか?逃げろって言われたのに調子に乗って戦ったから腕が失くなったって」

戦士はじっと俺を真剣な目つきで見つめている。

「それともバカにしに来たんですか?弱いのに立ち向かったせいで助けにきた友達は死んだって」

抑えきれない感情をむき出しにするように上半身を起き上がらせる。

「ええそうですよ!俺が力を得て気が大きくなって、勝てるかもって思って!でも挑んだ相手はめちゃくちゃ強くて!そんな大バカを助けにきた二人は左腕と一緒に失くなったって、もう笑い話ですよね!?俺だって分かってますよ!だからもう余計なことしませんから、もう放っておいて...」

そこでブレドに頬を叩かれる。

「そうやって自分を卑下にして慰めてほしいか?お前は悪くないと言われて救われたいか?甘ったれるな!」

ブレドの言葉が心に突き刺さる。

「お前がいくら自分を責めようが過去は変わらないし、お前の仲間は帰ってこない」

「...」

言葉が口から出なくなる。

「お前が本当にすべき事は、友がかばったその命を無駄にしないように精一杯生きることのはずだ。決して何も考えず嫌なことばかり忘れ、無駄に死んでいくことではない!」

...分かってんだよ。

「明日、敵に攻撃を仕掛ける。負ければ今度こそこの星は滅びるだろうな。あの予言のように」

...こんなベッドにいたって何も変わらないって事くらい。

「お前はそのベッドで包まってメソメソしながら勝つのを祈っていろ」

......ああ、分かったよ。ワキオ、マルタ。こんな俺見てたってお前ら退屈であくびしちまうだろ?

「...俺も戦います」

椅子を立ち、ドアに向かおうとするブレドの足は静止する。

「言っておくが、本物の戦闘はお前が想像するより...甘くないのはもうわかっているな?」

「もう自分の力を見誤らないし、自分の行動に後悔はしない。だから、俺も戦わせてください」

覚悟は決まった。後は、彼の言葉を待つだけだった。
するとドアの奥からアリスとレインが入ってくる。

「その言葉を待っていましたよ」

アリスはニコリとしたいい笑顔をこちらに向けている。対称的にレインは冷静な表情でこちらを見つめている。

「それで、数時間前の質問をもう一度させてもらうが、あの時お前に何があった?」

あの時、蝶男に左腕を塵にされた後...
だめだ。それだけはどうしても思い出せない。

「いえ...それだけはやっぱり記憶になくて」

「ところでカナタさん。貴方の核石の力については何か分かりましたか?」

「そうですね、蝶男と戦った時は...こいつを殺せる武器が欲しいって思っていたら黒い剣や槍が現れて、危ないって思った時は咄嗟に体を守ろうとしたら盾が現れた...つまり欲しい物が勝手に右手に現れる...?」

そう言いながら右手の手背に刻まれている紋章を見る。よく見ると倒れた時より円の数が増えていることに気づいた。

「では、左腕の方向を見ながら、頭の中で今から言う言葉を唱えて下さい。左腕よ、生えろ!なるべく元々ついていた左腕のことを想像しながらでお願いします」

...え?ガチで言ってるの?この姫様。
懐疑的な感情をいだきながら、アリスの言うことを聞き、頭の中で復唱する。

左腕よ、生えろ!

すると右手の紋章から回路状の黒い線が右手から伸びていき、左肩まで広がっていく。
線は腕の断面からはみ出すと模様ではなく実物になり、やがて黒い左腕を作り上げていく。

「まじかよ...」

「やったわ!ほらね?私の言う通りだったでしょ!」

「はい、姫様のご考察には誠に感服いたしました」

アリスはなにやらレインに誇ったような表情を見せている。
てかこれはなんだ?俺の体に何が起こってるんだ!?
そんな困惑する俺に近づきアリスは説明する。

「貴方の核石の能力を言葉で現すなら、そうですね。『創造』とでもしましょう。創造は貴方が思い浮かべた物を実物にすることができる能力です。思い返して下さい。まず貴方はブレドと戦った時、武器をなにももていない貴方は、対抗するようにブレドの持つ木刀と同じ形状の刀を右手から生成させた」

確かにあの時は目の前のブレドの武器が目に映った時、突然右手に刀が現れた。蝶男の時もそうだ。兵士たちの剣を見ながらこいつを倒したいって思ったら長剣が生成された。

「貴方は残念ながら覚えていませんが、リリスが見た貴方は戦艦に向かって飛び上がる時、失った左腕を補うように大剣を生やしていたそうですよ。つまり貴方は状況を打壊するための適切な回答を無意識的に作り上げているんです。その力がどのような仕組みで発動しているかは分かりませんが、今左腕を意識的に作ったということは、もう貴方はその力を使いこなすことができるようですね」

「なるほど...?」

まだ姫様の言っていることが全部理解しきれてはいないが、実際に黒い左腕は義手のように断面にしっかりとくっついている。
それは本物の腕のように自分の思い通りに動く。ただ違和感を感じるのは、まるで中身が空っぽなように軽いことだ。

「それで、明日の戦いで俺はどのように動けばいいんですか?」

それにはレインが答える。

「本来なら国内で戦艦が降りてくる所を兵士と共に迎撃してもらう所だが、もしお前が戦艦を破壊できる力を持っているのなら話は別だ。お前には俺達と共に戦艦に潜入後、敵リーダー格の暗殺に失敗した際にプロ-ドと共に他の戦艦を破壊してほしい」

あの巨大戦艦を破壊っていうのは未だに想像もつかない。

だが、右手の手背の紋章は可能だと訴えるように回路状の線を伸ばしていく。
「...やってみます」

その言葉に、もう迷いはない。
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