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Dルート

5日目中編 核石開放

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[戦艦:甲板]
俺の目の前で今まさに強者同士の戦いが巻き起こっている。
レインは素早い動きでデストロークを翻弄し、デストロークは体を変形させることで巧みに斬撃を躱す。
その様子を見ていると、隣から足音がする。
「大丈夫か?」
そこにはレインと共に指輪で転移したブレドがこちらに手を差し伸べていた。
「...ギリギリです」

「そうか、奴は俺達で削る。お前は合図が来たらその左腕で攻撃しろ」

「わ、分かりました!」
ブレドは話し終わると両腰から二本の異なる長さの剣を取り出し、戦闘に加わりに行く。
俺は言われた通りに合図が来るまで集中して戦闘を見つめていた。

...

「噂通りの実力だな」

「...」

レインの素早い斬撃を紙一重で躱しながらデストロークは反撃の機会を待つ。
そこに二本の剣が放たれた。
デストロークは左腕を甲羅のような形に変形させ、その刃を防ぐ。
「ほう、いい腕だ」
双剣を握っているのは鋭い目つきをしたブレドだった。
「奇妙な技を使う奴!」

「そういう貴様らは剣一筋で単調だな」
ブレドの目の前の甲羅は突然巨大なワニの頭に変形すると、そのままブレドを丸呑みする。
だがその隙を見てレインがデストロークの右手を切り落とした。
「くっ!だがまずは一人...」
そう言いかけた所でワニの頭は大きな風圧と共に内側から破裂した。

「...この星の核石は本当に面倒だな」
そこから現れた血まみれのブレドによってデストロークは壁まで吹き飛ばされる。
鉄の壁は歪みながらもデストロークの体重を支えた。

「ブレド、少年を連れてこの戦艦から離れろ」

「いいのか?」

「奴の戦い様。このまま戦っていればいずれこの戦艦は破壊されるだろう」

「...わかった」
レインの命令を聞いたブレドは振り返ると、そのままカナタの元へ走っていく。
それと同じ位のタイミングでデストロークが身体を起き上がらせた。
「ほう、一人で挑む気か?」
すでに切り落とされた右腕は新しく生えている。

「一人で十分だ」
レインは剣を縦に構えると、詠唱を始める。

『アクセラレーション:セット』
レインの剣はさらに光を放ち、青色の瞳は黄色に光り輝く。
その黒い瞳孔からは二本の線が虹彩まで伸びていく。
『ダブル』

次の瞬間、デストロークの胴体は血を吹き出しながらぱっくりと斬られた。
(速い...!?)
レインは目で追うのがやっとな程の高速の斬撃を放ちデストロークを戦艦の奥まで吹き飛ばしていく。

...

そんな激しい攻防をみている俺にブレドが走ってきた。
「隣の戦艦まで移るぞ」

「移る!?」
隣って...まさか。
甲板の端の壁から顔をだすと、数十メートル先の少し下に戦艦が見える。
「まさかまた浮遊で行くわけじゃないでしょうね?」

「まさか?勿論このまま飛び降りるぞ」
嘘だろ!?この世界の人間は恐怖とかの感情がないのか!?
そう思っていると、突然周りの戦艦が大きな音を出しながら爆発されていく。

「プロ-ドか、少し早いな。そういえばリリスはどうした?」

「リリスさんは一番大きな戦艦を破壊してから合流するそうですぅ!?」

「そうか」
ブレドはそう言うと当たり前のように俺を片腕で持ち上げ、足を段差に乗せる。
なにがそうかなんだよ!?

すると後ろから大きな音とともに爆発が起こる。
頭を振り返らせると、そこには戦艦内部から元の数百倍ほどの大きさのタコの足を全域に伸ばしているデストロークがいた。
タコの足はそのまま戦艦を破壊していき、俺とブレドに迫る。
「時間がない、飛ぶぞ」

「え!?ちょ、ま...」
俺の返事を聞く前にブレドは俺を抱えながら大きく飛び上がると、そのまま数十メートル先の戦艦の甲板で着地する。
後ろを見ると、先程までいた戦艦は木端微塵に破壊されていた。
そしてその爆風から騎士と男が現れ、こちらの方向へと勢いよく飛んでくる。
地面を削りながら着地した両名は激しい攻防を繰り広げながら戦艦を走り回っている。

「貴様、さてはこの星の最終兵器だな?」

「...」
レインは無言でデストロークに近づき、剣撃を放つ。
「この速さ!!」
その刃はギリギリの所で防がれた。
「だが、近づけさせなければどうという事はない!」
デストロークはレインとのある程度の間合いを取るために全身から棘を伸ばす。
それは360度隙間なく生やされ、まるでマリモのような全貌になっている。

『アクセラレーション:セット』
デストロークから少し離れたレインは再び詠唱をすると、瞳孔から伸びる線が三つに増える。
『トリプル』
詠唱を終えたレインはさらに加速していき、突風を放ちながら棘を斬っていく。
辺りに激しい剣圧が放たれ、甲板の地面や壁に切り傷が刻まれる。
そのまま無数の斬撃を続けていると、やがて棘の内部が見えていく。
だがそこにはデストロークではなく、灰色の肉片だけがあった。
それは大きくボコボコと膨らむと、

――”バゴンッ!!”

と破裂し、レインを戦艦の外まで吹き飛ばしていった。

その数秒後にデストロークは地面を破壊しながら現れ、俺達の前に立ちはだかる。
「ようやく厄介な方を倒せたか...」

「カナタ。さっきの話は覚えているな?」

「...はい!」
俺は黒い左腕に右手を当てながら前に出ていくブレドの背中を見つめる。
ブレドは両手の双剣を構えると、床に亀裂をつくりながらデストロークにまっすぐ向かっていく。
「貴様は先程の奴と違って実に単調で戦いやすいな」

だがブレドの剣撃はデストロークの右腕の触手によって呆気なく防がれた、はずだった。

『ウィンドマジック:真空斬』
ブレドの詠唱とともに刃先から風圧が放たれる。
風圧は触手を切断するとそのままデストロークの脇腹を切り裂き、さらに奥の壁まで傷を残して消滅した。

「訂正する必要があるようだな...」
その瞬間デストロークは背中からコウモリのような翼を生やし、ブレドの真上に飛び上がる。
灰色の翼の表面からは数百本の太い針が生成されていく。

「貴様は強い!」
そしてそのまま針をブレドのいる地面に向けて垂直に放つと、たちまち地面は蜂の巣のようになっていく。

『ウィンドマジック:ウォールオブガスト』
だがブレドの詠唱と共に周りに突風が放たれ、針は軌道を変えて自らブレドを避けるように地面に突き刺さっていった。
「そう何度も上手くいくかな?」
そのデストロークの一言で突然針は肥大化し、ブレドを覆いこんでいく。
やがてブレドの視界は灰色の針でできた壁で包まれていった。
(狙いは俺の行動を封じ込めることか...!)

地面に降り立ったデストロークは直ぐ様右腕を砲台のような形に変化させる。
「奴の核石の力を使うのは少々気に食わないんだがなぁ!」
砲台からエネルギーが光りだすと、そのままブレドが中にいる棘に向かって放たれた。

辺りに煙塵と甲高いエネルギー音が響き、思わず俺は目を右腕で隠す。
どうなった...?
段々煙塵が消えていき、中の様子が見えてくる。
そこには変形させた部分を元に戻しているデストロークと...

全身の鎧が砕け、片膝を地面に付けているブレドがいた。
その鎧がピクリと動く。
「...今だ」

戦いに加われという合図。
左腕に殺意を込める。
すると即座に黒い腕は巨大化していく。
一撃で殺す。その意識を持ちながら、左腕をデストロークに振りかざす。
「バレないとでも思ったか?」
だがデストロークは俺の行動が分かっていたように背中から触手を伸ばし、シュルシュルと俺の左腕に巻きつける。
だが、ここで止まるわけにはいかない...!
咄嗟の判断で身動きを封じられた左腕を肩から分離させる。
そして右手に力を込めると、掌に一本の長剣が創造された。
「うおぉぉおおおおお!!」

恐怖を叫びで消し去り、その勢いでデストロークの背中を突き刺した。
肉を抉る感触が右腕に感じられる。
「多少は考えれるようだが...」
しかし、デストロークはその攻撃が効いてないかのようにすぐにこちらに振り返り、右腕を数倍にまで膨らませる。
「ツメが甘い!!」

そして強烈な打撃が胴体に放たれた。
内蔵まで響き渡る衝撃と痛みが体を襲う。
足を踏ん張り地面を削りながら吹き飛ばされるも、倒れそうになる体を気合で起き上がらせる。
口の中に血の味が広がっていく。
骨は...まだ折れていない。
ほっとして前を向いたその時...

風を切る音とともに俺の左目に裂けるような激しい痛みが感じられた。
次第に視界の半分が真っ赤に染まり、光を失っていく。

「ァァアアア!!」

あまりの痛みに悲痛と叫びが混じった声が出る。
すぐに左目に刺さったものを右手で抜き出す。
残った目で凶器を見ると、それは一本の細長い針だった。
「もう手段は選ばん。瀕死にしてでも連れ帰るぞ!」

声の先には怒りの表情のデストロークがこちらに歩いていた。
ここまでなのか...?

そう思った時、突如周りに大量の魔法陣が展開され、デストロークを何重にも囲んでいく。
「これは...バリアのような物か?小賢しい」
俺の横の魔法陣からリリスとレインが現れる。
「遅れてしまい申し訳ありません、レイン様」

「いい、それより早くこの怪物を討伐するぞ」

「はっ!!」

「本当に面倒な力だ...」
デストロークは全身から触手を伸ばし、自分の動きを封じ込めている魔法陣に伸ばす。
魔法陣から展開されたバリアは触手の勢いと圧迫ですぐに破壊されそうになる。

『アクセラレーション:セット』
その様子を見てレインは光り輝く剣を構える。
瞳孔から伸びる線は四本に増え、✕印のようになり、全身を光のオーラが覆っていく。

『...クアドラプル』

詠唱と共にリリスのバリアは触手によって破壊される。

「貴様らぁァアアアアア!!」
そしてデストロークの叫びと同時にレインの姿は残像を残して消え―――

デストロークの真後ろに残像とともに騎士が姿を現す。
「...は、ははは、ハハハハハハ!!」
血しぶきを撒き散らしながら笑うデストロークの体は真っ二つに両断されていく。
肉が飛び、鮮血が甲板の床にダラダラと流れると、次に胴体が地面に落ち、下半身が膝を着きながら倒れる。
「終わったのか...?」
明らかに勝負はレインの勝ち。両断されたデストロークはもう動くことはない。
その場の誰もが思った。
...ただ一人を除いて。
突如デストロークの体はぶくぶくと膨れ上がり、戦艦中に広がっていく。
「まだ生きてるの!?」

「リリス、はやく転送魔法の準備を」
リリスとレインがこちらまで下がりながら会話をする。
目の前の巨大な肉塊の中からは切断されたデストロークの上半身が現れる。

「貴様ら、我をここまで追い込んだことは褒めてやる。だがな、この勝負は負けでも...」
血まみれの両腕で自身の胸を突き破る。
するとそこから紫色の光を放つ石が現れた。
「あれは...核石!?」
レインはその石を見て驚愕する。
リリスは転送魔法を展開しようとするが、その猶予を与えないかのようにデストロークは核石を更に不気味に光らせていく。
「この戦(いくさ)には勝たせて貰う」
戦艦中に光が届くほどの発光で目の前が見えなくなる。

『核石開放』

その一言とともに、肉塊はこの戦艦は愚か周りの戦艦まで飲み込んでいく。
様々な悲鳴と叫び声は虚しく、雲の上の戦艦は全て肉塊に飲み込まれる。
青空はやがて灰色に染まると、数十キロメートルまで膨れ上がった肉塊は支えるものを失い、地上へと自由落下していった。

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[地上:薄暗い空洞]
冷たい感触とともに目を覚ます。
目覚めた場所は戦艦ではなく、土の上だった。
上から光が差し込んでくる。どうやら俺はこの空洞に落ちてしまったようだ。
意識がまだはっきりとしない。
さっきまでの戦いが嘘だったかのように辺りは静けさに包まれていた。
だがそれが現実だと認識させるように俺の左目は光を通さない。
...ここはどこだ?
よく見ると目の前になにかの箱がある。蓋はないようだ。
持ってみると思ったより重く、ゴロリと音がする。
何か入っているのか?
黒い左腕を肩から生成して、無理やり箱をこじ開けてみた。
すると、中から黄金の杯が姿を現す。
中には虹色の水が入っており、周りの様子も相まって神秘的な雰囲気を醸し出していた。
だがそれはすぐにぶち壊される。

「がぁぁあああああああああああああ」
獣の雄叫びのような声とともに空洞の天井が破壊され、何者かが入ってくる。
「...お前、デストロークか!?」
もはや人間とは呼べないソレは四足歩行になっており、灰色の体からは赤と青の血管が浮き出し、白目は真っ赤に染まっている。
「があぁ、がぁああああああ!!」
化け物は俺を認識するやいなや杯ごと俺に飛び込んでくる。
「クソッ、離れろ化け物!!」
それと同時に杯から虹色の水が溢れると、俺と化け物を覆っていく。
なんだ...!?
虹色の光は大きく発光すると、途端に姿を消していった。

カランという音と共に空っぽな杯が地面に落ちる。
先程までいた二名は消え、代わりに空洞は再び静寂に包まれていた。
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