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第一章
女って怖い2
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「あ、次体育だよ。そろそろ体育館に行かなきゃ」
まどかの言葉に梓も反応する。
「あ、そうだね」
体育着の入ったカバンを手に立ち上がった。僕も、一緒に立ち上がる。
「ねえ、由紀の心臓って、その…だいぶ悪いの?」
まどかが、言いにくそうに聞いてきた。
「まどか」
梓が気にして、たしなめるようにまどかの名前を呼ぶ。
「あ、ううん。大丈夫、気にしないで。その、昔に比べるとだいぶ良くなっているんだよ。だからこうして学校にも通えてるし。ただ、発作が起きると厄介だからって、用心しているだけなの」
こうやって、本気で心配してくれると僕はいたたまれない気持ちになってしまう。
だって本当の僕はかなりの健康優良児で、家族がインフルエンザにかかっているときだって、一人だけ元気で過ごしてしまったくらい健康には自信があるんだ。
だけど女装しているから着替えなんて出来るわけないから、苦肉の策として、結果こういう嘘を吐かざるを得なくなっている。
恐らく僕は嘘を吐いている心苦しさから、余程ひどい顔をしていたんだろう。気遣うように佐藤が声をかけて来た。
「辛い事とかあったら、遠慮なく言えよ。力になるから」
僕はびっくりして佐藤の顔を見た。
そんなに親しい間柄でもないのに、僕にまで気を遣ってくれる。梓の周りにはホントに良い人たちが集まっているんだな。
「ありがとう」
僕は安心してもらうために、にこりと笑った。
そして、出口近くで待ってくれている二人の下に小走りで駆け寄った。
廊下を三人で歩きながら、「佐藤君って、優しいんだね」と感心したように言うと、まどかが僕を楽しそうに見つめる。
「何、何?由紀ちゃんってもしかして佐藤に気があるの?」
「は?違う、違う。そうじゃなくて、さっき無理するなって感じで気遣ってくれたから。…まどかも梓も優しいし、何か恵まれてるなって思って」
「キャー、何この子。めっちゃかわいいんだけどー」
むぎゅうというくらいの勢いで、まどかが抱き着いてきた。いつものまどかの抱き癖だ。これは、本気で焦る。
僕は、胸が無いのをばれないように両腕を前でクロスさせながら、顔を真っ赤にしながら抵抗した。
「ほら、まどか。由紀が恥ずかしがってるから」
そう言って、梓がまどかの肩を掴んで引きはがしてくれた。
「だって、由紀ちゃん可愛いんだもん」
「まあ、確かに可愛いけど」
今度は梓が僕の頭に手を乗せて、顔を覗き込んできた。かなりの至近距離で見る梓の顔に、僕は火を噴きだしそうなくらい顔が熱くなった。
梓は、目をぱちくりさせて、急に僕を抱きしめる。
「まどかの気持ちが分かった気がする~」
「でしょ?でしょ?」
「あ、ああ、あず…」
僕は、テンパって言葉も上手く紡ぎだせない。
好きな人に抱きしめられて、普通でなんかいられるわけもない。
僕の身長は情けないけれど、男にしては高い方では無い。かろうじて梓より五センチくらい高いくらいだろう。
梓が少し俯き加減になっているため、梓の息が僕の肩にあたる。
ヤバい、ヤバい!ヤバ過ぎるっ!
僕は妙なところを反応させないように、覚えたての数式を頭の中で羅列させていった。効果があるのかないのか分からないけど……。
ようやく梓は僕を解放したのだけど、茹蛸のように真っ赤になった僕の顔を見て、「由紀は危なっかしいなあ」と、肩を揺らして笑い続けた。
…男の僕としては、かなり情けない。
もちろん、男とばれるわけにはいかないんだけど。
まどかの言葉に梓も反応する。
「あ、そうだね」
体育着の入ったカバンを手に立ち上がった。僕も、一緒に立ち上がる。
「ねえ、由紀の心臓って、その…だいぶ悪いの?」
まどかが、言いにくそうに聞いてきた。
「まどか」
梓が気にして、たしなめるようにまどかの名前を呼ぶ。
「あ、ううん。大丈夫、気にしないで。その、昔に比べるとだいぶ良くなっているんだよ。だからこうして学校にも通えてるし。ただ、発作が起きると厄介だからって、用心しているだけなの」
こうやって、本気で心配してくれると僕はいたたまれない気持ちになってしまう。
だって本当の僕はかなりの健康優良児で、家族がインフルエンザにかかっているときだって、一人だけ元気で過ごしてしまったくらい健康には自信があるんだ。
だけど女装しているから着替えなんて出来るわけないから、苦肉の策として、結果こういう嘘を吐かざるを得なくなっている。
恐らく僕は嘘を吐いている心苦しさから、余程ひどい顔をしていたんだろう。気遣うように佐藤が声をかけて来た。
「辛い事とかあったら、遠慮なく言えよ。力になるから」
僕はびっくりして佐藤の顔を見た。
そんなに親しい間柄でもないのに、僕にまで気を遣ってくれる。梓の周りにはホントに良い人たちが集まっているんだな。
「ありがとう」
僕は安心してもらうために、にこりと笑った。
そして、出口近くで待ってくれている二人の下に小走りで駆け寄った。
廊下を三人で歩きながら、「佐藤君って、優しいんだね」と感心したように言うと、まどかが僕を楽しそうに見つめる。
「何、何?由紀ちゃんってもしかして佐藤に気があるの?」
「は?違う、違う。そうじゃなくて、さっき無理するなって感じで気遣ってくれたから。…まどかも梓も優しいし、何か恵まれてるなって思って」
「キャー、何この子。めっちゃかわいいんだけどー」
むぎゅうというくらいの勢いで、まどかが抱き着いてきた。いつものまどかの抱き癖だ。これは、本気で焦る。
僕は、胸が無いのをばれないように両腕を前でクロスさせながら、顔を真っ赤にしながら抵抗した。
「ほら、まどか。由紀が恥ずかしがってるから」
そう言って、梓がまどかの肩を掴んで引きはがしてくれた。
「だって、由紀ちゃん可愛いんだもん」
「まあ、確かに可愛いけど」
今度は梓が僕の頭に手を乗せて、顔を覗き込んできた。かなりの至近距離で見る梓の顔に、僕は火を噴きだしそうなくらい顔が熱くなった。
梓は、目をぱちくりさせて、急に僕を抱きしめる。
「まどかの気持ちが分かった気がする~」
「でしょ?でしょ?」
「あ、ああ、あず…」
僕は、テンパって言葉も上手く紡ぎだせない。
好きな人に抱きしめられて、普通でなんかいられるわけもない。
僕の身長は情けないけれど、男にしては高い方では無い。かろうじて梓より五センチくらい高いくらいだろう。
梓が少し俯き加減になっているため、梓の息が僕の肩にあたる。
ヤバい、ヤバい!ヤバ過ぎるっ!
僕は妙なところを反応させないように、覚えたての数式を頭の中で羅列させていった。効果があるのかないのか分からないけど……。
ようやく梓は僕を解放したのだけど、茹蛸のように真っ赤になった僕の顔を見て、「由紀は危なっかしいなあ」と、肩を揺らして笑い続けた。
…男の僕としては、かなり情けない。
もちろん、男とばれるわけにはいかないんだけど。
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