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第四章

芸事も恋も頑張ってます3

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待ち合わせは11時半。
僕は梓より早く待ち合わせ場所に行くべく、家を出る。

今日の僕の格好は、素のままだ。女装はしていない。
ただ、万が一の用心のためにキャップをかぶり伊達メガネをかける。髪も後ろで簡単に結んでおいた。

こんな姿じゃ梓もさすがに分からないだろうと、待ち合わせ場所で梓を探していると案の定、きょろきょろとあたりを見ながら梓がやってきた。
僕の方を見ても気づいていないようで視線を流してしまう。
僕は、ちょっと楽しくなって梓の前に歩き出した。

近づく僕に梓が目を留め、え?という顔をする。

「梓、僕」
梓の顔を見ながら伊達メガネをずらし、ニッコリと笑って見せた。

「由、由紀?」
よほど驚いたのだろう。目をまん丸くして僕を見つめる。

「そう言えば、少し面影あるな…」
「そりゃね、だから万が一の事も考えてとりあえず変装」
「それと梓、今日は僕の事、由紀也って呼んでくれ。本名だから」
ちょっと真剣な顔を作り、僕は梓の目をしっかり見つめながらお願いした。

「…由紀也…」
「うん」
嬉しくなって、明るく返事をすると梓が拗ねたような顔になる。

「…なんか狡い」
「え?」

思いもかけない梓の苦情に、ちょっと動揺する。狡いって何が?

「…そりゃ、女の子の格好をしている時も凄い美少女だから大体想像はついてたけど、何、このゆ…由紀也の美少年っぷり」

拗ねたような表情に、拗ねたような口調。
何だよ、梓!
すげー可愛いんだけど!
こんな往来じゃなかったら、絶対抱きしめてるぞ、ホント!

「…お似合いに見えるかな」
「え?」
「だって梓、美人だし…。でも僕はあまり格好良いとは言えない口だから、佐藤と違って」

僕は密かに思っていたことを、この際だからと思い切って口にした。
梓は、佐藤はタイプじゃないとは言っていたけど、どう考えても僕なんかより佐藤の方が格好いいのはだれの目から見ても明らかだから。
僕は線が細くて綺麗だとは度々言われる、だけどそれは男にとってはあまりほめ言葉にはならないと僕は自覚していた。

「美人って…」
僕の言葉になぜか梓はこんわく気味だ。

「何? 言われるだろ?」
僕の言葉に梓は肩をすくめる。

「たまにまどかが言ってくるくらいかな。でもあれは、気を使ってくれているんだろうけどね」

「それは無いよ。あー、多分梓はいろいろと男らしい所があるから、それでカモフラージュされていることもあるかもしれないな」

僕の言葉に梓は、ぱちぱちと瞬きした。無自覚ってこういうことも言うんじゃないのかな。
梓のそう言うところも僕は大好きなんだけどね。
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