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第一章

部活なんてしない2

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 部屋に荷物を置いて手を洗いに行く。そして仏壇の前に座り、可愛く笑う弟、しょうの写真に手を合わせた。

「ただいま、帰ったよ」
 挨拶をしても返事は返ってこない。弟はただ、笑っているだけだ。

「ホットケーキ焼いたの。食べるでしょ」
「うん、ありがとう」

 仏間に入って来たお母さんは、まず翔にホットケーキをお供えして手を合わせ、それからテーブルに私の分のホットケーキと紅茶を置いた。
 バターと蜂蜜をたっぷりかけた、翔が大好きだったホットケーキだ。

「高校は、どう? 楽しい?」
「ん~、まあまあかな? 佳奈とまた同じクラスになれたから」
「ああ、あの佳奈ちゃんね? じゃあ、安心ね」
「うん」

 明るくハキハキしていて、気の合う親友。それが私にとっての佳奈だ。だけどそんな佳奈との間にも、ギクシャクしていた時期があった。それもこれも、私がいいかげんだったせいだ。

「高校では、クラブ活動とかしないの?」
「えっ?」
「だってほら……佳奈ちゃんは、バレー部に入ったんじゃないの?」
「入ったけど……」
「一緒に入ったら楽しそうじゃない」
「入らないよ、私は」

 私の返事にお母さんは困ったような顔をした。それに気が付かないふりをして、残っているホットケーキをバクバクと食べて紅茶を飲みほす。

「ごちそうさま。勉強してくる」
 カップとお皿を流しに持っていき、私はそのまま自分の部屋へと向かった。

 ホント、お母さんまでなに考えているんだろう。私が部活なんてしていいわけないことくらい、分かっているはずなのに。

――私は、取り返しのつかない罪を犯しているのだから。

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