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第二章

弟の気遣い

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 佳奈と一緒にバレーボール倶楽部に入れないとわかった時、予想して諦めていたとはいえ腹が立ったのも事実だった。

『おねえちゃん、バンバンマンのパズル一緒にやろう』
『……あとでね』
『え~? 今やろうよ。楽しいよ?』
『…………』
『ねえ、おねえちゃ……』
『うるさいっ!』

 思わず翔の手を振り払っていた。持っていたパズルのピースがバラバラに落ちる。

『うわあああ~ん』
 イラッとした。泣きたいのはこっちだ、なのになんで翔が泣くんだと。
『ごっ、ごめ……。ごめんなさいおねえちゃん。おねえちゃん元気なかったから……。だから……』

 私を見上げる涙でぐちゃぐちゃの顔を見てハッとした。それは本当に自分のことを悪いと思っている、そんな顔だったから。

 たぶん翔は、私が佳奈と一緒にバレーボール倶楽部に入りたがっていたことを知っていた。そしてお母さんに断られたことも。それが病気がちの翔のためだということを、当の本人が知っていたのかどうかは分からないけれど。おそらく何か感じることはあったのだろう。

 あの時の翔が、幼いなりに私のことを励まそうと思ってくれていたのは確かなことだと思うんだ。
 病弱だったけど、みんなに愛され明るく可愛い子だった。おかげでわがままなところもあって、少し妬ましい思いをしたこともあったけど……。

 でもあの一件を境に、翔の過ぎたわがままはなくなっていた。

 私はあんなに小さくて病弱な弟に、気を遣うだなんてそんなことを覚えさせてしまったんだ。
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