お姉ちゃんはぼくのせいにしている

らいち

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第四章

心も体もばらばら

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 ……楽しむ? 楽しんで……いいの?

 弟の青白い顔が、さっと脳裏に浮かんだ。
 翔は苦しんでいた。私がバレーボールを楽しんでいた時間に。

 奥歯をギリッと噛みしめる。手のひらは汗でべたべたで冷たくなっていた。

「中山さん!」
 私の近くでボールが落ちた。ピーと笛が鳴る。

「ちょっと、中山さん」
「佳奈の代わりだって分かってる? ちゃんとしてよ!」
「あっ……ごめん」

 頭の中が混乱していた。佳奈に無理させちゃならないってそう思って自分から志願したくせに、身体も頭もついてこれていない。

 どうしたらいいの……。

「ドンマイ、ドンマイ。切り替えていこー。楽しめよー」
「大丈夫、大丈夫。頑張れー」

 小川君の声に続いて聞こえてきた、佳奈の声援にハッとした。振り向いて、――そして頭が一瞬にして真っ白になった。

 翔?
 待って! 見間違い? 今、翔が小川君の隣に立っていたよね!

 だけど見えたのはほんの一瞬だった。もう一度見えないかと何度まばたきをしても、目をこすってみても、翔の姿を見ることはできない。

 もしかしたら翔は怒っているんだろうか? 一瞬でも、またバレーを楽しもうと思った私を。

 どうしたらいいのか分からなくて、動きの鈍くなっている私が標的にされていた。スパイクはガンガン私めがけて飛んできて、それを拾えない私のせいでどんどん点差が開いていく。
 明らかにチームの空気は悪くなっていた。

「もう、こんなことなら佳奈さんに出てもらった方がよかったよ」
 ……!
「もう一回メンバーチェンジとかできないのかな」
「単なる球技大会なんだから、お願いすればできるんじゃないの?」
「ちょ、ちょっと」

 私が下手くそなのは悪いけれど、とんでもないことを言い出す彼女らに心底驚いた。

「なによ。中山さんに言えることあるの?」
「それは……」
「自分から手を挙げたくせに、やる気ゼロじゃん!」
「そうだよ。佳奈は大丈夫だって言ってたのに」

 みんなの非難の的になって、胃の温度が十度は下がった。

 分かってる。私が悪いよ。だけど……。
 佳奈には負わなくてもいい負い目を負わせてしまった。いつも気遣ってもらっていた。私だって、こんなときくらい佳奈の役にたたないと……!

 汗でべたべたの手のひらをぎゅっと握る。

「佳奈には大事な試合が控えているの。不格好でも何でも、今度こそ必死に食らい付いていくから。頑張るから!」

 唇をきゅっとひきしめて、みんなの顔を必死で見つめ返した。
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