お姉ちゃんはぼくのせいにしている

らいち

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第四章

翔に報告

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 結局、私たちが女子のドッジボールを見に行った時にはすでに試合は終わっていた。
 負けちゃってたんだよな。応援もしないで悪かった。

「ねえ、ところでさあ。翔君が小川君に近付いたのって、小川君に霊感があるってことと、楓のことを心配してたからなんだよね」

 今日は部活はお休みということで、珍しく三人で帰っている。

「うん、そうみたいだよ」
「……でも、それだけなの?」
「えっ?」
「だってさあ、楓に邪険にされて私には嫌み言われて、それでも引かないのってさあ。なんかもっと他に理由ありそうじゃん」

 佳奈が、妙にニヤニヤしている。
 まったくもう、からかうつもりなんだろうけど、小川君にそんな気持ちなんてあるわけ……。えっ?

「小川君……?」
「ヤダー! やっぱり、そうなんじゃん! 顔真っ赤だよ!」
「やっ、だってさ! 俺小学校の頃からずっと中山さんのこと憧れてたんだから、あの頃みたいにはつらつとして欲しいと思うの当たり前だろ!」

 そっ、そういえば言ってたっけ。運動音痴だから、私みたいに運動神経のいい人に憧れるって。

「はいはい。……それにしてもさあ、楓が霊感ゼロでダメだったんなら、翔君も私のところに来ること考えててくれればよかったのになあ。そうしたらもっと早く、楓の気持ちを開放させてあげられたのにさ」
「それはムリだよ」
「なんでよ?」
「中山さんのことを心配する気持ちは合格でも、高橋さんも霊感ほとんどないって言ってたから」
「あ~、私もそうなのかよー!」
「……だって高橋さん、翔君の姿、ろくに見えてなかっただろ」
「そりゃ、そうだけどさあ。翔君が努力してくれたら見ることできたかもしれないじゃん!」

 佳奈が大げさに頭を抱えて天を仰ぐ。それを見て笑う小川君を見ていると、胸が熱くなった。
 小川君に再会していなかったら、私は今も翔の気持ちに気が付けずにかたくなだったに違いないんだ。

「ありがとうね、小川君」
「えっ? やっ、いいんだよ。中山さんが本来の中山さんを取り戻してくれれば」
「……うん」
「ああ、もういい奴だな小川君。今までほんっと悪かった」

 本当に心底悪いと思っているのかどうなのか、佳奈は小川君の肩をバシバシと叩いている。小川君は痛そうだ。
 そうこうしているうちに、小川君と別れる場所にやってきた。

「じゃあな、俺こっちだから」
「あっ、バイバイ」
「バイバイ小川君、明日ね!」

 私の言葉に小川君は歩きながら振り返り、満面の笑みで大きく手を振った。
 ……今まで申し訳ないくらい素っ気なかったもんな。

「いい人だったんだね。ほんと悪いことしたよ」
「……私も」

 二人顔を見合わせて爆笑した。
 だってさ、しょうがないもんね。

「ねえ、楓はこれからどうする? バレー部に……入らない?」
「……うん。翔に報告してみる」
「えっ? ……ああ、うん。そうだね、それがいいかもね」

 佳奈は、やっぱり私の親友だよね。私の意図をすぐに察してくれてる。


「ただいまー」  
 私は帰宅してすぐに仏間へと直行した。手を合わせて、まずは今日のお礼を言った。そして――。

「翔、私ね……バレーボール部に入ろうかなって思ってるんだ」

 そっと目を閉じて、翔の返事を待ってみた。だけど案の定というか、予想通りというか、翔からの返事はやっぱり返ってこなかった。

 時間切れみたいなこと言ってたもんね。
 それでも、私はこの今の私の言葉が、天国にいる翔に届くと信じているよ。
 見ててよね、翔。

「挨拶はすんだの?」
「うん」
 お母さんが、ホットケーキを仏壇に供えた。そしてテーブルに私の分も。

「あのさ、お母さん」
「うん?」
「明日から帰り、ちょっと遅くなるから」
「えっ? 何かあるの?」
「うん……バレー部に入ろうかなあと思って」
「そうなの?」

 お母さんは心底驚いたようで、目を見開いて何度もまばたきをした。私が頷くと、お母さんは一瞬くしゃりと表情を崩して、それから満面の笑みを見せた。

「それを今、翔に報告してたんだ」
「そうなの……。良かったわね、翔」

 お母さんの目が涙でうるんでいた。それを見てしまったのがなんだか恥ずかしくて、私はホットケーキにがっつくふりをした。
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