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シザク王の死
反逆者の処分2
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椅子の背に凭れて腕を組みながら、黙って皆の意見を聞いていたセレンにナイキ侯爵が意見を求めた。セレンが顔を上げると、ここにいる全員が彼に注目をしている。
セレンは息を吐いて、凭れていた椅子から体を起こしてテーブルの上で両手を合わせた。
「私も、お二人の公開処刑には賛成だ。名誉欲のあるコンサイト侯爵にはそれだけでかなりの恥辱になると思われるし。……カルロス伯爵に関しては私はその人となりを知らないのだが、彼がこの計画に加担していなかったという事は確かなのか?」
「それは確かなようですよ。パイロン大尉がコンサイト侯爵の居城を包囲しに行った時に、カルロス伯爵邸にも赴いて彼らを確保したそうですが、その時初めて父親が、国王を暗殺した事を知ったという風情だったらしいです」
「全く知らなかったというのか?」
「いえ、そうではなく……。少し前にコンサイト侯爵にこの計画を打ち明けられたようなんですが、その時彼はそんな恐ろしい事はしないでくれと頼んだそうです。その後父親の方から何も言ってくることが無かったので安心していたと言っていました。それなのに暗殺が実行されたと聞かされて、心底驚かれていたと報告されています」
「そう……か」
セレンは顎に手をやりしばらく黙って考えていたが、やがて口を開いた。
「一応反対の意を表していたのなら、カルロス伯爵に関してはサイハン島への幽閉では無く、爵位はく奪の上マンステン牢獄に幽閉という事にしておいたらどうだ? 状況によっては十年後くらいに解放しても良いだろう」
「セレン殿! いや、マラダンガム公爵! ぜひ、ぜひそうしてやって下さい! あの男は父親と違って本当に真面目で良い奴なんです。もしも釈放されることがあればその時は、私が責任を持って国のために働くように言い聞かせます!」
「セレン殿! 何をおっしゃるのですか!」
喜ぶナハエル伯爵とは逆に、フリッツが怒りの声を上げた。
シザク王を可愛がり、手塩にかけて育てて来たのだ。そのやるせない怒りはもちろんセレンにも理解は出来ていた。だが、だからと言って誰にも彼にも厳重な処罰を与えればそれで良いのかというと、それは違うとセレンは思っていた。
「これは公平な処罰だ。怒りに塗れて罪の無い者にまで過重な処罰を与えるのは……、そんな前例を作ってはならない。そうだな? ナイキ侯爵」
「さように存じます」
セレンの問いかけにナイキ侯爵が仰々しく返事をした。そのやり取りに、周りで見ていた皆は議論が終了に差し掛かっていることを理解し、安堵の息を吐いた。
それぞれに少しずつ思う所はあっても、ある程度妥協しなければいつまで経っても埒が明かないだろう。それではシザク王の国葬すら遅くなり、次期国王を誰にするかという協議も滞ってしまう。それがこの国にとって良くない事であることは、皆も既に承知していた。
「フリッツ」
先程から眉間にしわを寄せて不服そうにしているフリッツに、セレンが声を掛けた。
「はい」
返す声音さえも不貞腐れている。
「……コンサイト侯爵の処刑の前に、むち打ち百回でもしてみるか?」
「……え?」
「マラダンガム公爵!?」
公開処刑ですら行き過ぎだと考えているミッドランコム伯爵にとっては、処刑の前にむち打ちをするだなんてとんでもない仕打ちだと声を荒げた。だが、それを無視してセレンはフリッツに言葉を続ける。
「もしもフリッツがそれを望むのなら、私も傍で見届ける。……少しは、胸がスッキリするやもしれぬ」
「セレン殿……」
真面目な顔で提案するセレンに、フリッツの荒れ狂っていた心は凪いでいった。
「そうですな。それも良いかもしれませんが……、想像だけで良しとしておきます。ご配慮、感謝いたします」
「いや……」
二人の会話を聞いていたナイキ侯爵が、「それでは」と切り出した。
「それぞれご意見の違いはありますが、妥協点という事でマラダンガム公爵の提案を取り上げさせていただきます。まず、今回の反逆に関わるそれぞれの者の財産、領地の没収。首謀者のコンサイト侯爵と実行犯の甥のアレフはギロチンによる斬首刑。そして息子のカルロス伯爵に関しては、首謀では無いという事と、元々その気があったわけでは無くほぼ父親の独断によるものだという事を加味して、爵位はく奪の上マンステン牢獄に幽閉とします」
「カルロス伯爵夫人はどうなりますか?」
ナハエル伯爵が、心配そうに尋ねた。
「ああ、確かにそうだな。結局どうだったのだ? 彼女は今回の計画を知っていたのか?」
「いえ、カルロス伯爵にも確認したそうですが、彼女は何も知らされていなかったようです。その日、伯爵夫人に聴取した際、寝耳に水と言った状態で事態が呑み込めていないようだったとも聞いています」
「でしょうな。彼女は優しいお方です。もし事前に知っていたのなら、きっとシザク王に知らせていたに違いありません」
フリッツはシザク王がまだ王子だった頃に、一緒にはとこのマルセリーヌに会ったことがある。当時の事を思い出しているのか、少し懐かしい表情をしていた。
「それでは、彼女については然るべき修道院にて修道女として一生を神に仕えていただくという事でよろしいでしょうか」
そう言って、ぐるりとナイキ侯爵が視線を巡らす。それに皆手を挙げて賛成の意志を示し、ようやく会議は終了した。
セレンは息を吐いて、凭れていた椅子から体を起こしてテーブルの上で両手を合わせた。
「私も、お二人の公開処刑には賛成だ。名誉欲のあるコンサイト侯爵にはそれだけでかなりの恥辱になると思われるし。……カルロス伯爵に関しては私はその人となりを知らないのだが、彼がこの計画に加担していなかったという事は確かなのか?」
「それは確かなようですよ。パイロン大尉がコンサイト侯爵の居城を包囲しに行った時に、カルロス伯爵邸にも赴いて彼らを確保したそうですが、その時初めて父親が、国王を暗殺した事を知ったという風情だったらしいです」
「全く知らなかったというのか?」
「いえ、そうではなく……。少し前にコンサイト侯爵にこの計画を打ち明けられたようなんですが、その時彼はそんな恐ろしい事はしないでくれと頼んだそうです。その後父親の方から何も言ってくることが無かったので安心していたと言っていました。それなのに暗殺が実行されたと聞かされて、心底驚かれていたと報告されています」
「そう……か」
セレンは顎に手をやりしばらく黙って考えていたが、やがて口を開いた。
「一応反対の意を表していたのなら、カルロス伯爵に関してはサイハン島への幽閉では無く、爵位はく奪の上マンステン牢獄に幽閉という事にしておいたらどうだ? 状況によっては十年後くらいに解放しても良いだろう」
「セレン殿! いや、マラダンガム公爵! ぜひ、ぜひそうしてやって下さい! あの男は父親と違って本当に真面目で良い奴なんです。もしも釈放されることがあればその時は、私が責任を持って国のために働くように言い聞かせます!」
「セレン殿! 何をおっしゃるのですか!」
喜ぶナハエル伯爵とは逆に、フリッツが怒りの声を上げた。
シザク王を可愛がり、手塩にかけて育てて来たのだ。そのやるせない怒りはもちろんセレンにも理解は出来ていた。だが、だからと言って誰にも彼にも厳重な処罰を与えればそれで良いのかというと、それは違うとセレンは思っていた。
「これは公平な処罰だ。怒りに塗れて罪の無い者にまで過重な処罰を与えるのは……、そんな前例を作ってはならない。そうだな? ナイキ侯爵」
「さように存じます」
セレンの問いかけにナイキ侯爵が仰々しく返事をした。そのやり取りに、周りで見ていた皆は議論が終了に差し掛かっていることを理解し、安堵の息を吐いた。
それぞれに少しずつ思う所はあっても、ある程度妥協しなければいつまで経っても埒が明かないだろう。それではシザク王の国葬すら遅くなり、次期国王を誰にするかという協議も滞ってしまう。それがこの国にとって良くない事であることは、皆も既に承知していた。
「フリッツ」
先程から眉間にしわを寄せて不服そうにしているフリッツに、セレンが声を掛けた。
「はい」
返す声音さえも不貞腐れている。
「……コンサイト侯爵の処刑の前に、むち打ち百回でもしてみるか?」
「……え?」
「マラダンガム公爵!?」
公開処刑ですら行き過ぎだと考えているミッドランコム伯爵にとっては、処刑の前にむち打ちをするだなんてとんでもない仕打ちだと声を荒げた。だが、それを無視してセレンはフリッツに言葉を続ける。
「もしもフリッツがそれを望むのなら、私も傍で見届ける。……少しは、胸がスッキリするやもしれぬ」
「セレン殿……」
真面目な顔で提案するセレンに、フリッツの荒れ狂っていた心は凪いでいった。
「そうですな。それも良いかもしれませんが……、想像だけで良しとしておきます。ご配慮、感謝いたします」
「いや……」
二人の会話を聞いていたナイキ侯爵が、「それでは」と切り出した。
「それぞれご意見の違いはありますが、妥協点という事でマラダンガム公爵の提案を取り上げさせていただきます。まず、今回の反逆に関わるそれぞれの者の財産、領地の没収。首謀者のコンサイト侯爵と実行犯の甥のアレフはギロチンによる斬首刑。そして息子のカルロス伯爵に関しては、首謀では無いという事と、元々その気があったわけでは無くほぼ父親の独断によるものだという事を加味して、爵位はく奪の上マンステン牢獄に幽閉とします」
「カルロス伯爵夫人はどうなりますか?」
ナハエル伯爵が、心配そうに尋ねた。
「ああ、確かにそうだな。結局どうだったのだ? 彼女は今回の計画を知っていたのか?」
「いえ、カルロス伯爵にも確認したそうですが、彼女は何も知らされていなかったようです。その日、伯爵夫人に聴取した際、寝耳に水と言った状態で事態が呑み込めていないようだったとも聞いています」
「でしょうな。彼女は優しいお方です。もし事前に知っていたのなら、きっとシザク王に知らせていたに違いありません」
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「それでは、彼女については然るべき修道院にて修道女として一生を神に仕えていただくという事でよろしいでしょうか」
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