オツキサマにはご注意を!~転生悪役令嬢はもうヒロインに期待しない~

祈莉ゆき

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◇第1章

【29】馬車は王城へ向かう

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「……はあ……憂鬱だわ…………」


 定期的に強めな揺れを繰り返す籠の中で、私は頬杖をつきながら遠くの風景を眺めながらそう呟いた。


「はー、ほんまやなぁ。主様がしんどそうでわしもごっつ胸が苦しいわぁ」


 向かい側の席で狐がニコニコと嬉々とした声を上げる。
 それを見てより一層気分が悪くなり、思わず額に手を添える。


「……本当、あんたは私が嫌な思いしているときが一番楽しそうよね」
「えー? そないなことあらへんってー! ほんまのほんまに主様が可哀想で可哀想でっ…………くくっ」


 大袈裟な抑揚で喋りながら袖口で顔を覆いながらおいおいと泣く仕草を見せ、その後肩を小刻みに揺らす狐。
 こいつのこういうところは本当に腹立たしく思う。
 イラつきと不快感を抑えるために特に彼に何も返さないまま目を瞑り、この揺れが止むまでただただ待つことにした。


 先日アグニスコルト家を出迎えたときよりも一段と着飾った私は、とある理由から呼び出しを受け、王城へと向かっていた――――。



◇ ◇ ◇



 ――――時は遡ること、二日前。
 お父様の執務室に呼び出された私は、訪ねるや否や唐突にそれを告げられた。


『……え? 婚約解消の申し出を断られた?』


 私は驚きを隠せなかった。
 かなりお忙しい様子のお父様は『書類に目を通しながらで悪いな』と先に謝られてから話を進めた。


『ああ。リーシェに憑かれた神様のそのお名前もきちんと書き記した上で婚約解消を申し出たんだが……『この件に関してはクランシュタイン家側の申し出だけで済ませられない』という内容が添えられていたよ』
『そんな……どうして…………確かに現状最も高貴な家柄の令嬢は私なのかもしれませんが、ノインのオツキサマになったとなれば話は変わってくるでしょうに』
『私もそう思っていたよ……リーシェがノイン様のオツキサマになった以上、我がクランシュタイン家より他の家門のご令嬢たちの中から再び婚約者を選んだ方が王家としても望ましいはずだ。だからオツキサマの件を出せば、そのまま承諾されるか、期限を決めての解消になるかのどちらかだと思っていたんだけれどね……』


 お父様の話を聞きながらも、脳内はずっと困惑していた。
 確かに今まで回帰直後のこんなに早い段階で婚約解消の申し出はしたことがなかったが、過去の人生でエルヴィス殿下に申し出を断られたことは一度たりともなかったのだ。
 もちろんいつも二つ返事で婚約が解消されたわけではない。けれどお父様がおっしゃった通り、最初の人生を覗いた過去八回の人生のすべてで、タイミングは違えども「学園卒業前に解消する」という誓約を結べていたのだ。

 理由は単純なもので、ノインに憑かれた私は王族側としてももう切り離したいものの、やはり「クランシュタイン」という家名と後ろ盾をそう簡単に手放すことはできないということに加え、現状では私以外に殿下にふさわしい候補者がいないからだ。

 だから「学園を卒業する」、つまり成人を迎える前までに王家に見合う家柄のご令嬢を探し、私と比べられても引けを取らないほど所作や勉学を施し、育てあげた上で新しい婚約者として公表する――――そのための猶予期間なのだ。


(それなのに断られただなんて……時期が早すぎたっていうの? でもそれじゃあ今回はどうやって殿下と婚約を解消すれば…………)


 思わず黙り込んで深く考えていると、お父様が再び口を開いた。


『……それと『婚約解消に当たっては当事者同士の話し合いが必要だと考えているため、そのための席を設けたいと思う。ついては二日後にリーシェ・クランシュタインを登城させるように』と書かれていてね…………』
『えーっと……それは当然お断りできないもの、ですよね?』
『そうだな。特に『エルヴィス殿下自身が非常にリーシェに会いたがっている』とも書かれていたから……もし体調が悪くて行けそうにないと返したとしても『それならこちらがそちらを訪ねよう』という返答がありそうだ』


 ただでさえ忙しい最中だからか、お父様は顔色を悪くして頭を抱えた。
 それを見て私は、『大丈夫です、お父様。私が直接お話しをつけてきますわ』とできるだけにこやかに答えた――――。
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