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◇第1章
【40】アレクセイとの謁見 - 乾いた笑い
しおりを挟む『……でも、心臓が黒魔石に覆われるってことは透視魔法でそれが見えるんじゃないかな? 僕は色んな医師や治癒師に診てもらったけど、その誰もが『何の異常も見られない』と言っていた……彼らが全員『敵』の手の者だとも思えないし、いい加減な診断をするような者たちでもない。どうして彼らが見つけられなかったのかは説明できる?』
「はい。黒魔石を取り込めば確かに心臓に黒魔石が宿るそうなのですが、これは光属性の高位魔法である感知魔法でしか判別できないらしいのですわ」
ハルルートでアレクセイの一件が明るみになったのは彼が証拠を揃えたからだ。しかし、それらを集めるきっかけを与えたのは光属性を持つヒロインである。
ハルルートでもルナに好意を持つエルヴィスは頻繁にルナを城へと招いていた。立場上断りにくいルナはその度に城を訪れていたが、一度だけ王城付近で不穏な気配を感じて高度の感知魔法を使い、違和感を覚える。
そのときは王城付近に突如出現した魔物を倒しに行くのだが、後日ルナはエルヴィスの目を盗んで違和感の正体を探ろうとする。そしてまだ葬儀が行われておらず安置室に保管されていたアレクセイの心臓が黒魔石になっていることに気づくのだ。
それを心を寄せているハルに相談し、不審に思った彼が秘密裏に調べ上げ、陛下の前で二人を告発するのだ。
(……まあ特に第一王子の暗殺計画に関わっていなかったエルヴィスにまでその罪を被せたのは、体よく厄介払いするためだろうけれど)
「体内に取り込まれる前の黒魔石は他属性の探知魔法や透視魔法で捉えることが可能だそうですが、体内に取り込むと何らかの要因で性質が変わってしまうようで……光属性の感知魔法でないと認識できないんだそうです」
『なるほど…………だけど、本当に僕は黒魔石を飲み込んだのかな? 黒魔石を見たことはないけれど……こちらのマナ石と似通った形状のものなら、そう簡単に飲み込んだりできないと思うのだけれど…………君の話だと、魔力吸収だと魔物化するんだよね? 大きな形状だとすぐに気づくし、小さく砕いたとしても飲み込むときに違和感もありそうだ』
「自然吸収されない黒魔石はそれゆえに加工もしやすいようで、液状にしたり気化させたりもできるらしいですわ。ですので、殿下の場合は……知らない間に飲み物や食事に少量混ぜ込まれていたり、香にして焚かれていたようなんですの」
黒魔石のことはこれまでの人生経験から得た情報も多いが、殿下に関する情報はすべてハルルートでエルヴィス殿下と王妃が突きつけられていた内容だ。
もちろんハルが突きつけた内容のすべてを覚えているわけではないため、彼女らが黒魔石を盛った手段に関して覚えているのは今言った二つくらいだ。
だが、一つ重要なことも覚えている。
それは、五歳頃からアレクセイ殿下は徐々に黒魔石を体内に取り込まされていたということだ。
回帰した今の殿下は十二歳……つまり既に七年間も黒魔石を取り込み続けていることになる。
(原作では確か二十二歳になった頃に亡くなっていたから……彼は十七年も苦痛に耐えて続けていたのか)
今現在では黒魔石を入手するのは非常に困難だ。
だからこそ少量ずつ盛って体調を崩させる程度しかできなかったのかもしれないが、徐々に悪化させた方が不治の病だったことにもしやすいし、エルヴィス殿下に有利になる局面まであえて生かしておこうとしたのだとも考えられる。
どちらにしろそんなに長い間あの濁ったマナ石をずっと体内に入れられていたかと思うと……当事者でない私でさえも若干の吐き気を覚える。
『香? 僕は香は焚かないけど…………ああ。だから一時期頻繁に呼び出されていたのか……大した用もないのにお茶に付き合わされていたから、引っかかってはいたんだけれど……なるほどね…………もしかして、何か対策をしておけば黒魔石を加工した香でも特に害がなかったりするのかな?』
「はい。毒霧対策のある守護のマナ石を身につけていれば、気化した黒魔石の影響は受けないそうですわ。気化すると少し効力が薄まるようで、安価な守護のマナ石でも簡単に防げるそうです」
殿下は『安価な守護石でも、ね……』と文字を浮かべてから、消え入るほど小さな乾いた笑いを漏らした。
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