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◇第1章
【58】ルーク・クランシュタイン - 穏便な締め括り
しおりを挟む「……なるほど…………確かにあんたが今言った方法なら奴らは完璧に終わるな」
再びソファーに腰掛け数分かけて詳細を話すと、ルークはそうぼそっと呟いた。
「爵位の剥奪は逃れられないだろうが……時期を逃せば王室が動いていただろうし、うまいこと逃げられて末端だけ処理されて終わるのがオチだな」
回帰している私はこれらの情報を容易に整理できるが、弱冠七歳で今の話をここまで理解できているのは本当に末恐ろしい。
(さすがお父様が後継者として連れてきただけあるというか……やっぱり相当優秀なのよね、生意気だけど)
正直エルヴィス殿下やハル、アレクセイ殿下に引けを取らないほどの有能さだろう。
最も、お父様がルークを選んだ理由は頭の良さより魔法の才を評価してのことだろうが、両方の面での伸びしろも考慮されたのかもしれない。
「……けど、これらの情報は真実なのか?」
「ええ。確かな情報よ」
さらりと答えるとまたしばらく黙り込み、探るように問われる。
「……あんたがこれを得た情報屋に会わせてくれることは?」
「できないわね。あくまで私はあなたの復讐に協力するだけで、手札である情報屋を紹介するのは違うんじゃないかしら?」
「だが、今のままじゃあんたの情報が信用に足るかどうかの判断がつかない」
「それならあなたが情報屋に頼んでこの情報の裏取りをしたらどう? 既に詳細な情報はあなたに渡したのだし、その真偽を探るくらいならどこの情報屋でもできることでしょう?」
そう返すと彼は言葉に詰まっているようだった。
結局のところ、こんないい情報を掴んでこれるような情報屋との縁が欲しかったのだろう。
まあ、実際にはその情報を仕入れてきた情報屋なんて存在しないのだから紹介のしようもないのだけれど……。
「話を元に戻すわね。決行は半年後……それまでにあなたは使用するだろう魔法を習得しておくことも必須になるわ」
「それだけの期間あれば十分だよ。あんたはここから秘密裏に出て行く手筈と事後処理をしてくれるって言ったけど、本当に処理は任せても大丈夫なわけ?」
「ええ。想定外のことが起きない限り私とノインである程度のことは収拾できるし……いざとなれば助けてくれそうな伝手もあるしね」
エルヴィス殿下に一泡吹かせたいがためにアレクセイ殿下を救おうと婚約状態を維持しているわけだが、あちらとしても私の存在は都合がいいだろうし勝手に使い物にならなくなるのは困るはずだ。ということはもしものときは多少であれば力を貸してくださるだろう。……たぶん。
そのことを知らないルークは頭にはてなを浮かべている様子だったが、数秒後こう切り出してきた。
「……あんた、もしかしてわざと『わがままで傲慢な公爵令嬢』って噂流してたわけ?」
「いいえ。そう思われても仕方ない行動ばかりしていたわ。ノインに憑かれてから心変わりしただけよ」
そう返すとルークは「心変わりねぇ」と小さく呟いて笑った。
「まあいいや。とりあえず俺からあんたに言っておきたいことが二つある」
「何かしら?」
「まず、ノイン関係のアレコレからあんたを守るって件……あんたができそうな範囲は自分でどうにかしてくれよ? 例えばこの屋敷の使用人とか。あくまで俺は『権力を行使しないと防げない場合のみ』しか動かないからな」
先ほどの契約魔法で生成された書面の該当箇所を指差して私の確認を仰ぐ。
「ええ。それで問題ないわ。屋敷の者についてもそのうち対処する予定ではあるからあなたは気にしなくていいわよ」
大変面倒ではあるが、対処するためにちまちまと証拠を集めているわけだ。
ただ、行動に移すのはもう少し後になるだろう。
(確実に『あの子』を味方に引き入れるのなら……)
「そうね……あと二ヶ月くらい経ったら対処するわ」
「理解してるなら別にいいんだよ。あんたと表面上仲良くするのに屋敷内がごたついてたらやりづらいからね。まっ、あんたがこのまま使用人に無碍にされてるところ見られるっていうのはそれはそれで面白いから無理に対処しなくてもいいけどね」
私の考えなどどうでもいいと言わんばかりに気楽そうな声で返される。
……この義弟や、狐、エルヴィス殿下…………なぜこうも私の周りには性格歪んでるやつが多いのだろうか?
「本当に、あなたも随分いい性格してるわよね……それで? あと一つは何?」
「ああ、ニアと交流を持ちたいって条件ついて。これは少し時間をくれ。公爵家に来たばかりでまだ落ち着いていないようだからしばらくそっとしておきたいんだ」
先ほどとは打って変わって真剣な顔つきで頼んでくる。
妹に向ける優しさのひとかけらでもこちらに向けてくれれば多少は話しやすくなるのに……と思いつつ返答する。
「構わないわよ。何なら復讐が終えてからでも問題ないわ」
「なら、そうさせてもらう……あんたの方は他に何かある?」
「特にないわ」
「そう。じゃ、もう部屋に戻るわ」
淡々と会話を済ませ、そのままスタスタと部屋を出て行った。
最後に何か言われるかもしれないと身構えていた私は、少しの間彼の出て行った扉を見つめてしまった。
「なんや。最後に嫌味の一つでも言って帰るかと思ったんに……ガッカリや。あ~あっ、おもんない」
同じことを思っていたノインはだるそうに私のベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
……本当に、私の周りにはろくなやつがいない。
なんだかんだ一区切りついて気が抜けた私は、一つ大きくため息をついてソファーの背もたれに身を任せ、そのまましばし目を瞑って休むことにした。
こうしてルークとの話し合いはとりあえず穏便に終わったのだった――――。
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