61 / 73
◇第1章
【60】お父様との駆け引き - 正念場
しおりを挟む「お父様、率直に申し上げますわ。この書面にある使用人全員を解雇してくださいませ」
翌日。お父様の執務室に私はいた。
昨日のうちにオリバーに声をかけ、お父様に少しばかり時間をとってもらった。そして、昨夜ノインと共に書き上げたリストを提示した。
九回も人生を繰り返したのだから、屋敷内で私に嫌がらせを行いそうな者や仕事を放置しそうな者には大抵目星がついていた。
それを元に私より正確に物事を覚えているノインに確認を取りつつ、今回の嫌がらせに関わっているかどうかも精査した上でリストを作った。おそらく間違いはないだろう。
「……ちょっと待ってくれ、リーシェ。理由もなしにいきなり解雇というのは無」
「私、この方たち全員に過度な嫌がらせや職務放棄をされましたの」
「よし、わかった。全員解雇しよう」
即決してしまうお父様を側にいたオリバーが慌てて止める。
「徹底的に調べた上で何もなければ解雇しなくても構わない」という話をつけた後、お父様は私に問う。
「リーシェ。お前に嫌がらせをしたり職務放棄をした者たちは早々に解雇するにしても、侍女は必要だろう? 数日はリーシェに嫌がらせを行わなかったメイドにでも世話をしてもらうとして……そうだな。少し時間が空いてしまうが明後日にでも侍女の選考を……」
「あ、お父様。私、よく考えてみたのですけれど、侍女はもういりませんわ」
お父様の声を遮ってスパッとそう言い切る。
……さて、ここからが正念場だ。
お父様だけでなくオリバーまでしばらく口を大きく開き、無言になる。
その後、我に返ったようにその静寂をお父様が切り裂く。
「なっ、何だって……!?」
「私、最近はノインと会話することが多いですから、常にお世話をしてくれる侍女が近くにいると気味悪がられてしまうんですよね……普通のオツキサマならそのようなことはないのでしょうけれど、話してる相手がノインなので見えなくても『ノインがそこにいる』ということを意識してしまうのかもしれませんね」
九回の人生を経てきたことにより、どう交渉すれば要望が通りやすいのかというのはある程度心得ている。
「侍女がいらない」というのは今日私がお父様の許可を得たい要望ではないが、とりあえず最も承諾されないだろう内容を口にする。
「だっ……だめだ! お前が何と言おうとも侍女はつける! 確かに最近大人びたと思うがお前はまだ子供だ。それにただでさえお前には寂しい思いをさせているんだ……側で仕える者は絶対に必要だ」
「寂しくないので大丈夫ですわ」
「例えそうだもしても安全面のこともある。いくら屋敷内のセキュリティーが万全とはいえ、公爵家に忍び込もうとする者も中にはいるし、万が一リーシェに危険が及んだとき身近にいて守ったり逃がしたりしてくれる存在は欠かせないよ」
「……わかりましたわ。お父様がそこまでおっしゃるなら今後も侍女はつける方向でお願いしますわ。あ……そうだわ! それなら私、少し気になっている子がおりますの」
大げさにずいっと身を乗り出し、意識的に目を輝かせてみる。
「気になっている子? どこの家門の子だい? 言ってみなさい」
「はい。以前偶然町で見かけた同年代の子なんですけれど、明るくて手際がよくってそれはそれは可愛らしかったんです! だからあの子ならノインに憑かれているという理由だけで私を嫌わないと思うのですけれど……いかがでしょうか?」
「待て、リーシェ。『町で見かけた』というその子は……貴族の子か?」
「いいえ。おそらく平民の子ですわ」
本当は目星をつけている平民の子などいないのだが、今度は身分の問題で絶対にだめだと言われそうな要望を口にしてみる。
にこやかに答えると、お父様は予想通り非常に渋い顔をされた。
(まあ、当然だけど……)
「うむ……お前の願いなら叶えてやりたいのだが……リーシェ、それは難しい。メイド見習いにする程度なら……可能かもしれないが、公爵家の侍女としてお前の側にずっと置くのは無理だ」
「まあ……やはりそうなんですのね…………ではお父様はどのような方から選べば許してくださるのですか?」
「そうだな……伯爵家の適当なご令嬢か以前別の屋敷で働いていたことのある侍女を募ってだな」
「んー……そうおっしゃるのであれば、せっかくですがやはり侍女はいりませんわ」
そしてここで再びの全拒否!
0
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる