オツキサマにはご注意を!~転生悪役令嬢はもうヒロインに期待しない~

祈莉ゆき

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◇第1章

【60】お父様との駆け引き - 正念場

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「お父様、率直に申し上げますわ。この書面にある使用人全員を解雇してくださいませ」


 翌日。お父様の執務室に私はいた。


 昨日のうちにオリバーに声をかけ、お父様に少しばかり時間をとってもらった。そして、昨夜ノインと共に書き上げたリストを提示した。

 九回も人生を繰り返したのだから、屋敷内で私に嫌がらせを行いそうな者や仕事を放置しそうな者には大抵目星がついていた。
 それを元に私より正確に物事を覚えているノインに確認を取りつつ、今回の嫌がらせに関わっているかどうかも精査した上でリストを作った。おそらく間違いはないだろう。


「……ちょっと待ってくれ、リーシェ。理由もなしにいきなり解雇というのは無」
「私、この方たち全員に過度な嫌がらせや職務放棄をされましたの」
「よし、わかった。全員解雇しよう」


 即決してしまうお父様を側にいたオリバーが慌てて止める。
 「徹底的に調べた上で何もなければ解雇しなくても構わない」という話をつけた後、お父様は私に問う。


「リーシェ。お前に嫌がらせをしたり職務放棄をした者たちは早々に解雇するにしても、侍女は必要だろう? 数日はリーシェに嫌がらせを行わなかったメイドにでも世話をしてもらうとして……そうだな。少し時間が空いてしまうが明後日にでも侍女の選考を……」
「あ、お父様。私、よく考えてみたのですけれど、侍女はもういりませんわ」


 お父様の声を遮ってスパッとそう言い切る。
 ……さて、ここからが正念場だ。

 お父様だけでなくオリバーまでしばらく口を大きく開き、無言になる。
 その後、我に返ったようにその静寂をお父様が切り裂く。


「なっ、何だって……!?」
「私、最近はノインと会話することが多いですから、常にお世話をしてくれる侍女が近くにいると気味悪がられてしまうんですよね……普通のオツキサマならそのようなことはないのでしょうけれど、話してる相手がノインなので見えなくても『ノインがそこにいる』ということを意識してしまうのかもしれませんね」


 九回の人生を経てきたことにより、どう交渉すれば要望が通りやすいのかというのはある程度心得ている。
 「侍女がいらない」というのは今日私がお父様の許可を得たい要望ではないが、とりあえず最も承諾されないだろう内容を口にする。


「だっ……だめだ! お前が何と言おうとも侍女はつける! 確かに最近大人びたと思うがお前はまだ子供だ。それにただでさえお前には寂しい思いをさせているんだ……側で仕える者は絶対に必要だ」
「寂しくないので大丈夫ですわ」
「例えそうだもしても安全面のこともある。いくら屋敷内のセキュリティーが万全とはいえ、公爵家に忍び込もうとする者も中にはいるし、万が一リーシェに危険が及んだとき身近にいて守ったり逃がしたりしてくれる存在は欠かせないよ」
「……わかりましたわ。お父様がそこまでおっしゃるなら今後も侍女はつける方向でお願いしますわ。あ……そうだわ! それなら私、少し気になっている子がおりますの」


 大げさにずいっと身を乗り出し、意識的に目を輝かせてみる。


「気になっている子? どこの家門の子だい? 言ってみなさい」
「はい。以前偶然町で見かけた同年代の子なんですけれど、明るくて手際がよくってそれはそれは可愛らしかったんです! だからあの子ならノインに憑かれているという理由だけで私を嫌わないと思うのですけれど……いかがでしょうか?」
「待て、リーシェ。『町で見かけた』というその子は……貴族の子か?」
「いいえ。おそらく平民の子ですわ」


 本当は目星をつけている平民の子などいないのだが、今度は身分の問題で絶対にだめだと言われそうな要望を口にしてみる。

 にこやかに答えると、お父様は予想通り非常に渋い顔をされた。


(まあ、当然だけど……)


「うむ……お前の願いなら叶えてやりたいのだが……リーシェ、それは難しい。メイド見習いにする程度なら……可能かもしれないが、公爵家の侍女としてお前の側にずっと置くのは無理だ」
「まあ……やはりそうなんですのね…………ではお父様はどのような方から選べば許してくださるのですか?」
「そうだな……伯爵家の適当なご令嬢か以前別の屋敷で働いていたことのある侍女を募ってだな」
「んー……そうおっしゃるのであれば、せっかくですがやはり侍女はいりませんわ」


 そしてここで再びの全拒否!
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