オツキサマにはご注意を!~転生悪役令嬢はもうヒロインに期待しない~

祈莉ゆき

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◇第1章

【62】マジックワーカー紹介所 - 不在の狐

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「リーシェ。ここからははぐれないように手を繋いで行こう」


 お父様に差し出された手を私はご機嫌で掴む。
 約束した通り、今日はお父様と一緒にマジックワーカーの中から私の侍女となる者を選びに来た。


 目的の子をお父様に許可していただけるかどうか、いささか不安もあるが、初めて来たマジックワーカーの紹介所は想像していたよりも大きく煌びやかで自然と心が踊っていた。

 マジックワーカーというもの自体は原作や過去の人生で知っていたのだが、実際にこの場所に足を運んだことはなかったため、どこかそわそわしてしまう。
 魔法使いが勤め先を探している場所だからかあちこちに見慣れない魔法具が置かれていたり、魔法使い関連のポスターが貼られていたりと、アトラクションはないが前世の遊園地のような雰囲気のある場所だった。


(ノインも来ればよかったのに……)


 あの神様は長生きなくせして好奇心旺盛なところがある。きっと私よりもはしゃいで楽しんだことだろう……その反応や声を見聞きできないことを少し残念に思う。

 一昨日話をつけた後、お父様と一緒の行動になるのならばノインにできるだけ静かにするよう釘を刺しておかないとと思いそれを口にすると、彼は「今回は一人で行って来い」と言ってきた。
 珍しいこともあるものだと思い理由を尋ねると「野暮用がある」とだけ言って、それ以上は何も答えてくれなかった。


(別に減るもんじゃないんだし教えてくれたっていいのにね。本当に性格のひん曲がった意地悪狐なんだから……)


 最初の人生ではそうではなかったが、繰り返すごとに一緒にいる時間が多くなり今ではほとんどの時間いつも近くにノインがいるようになったからか、こちらが頼み事をする以外でこうしてノインと離れるのはとても久しぶりだ。なんだか少しばかり落ち着かない感じさえする。

 そこでハッとして首をぶんぶんと横に振る。


(いやいや! 逆に考えれば今日はあの嫌味な狐がいないわけだし、普段自由がない分、思いっきり羽を伸ばして気晴しした方がいいわ!)


 そんな私を見たからか、お父様が心配そうに声をかけてくる。

「リーシェ、大丈夫か? ここは人もそれなりに多いし少々入り組んでいるからね……もし怖いようならこのまま帰ってもいいんだよ?」
「あっ、いえ! ちょっと考え事をしていただけですので……私、とっても楽しみですわ! お父様」
「ならいいんだが……馬車で約束した通り、具合が悪くなったりしたらすぐに私に言うんだよ?」
「はーい!」


 元気よくそれに応えるとお父様も安心してようで、そのまま優しく私の手を引いてくださった。



◇ ◇ ◇



 お父様の手配は万全で、この紹介所を管理する偉そうな人と合流したかと思うとそこから少し奥に進んだ客室に案内され、机にはお父様が指定した条件に合う人材の資料が用意されていた。

 まずここに置かれている書類に目を通し、候補者を絞り込み、それから彼女らをこの部屋に呼んで実際に会って選ぶらしい。
 通常は窓口で条件に合った人を選出してもらい書類のみで選び簡易的な依頼書を作成し、マジックワーカー側が承認したら後日実際に会い、詳細をつめた上で契約をするらしいのだが……公爵家が相手となるとさすがに待遇も変わってくるらしい。


 「書類に目を通すのが難しそうであれば時間はかかるが一人一人ここに呼んでいこうか?」とお父様に提案されたものの、やんわりと断り、書類に目を通し始める。
 一回目の人生の私では難しかったかもしれないが今は普通に内容も理解できるし、そもそも目的とする子がいる。それを鑑みると、むしろこうして落ち着いて書類に目を通す場所が整えられていて助かった。


「リーシェ。私も何人か候補を挙げても構わないかな? もちろん、最終的にはリーシェに決めてもらうつもりだ」
「はい、もちろん大丈夫ですわ」
「ありがとう。じゃあ私も少し書類に目を通させてもらうね」


 返答するとお父様は私が見終わった書類に目を通していく。
 今日馬車の中で、お父様から最低でも三人は侍女を選ぶようにと念押しされていた。
 目的の子だけいればいいと思っていたが、心配するお父様の気持ちを汲んでそれに従うことに決めた。


(残りの二人が今回出て行った使用人たちみたいに最低限の仕事をしないようであれば、そのときはお父様に再度申し上げて契約を切ればいいだけのことだものね)


 目的の子雇えたとしても、その子が私を嫌悪したり職務放棄する可能性が全くないとは言い切れないが、それは限りなく低いだろうと考えている。

 なぜなら最高に悪女だった一回目を除き、過去の人生で彼女は私に対し、至って普通に接してきたからだ。
 私自身やノインを恐れたり嫌悪する様子もなく、彼女にとって私はただの公爵令嬢に過ぎない様子だった。

 だからこそ、今回は彼女を味方に引き入れようと思ったのだ。


 とりあえず私も他にめぼしい人がいないかどうかをチェックしながらその子を探す。
 お父様がどのような条件で人員を絞られたのかはわからないけれど、同年代くらいの子も見てみたいと念を押してお願いしておいたため、おそらく彼女の名前はここにあるはずだ。


(まあ、もしなかったらもう一度子供らしさを前面に出しておねだりしてみるしかないわけだけれど……)


 恥ずかしいが、背に腹は代えられない。
 そう思いながらその後も黙々と書類に目を通し続けていると、ついにその一枚に辿り着いた。
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