オツキサマにはご注意を!~転生悪役令嬢はもうヒロインに期待しない~

祈莉ゆき

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◇第1章

【69】野暮用 - 同族との会話② /《ノイン視点》

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 本当の理由はこうだ。
 今まで過去九回繰り返してきた中でクロエに会ったことはない。
 気配に気づいたこともないし、そもそも誰かに憑いていたとわかったのさえ繰り返してきた中で今日が初めてだ。
 つまり必然的に「現時点で過去九回の人生で関わったことのない人物」がクロエのオツキサマということになる。


 となると、考えられるのはリアム・アグニスコルトとアレクセイ・ネオセインティア。
 現状、赤髪小僧が主様と死にかけ小僧の関係を知るすべはないし、万が一知っていたとしても二人の会話内容を聞く必要性はない。
 ゆえに、死にかけ小僧がクロエのオツキサマだということは明白だ。

 だがこれを言えば「時戻し」のことをクロエに話すことになる。
 話すこと自体は容易だが、主様に許可を得たわけでもないし、死にかけ小僧がゆくゆく主様の敵になる可能性だって無きにしも非ずだ。


(つまり今は悟られないようにした方が良い……か)


 さも当然のように自信に溢れた態度で言葉を紡ぐ。


「簡単なことだ。リーシェの周りでお前好みの顔はあの死にかけ小僧だけだからだ」


 ピシャーンと、雷にでも打たれたような顔つきをするクロエ。
 そのまましばらく固まって動かなくなってしまった。思ってもみなかった言葉に動揺しているようだ……やはり、まだまだ小童ということか。


「ああ、さらにこれが真実だと立証する方法があるぞ? なんなら試してみるか」


 腑抜けていた顔から再び表情を悟られないように整える彼女だったが、さて、それもいつまでもつだろうか?

 ニヤリと笑い、言葉を紡ぐ。


「死にかけ小僧……確かアレクセイ・ネオセインティアと言ったか? ハッ、まず名前がダサいな。長いのが気に食わん。それにアレクセイなんてキラッとした名前、あの腹黒そうなやつに合わんだろうに……もっとこう、ドスッとした名前がいいと思わんか? 例えば……そうやな……『ドゥンゴレアス』とかいいと思わんか? うんうん、あいつの腹黒さが名前からも感じられるようでなんか馴染むしなぁ、『ドゥンゴレアス』に改名した方がいいかもしれんな。ああ、あと王族っていう割にはあんまりイケメンでもなかったなぁ……顔の綺麗さで言えばクソ小僧……第二王子の方が良かったりする気がするな。ははっ! 死にかけで名前も合ってなくて顔もそんなにイケてないって笑えてくるな」
「う……うぅっ……」
「ん?」
「うっさぁあああああぁあぁぁああいっ!! この老いぼれ性悪ジジイがっ!! アレクセイはアンタなんかより何倍もっ! 何十倍もっ! いいえ、何億倍もかっこいいんだから!! 顔も! 心もね!! そんな美しきワタシの主をこれ以上悪く言うようなら、いくらノイン様でも許さなっ…………あっ」
「ほれ、確定だ」
「あぁああああぁぁぁぁあああああっ!」


 クロエは頭を抱えて膝から崩れ落ちた。

 主様にもよく性悪だと言われるが、こういうのはやはり気持ち良いものだ。


「いやー、しかしお前は本っ当に昔から変わっておらんな。度が過ぎるくらいの面食いなのはいいとしても、少し悪く言われたくらいで理性を失ってしまっては立派な神になれんぞ?」
「あの……ホントうっさいです、この性悪ジジイ」
「はっはっはー。そんなに褒められてはさすがのわしも照れてしまうぞ?」
「褒めてない!!」


 ギャーギャー騒ぎたてるクロエを慣れた手つきで適当になだめてひとまず落ち着かせる。


「――――さて、じゃあ本題に戻るとするか。とりあえずお前は死にかけ小僧の元に帰れ」
「いや、だから……情報源教えてくれたら今すぐにでも帰りますって」
「情報源なぁ……今は言えんな。まあ、わしがめちゃめちゃ協力した結果得られた情報っていうのだけは確かだ。だからそういうふうに伝えておけ」


 しっしっと手を振ってそう言うとクロエは大変不満そうな声を出して返してくる。


「いや……それでアレクセイが納得してくれるわけないじゃないですか」
「納得できてもそうでなくても、今言えるのはそれだけだ。どうやっても変わらんし、仮にお前がここにずっと張り付いたからといってわかるもんでもない。だから本当に早く帰れ。ここにいても無意味だ」
「……はあ。まっ、元々こんなに長い期間張り込んでても何一つ得られなかったから、そろそろ潮時なんじゃないかな~っと思っていたところなので別にいいですけど……これだけは答えてください、ノイン様。ノイン様のオツキサマはアレクセイを害そうとしているわけではないんですよね?」
「そうだな。リーシェ自身を脅かす存在にならなければ一生害することはないだろう。むしろ、死にかけ小僧の方こそ、リーシェを殺そうとしているわけではないよな?」
「ワタシの主はそのような人間ではありません。単なるボランティアなら率先してやるようなタイプではありませんが、お互いに利益がある関係なら、少なくとも大事にするタイプの人間ですわ」


 おそらく真実だろう。
 これで死にかけ小僧が自分の信頼度を上げるために複数から狙われているように暗殺者を送り込んだわけじゃないと確認できた。
 成り行きではあったが、大きな収穫だ。
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