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慌ただしい小旅行準備
32 水着選び
しおりを挟む三十二話 水着選び
放課後になるとオレはダッシュで帰宅。
「愛ちゃん!マリア!いる!?」
玄関を開けると同時に二人を名前を叫ぶ。
「どうしたのお兄ちゃん!」
「急用?」
二階から二人が顔を出して降りてくる。
「二人とも!次の休みは海に行きます!!」
「え!海!!??」
愛ちゃんの目が光る。
「マリアも実は海気になってた。」
マリアもワクワクしているのだろう、口角が少し上がっている。
「…ということで、今から水着を買いに行きたいと思います!」
「わーい!」
「マリアもう準備できてる。」
オレたちは早速近くのデパートへと向かった。
やはりもう夏ということもあり、浮き輪やビーチボールといった海で遊べるグッズが数多く展示されている。
それらは後で見作ろうとして、まずオレたちは水着売り場へと足を運ぶ。
「じゃあ二人とも欲しいの買ったらここのベンチで待っててね。」
「「はーい。」」
オレは女性用水着売り場の前に置かれてるベンチを集合場所に決めて男性用水着売り場へと足を運ぶ。
……別にオレは男用の水着の見た目とか興味ないからなぁ。
オレは適当に手にとって購入し、どうせ二人は時間がかかるだろうと予想しながら集合場所のベンチに背を向けるように座り、スマートフォンで海で必要なものを検索しながら待つ。
…あー日焼け止めも買わないとな。
特にマリアは肌が白いから日に焼けたら痛そうだ。
あとは海に入るからゴーグルと…。
必要なものが載ってるページを後ですぐ見られるように保存していく。
…結構あるな。
「ー…ん!?」
突然視界が暗くなる。
「だーれだ。」
オレの背後から声がする。
後ろから手で目を塞がれているんだろう。
この手の大きさからして愛ちゃんやマリアではない。
…と考えると自ずと答えは導き出される。
「ひ、人違いだと思います。」
オレに愛ちゃんやマリア以外にここまでスキンシップをとってくるやつなんていない。
「いいえ、人違いではありません。」
声の主は即答。
「どうしてそう言えますか?」
「あなたは加藤良樹です。」
「……むむむ。」
人違いではなさそうだ。
しかしこの声は石井さんでも鎌田さんでもない。
でもどこかで聞いたような気もするんだよなぁ。
なんか後ろでクスクスと笑い声も聞こえる。
「で、正解は?」
「正解は……。」
考えてもわからないので黙り込む。
「ちょっと加藤、つまらないから。」
手がオレの目から外されて視界が戻ったのでオレは犯人を確認するために後ろを振り返る。
「じゃーん。」
「……佐々木さん。」
学校帰りにそのままきたのであろう、制服姿の佐々木さんがニヤニヤして立っていた。
後ろに進藤さんと最近退院して戻ってきた黒澤さんもいる。
仲直りできたようでよかった。
「気づけよ。」
佐々木さんはオレの背中を軽くしばく。
「あー、ごめん。」
「加藤ここで何してんの?」
進藤さんがオレの隣に足を組んで座る。
スタイル良いよなぁ。
スカートから出る太ももがなんとも良い。
…まぁ石井さんほどではないけど。
「…あーえっと、親戚の子が水着選んでるから待ってる。」
「へぇー奇遇じゃん。アタシらも週末海いくから水着買いに来たんだよ。」
「なるほど。」
「よし、加藤もアタシらの水着一緒に選ぶか。」
「え!?」
佐々木さんが後ろからオレの両脇に腕を入れて無理やり立たせる。
「加藤も生では見れないとしても私らの水着姿送ってあげるからありがたく思えー。」
黒澤さんがスマートフォンを持ちながらニヤリと笑う。
「あ、はい。」
ー…こんなに馴れ馴れしかったっけ?
そんなことを考えながらオレは両腕を佐々木さんと進藤さんにロックされ女性用水着売り場に入っていく。
「佐々木さんたちは三人でいくの?」
「いや、加藤の嫌いな他のクラスのヤンキーたちと。」
佐々木さんはニヤニヤしながら答える。
「なるほど。」
あのヤンキーたちか。
オレは外を見回す。
「いないから安心しなって。」
佐々木さんはオレの背中を再びしばく。
「いたっ。」
「え?なになに?」
黒澤さんが興味ありげに佐々木さんに尋ねる。
「加藤こいつ、ウチらが連んでる男子たちが怖いんだって。」
「何それウケるー!!」
黒澤さんはオレの肩をバシバシ叩いて爆笑している。
そこまで面白いか?
「まぁでも加藤より肝は据わってないけどね。」
進藤さんが水着を物色しながら小さく呟く。
「え。」
「冗談だよ、真に受けんなバーカ。」
「はいすみません。」
やはりヤンキー相手にはオレは下手にしか出れない。
「…で、どれがいい?」
進藤さんはたくさん吊ってある水着を慣れてる手つきでオレに見やすい角度で流していく。
「んーー。」
オレはそれを集中して見る。
「なにマジにやってんの、キモいんだけど。」
「え?」
どっちなんだよ!
「ごめんごめん、ちょっとからかってみただけだから。戻っていいよ。」
佐々木さんが笑いながらオレが座っていたベンチに目を向ける。
まだ愛ちゃんたち選んでるのか。
オレは三人から解放されてベンチへ戻った。
「お兄ちゃんー。」
オレがベンチに戻ると同時に愛ちゃんとマリアが水着売り場から出てきた。
「良樹、大丈夫?」
マリアが少し心配そうにオレを見る。
「なんで?」
「前、勝手に教室出ていった人たちと一緒にいた。」
あぁ、進藤さんと佐々木さんな。
そういやちょっとビビりながら二人ともみてたもんな。
「あれね、あの時友達と上手くいってなくてイライラしてただけなんだって。」
あの時には黒澤さん休んでたもんな。
それでピリピリしてたのもあるだろう。
「そうなの?」
愛ちゃんがオレの袖を引っ張る。
「そうそう。だから怖がらなくていいよ。怖い見た目してるけどね。」
「…わかった。」
愛ちゃんは納得したようだ。
「マリアもわかった。」
お、マリアも理解早いな。
「それで二人とも好きな水着はあった?」
「うん!」
「あった。」
二人は袋の中に手を伸ばす。
「ちょちょちょっと待った!」
オレは二人の手を掴んで制止。
もう前回のパンツの二の舞にはならない。
「家でね。家で見せて。」
「わかった。」
「良樹、楽しみはとっておくタイプ。」
二人は袋から取り出すのをやめ、オレたちは日焼け止めなどの他に必要なものを買いにいった。
家に帰ると玄関の前に誰か立っている。
「あれ、誰だ。」
オレは背伸びして確認する。
女の人…か。
「どうしたの?」
愛ちゃんが不思議そうにオレを見る。
「いやさ、誰か玄関の前にいるなーって。」
「んー?」
愛ちゃんも背伸びしながら見ようとする。
いやいやオレの背で見えないんだから愛ちゃんに見えるわけないんだけど…可愛いからなにも言わない。
やがて玄関の前に到着。
「あのー、どなたですか?」
前で立っている女性に声をかける。
「あ!舞せんせー!」
「え?」
愛ちゃんとマリアが女性に駆け寄る。
女性もこっちを振り向く。
「あ、外出してたのね、突然お邪魔しちゃってごめんなさい。」
「あーいえいえ。」
愛ちゃんの言った通り、高槻さんだ。
「…で、どうされたんですか?」
高槻さんは少し恥ずかしそうにオレを見る。
「あのー…実は前に預けたビールなど入ってる袋を預けたまま持って帰るのを忘れてまして…。」
「あーー、あの袋の!」
そういや返すの忘れてたな。
「今すぐとってきますね。」
「すみませんありがとうございますー。」
オレは鍵を開けて家に入り、冷蔵庫からビールやらなんやらが入った袋を取り出す。
「あ、はいどうぞ。」
それを玄関で待機していた高槻さんに渡す。
「ありがとうございますー。」
「あ、でも中のサラダとか賞味期限きれてません?ウチで処分しときましょうか?」
だってそれ数日前のだし。
「いえ、食べるんで大丈夫です。」
「ええ!お腹壊しません!?」
子供のいる手前勿体無いことできないってことかな…だとしたら教師の鑑じゃないか。
「そんなこと言ってる場合じゃないので。」
高槻さんは力なく笑う。
「…というと?」
「今月お金ピンチなんでこれないと飢えちゃうんですー。」
なんということだ!
「なるほど。」
「はい、そういうことなので失礼しましたー。」
高槻さんは手を振りながら帰っていく。
「あー、またご飯でも食べにきてください。愛ちゃんもマリアも喜ぶんで。」
こんな愛ちゃんたちが懐いてる先生に倒れられては困るので、非常時には頼ってもらえるように声をかける。
「はい、その時はよろしくお願いしますー。」
高槻さんはお辞儀をして角を曲がっていった。
しかし大人も大変だな。
オレもこうやって自由にお金使えてるけど、海外で頑張ってくれてる父さんに感謝だ。
家に入ったオレはソファーに倒れこむ。
「あーもう今日は出前にしようかー。」
「マリアお寿司がいい。」
「じゃあ私もそれがいい!」
「おけー。電話するね。」
オレは出前の準備をしながら愛ちゃんたちの水着が入ってる袋が視界に入る。
「あ、そういえばさ。」
「なに?」
「もう家だし水着出してもいいよ。」
「あ、そっかー。」
愛ちゃんは袋に手を入れる。
「愛、だめ。」
マリアが愛ちゃんの手を掴む。
「なんで?」
「これは当日のお楽しみの方が面白い。」
「そっか!」
二人はオレを見てニヤニヤと笑う。
「ん?なに?」
「お兄ちゃん、当日まで内緒ー。」
「良樹。それまでモヤモヤしてて。」
二人はお互いに顔を見合わせて笑うと、早々に部屋へ水着を隠しにいった。
ちくしょう…そこまでもったいぶられると返って気になるじゃないか。
オレはそれからモヤモヤしながらその時を待つ羽目になった。
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