巫女とシスター2人の天使

よすぃ

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お見舞い

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 六十四話 大人数


 「はい、ただいまー。」

佐々木さんが腕をロックした状態で扉を開く。

「あれ、先客いるね。」

黒澤さんが室内を見渡しながら感想を漏らす。

「あらあら加藤さん、モテモテじゃないですかー。」

高槻さんがニヤニヤしながらオレを向かい入れる。

「あ、あの時の先生じゃん。」

佐々木さんのオレをロックする腕の力が少し強くなる。
あー、なるほど、これは佐々木さんと進藤さんは気まずいよな。
どうフォローしようかと必死に考える。

「どうしたの楓。」

黒澤さんが不思議そうに少し緊張した面持ちの佐々木さんを見ながら尋ねる。
…そうか、黒澤さん交流会の時休んでたもんな。

「あー、なんというかそのー…。」

佐々木さんは頬を指で掻きながら目線をオレに向ける…その時だった。

「あの、交流会の時はすみませんでした。」

進藤さんが前に立ち高槻さんに頭を下げる。

「え?え?この子誰ですか?」

高槻さんは突然頭を下げられてビックリしたのか目をパチクリさせながらオレを見る。

「そのーあれですよ、白鳥さんチームだった人です。その時は金髪だったんですけど…。」

「あー!あの美人な子たちね!いいのよいいのよ、気にしてませんから!」

高槻さんは両手を合わせて二人に優しい笑顔を向ける。

「…ていうかあなた金髪の時よりも随分印象変わりましたね。」

高槻さんは進藤さんの顔をまじまじと観察する。

「その、色々ありまして…。」

進藤さんは緊張しているのか肩が少し上がっている。

「え!?あの時のお姉ちゃん!?」

「ビフォーアフターがすごい。」

愛ちゃんとマリアも進藤さんを見て驚いている。

「ごめんなさい、自販機の場所わからなくて遅くなっちゃいました。…あれ?進藤さんたちどうして??」

コーラを片手に持った石井さんが病室に入ってきて中にいる進藤さんたちの姿を見て驚く。

「え、なんで石井さんがコーラを?」

オレは先ほど買ったコーラを見せながら石井さんに尋ねる。

『お主が持ってくるの遅いから買ってきてくれたんじゃ!』

御白が禁断症状のような目をしながら石井さんの持つコーラに飛びつく。

「いやいや!コーラの話じゃなくて石井でしょ!なんで石井いるの…てか、え?付き合ってんの?」

黒澤さんがオレと石井さんを交互に見る。

「い、いやいや何言ってんの!」

思わず黒澤さんに突っ込む。

「みんなもお見舞いに来たんだね。」

石井さんはコーラを花瓶の横に置いて話に加わる。

「あー…まぁそんなところかな。ゆりかが行きたい行きたいって言うから。」

佐々木さんがニヤニヤしながら進藤さんに視線を向ける。

「かーえーでー。」

「はいはい、ごめんごめん。」

進藤さんは佐々木さんをオレから引き剥がして口にツンツンと人差し指を押し付ける。

「…て言うかこうしてちゃんと話すのって初めてだね。」

石井さんは少し緊張した感じで三人を見渡す。

「言われてみればねー。」

佐々木さんも少し照れくさそうに笑いかける。

「その…なんで石井さんは加藤くんのお見舞いに?」

進藤さんが少し挙動不審になりながら石井さんに尋ねる。

「うーん、多分…だけど、進藤さんと同じ理由だからかなー。」

石井さんは少し考えてから進藤さんを見ながら答える。

「…私と同じ理由?」

「進藤さんが雰囲気を変えたきっかけを作ったのってって多分…。」

石井さんは微笑みながら進藤さんを見る。

「え…もしかして石井さんも?」

石井さんは静かに頷く。

「え、なになになに?めっちゃ気になるんですけど!」
「私も!」

佐々木さんと黒澤さんが石井さんと進藤さんに言い寄る。

「いや、こればっかりは私の口からは言えないかな…ね、進藤さん。」

「そうだね。」

二人はお互いにクスリと笑い合う。

「ほらほら加藤さん、そんなとこ立ってないでベッドで安静に寝ててくださいよー。」

高槻さんがオレの腕を引っ張りながらベッドへと誘導していく。

「あー、ありがとうございます。」

なんだかんだ立ってるだけでも背中に集中しすぎて疲れるんだよな。
オレはベッドに腰掛けて一息つく。

「御白、このコーラどうする?」

オレは石井さんの買ってきたコーラに夢中の御白に声を掛ける。

『いやー美味なのじゃー!』

全くオレの言葉など届いていないようだ。

「愛ちゃん、マリア、これいる?」

オレはコーラを二人に差し出す。

「飲むー!」
「ゆづきのおかげでマリアたちコーラゲット。」

二人は仲良く回し飲みを始めた。

「それにしても賑やかですねー。」

高槻さんがオレの隣に腰掛ける。

「もう本当に。」

オレは苦笑いしながら周囲を見渡す。
オレのお見舞いにこんなに人が来てくれている…ちょっと前のオレからは想像もできない光景で、そう考えると少し泣けてくる。

「…あ、そういえば高槻さん。」

オレは思い出したかのように高槻さんを見る。

「なんですか?」

「今日も高槻さん、ウチで愛ちゃんたちと過ごしてくれる感じですか?」

「はい。あ、でもご迷惑でしたら家事だけやって帰りますけど…。」

「いえいえいえいえとんでもないです!」

オレは大きく首を横に振る。

「ちなみに高槻さんは昨日はどこで寝たんですか?」

もしこれでまたソファーとかならかなり申し訳ない。

「舞せんせー昨日は私のベッドでマリアちゃん入れた三人で寝たよ。」

後ろから愛ちゃんが代わりに答える。

「先生はまるで全身が枕。」

マリアが高槻さんに後ろから抱きつく。

「ん?枕?なんで。」

「寝るときにギュってしたら柔らかい。」

うんそれ以上は聞かないでおこう。

オレはマリアの言葉をスルーして高槻さんに視線を移す。

「もしよかったらなんですけど、オレの部屋使ってくれて大丈夫なんで。」

「加藤さんのお部屋を…ですか?」

あれ、やっぱ嫌かな。

「まぁ無理にとは言わないですけど…やっぱ男臭い部屋とかキツいですよねすみません。」

ゆーて布団も最近ちゃんと干したからそこまで臭いついてることはなさそうだけど。

「あーいえ、そうじゃなくて…。」

高槻さんは何か言いたそうにこちらを見る。

「高槻さん?どうかしましたか?」

「その…。」

高槻さんはオレの耳に手を添えながら顔を近づける。

「加藤さんも年頃の男の子ですしその…エッチなものを見つけちゃいそうでプライバシー的にどうなのかなーって。」

…………ちょ!!!

「そ、そんなもの置いてないんで、そこのところは心配しなくて大丈夫です!」

オレも高槻さんに小声で耳打ちする。
そんなの置いてたら愛ちゃんやマリアの教育に悪いからな。
愛ちゃんがウチに来てすぐにそういった類のものは全て秘密裏に処分したさ。

「そうですか…ではお言葉に甘えちゃいますね。」

高槻さんは頷きながらオレに笑顔を向ける。

「ねー加藤ー。ゆりかも石井も教えてくれないんだけどー。加藤何したのー?」

佐々木さんがオレの腰掛けるベッドの前でしゃがみこむ。
まだその話題で盛り上がってたのかよ…女子ってすげーな。

「べ、別に特別なことはしたつもりないけど。」

オレは目を逸らしながら答える。

「あらあら加藤さん大変ですねー。」

そうオレに言い残すと高槻さんは仕事の話なのかスマートフォンを耳に当てながら病室を出て行く。

「ねー加藤ー、聞いてるー?」

佐々木さんはしゃがんだ体勢のままオレの足を掴んで揺らし始める。

「聞いてるよ。本当に特別なことはして……。」


…………ハ!!!


出て行った高槻さんの後ろ姿から何気なく佐々木さんに視線を移したそのとき、偶然にも佐々木さんの胸元にピントが合う。

第三ボタンまで開けられた上着からは谷間とブラがオレに挨拶をしている…それも斜め上からの視点のためか、かなり見晴らしがいい。

「ねー加藤……ん?」

佐々木さんがオレの視線に気づく。

……あ、やっべ。

「ははーん。」

佐々木さんはニヤリとオレを見上げながら笑うと、股の間に落ちているスカートの裾を少したくし上げる。


……!!!薄緑!!


佐々木さんのパンツが少し顔を覗かせる。

「ねーえー、かーとーうー。」


こいつ完全にオレで遊んでやがる!!


目線を無理やり外そうとするも、結局は谷間やパンツにピントがただいましてしまう。

「おーしーえーてーよー。」

オレの脳内が佐々木さんのパンツと同じ薄緑色に染まっていく。


あああああああ、もう言って楽になるべきなのだろうか。

オレの口が少し開きかける。
ー…が。


トントン。


素晴らしいタイミングで病室の扉が数回ノックされる。

「あ、はーい!」

なんだろう、看護師さんかな…それか検査終わって暇になった花とヒカリとかか?
オレの返事が聞こえたのか、扉がゆっくりと開かれていく。

「こんにちはー…。」

顔を出したのは鎌田さん。


「「「「「え?」」」」」


石井さん進藤さん佐々木さん黒澤さん、そして鎌田さんが同時に声を出す。

「え?え?なんでみんないるの?」

鎌田さんは眼鏡のズレを直しながらみんなを見渡す。

「鎌田来るの珍しくない?塾じゃないなの?」

佐々木さんが鎌田さんに話しかける。

「うん。宿題だけ出して帰っちゃった。」

鎌田さんは苦笑いしながら答える。

「え、いいの?そんな帰ってまでオレのとこに来てもらっちゃって…。」

「うん。先生の話聞いたら心配になっちゃって来ちゃった。加藤元気そうだね。よかった。」

鎌田さんはオレが元気そうなのを確認すると病室を出ようと扉を開ける。

「え、もう帰るの?」

石井さんが鎌田さんに声をかける。

「うん。元気な姿見れたら安心したから。」

鎌田さんは微笑みながら頷くと、オレに小さく手を振りながら病室を出て行った。

「ー…加藤って結構モテてんの?」

黒澤さんがオレの隣にボスンと座って足を組みながら尋ねる。

「そんなわけないでしょ。オレみたいな暗いのを。」

オレは失笑しながら大きくあくびをする。

「あ、ごめんね加藤くん疲れちゃったよね。」

石井さんが自分の荷物を整理し始める。

「あー、まぁ少しは。どうして?」

「私もう帰るから、ゆっくり休んでね。」

「あ…ありがとう。」

石井さんはカバンを肩にかける。

「じゃあ私たちも帰ろっか。」

進藤さんもカバンを持ちながら佐々木さん黒澤さんを見る。

「だねー。」
「おっけー。」

二人も各々の荷物を持ち上げる。

「じゃあ加藤くん、お大事に。愛ちゃんマリアちゃん、またね。」

「お大事に。」
「じゃねー。」
「ばいばーい。」

四人は楽しそうに話しながら病室を出て行った。


「……フゥ。」

一気に静かになり安心したのか自然と大きなため息が出る。

「お兄ちゃんのお友達ってみんな綺麗だね!」

愛ちゃんが目を光らせながらオレに話しかける。

「でも男の友達がいないの可哀想。」

マリアが横で小声で付け足す。

「悲しくなるからやめい!」

オレはマリアにツッコミを入れた後、ゆっくりと横になる。

「お兄ちゃん、私たちも出て行った方がいい?ゆっくりできない?」

愛ちゃんが気を使いながらオレに尋ねる。

「そんなことないよ。愛ちゃんやマリアがいてくれるだけで心が落ち着く。」

オレは愛ちゃんの頭を撫でながら答える。

「良樹、その言葉は捉え方によってはロリコン。」

マリアは笑いながらオレのもう片方の手を握る。

「あー早く家に戻りたいなー。」

オレは二人の顔を見ながら心の声を口に出す。

「あーでもここでやることもあるんだった…。」

オレは視線をコーラに夢中の御白に移す。

「あ、花ちゃんとヒカリちゃん?」

「そう、オレも花ちゃんには元気になってもらいたいし勇気づけたいんだよなー。」

「良樹なら大丈夫。」

マリアが少し強めにオレの手を握る。

「そうか。」

「そう。」

こういうマリアの断言には本当に救われる。


トントントン。


ノックの後扉が開く。

「愛ちゃんマリアちゃん、そろそろ帰ろっか。」

高槻さんが二人に手招きをする。

「あ、もうそんな時間ですか。」

オレはスマートフォンの電源をつけて時間を確認する。

「加藤さんのお家でやることも結構ありますからね。」

「…すみません。」

「いえいえ。冗談です。」

名残惜しそうにしながらも愛ちゃんとマリアが病室を出て行く。

「あれ、御白、お前は一緒に帰らないのか?」

オレは未だコーラに張り付いている御白の声を掛ける。

『あー、もう妾が見とらんでも大抵のことには対処できるからの。』

「どういうこと?」

『ほれ、愛が覚醒したじゃろ。あの時の白鬼と黒鬼を呼び出せば、上位の悪霊も…はたまた本来ならば脅威になるであろう上位悪魔も一瞬で塵よ。』

「確かにすごかったけど…そこまで強いんだ。」

『念のために妾の眷属は潜ませておるがの。』

御白は笑いながらコーラを味わう。

『それに…天照と話したいことも山ほどあるしの。』

「なるほど。」

『じゃから妾は一旦ここに残るぞ。メリッサにはここに戻ってき次第愛たちの護衛にでも行ってもらおうかの。いても真剣な話の邪魔になるだけじゃからな。』

「賛成だ。」

『うむ。』

その日の夜、御白は天照…ヒカリと話すために病室を出て行き、なんだかんだ疲れていたオレは途中起きることなくぐっすりと熟睡して体を休めた。

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