巫女とシスター2人の天使

よすぃ

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悪魔が多かった理由

80 製作者の正体

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 八十話 製作者の正体


 中は静かで人の気配はない。
通路は一本道で、途中に二つの扉があった。

オレは慎重に一番手前にある扉を開ける。
…ここはトイレか。
中の汚れようとは裏腹に、便座には埃が被っていない。
やはり誰かが使っていることに間違いはないようだ。

オレは奥にあるもう一つの扉をゆっくり開ける。

「……!」

元はここが事務所だったのだろう。
だが今は床の至る所にあの悪魔の卵がばら撒かれており、制作途中であろうコイブレが机の上に山積みになって置かれていた。

『ヨッシー!大丈夫ー!?』

メリッサが駆け足でオレのもとに駆け寄ってくる。

「メリッサ。あっちは大丈夫なのか?」

『うん。みーちゃんがヨッシーのところ行っておいでって。…それにしてもここすごいねー!』

メリッサは部屋全体を見回す。

『この部屋だけで何百以上の悪魔の卵があるよー!』

「でもこれって退治できるのか?まだ卵から出てきてないけど…。」

『当然だよー。』

メリッサは大鎌の刃の孤になっている丸い部分で床に散らばる悪魔の卵をほうきの要領で寄せ集めていく。

『ヨッシーも集めるの手伝って。あ、でも絶対に肌に触れちゃダメだよ。』

あぁー寄生されるからね。
オレは近くに置いてあったコピー用紙を使いながら一箇所に集めていく。

「…これ途方もない作業だな。」

『仕方ないよー、これもこの卵を床にばら撒いた人が悪いかなー。』

「…確かに。」

このコイブレ作ってる人はどれだけ管理にずさんな奴なのかが見て取れる。
この掃除をしない感じから見てもそうだが、ここを出る時にも施錠をしないあたりも危機管理が感じられない。
…まぁそのおかげでスムーズに侵入できたわけだけれども。

『うーん、とりあえず今集めたやつだけでも処分しとこうか。』

メリッサは一箇所に集められた悪魔の卵を上から踏みつける。

「えぇ!?踏むの!?」

てっきり斬り刻むものかと思っていたが…。

『うん。だって寄生しない限りは力持たないもん。それに私、人じゃないから寄生されないしねー。』

「…じゃあなんでお前その大鎌で集めてたんだよ。触っても平気なんだろ?」

『だって悪魔の卵だよ?気持ち悪いじゃーん!』

それだけの理由かよ!
まぁでも確かにオレもは爬虫類の卵を触れと言われても気持ち悪すぎてそんなこと出来ない…それと一緒な感覚か。
床に散りばめられた悪魔の卵の大体はメリッサの足によって粉々に砕け散った。

「この未使用のコイブレはどうする?」

『んー、ゴミ袋に詰めて捨てちゃえばいいよ。燃やすんでしょ?』

「まぁー…そうかもしれないけど。」

『じゃあ大丈夫だよ。捨てよ捨てよ。』

オレはゴミ箱を見つけ、その中に未使用のコイブレを落とす。

「お兄ちゃん終わったよー!」

愛ちゃんの元気な声が聞こえてくる。

「よし、じゃあ一旦戻るか。」

『だねー!』

オレたちは愛ちゃんたちのいるショーケースのある部屋に戻り、ほとんどの悪魔の卵を破壊したことを報告する。

『よし、では愛とマリアはここで帰るのじゃ。』

メリッサは二人を見る。

「え、私たちだけ?」

『そうじゃ、時期にここの主人が戻ってくるであろう。そうなった時子供を盾に取られてはどうしようもない。』

「…わかった。」

愛ちゃんとマリアは御白の護衛の元、商店街を出て家に帰る。
オレは再びメリッサと二人きりになった。

「とりあえず隠れとく?」

ここの主人がかなりマッチョだったり危ないやつだったらオレの身も危ない。

『そうだねー。』

オレは隠れる場所を探す。

「あ、そういえば…。」

オレは積まれた段ボールに目がいく。

「結局あれには何が入ってたんだ?」

『あー、これね、さっきチラッと覗いたんだけど、悪魔の卵をつける前のブレスレットだったよ。』

「なるほど。」

オレは一箱だけ手に取り、奥の通路にばらまき、扉を開けっぱなしにする。

『ヨッシー、何してるの?』

メリッサが不思議そうにオレの行為を見つめる。

「ここの主人が戻ってきたとする。それで廊下にブレスレットがばら撒かれててみろ。侵入者の存在に気づくだろ?」

『うん。』

「そしたら主人の心配はコイブレにつける悪魔の卵だ。真っ先に確認しにいくと思わないか?」

『そうだね。』

「そこでメリッサが後ろから忍び寄っていつもの術で主人の動きを止めれるって作戦だ。」

オレは人差し指を立てながら説明する。

『ヨッシー!すごーーーい!!!』

メリッサは目を輝かせながら拍手を送る。
うむ、確かに我ながらいい作戦を思いついたと思うよ。
オレとメリッサはショーケース裏に身をひそめながら主人の帰還を待った。



「な、ええええええええ!?僕の悪魔があああああ!!」

大きな声が店先から聞こえる。

「メリッサ、聞こえたか?」

『うん!』

オたちは息を潜めて様子を伺う。

ここの主人であろう男が血相をかいた様子で扉を開ける。
痩せ型にメガネ…髪は無く光っていて年齢的には中年手前ってところか。
ただ服装はなかなかに高価なものを身につけている。

「え、ええええええ!!ダンボールが動いて…って誰か中に入ってるじゃん!!!!」

男はオレの作戦通り通路にばら撒かれたブレスレットに目が行き、通路に一直線に向かう。

「だ、誰かいるのかーーーー!」

男は奥の部屋に叫びながらゆっくりと奥へと足を進める。

「よし、メリッサ、やるぞ。」

メリッサは頷き、静かに男の後ろを追っていった。

「な…お前は誰っ……アヒィイイイ!!」

男の情けない声が響き渡る。

『ヨッシー!いいよー!』

メリッサの声が聞こえ、現場に向かう。

「クッソ…お前ら誰なんだよ……!」

男はオレたちを睨みつける。
ただそれにしてはなんとも威圧感のない睨みだが…。
床の上で横に倒れ込み、前かがみで股間を押さえている。

『もうブサイクくんうるさい!』

メリッサが大鎌をを突きつけて男の手を上げさせ、股間をかかとで踏みつける。

「ギャヒイイイイイ!!」

男はなんともだらしない声を上げる。

「あれ、いつもの羞恥的な術使わないのな。」

『流石に私、こんな人のあそこは触りたくないかなー。』

メリッサは気持ち悪いものを見る目を男に向ける。
まあなんだかんだで今の一撃で男は抵抗する気も失せたようだが。

「な…何が目的なんだよ…!」

男は涙目でオレたちを見上げる。

「メリッサ、蹴る準備だけよろしく。」

『はーい!』

オレは男の腕を掴みながら目の前に座り込む。

「このコイブレを作った人だね?」

「…な、なんでお前なんかにそんな…!」


ドスっ!


メリッサのかかとが男の股間に直撃する。

「ぎゃああああああ!!わ、わかった!言う!言うから!!」

「…で、製作者本人?」

「そ…そうだよ!!」

男は小さく頷きながら答える。

「このコイブレになんで悪魔を入れたの。」

「…そ、それは……。」


ドスっ!


「それはママがやれっていったから!!!」

男は苦痛に満ちた表情で叫ぶ。

「ママ?」

「ママは教会を運営してたんだけど、ちょっと前に警察に捕まったんだ!それに運営してた教会もボロボロになっちゃってて…。」

…ん?

そのことに少し心当たりがあるんだが…。

「それで?」

「新しくお金を貢ぐ信者を増やすために悪魔を取り憑かせて不幸にさせていくんだよ!」

……あー、はいはい。
こいつ、マリアに酷いことしてたババァの息子か。

話を要約すると、保釈金やら教会の修繕費やらで多額の金を使ったから、悪魔入りのブレスレットを売りさばいて金を増やし、かつ教会に足を運ぶ被害者からさらにお金を巻き上げようって魂胆か。

「クズだな。」
『クズだねー。』

オレたちは冷たい視線を男に向ける。

「どうとでも言えばいいよ!僕はママがいる限り、何度でもコイブレを作ることができるんだから!」

男は部屋の隅に転がっている悪魔の卵に目を向ける。
なるほど、この悪魔の卵はあのババァが作ってたのか。

「…それにお前、これ以上僕に触れてると大変なことになるよ。もう遅いけど…。」

男がニヤつきながらオレを見上げる。

「どう言う意味だ?」

「こんなこともあろうかと、ママは僕に悪霊をたくさん入れたんだ。バレた相手を口封じするためにね。」

男の体から黒い影のような手が何本もオレの方へ伸びてくる。

「これからこの悪霊はお前を祟り、そして呪い殺す!!残念だったなー!」

男は勝利を確信したのであろう…目を大きく開き、気味の悪い笑みを浮かべながらオレに迫り来る黒影を目で追う。

「なるほど。」

オレは飛んでいる虫を払うように黒影を手で仰ぐ。

『ギェエエエエエエエ!!!!』

声帯の潰れるような奇声を上げながら黒影が消えていく。

「…!?な、なんで……!」

男は信じられないものを見るような目でオレを見る。

「あいにく、悪霊クラスまでならオレの得意分野でね。」

死霊なら危なかったが悪霊なら強制除霊で一発だ。

「そ…そんな……!」

余程ショックだったのか、男からは諦めの表情が浮かび上がる。

「……で、この人どうする?」

オレはメリッサに尋ねる。

『んーー、そうだねぇ。このまま帰してもまた悪魔入りブレスレット作るんだろうしー。』

メリッサは指を唇に当てながら考える。
警察に突き出そうにも悪魔に襲われたとかいっても意味ないしな…どうしたものか。

…………あ。

オレの脳内にかなりゲスい考えが浮かび上がる。

「なぁメリッサ。」

『なにー?』

メリッサの胸に手を押し付け、勢いよく霊力を流し込む。

『え!?いきなりな、んで!?…あっ…!あぁ、…あああぁーーん!』

メリッサは体を反り、少し痙攣しながら力なく座り込む。

『はぁ…はぁ…ちょっと、いきなり…すぎてぇー…。』

メリッサは唇から垂れた唾液を腕で拭おうとする。

「ちょっと待った!」

『……え?』

オレは、指でメリッサの唾液をなぞるようにすくい取り、それを男の口の中に入れた。


『ええええええええええええ!???』


メリッサの顔が青ざめる。
男は何が何だかわかっていないらしく頭にハテナマークを浮かべていた。

「……‥!」

しかしものの数秒で男に変化が現れる。
体が大きくビクンと痙攣したかと思うとおもむろに起き上がり、メリッサを見据える。

『………へ?』

男は勢いよく服を脱ぎ出し全裸になり、堂々とした姿勢でメリッサに近寄っていく。
目は赤く充血していて、鼻息もかなり荒い。

「メリッサさんと言いましたか!僕はもう我慢できません!僕の初めて…あなたに捧げます!!!!」

男はメリッサに抱きつこうと試みるも、メリッサはそれを紙一重で回避する。

『ちょっとヨッシー!なんて事してくれたの!!』

「ほら、人のいるところに逃げないと捕まっちゃうぞー。」

『ま…まさかヨッシー、そのために私の唾液を…。』

その通り、キスの時につくくらいの唾液で十分に興奮するならそれ以上の唾液を摂取させればもっと興奮するはずだからな。
そんな説明をする時間もなく男が再びメリッサに向き直る。

「メリッサさん!!!!」

『いいーーーやああああああ!!!!』

飛べないメリッサは宝石店から飛び出して猛スピードで逃げていく。

「メリッサさーーーーん!!!!」

男も獲物を狙った目でメリッサめがけて全裸のまま飛び出す。
オレはすぐさま警察に商店街付近で全裸の男が走り回っていると電話で伝え、宝石店を出た。


メリッサを探していると、全裸の男が警官数名に囲まれながら連行されているのを見つける。
さすが警察…対応が素早い。
こういう人たちのおかげで治安が守られているんだなーと実感が湧く。

『もーヨッシー、ひどいよー!』

メリッサが近くの建物の隙間から顔を覗かせる。

「あ、ここにいたのかメリッサ。」

『あ、ここにいたのか…じゃないよー!』

メリッサは大きくため息をつきながらオレの元に近寄ってくる。

「ごめんごめん…でもこれであいつ捕まったし、悪さできないだろ?」

『そうだけどぉー。なんか納得いかないかなー。』

メリッサは頬を大きく膨らます。

「まぁまぁ、今後増え続ける悪魔をばらまかれる前に止めれたってことで良しとしようよ。」

『なに勝手に締めくくってんのー!』

オレはメリッサの口にする文句を背後に受けながら愛ちゃんやマリア、御白の待つ自宅へと帰宅した。



その後男が公然猥褻の罪で捕まったことは地元のニュースで取り上げられ、霊能者のおばあさんの孫娘さんは御白とメリッサの手によって無事、悪魔からの引き離しに成功した。


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