巫女とシスター2人の天使

よすぃ

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多くの疑問

102 大ピンチ、ヒカリちゃん

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 百二話 大ピンチ、ヒカリちゃん


 「お兄ちゃーん、起きてー。」


愛ちゃんの可愛らしい声で目を覚ます。

「あー、愛ちゃん、おはよう。」

「おばちゃんが朝ごはんだって。」

「あー…うん。」

作らなくていい幸せ。
オレは体を起こしストレッチする。
…そう言えば昨日ヒカリ帰ってこなかったな。

「ねぇ愛ちゃん、ヒカリ見てないよな。」

「うん。まだお散歩してるのかな。」

愛ちゃんが窓の外を眺める。
確かこの辺の神社の神に挨拶に行くって言ってたっけ。
いくらヒカリが霊とは言え少し心配だ。

「愛ちゃん、今日やることって決まってる?」

「うん!今日は舞せんせーと外で理科の宿題するの!」

愛ちゃんはリュックからプリントを取り出す。

「理科の宿題?…外で?」

オレはプリントに目を通す。

「なになに…いろんな場所に生えている植物を記録しよう?」

あーなんか夏休みの宿題っぽい!

「うん。舞せんせーがいろんなところ連れてってくれるんだって。」

愛ちゃんはワクワクしながらノートにプリントを挟む。

「お兄ちゃんもくる?」

愛ちゃんのキラキラな眼差しが向けられる。

「いや、オレはいいや。ちょっとオレも行きたいところあるし。」

「そうなんだ。」

愛ちゃんは高槻さんに任せていれば安心だ。
オレは神社にでも行ってヒカリを探しに行くとしよう。
オレたちは朝食を食べ、各自行動に移る。

「では良樹君、私たちは行きますね。」

「行ってきまーす!お兄ちゃん!」

高槻さんと愛ちゃんは昨日散歩でも行った川沿いに向かう。

「オレも夕方くらいには帰りますので。」

オレは朝食の時に聞いた山の方にある地元では割と有名な神社へと向かった。


三十分くらい歩いただろうか…坂を登るに連れて民家が少なくなり、道が狭くなっていく。
内側は落石防止ネットが張られていて、外側は人が落ちないように高めのガードレールが設置されている。

やがてその神社のものであろう旗が風でなびいているのが確認できた。

「…鳴刀神社?」

読み方がわからないのでスマートフォンで読み方を検索する。
…なるほど、読み方は(なるかた)らしい。

旗のところまで行くとそこから緩やかな階段がありお年寄りへの配慮だろう…段差は比較的低めで左右両方に手すりが備え付けられている。
そこを登りきると広い場所に出て、奥に本殿が見えた。

周囲は御白神社同様、木々に囲まれている。

なんだっけか…以前御白が雑談の時に言っていたのだが植物は霊的なものに敏感で、自然の多い神社は力がある…だったか?

逆に言うと周囲の木々が枯れ果てている神社は、例外もあるかもしれないがそこにもう神はおらず、別の何かが神のフリをしていることがあるらしく、基本近寄らないほうがいいとのこと。
となるとここはちゃんとした神社らしい。

オレは周囲を見渡してヒカリを探しながら本殿へと近づく。

「おーい、ヒカリー。」

タイミングいいことに今ここにはオレしかいないらしく、オレは声を出してヒカリを呼ぶ。

しかし反応がない。

「…ここにはいないのか。」

となれば別の神社か。
オレはスマートフォンで検索を入れる。

「………げ。」

さすが田舎…小さな神社含めたらまぁまぁな量の神社が候補に上がる。
おいおい今日一日でこんな場所回るのかよ。
オレはため息をつきながら覚悟を決める。

とは言え、せっかくここまできたんだ…ここの神社にもお参りして行こう。
そう思い本殿の前に立ちお賽銭を入れて手を合わした。


「…………ん?」


賽銭箱の奥にある扉…そこから微かに声が聞こえる。

「…なんて言ってるんだ?」

かなり弱々しい声でうまく聞き取れない。
オレは周囲を再び見渡してからその扉の前に立ち取っ手に手をかける。
…少しくらいならいいだろ、何かあったら正直に話せばいい。

オレは静かに扉を開いた。


「……え、ヒカリ!?」


扉を開けてすぐのところにボロボロの状態のヒカリ。
手足は白い蛇に巻きつかれて拘束されている。

『…お、お兄さん…。』

ヒカリの瞳に光がない…もしかしてこいつらに力を吸い取られているのか?

「待ってろヒカリ!」

オレは白蛇に強制除霊を施して消滅させ、ヒカリに霊力を注いだ。
しばらくしてヒカリの瞳に光が宿る。

『…ありがとう、助かったよお兄さん。』

ヒカリは胸に手を当てながらぺたんと座りこむ。

「何があったんだ?」

『話すと長くなるんだけどさ、いい?』

「おけ、とりあえずここから離れよう。」

『わかった。』

オレはヒカリを連れて本殿から距離をとる。
こんな意味のわからない神社から早く離れたい…その一心で階段に向かうその時だった。

『待て罪人。』

神社の土地全体から声が響き渡り、それと同時に風が唸り木々がざわつき始める。

「なんだ?」

振り返るとそこには御白と似たような白い着物の女。
御白やヒカリなんかよりははるかに大人っぽい。
言うなればそう…オレと同い年くらいだろうか。

紫色の長髪がサラサラとなびき、腰には刀だろうか…白の鞘。
ただ分かるのはこいつは人間ではないということ。

『少年、その低級霊を置いていけ。』

着物の霊は静かにヒカリを指差す。

『お、お兄さん…。』

ヒカリがオレの背後に隠れる。

「ヒカリに何か用か?」

オレは強気で着物の霊に尋ねる。

『ヒカリ…君の知り合いか?』

「まぁ。」

『ここはそれらのような低俗な霊の来る場所ではない。今後近寄らないように注意しておけ。次来ようものなら存在を断ち切らせてもらう。』

着物の霊はくるりと背中を向けて本殿へと戻っていく。

「…あれ、助かったのか?」

なんだかんだで厄介なことに巻き込まれるかと思っていたので拍子抜けだ。

『お兄さん、早くここから離れようよー。』

ヒカリが階段を指差す。

「あ…あぁ、そうだな。」

『もうここ私トラウマものだよ…。』

オレはビビるヒカリとともに階段を下り元来た道を戻る。

「そう言えばさ、なんでヒカリ捕らえられてたんだ?」

我慢できなくなりこちらから話を振る。

『別に悪いことはしてないんだよ!?挨拶したらあんな感じで捕まっちゃったの。』

ヒカリは手首を撫でながら答える。

なんでもあの白蛇に巻きつかれた感覚は想像以上に気持ち悪いらしい。

「挨拶だけで?」

『そうそう、こんにちはーて言ったらあれだもん。』

「それは辛いな。」

『でしょー。』

オレもここにいる間はあの神社には近づかないようにしよう。
その後オレはヒカリの希望もあり、他の比較的小さな神社や社を巡ることになった。

ここがのどかな場所だからだろうか…他の神社には鳴刀神社の着物の霊のような者はおらず、比較的に誰でもウェルカムな考えの神様ばかりだった。

オレはそれを疑問に思い、本日最後に訪れた神社…豊雨(ほうう)神社の神にそれをぶつける。

豊雨神社は農業と雨を司っているらしく、そこの神は見た目は少しぽっちゃりでよく分からないお面を被りつつも結構豪華で伝統的な衣装を身にまとっている。
そこの神…雨天(あまのてん)はオレの質問に快く受け入れてくれた。

『それはあれですな、鳴刀神社はこの地域全般を守護している神様だからですな。』

「…?どういうことでしょう。」

『他の私らのような小さな神社は基本的に豊作祈願や雨乞い、衣食住といった人の生活を支えるために祀られているんですな。』

「…はい。」

『だからそこのヒカリさんみたいな低級霊が寄ってきても別になんとも思いませぬ。暇ならお話ししたいくらいですな。』

「なるほど。」

『ですが鳴刀の神社は違います。あそこはこの地域を邪から守るため祀られてるんですな…だからあそこは浮遊霊や低級・悪い霊といった素性の知らない霊が立ち入ることは許されないんですな。』

雨天は優しい瞳でヒカリを見る。

「なるほど…だからヒカリは捕まったのか。」

『納得。でもなんか悲しいな…私も神様だったのに…。』

俯きながらヒカリが小さく呟く。

「まぁ気にすんなよ。」

オレも小声でヒカリにフォローを入れた。

『………今、なんと?』

雨天が目を大きく開きながらオレたちに顔を近づける。


………やっべ。


オレとヒカリは顔を見合す。
正体がバレたら神界に通報されかねない…オレたちは雨天から視線を外す。

『今、君は自分を神だったと申されましたかな。』

完全に聞かれてしまっている。

『どうしようお兄さん…。』

ヒカリが助けを乞う視線をオレに向ける。
…ここは全力で頼むしかないよな。

「頼む雨天さん!今のは聞かなかったことにしてくれ!!」

オレは両手を合わせながら深く頭を下げる。

『お願い雨天…!まだ私存在消されたくないの!!』

ヒカリもオレの隣で頭を下げた。

『ふーむ…なんか訳ありのようですな…しかし……。』

雨天は先ほどとは全く別の…真剣な眼差しでヒカリを見据えた。


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