123 / 178
多くの疑問
107 池に潜む影
しおりを挟む百七話 池に潜む影
池の敷地内に足を踏み入れると水面から影たちが一斉に顔を出す。
オレの行動を見ているのだろうか。
でもあれだな、ここで事故で亡くなって…かつそこで悪霊にされるって運が悪いじゃ済まされないくらいに可哀想だ。
オレは一歩、また一歩と池に近づいていく。
『オ…オオオオオオオ…!!!』
陸の近くにいた影たちが水中から這い上がり、雄叫びをあげながらヨロヨロと向かってくる。
焦点は定まっているようには見えない…ただただ生命力を感知して近づいてきているという感じだ。
「早く生まれ変われよ。」
オレは小さく声をかけ、手前のやつから順に強制除霊を施していく。
強制除霊によって塵になった霊たちは風に舞いながら天へと上っていった。
………あれ?
オレは強制除霊させていきながらあることに気づく。
…霊の数、多くね?
事故で犠牲になった人って結構いたようだけど、こんな数十体もいるわけないよな。
昨日だってオレが到着するまでに愛ちゃんの召喚した鬼たちが倒しているはず…何故。
消しても消しても池から湧いて出る影がさすがに鬱陶しくなったオレは霊力を最大限込めた強制除霊の一撃を周囲にぶつける。
この効力により水から出ていた影は全て塵となるも、やはりまた水中から這い出てくる。
「…一旦引いて様子を観察するか。」
オレは距離をとって池が確認できるくらいの場所に設置されていたベンチに座り、あれがどういうカラクリなのかを考えることにした。
オレが池を離れたと同時に影たちは再び水中へと戻っていく。
度々付近を通行人が通るとこれまた一斉に顔を出して通行者の動きに視線を集中させているようだ。
「……全く分からん。」
オレは頭を抱える。
あいつらが何をしたいのか、なぜあそこにとどまっているのか。
悪霊って基本的には邪を振りまくだけの存在だ…なのにあいつらはまるで理性があるかのようにそこから離れていったりしない。
約一時間ほど観察しているが、そこからどこかへ飛んでいく影は一体もいない。
…オレの力不足ってことか、諦めよう。
オレは小さくため息をついてベンチから立ち上がる。
すると遠くから声。
『…い、おーーーーい…!』
「ん?」
声のする方を振り向くと、地元高校の方から先ほど情報をくれた浮遊霊が何体かの霊を引き連れてオレのところに向かってきていた。
『よかったー、まだいて助かったよ。』
浮遊霊はかいてもいない汗を拭うそぶりをしながらオレの前で立ち止まる。
「どうしたんだ?」
『どうしたんだじゃないよ。君があそこの悪霊たちをどうにかしてくれるって思ったけん、あそこに詳しい仲間を連れてきたんだ。』
浮遊霊の後ろには赤い服を着たやつと黄色いワンピースを着たやつ。
…面倒だから色で分けるとしよう。
赤と黄色の浮遊霊はオレに自己紹介をしてきた。
赤浮遊霊は元修行僧。
生前に過酷な修行をやりすぎたせいで過労で死亡し、肉体なき今霊体の限界に挑戦して香川県内を走り回っているらしい。
そして黄色浮遊霊は女装家。
生きてるうちに出来なかった女装をして町中を練り歩いているとのこと。
「…………。」
オレは冷たい視線を二体を連れてきた浮遊霊に向ける。
『な…なんだよ。』
「こいつら、役に立つの?」
オレは赤と黄色の浮遊霊を指差す。
やりすぎ修行僧と女装家だろ…この二体があの池とどう関わりがあるっていうんだ。
『愚僧はあの者たちを邪悪に染めた犯人を知っておる。』
赤浮遊霊が静寂の池に視線を向ける。
「…え、そうなのか?」
『犯人の名はアバドンと名乗っておった。おそらくあれは上位の悪魔だ。』
赤浮遊霊は細かく身を震わせる。
「…アバドン、だと……。」
今後一切聞きたくなかったぞその名前。
御白やメリッサですらも歯が立たなかった上位悪魔…アバドン。
「…なぁ、本当にそいつはそう名乗ったのか?」
聞き間違いであったと信じて再確認する。
『あぁ…愚僧はこの耳で確かに聞いた。奴はこう言っておった…。』
赤浮遊霊は一呼吸置いて目をつぶりゆっくり口を開く。
『私はアバドン。近々この人間界・霊界を手中に治めし者。』
「………。」
オレは頭を抱えしゃがみこむ。
スビア協会の時も今の邪神の王ハデスのやり方が気に食わないとか言ってたし本人で間違いなさそうだ。
もしかしてあいつそのために各地を飛び回っているのだろうか。
…………ん?
なんか引っかかる。
「待ってくれ、アバドンは悪魔だよな。なんで悪魔じゃない霊たちを悪霊化させる必要があったんだろう。」
『そりゃああれじゃない?私たち霊って悪魔の食料になるんでしょ?』
黄色浮遊霊が舌なめずりをしながら顔を近づけてくる。
こいつの喋り方聞いてると最近見てないが、交流会の時に特にお世話になった美大のエリート候補生・パインを思い出す…あいつ今はどこで何してるんだろうな。
「…で、なんでお前その悪魔の食料になること知ってんの?」
オレは悪魔と絡むまでそういう情報は全く知らなかったぞ。
『夜中に出歩いてるとたまに見かけるのよ。』
黄色浮遊霊はくねくね体をよじりながらウインクをする。
「夜中?」
『そう。私たち霊ってね、少なからずマイナスな気に引き寄せられることって多いの。特に日の上っていない夜にね。』
「うん。」
『で、その日私もお恥ずかしながらそのマイナスな気に惹かれてたまたまあの池に近づこうとしていたわけよ。』
……こいつ話し方下手なやつだ。
だけど大体わかった。
「要するにこういうわけだろ?」
オレは黄色浮遊霊の話を遮り以下の考えで合っているかを尋ねた。
・悪霊化することでマイナスなエネルギー上昇。
・マイナスエネルギーが上がるにつれて近くの低級霊・浮遊霊が惹きつけられる。
・そこが居心地良すぎて滞在している間にマイナスエネルギーに当てられすぎて急速な悪霊化。
『なにこの子すごーい…!』
黄色浮遊霊はオレに拍手を送る。
『でね、私もそこに行こうとした時に池で悪魔が満足顔で悪霊たちを食べてる所を目撃しちゃったのよ。』
「なるほど。」
霊や悪霊を取り込んで強化できる悪魔にとってここは餌場みたいなものだ。
そうして悪魔たちを強化させることがアバドンの狙いか…てかどれだけ前からそんな計画立ててんだよ、用意周到かこのやろう。
まぁ上位悪魔なら悪霊化させる程度のこと簡単だろうけどな。
…しかし悪霊食べてんのか。
一体や二体ならどうにかなるかもだがたくさん食べてたらオレの強制除霊じゃどうしようもできない。
もうマリアの時のような瀕死になるまで呪詛返しに耐えるのは勘弁だ。
「うん、わかったありがとう。」
オレは浮遊霊たちにお礼を言いそこから立ち去ろうとする。
『なぁ、どうにかなりそうか?』
浮遊霊が期待を込めた眼差しをこちらに向ける。
「…まぁあの池はな。」
オレは再び池の前に立つ。
悪魔のことはオレにはどうしようもできない…そこはこの土地の神々に対処してもらうとしよう。
自分にできることは…。
オレの存在に気づいた影…悪霊たちが続々とオレの方に向かってくる。
まぁまぁの長い期間ここに霊が溜まって悪霊化したかは知らないが、死霊じゃない限りオレの敵ではない。
オレは両手を前に出し構えて悪霊たちを見据える。
「…さて、お前らがこの池からいなくなるのが先か。はたまたオレの霊力が尽きるのが先か。やってみようか。」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる