巫女とシスター2人の天使

よすぃ

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伝える想い

122 狐と蛇

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 百二十二話 狐と蛇


 「ただいまー。」

誰もいないであろう玄関の扉を開け中に入る。

「どうしましょ、夜はもう出前でいいですよね。」

振り返って高槻さんに確認をとる。

「そうですね、私もですけど良樹くんももう作る元気残ってないですし。」

「お兄ちゃん!私ピザがいいなー。」

愛ちゃんがお腹を抱えて擦り寄ってくる。

「え、あぁ。うん、いいよ。」

オレはスマートフォンで宅配ページにアクセスする。

『どうしたのお兄さん。』

愛ちゃんの隣でヒカリが首をかしげる。

「あーいや、なんでもない。」

……愛ちゃんからおねだりしてくるとか、もしかして初めてじゃないか?
そのことがあまりにも嬉しくて…そしてあまりにも照れ臭くてオレは三人で食べきれない量を注文した。

「じゃあ後はお風呂とか入れて待ってましょうか。」

リビングに入りソファーに腰掛ける。
あぁこの懐かしき心地よさ。

高槻さんの家も居心地良かったけど、やっぱりマイハウスだよな…心の底からだらけることができる。
緊張感が解けてウトウトしていると、突然目の前に御白が姿を現した。

『お、帰ったか良樹!』

「おー御白。ただいま。よくオレたちが帰ってきたこと分かったな。』

ほぼほぼジャストなタイミングだ。

『まぁな。なんせこの家には妾の眷属がいるからのう!お主らが帰ってきたことを知らせてくれたのじゃ。』

御白は胸を張りながらドヤ顔をかます。

「それで御白、もう神社にいなくて大丈夫なのか?」

御白が神社に一定期間いたのも本来の力を蓄えるためだったもんな。
オレの問いに御白は大きく頷く。

『うむっ!ちょうど初日が祭りだったおかげで多くの参拝者が来ての!思ったよりも早く満タンになったわ!』

そう言われてみれば、心なしか御白の肌がピカピカになってるような…。

「ただいまみーちゃん!」

愛ちゃんが御白の元へ駆け寄る。

『おぉおかえり愛。どうじゃ、舞の実家に行っておったんじゃろ?楽しかったか?』

「うん!」

愛ちゃんは満面の笑みで答える。

『そうかそうか、それは良かったの。』

時々御白ってこういう慈愛に満ちた顔するよな…それを見るとやっぱり神様なんだなって感じる。

『ねぇ御白ー、私には何もないのー?』

ヒカリが御白に擦り寄る。

『なんじゃ天照。お主は今までいろんなところ行っておるではないか。何をそんなに甘えてきて……ん?』

御白は目を細めてヒカリに顔を近づける。

『ん?なに御白ー。』

ヒカリはキョトンとそんな御白の姿を見つめる。

『お主…そんな装飾具持っておったか?』

御白がヒカリの首に下げられた太くて白いネックレスのようなものをマジマジと見る。


確かに覚えてる限りヒカリは太陽の形をしたアクセサリー以外つけていなかったはずだ…てかあれずっとブローチだと思ってたら違ったんだな。
皆の視線がヒカリのそれに集中する。


するとそのネックレスがウニョウニョとうねりだした。

『ぎゃああーーーーーー!!』

御白が真っ先に後ろに飛ぶ。

『お…お主それはなんじゃ!!』

『これ?…あ、そっか御白にもだけどお兄さんたちにも言うの忘れてた。これは……。』

ヒカリが説明するよりも先にウネウネ動くネックレスはヒカリの首元から視線に外れてボトンと地面に落ちる。
金属じゃ再現できないこの光沢感にこのうねり具合…。

「ちょ…それネックレスじゃないぞ…これは……。」


「「蛇だーーーーーー!!!」」


オレたちは即座にそこから距離をとる。

『こら天照!!どうしてお主そんなものをつけておったのか!!』

御白が半分キレながら白蛇を指差す。

『だから今からそれを説明しようと思って……。』

ヒカリが御白に説明しようとしていると白蛇が光だし、徐々に人の形に変わっていく。
身長はオレより少し低いくらいで白い着物…腰には白刀。

「ちょ…お前は……!!」


『全く、騒がしいなこの家は。』


まさか、自分の神社に戻ってたとばかり思っていたが…。
そこに立っているのは紛れもない…香川県鳴刀神社の神、龍姫。

龍姫は軽くストレッチをしながら家の中を見渡す。

『うるさい子供だな。それ以上騒がしいままだと斬るぞ。』

龍姫が白刀に手を当てる。

『……なんじゃと?』

御白の額に怒りマークがいくつも浮かびあがる。

『今お主は妾を小童呼ばわりしたな?』

御白がズカズカと龍姫の元に近寄り喧嘩を売るような目で睨みつける。

『そうだな。実際にそういう見た目をしているし、何も問題ないだろう。』

龍姫も一歩も引かずに下から睨みつけてくる御白を見下していた。

「おいおい二人とも…。」
『そうだよ二人とも仲良くしてよー。』

オレとヒカリが仲裁に入る。


『無用!』
『いらぬ!』


見事なシンクロ具合でオレたちが二人に睨まれる。

『お、お兄さんー…。』

ヒカリが怯えた子犬のような瞳でオレを見上げる。

「ヒカリ、あれだ…もう好きなようにさせてやろう。」

どうせオレたちにできることなんてないさ。

『のう蛇、妾に無礼を働いたこと…今謝れば許さんこともないぞ?』

『何を言う狐。そちらこそ私に飛びかかってきて返り討ちにあっても知らんぞ?』

二人の間にバチバチと闘志の稲妻が流れる。

『やるか?』

『上等じゃ!!』

とてつもなく巨大な霊力の波動が二人を中心に発生する。
全身がピリピリ痛い…これが神々の力…。

『いくぞ!!』

龍姫が刀を抜き目にも止まらぬ速さで御白に切りつける。

『甘いのじゃ!!』

御白も負けずと素早く結界を張った。

刀は結界に当たるとカキンと音を立てて跳ね返される。

『なるほど…狐、なかなかやるな。』

『蛇、お主もな。』

『では今度は眷属勝負といくか!』
『望むところなのじゃ!!』

龍姫の袖から大量の白蛇。
御白も負けじと白狐を呼び出して結界を展開させた。


ピンポーン。


「あ!きた!」

愛ちゃんが玄関を振り返る。

「一緒に行きましょうか。」
「うん!」

愛ちゃんと高槻さんが玄関へ向かう。

『…なんじゃ良樹、誰か訪ねてきたようじゃが。』

御白も気になったのか玄関に視線を向ける。

「あぁ、ピザを頼んだんだよ。」

『ピザじゃと!!??』

御白の口からよだれが垂れる。

『良樹、それで…それで……!!』

「あぁ、ちゃんとコーラも頼んでるよ。」

『やったのじゃああーーーーー!』

御白が歓喜のあまりピョンピョン飛び回る。

『どうしたのだ狐、決闘はもういいのか。』

龍姫が呆気にとられたような顔で御白をみる。

『うむ!お主との喧嘩なんかどうでもいいわい!それよりシュワシュワじゃ!!』

御白の尻尾がユサユサと揺れている…相当嬉しいみたいだ。
やがてピザやジュースを持った高槻さんと愛ちゃんがリビングに戻ってくる。

『ほれ蛇、お主も飲むのじゃ!そうすればシュワシュワの良さが分かるはずじゃ!』

龍姫は御白に言われるがまま、テーブルに置かれたコーラに顔を近づける。


『…………!!!なんだこれは!!』


龍姫の瞳がキラキラ光る。

『ふふふ…それがシュワシュワじゃ。』

『こんなに甘いのにこの喉越し…こんな飲料があったなんて…!!』

龍姫はコーラに釘付けだ。

『ほう…蛇、分かっておるではないか!』

御白が満面の笑みを龍姫に向ける。

『狐こそ。よくこんな美味なものを知っていたものだ!』

二人は炭酸を喉で感じながら固い握手を交わす。

『…ねぇお兄さん、私何見させられてるんだろう。』

二人の様子を見ていたヒカリがオレを見上げる。

「…あー、まぁ良かったじゃないか仲良くなったようで。」

『そうなんだけどー…。』

「…それよりも……。」

オレはゆっくりと龍姫に近づく。

『ん?どうした少年。』

「ていうかお前なんですんなりこの家に馴染んでんだよ!お前の神社はいいのかよ!!」

またアバドンみたいなやつが襲撃してきたら雨天たちじゃ歯が立たないぞ!?
しかし龍姫はオレの心配なんか気にもとめずにフンと笑う。

『構わん。私の大白蛇が留守番をしている。』

「また悪魔きたらどうするんだ?」

『そんなもの大白蛇で事足りる。』

……大した余裕だな。

『…それに少年、君に着いて行った方が退屈しないと判断したんだ。向こうにいても誰も参拝に来ないしな。』

「…なるほど。まぁ別にお前も霊体だからオレ的には問題ないんだ。それにお前がいてくれることによってこの家がより安全になるんだしな。」

神様が二人もいる家にちょっかい出してくる頭の悪い霊は早々いないだろ。

『うん、そう言ってくてると助かる。』

龍姫はオレたちを見渡す。

『改めまして、遠く離れた…鳴刀神社で神をしている龍姫だ。よろしく頼む。』

龍姫は一人一人の前に立ちそれぞれ一礼する。

「なんだかまた賑やかになりそうですね。」

高槻さんがオレの耳元で囁く。

「まぁ…変なことに巻き込まれなければいいですけど。」


そんなこんなでオレの家に新たな住人…龍姫が加わり、より一層賑やかな晩御飯となった。

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