ここはヒロインのための世界です! 〜超ヒロイン推しのお助けキャラは、今日も周囲から溺愛されまくっている〜

雪葉

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学園編

大会当日

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 ───ボート大会当日。

「おお~」

 湖の辺りは祭りの雰囲気だった。
 男子生徒たちは皆オールを手に持ちながらワイワイと騒がしく話しており、出場しない女子生徒らも楽しげにそれらを見ている。

「みんなやる気満々だねぇ」
「そうですね、楽しみです!」

 うんうん。今日も私の推しはかわいいなぁ。

「ウィラ」
「ん?」

 後ろから名を呼ばれたので振り返った。
 そこに居たのは運動着に着替えたユーリだ。

「今日はぜひ僕の戦いを見ていてくださいね」
「はい。まぁ生徒会のお仕事もあるので、多分ゴール付近で観戦してると思いますよ」

 にこにこ微笑むユーリの周りでは、黄色い声を上げて彼を見る女子生徒達がいっぱい。
 故にここで話しかけられると「あの女何よ」みたいな反応されそうで大変気まずいのだが、ふんすふんすとやる気に溢れている若者の前では言えぬことである。

 するとそこで、ユーリが突然私の右手を取ったもんだから何かと思えば。


「──きゃぁぁあっ?!」

 何故か。その甲に。口づけを、落とした。
 あんぐりと口を開ける私。どこからか聞こえてくる黄色い悲鳴。

 ────いやいや何してんのぉおっ?!

「婚約者として、貴女に必ずや勝利を捧げます」

 キラリと光る王子スマイルに卒倒しそうになった。
 いや、ちょっと待って。もっかい言わして。

 勝利宣言はまだ良いとして、私の手にキスとかする必要あった?! マジで何してんですか?!

「きゃー! ユーリ様~っ!!」
「あなたの勇姿を見守っております~!!」
「あの女……よくも……」

 おい今私に向けての怨嗟の声上げた奴居ただろ。
 お願いだから許して。違うの私は単なる昔からの付き合いがある奴なだけで、ホントに好き合って婚約者になったとかじゃないから!! どうかお許しを!!

「……が、がんばって……、ください」

 もうなんて言ったらいいのか分からず。冷や汗をかきながら、私は当たり障りのない返答をする他なかった。
 いや「何してんですか?」ってハチャメチャに言いたいし何でこんな所でやるの? って聞きたくもあるけど、その返しするとなんかユーリが気まずくなりそうだからやめとくけどさぁ。

 この構図、マジでアイラちゃんとユーリで拝みたかった。
 そうなったら多分私が一番でっかい声で叫んでた筈なのに。叫びながらペンライト振ってただろうに、なんて悲しいことだろう。
 いくら婚約者で、その上キラキラ王子様だからって、こんな演出は必要なかったんじゃないですかね……。

「先に言うなんてズルいなぁ」

 この騒がしさに気付いたのか、ユーリと同じような格好をしたヴィクトールがやってくる。
 ズルいって何が…………。

 ?! ま、まさか!! ユーリにこんなことされたいのこの人?!
 わ、私そういうのも全然バッチコイなオタクだけど、生憎この世界ではアイラちゃん至上主義なんだ!! 出来れば公式通りに行ってほしいかなぁ?!
 でもアリっちゃアリです。もぐもぐ。

「私も頑張るからね。兄様のこと、頑張って応援しててね? ウィラ」
「あっ? は、はい。応援してます」

 そっちでしたか。ビビった。いやビビる必要無いのは分かってたけれども。

 すると、私の返答に何を思ったか、ユーリがずずいと顰めっ面を近付けて言った。

「義兄上も応援するなんて、あなたは僕と義兄上どちらに勝ってほしいんですか?」
「は?」
「おやおや。君は随分心が狭いねぇ、ユーリ」
「あなたに言われたくはありませんよ」

 目が点になる。
 どちらに、って。何その質問。どういう意図で言ったの君。

 しかしユーリもヴィクトールもじっ、とこちらを見つめてきている。まるで私の答えを待っているかのように。

 なので、己の素直な意見を口にした。


「別に、どちらでも……」


 それを聞いた二人の目に炎が宿ったような気がしたが、まぁ見間違いだろう。


 *


「ダメだ……先生は陽の光を浴びると死ぬんだ……」
「先生、ここ木陰なので多分大丈夫なんじゃないかと思うんですが」
「太陽を感じると溶けて無くなる」
「無くなりはしないんじゃないですかね?!」

 相変わらずのデニス先生である。
 自堕落教師は外に出るのも嫌らしく、ゴール付近に置かれた生徒会用の机に突っ伏しながらうんうん唸っていた。

 念の為太陽光がダメな病気とかなのかと聞いたけど、「いや別に?」って返事が返ってきたから単純に引きこもりのソレだった模様。
 アンタ隣にあるでっかい木の近くで一番涼しい箇所に居るだろうがよ。

「ということで、先生は採点しない。デルリーンに任せた」
「ちょっと、先生?!」

 私の右隣に座るギーゼラ先輩から鋭いツッコミが入る。

「大丈夫だ、帰らずに一応ここでちゃんと見てるから。記入するとか面倒なことはお前らがやってくれ」
「…………」
「……まぁ、ギーゼラ先輩のお手伝いでここに居ますし……、いいんですけど……」

 先輩は去年も採点係をしていたらしいし、私達も見てるからいいっちゃいいんだけど。

 うん。
 仕事してくれ先生。

「はぁ……仕方ありませんわね。私達で結果を記入して、先生に確認していただきましょう」

 ため息をつきながらギーゼラ先輩が言う。

「ギーゼラ先輩、大丈夫なんですかアレ」
「大丈夫です。先生は昨年もあのような有様でしたので」

 仕事しろ。


「それでは、本日のボートレース大会を開催します!選手は位置についてー……」

 ってな感じで、今年のボート大会が始まりました。

 試合は一年→二年→三年の順で行われる。まずは各学年の中で最上位のチームを決め、そのあと総学年の決勝戦に移るという形式だ。

 私達生徒会の女子軍(+あんまり役に立たない顧問)はゴール付近でそれぞれ観戦し、採点を行っていく。それ以外の女子は皆優雅にお茶を楽しみながら眺めていた。

「いいなぁ……、見てるだけって……」
「ま、まぁしょうがないですよ。生徒会に選ばれた役目というか……」
「だよねー……」

 天使の言葉はもっともだが、やはりこういうのを体験すると「ただ観戦だけしてたい」という怠惰な心が出てきたりする。
 いやいや、ちゃんとやりますよ仕事は! 先輩一人に任せるわけにはいきません!

「ふふ、あなた方は来年ももしかすれば選ばれるやもしれませんし。ここで経験を積んでおくのも大事ですわよ?」

 ギーゼラ先輩が微笑みながら言った。
 あんまり生徒会室以外で絡んだことないけど、やっぱ外見からの想像通り、優しく真面目な大和撫子さんである。高慢ちきな怖いスパルタ先輩とかではなくて良かったとしみじみ思う。

「ギーゼラ先輩は一年の時も生徒会に?」
「ええ。やはり、一度選ばれるとそのまま次年度も継続、という形が多いですわね。
私もこうして去年は先輩の教えのもと、全ての試合をしっかり観察して計測したものです」

 「ここはゴール付近ですから、一番アツい場面を見られるのですよ。ある意味特権です」とちょっと茶目っ気出しながら教えてくれるギーゼラ先輩。
 このザ! お嬢様な方も“アツい”とか言うんですね……。ときめきましたよぼかぁ……。

「あ、ほら! ユーリ様の番ですよ、ウィルヘルミナ様!」

 元気よく教えてくれる推しカワイーーーーッ?!

 と、つい推しの可愛さばかりに目を向けそうになるが、折角教えてくれたので見ないのも悪いと思いスタート地点に目を向ける。
 確かにユーリと、あの日共に乗せてくれた他のメンバー達がそこに居た。

「頑張ってください~」

 まぁこんな小さい声だし届かんだろ、と考えつつ適当に応援の言葉を言うと、前を向いていたユーリがくるっとこちらを向いた。
 えっ、もしかして今の聞こえた??

「!」

 パッと顔を明るくして、なんだか子供みたいな笑顔でこちらに手を振るユーリ。

 不覚にもちょっとかわいいと思いました。まる。

「ユーリさんはウィラさんと仲良しなのですね」
「そうなんですよ~」

 アイラちゃん! 何故そんな当たり前のように「そうだよ」って答えてるんだ!
 まぁ、昔からの仲だから気心は他より多少知れてるかもしれんが。勿論友達として。
 でも君がこの世界のヒロインなんやで……。分かっておくれ……。でもヒロインは天然かつ鈍感系って決まってるから何も言えねえ……。


 そうこうしている内にユーリの試合が始まり、そしてあっという間に彼らのチームは帰ってきた。
 つまり勝利。ビクトリー。

「……速いですわね、彼のチーム」
「……確かに」

 先輩の言う通り、なんかすげえ速かった気がする。練習の成果だろうか。
 今年初めてボートを漕ぐ奴らの手腕ではない。

「やっぱり王子を乗せてるとボートもやる気出すのかな……」
「?? どういうことですか??」

 あっすいません。ただのオタク的観点のジョークです。

 しかし。
 その後、一年が終わり二年が終わり。次に三年生の試合が始まった時。

 ヴィクトールのチームも他よりダントツで速かったわけだ。

「さすが生徒会長ですわ!」

 ギーゼラ先輩が嬉々としながら言う。
 前々から思ってたけど、この人兄様のこと大分慕ってますよね。義妹は見ておりますよ!

「ヴィクトール会長も速いですね……」
「ね。すごかったね。
毎年こんな感じだったんですか?」

 隣で項垂れている先生に尋ねてみる。
 先生は「あ゛~~……?」と呻き声を上げながら反応した。
 この人ちゃんと試合見てんのかな。

「まぁ……ヴィクトールの居るとこは大抵学年内でも速かったと記憶してるが……。今年はいつもよりやる気だな」
「へえ、そうなんですね。どうしてでしょう」

 私の何気ない問いに、じっとデニス先生はこちらを見つめる。
 そのよく分からない視線に「?」と首を傾げた。

「……良い所を見せたい相手でも居るんじゃね?」

 ぽつりと返された、その言葉に。
 私は。


(……え?! つまり、アイラちゃんに良い所を見せたくて張り切っている……?!?!)

 一片の曇りもなく瞬時にそう考えた。

 何だ何だ!! ユーリもそうだけど、やっぱ好きなんじゃぁ~~ん!! アタシには分かってたよ、うんうん!! ッか~~青春してるねえみんな!!
 やっぱ本命CPって簡単には決めれねえや!! だって全員美味しいんだもん!!

「…………」

 脳内がまた祭りを繰り広げていたので、私を相変わらず見つめている先生の赤い瞳には、もう気付くことはなかった。
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