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永遠に止まない豪雨の中
しおりを挟む大粒の雫が強く身体を打つ。
右手には小さなナイフ。その刃には、べっとりと血液が付着している。
視線を正すと、先程まで魂を宿していたお姉様の身体が、ぐったりと頭を垂れ、木に横たわっていた。
腹部は激しく裂け、溢れ出す血は止まる事を知らない。
何度も刺し、引き裂いたのだ、無理は無い。
そんな変わり果てた姉を、私は絶望の眼差しで見下ろした。
あの姉が、何でもでき、誰からも愛されたあの姉が。あんなに憧れたあの姉が。
「こんなにも無様に...。」
くだらない。
「あはは...。」
笑みがこみ出した。
「あははははははははは!!!!!!」
私は笑った。喜びに満ちた叫び声を、喉が裂ける程に上げ続けた。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!」
嵐の大雨は、そんな私の笑い声も全て打ち消して地面を打ち続けた。
笑い疲れた私は、姉の身体を背中に担ぐと、裏庭へと歩き出した。
「あそこには何年も使っていない井戸がある。あの中へ捨ててしまおう。」
生の一切を失った彼女の身体は、驚くほど軽かった。まるで中身の入っていない、蛇の抜け殻の様である。
死んだ人間というものは、身体を支える筋肉が働かない為にずっしりと重いと言うのを聞いたことがあったが、どうやらあれは嘘のようだ。
そんな抜け殻を背負いながら、裏庭へ歩みを進めた。
井戸の前に立つ。薄汚れた石造りの井戸である。
その縁に死体を寝かせた。
出血する死体を担いで来たために、腕や顔が血まみれになっていた。
「汚いなぁ...。」
死体のポケットを弄ると、ハンカチが入っていた。
純白のレースが飾られた、それは綺麗なハンカチだった。『Ellrott』という巧みな刺繍が施されている。
そのハンカチで私は顔、手、もろもろを拭った。純白のハンカチは、血に塗れみるみる醜く変貌を遂げていった。
「じゃあね、お姉様。」
井戸の縁で横たわる姉の身体を、乱暴に足で蹴り落とした。底へ落ちる音は、この大雨にかき消されて聞こえない様だ。
汚れたハンカチも丸めて井戸へ投げ入れた。
「これでエルロット・ミシェル・サーランドという魔女をこの世から抹消することが出来た...。」
とても満ち足りた気分だ。
再び笑みがこみ上げる。
踵を返し、屋敷へ歩き出したその時、
「...なって...。」
「...!?」
声が聞こえた。どこからっ!?
「し...なって...。」
後ろから!?
私は勢いよく振り返る。
「しあ...なって...。」
まさかっ、井戸の中から!?
急いで井戸へ駆け寄り、身を乗り出した。
「...幸せに、なってね...。」
真っ暗な井戸の暗闇の中で、確かに光る物があった。
あれは...瞳っ!?
井戸の底、はっきりと見えはしないが、力のない真っ赤な瞳が、真っ直ぐに私を見上げていた。
「...っつ!!」
永遠に止まない豪雨の中、私は駆け出した───。
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