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#21.paris 協同
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足音の主はメグレ警視だった。携帯を触っていた指の動きが思わず止まる。
「そこで何をしている?」
「いえ、少し電話を」
「こんな夜中に、こんなところでか。よっぽど他人に聞かれたくない会話かね。愛人かい?」
こんな状況にも関わらず豪快に笑う。しかしこちらとしては笑えないジョークだ。
「そういうわけでは・・・。メグレ警視こそどうされたんですか?」
「保管庫に用があってな。キリタニのパソコンを取りに来た」
「パソコンを?でも何も出てこなかったはずでは?」
「あぁ。でも捜査は手詰まりだ。もう一度キリタニの所持品から事件のヒントが掴めないかと思ってパソコンを取りに来た」
まずい。保管庫の中ではヨシムラがまさにそのノートパソコンを探している。ここでメグレ警視に見つかれば勝手な単独行動をとったとして彼女は処分される可能性もある。
「それとも先客でもいるのかな?」
「え?」
「さっき君とヨシムラ女史が一緒に歩いているのを見たばかりだ。保管庫で何をしている」
「それは・・・」
その時、保管庫の扉が開きヨシムラが出てきた。手には透明のビニール袋に入れられたノートパソコンが抱えられている。
「勝手に保管庫から持ち出すつもりかね」
「スミマセン、メグレ警視。でも自分自身で確かめられずにはいられなくて」
流暢なフランス語でヨシムラがメグレ警視に向き合う。しかしメグレはヨシムラの言葉を無視しマルセルを責める。
「君が許可したのかね」
「いえ、これは私が勝手に行った単独行動です。マルセル警部は保管庫に入るのを止めようとしてきたので私が部屋から追い出しました」
「ヨシムラ女史、黙りたまえ。さぁ、答えろマルセル。君が許可したんじゃないのかね?」
「私が許可しました。いえ、正確には私が彼女に保管庫からパソコンを持ち出すように命じました」
「嘘です!なんでそんなデタラメなことを言うのですか?」
「君こそ何を格好つけているんだ?」
醜く苦しい言い争いが始まった。ただそれでもここはヨシムラ女史を守らなければいけない。引くつもりはなかった。
パン!大きくメグレが手を叩く。
「そこまでだ。どうしようもないコンビだな、君たちは。2人で合意のもと保管庫に入ったのだろう?自分を犠牲にするなんて美しいな。しかし芝居が安っぽくて、もう見るに堪えられない」
そして先ほどと同じようにメグレは豪快に笑った。
「マルセル。だいたい君はヨシムラ女史に命じたと言っていたがそれはあり得ない。保管庫から勝手に物を持ち出すなんて下手すれば処分の対象だ。それを自分の手を汚さずに他人に命じるなんて君らしくないよ」
メグレの言葉に、ヨシムラも笑ってマルセルを見る。
「今回のことは大めに見よう。さぁ、パソコンを渡せ」
メグレがヨシムラに手を差し出す。が、ヨシムラは素直に渡さない。
「警視、このパソコンの中身、私に調べさせてください」
「なんだと?」
「お願いです。もし持ち出しを許可頂けないのでしたら、せめて保管庫の中でもいいので調べさせて下さい」
「君にそこまでの仕事は求めていないよ」
「いえ、同じ日本人だからこそわかるものがあるかと思います。お願いです」
「メグレ警視、私からもお願いです」
マルセルがヨシムラに続く。彼女なら何か手がかりを掴んでくれるかもしれない。根拠は無いが彼女にはどこか期待をしてもいいという気持ちが不思議と湧いてくる。それは彼女と行動を共にしていつの間にか膨らんできた気持ちだった。
「マルセル。君も彼女なら何か掴めると思うのか?」
「思っています」
マルセルとヨシムラの目が合うと、ヨシムラはコクンと頷いた。その顔は自身に満ち溢れている。するとメグレが大きく溜め息をついた。
「そんなつもりで君たちを組ませたわけではなかったんだがな。まぁいい。私が立ち会うという条件で許可する。保管庫のデスクで調べたまえ」
「メルシィ」
マルセルとヨシムラがほぼ同時にメグレに感謝の言葉を伝える。そしてマルセルにはもう一つ、メグレにしっかりと伝えなければいけない報告事項があった。
「それとメグレ警視。さっきの電話なのですが」
「どうした?」
「モーリス警視からでした」
「何だと?」
今度はメグレとヨシムラが驚いた顔でこちらを見ている。
「彼がどこにいるか聞き出したかね?」
「ええ。でも教えてくれませんでした。代わりにこちらの捜査状況を聞き出してきました」
「なんて答えたのかね?」
「被害者の身元が判明したこと、そしてナスリが麻薬をやっていたこと。この2点しか伝えていません」
「なるほど。まぁその程度であれば大丈夫だろう」
「それともう1つ、彼は重要なことを教えてくれました」
「何だね、重要なこととは」
「キリタニ殺しの犯行を自供しました」
「本当か?」
「はい。残念ながら」
まるで本当に空気に重力があるかのように、3人の間に重い沈黙が流れた。いや、1人だけ、この空気に流されていない人間がいる。
「ひとまずこのパソコンの中身を調べます」
そう言い、保管庫のドアを開け中に入って行く。その背中は凛々しく、そして美しく感じた。
「君の相棒は頼もしいな」
「この世の中は男より実は女が頼もしいんですよ」
「なるほどな」
メグレの3度目の豪快な笑い声を耳にしながら、揃ってヨシムラの後を追う。それにしても自分にとってのコンビとか相棒という存在はこれまでモーリスだったような気がする。しかしメグレに言われてみて今はその存在がヨシムラというのが、出会ってまだ短い時間にも関わらず、不思議とマルセルの中でしっくりときた。
「そこで何をしている?」
「いえ、少し電話を」
「こんな夜中に、こんなところでか。よっぽど他人に聞かれたくない会話かね。愛人かい?」
こんな状況にも関わらず豪快に笑う。しかしこちらとしては笑えないジョークだ。
「そういうわけでは・・・。メグレ警視こそどうされたんですか?」
「保管庫に用があってな。キリタニのパソコンを取りに来た」
「パソコンを?でも何も出てこなかったはずでは?」
「あぁ。でも捜査は手詰まりだ。もう一度キリタニの所持品から事件のヒントが掴めないかと思ってパソコンを取りに来た」
まずい。保管庫の中ではヨシムラがまさにそのノートパソコンを探している。ここでメグレ警視に見つかれば勝手な単独行動をとったとして彼女は処分される可能性もある。
「それとも先客でもいるのかな?」
「え?」
「さっき君とヨシムラ女史が一緒に歩いているのを見たばかりだ。保管庫で何をしている」
「それは・・・」
その時、保管庫の扉が開きヨシムラが出てきた。手には透明のビニール袋に入れられたノートパソコンが抱えられている。
「勝手に保管庫から持ち出すつもりかね」
「スミマセン、メグレ警視。でも自分自身で確かめられずにはいられなくて」
流暢なフランス語でヨシムラがメグレ警視に向き合う。しかしメグレはヨシムラの言葉を無視しマルセルを責める。
「君が許可したのかね」
「いえ、これは私が勝手に行った単独行動です。マルセル警部は保管庫に入るのを止めようとしてきたので私が部屋から追い出しました」
「ヨシムラ女史、黙りたまえ。さぁ、答えろマルセル。君が許可したんじゃないのかね?」
「私が許可しました。いえ、正確には私が彼女に保管庫からパソコンを持ち出すように命じました」
「嘘です!なんでそんなデタラメなことを言うのですか?」
「君こそ何を格好つけているんだ?」
醜く苦しい言い争いが始まった。ただそれでもここはヨシムラ女史を守らなければいけない。引くつもりはなかった。
パン!大きくメグレが手を叩く。
「そこまでだ。どうしようもないコンビだな、君たちは。2人で合意のもと保管庫に入ったのだろう?自分を犠牲にするなんて美しいな。しかし芝居が安っぽくて、もう見るに堪えられない」
そして先ほどと同じようにメグレは豪快に笑った。
「マルセル。だいたい君はヨシムラ女史に命じたと言っていたがそれはあり得ない。保管庫から勝手に物を持ち出すなんて下手すれば処分の対象だ。それを自分の手を汚さずに他人に命じるなんて君らしくないよ」
メグレの言葉に、ヨシムラも笑ってマルセルを見る。
「今回のことは大めに見よう。さぁ、パソコンを渡せ」
メグレがヨシムラに手を差し出す。が、ヨシムラは素直に渡さない。
「警視、このパソコンの中身、私に調べさせてください」
「なんだと?」
「お願いです。もし持ち出しを許可頂けないのでしたら、せめて保管庫の中でもいいので調べさせて下さい」
「君にそこまでの仕事は求めていないよ」
「いえ、同じ日本人だからこそわかるものがあるかと思います。お願いです」
「メグレ警視、私からもお願いです」
マルセルがヨシムラに続く。彼女なら何か手がかりを掴んでくれるかもしれない。根拠は無いが彼女にはどこか期待をしてもいいという気持ちが不思議と湧いてくる。それは彼女と行動を共にしていつの間にか膨らんできた気持ちだった。
「マルセル。君も彼女なら何か掴めると思うのか?」
「思っています」
マルセルとヨシムラの目が合うと、ヨシムラはコクンと頷いた。その顔は自身に満ち溢れている。するとメグレが大きく溜め息をついた。
「そんなつもりで君たちを組ませたわけではなかったんだがな。まぁいい。私が立ち会うという条件で許可する。保管庫のデスクで調べたまえ」
「メルシィ」
マルセルとヨシムラがほぼ同時にメグレに感謝の言葉を伝える。そしてマルセルにはもう一つ、メグレにしっかりと伝えなければいけない報告事項があった。
「それとメグレ警視。さっきの電話なのですが」
「どうした?」
「モーリス警視からでした」
「何だと?」
今度はメグレとヨシムラが驚いた顔でこちらを見ている。
「彼がどこにいるか聞き出したかね?」
「ええ。でも教えてくれませんでした。代わりにこちらの捜査状況を聞き出してきました」
「なんて答えたのかね?」
「被害者の身元が判明したこと、そしてナスリが麻薬をやっていたこと。この2点しか伝えていません」
「なるほど。まぁその程度であれば大丈夫だろう」
「それともう1つ、彼は重要なことを教えてくれました」
「何だね、重要なこととは」
「キリタニ殺しの犯行を自供しました」
「本当か?」
「はい。残念ながら」
まるで本当に空気に重力があるかのように、3人の間に重い沈黙が流れた。いや、1人だけ、この空気に流されていない人間がいる。
「ひとまずこのパソコンの中身を調べます」
そう言い、保管庫のドアを開け中に入って行く。その背中は凛々しく、そして美しく感じた。
「君の相棒は頼もしいな」
「この世の中は男より実は女が頼もしいんですよ」
「なるほどな」
メグレの3度目の豪快な笑い声を耳にしながら、揃ってヨシムラの後を追う。それにしても自分にとってのコンビとか相棒という存在はこれまでモーリスだったような気がする。しかしメグレに言われてみて今はその存在がヨシムラというのが、出会ってまだ短い時間にも関わらず、不思議とマルセルの中でしっくりときた。
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