一冬の糸

倉木 由東

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#51.okinawa 接触

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「面倒臭い連中だな」
 店を出て佐倉は自販機でホットコーヒーを購入した。通りは週末ということもあり、かなり賑わっている。リランもマルセル一行の貸し切りでなければ、今日も間違いなく商売繁盛だったかもしれない。
「じゃあ、失礼しましたー!」
 大きな声がした方向を見る。近くの居酒屋の前で頭を下げているスーツ姿の男がいた。明後日の日曜日に迫った沖縄市の市議会選挙。その立候補の1人だった。この時間の選挙運動はあって無いようなもの。「1票お願いします」などとは言わずに、色々な酒の席に顔を出して挨拶するだけ。自分を売り込むための地道な営業活動だ。
 明日の夜には、具志堅が立候補者の選挙活動演説の為にこの沖縄市にやって来るらしい。孫娘を見捨て、権力を優先させた男はどんな顔をして街頭演説を行うのか。

「考え事?弟くん」
 吉村が店の外へ出て来た。
「おいおい、あんたがいなければコミュニケーションも取れないだろう?」
「心配ないわ。もう全員テンション上がって言葉なんか関係なく馬鹿騒ぎしているから」
 硝子製のドアから店内を覗くと、なるほど確かにわいわい馬鹿騒ぎしている。
「ところで、河村と真栄城は?」
「もうあの2人から話を聞くことは特にない。問題は杏奈の母親、つまりパリで殺された桐谷浩の奥さんだ」
「桐谷の奥さんか。居場所は例の場所でしょ」
「あぁ。厳密に言うと元妻だけどな。裏も取った。沖縄で殺された桐谷杏奈そっくりだったよ」
「そして私たちも沖縄へ来た」
「そうだ。やっと終わりを迎えることが出来る」
「例の携帯電話は?」
「沖縄県警の仲間さんという刑事が調べてくれた。杏奈の祖母名義だったよ」
「明日はどうするの?」
「明日の夕方、ここの近くで具志堅の演説がある。そこまでに孫娘を助け出し40年前の事件の真相を公にする」
「大胆ね」
「あんたたちのほうはどうなんだ?」
「何が?」
「桐谷浩、そして3億円事件実行犯の1人だった警視を殺した人間のことだよ。俺らをパリで襲った奴と同一犯だろ」
「もちろん、そこも決着をつけるつもりよ」

 翌日の午後6時ー。佐倉は吉村とマルセル、メグレを連れ目的の場所へ向かった。
 太田には具志堅知事の演説会場に行ってもらうことにした。
「立派な建物だなー!」
 到着して車を降りるとマルセルが開口一番、口に出す。
 大舞寺—。
 世界遺産に登録されている城を背に、太平洋を前面にしてそびえ立つ沖縄でも由緒あるお寺の1つだ。大晦日の初詣の時しか足を運んだことが無い佐倉だったが、ここ数週間幾度も内密に足を運んでいた。
「行きましょう」
 佐倉の言葉で、一行は緩やかな坂を登り境内の前へ到着した。両脇には赤い柱、中央には幅の広い階段。あの写真の背景と景色は一緒だ。
「この写真はここで撮られたものだったのか」
 写真を手に何やらメグレがつぶやく。
 階段を登ろうと上を見上げた瞬間、1人の女性の姿が確認できた。
 一瞬、一同の動きが止まる。
「ようこそ、大舞寺へ」
 低く、透き通るようなゆっくりとした口調で桐谷杏奈の実母、桐谷沙羅は佐倉たちを迎え入れた。
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