一冬の糸

倉木 由東

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Epilogue. okinawa 日常

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「大舞寺で知事の孫娘は確保したよ」
「そうですか」
 沖縄市・中の町から1番近い沖縄南警察署での取調室で、佐倉と仲間は向き合っていたー。
「しかし、あの孫はもう具志堅に愛情を注ぐことはないだろう」
「どういうことだ?」
「監禁している間、桐谷美佐江と桐谷沙羅から3億円事件のことをずっと聞かされていたらしい」
 残酷な話だ。何も関係のない純粋な子供にまで事件のことを話すなんて。
「ただ孫娘には桐谷杏奈が死んだことは伏せたらしい。代わりに家庭教師を買って出てくれた人物がいる」
「家庭教師に?誰だよ、それ」
「リランの真琴ちゃんだ」
「真琴が?」
 どこまでお節介焼きなお嬢さんなんだ。しかし真琴らしいといえば真琴らしい。
「それと焼け跡から手錠で繋がれた2人の遺体が発見された」
「そうか」
 爆発の時、何とか美佐江とメグレ以外、逃げ切ることが出来た。そのまま事件に関与していたとして、佐倉は警察署に形式上拘留され、美佐江に撃たれた具志堅と比嘉は病院へ直行となった。
「大舞寺のコカインのほうは?」
「もちろん全て押収するつもりだ」
「3億円事件の真実は?」
「公表に動くさ」
「本当にそんなことが出来るのかよ」
 佐倉が小馬鹿にしたような口調で失笑する。
「もちろん警察機構が相手だ。強大すぎる。ただ少なくとも具志堅自体は失脚だ」
「そうか・・・。なぁ、もう帰ってもいいか?」
「あぁ。十分だ。もう迎えも表に呼んでいるよ」
「どうも」
「なぁ佐倉、疲れたか?」
 今度は仲間が笑いながら問いかけてくる。
「警察に2日も拘留されれば当然だ」
 もちろん、そんなことが理由ではないのは佐倉と仲間自身が1番よくわかっていた。

 警察署の玄関を出ると、愛子や太田、そしてリランの面々が迎えに来ていた。
「じゃあな、お前さんは送迎係のほうが似合っているよ」
「俺もそう思うよ」
「あまり危ないことに首を突っ込むんじゃないぞ」
 仲間の言葉を背に佐倉はみんなの元に歩き出した。
「お勤めご苦労様です」奈緒が品のない大きな声で叫ぶ。
「嫌味か、お前は」
「何だよ、オメー。人がせっかく迎えに来てやったのにその言い方!」
「別にお前に来てくれなんて頼んでねぇよ!」
「ゆうちゃん!!」
 愛子が佐倉を一喝する。
「せっかくみんなで揃って来たのに、その言い方許さないわよ。謝りなさい」
「怒られてやんの~」恵が続いて茶化し、その様を見て真琴が笑っている。
「・・・悪かったよ」
「ごめんなさいは!?」愛子が切れる。
「すみませんでした」佐倉は素直に謝った。すると何かが頬に触れた。桜だ。
 警察署の駐車場の隅にある大木の先から、鮮やかな桃色をした桜が咲き乱れていた。
「春・・・ですね」
 智子がつぶやく。桜が冬の終わりと春の訪れを告げる。
 この一冬に起きた出来事が走馬灯のように佐倉の脳裏に駆け巡る。おそらく40年前の3億円事件のことが表沙汰に出ることはないだろう。それは仲間に期待していないというわけではない。彼が言うように組織が強大すぎるのだ。きっと仲間自身はもちろん、死んだ美佐江や沙羅、杏奈もわかっていたはずである。
 佐倉は杏奈のことを思った。
 これで満足か?今でも死の瞬間の光景が甦っては言いようのない悲しみ、そして自分自身の不甲斐なさに苛まれる。
「なぁ、お前さー」
 いつの間にか隣に奈緒が立っていた。
「お前、結構頑張ったと思うよ」
 他の人間に聞こえないように奈緒はつぶやいた。佐倉の心情を読み取っていたかのように。
「・・・ありがとよ」
 不思議と奈緒の言葉が、佐倉のぽっかり空いた心の穴を埋めてくれるような気がした。
「それとさ~」と言い、奈緒は佐倉の前に手を出した。
「何だ?」
「お金」「金?」
「ちゃんとチョコ買い取れよって言ったじゃん」
 ・・・・・。やっぱり心の穴が埋まるような感覚は錯覚だったらしい。
 結局全て何事も無かったかのように、待ち受けているのは送迎の日々だ。だが仲間の言うように自分にはそれが結局しっくりくるのかもしれない。愛子に縛られ、時には従業員たちと罵り合い(奈緒だけだが)、客のちょっとした相談に乗る。それが自分にとっての日常であり、自分に似合っている姿なのだ。佐倉は舞い散る桜を見上げながらそう思った。
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