オムライス

立樹

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後編

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 店内は静かな曲が流れている。お客もまばらで、数えてみると、両手でたりるほどだ。

「ご注文がお決まりでしたら、お聞きします。当店は十時までの営業となっていますので、申しわけありませんが、ラストオーダーとなってしまいますが、よろしいでしょうか?」

 うなずきつつ、店員の名札を目をやった。
『玉川』
 やはり、同じアパートの隣人に間違いなかった。

「では、決まりましたら、ブザーを押してください」
 玉川は、そのまま立ち去ろうとした。

「あ、あの」

「はい」

「オムライスセットで」

「わかりました。では復唱いたします……」
 藍生は、注文を受けキッチンへと入っていく玉川の後ろ姿を見送った。

(いくつなのだろう?)

 見た目は、二十五、六歳ぐらい。藍生も百八十センチと背が高い方だが、その自分より頭半分ほど高い。腕も筋肉質で、肩幅も広い。
 きりっとした眉だが、ほほ笑むと目元が和らぎ、親しみやすい顔になる。

 隣人の彼とは、夜おそくまで営業している食料品店『やどの』でよく顔を合わせるようになって、挨拶をかわすようになった。初めて挨拶をかわしてから半年ほど経ったか。

(ここで働いていたんだ)

 オムライスが運ばれてきた。
 形の良いつやっとしたラグビーボール型の卵にケチャップがかかっている。

 一口食べてみて驚いた。

「父さんのオムライスと似てる……」

 これまで、いろんなところで食べてきた。でも、ここまで味が似ていることがなかった。
 父さんのオムライスは、少し舌がピリッとして、塩っ気が勝っていた。
 要するにあまり甘くない。

 夢中で食べて、あっという間にお皿は空になってしまった。
 口の中は、まだオムライスの味が残ったまま。まだこの味を味わっておきたくて、水は飲まなかった。

 席を立ち、会計をする。

「またの来店をお待ちしております」
 玉川が言った。

 ごちそうさまと口にしようとして、その言葉をのみ込んだ。

 藍生は、今まで以上に目の前にいる玉川のことが、気になってきていた。

 店の名前がプリントされた、濃紺のエプロンをしている玉川は、父の作ったオムライスに似ている味のオムライスを作っているお店の店員だということはわかっている。
 それでも、懐かしい味に会えた。

 どうしてここで働いているのか、聞いてみたいと思ったのだ。

 ごくりとつばを飲み込むと、
「あ、あの。このあと、時間がありますか?」

「えっ?」
 藍生の質問に、玉川が、大きく目を見開いた。

「いえ、あの、ダメだったらいいんです」

 少しの間の沈黙。

 突然の誘いに嫌がられたかもしれないと、恥ずかしくなった。

 やめとけばよかった。
 と、後悔をしかけたとき――。

「いえ、いいですが。あと、退勤まで三十分ありますけど、待っていただけますか?」

 にこりと微笑みながら問われた。

「は、はい! いつも出会う『やどの』で待ってます」
 勢い込んで言うと、玉川は、嬉しそうにうなずいてくれた。

 お店をでた藍生は、玉川となにを話そうかと、思考をめぐらせつつ、待ち合わせ場所に向かった。
 その足取りは、軽い。
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