「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「2ヶ月/3ヶ月」交換しよう。


目が覚めればプリウスのシートだった。

作業ジャンパーを着たまま。
上に資材置場用、古くなった毛布を掛けていた。

薄暗い。・・・・それでも朝の光が入っていた。
時計は7時を少し過ぎている。


車を降りて身体を伸ばす。

駐車場の中だ。
広さは・・・・ワンフロアに80台くらい停まる感じか。
繁華街から少し離れている。
顧客の建物だ。
4階建てのビル、全てが駐車場だ。時間貸、月決め、エリアによって異なっている。


トイレに入って顔を洗う。
鏡に、作業服、無精髭の顔が映る。


自動販売機からジョージアブラックを買ってプリウスに戻る。・・・助手席に乗り込む。
PCの電源を入れてピグに入っていく・・・
亜貴から手紙が来ていた。



「カズくんおはよう。
リストバンドね・・・
高校生の時使ってたけど、もうないもん(笑)
・・・私も古いほうがうれしいな~
カズくんの匂いつきがいい(笑)
そのほうがカズくんを感じるもんね・・・
Tシャツとか欲しいって思うよ。
だって、カズくんの匂いがいっぱいついてるもん(笑)


>3ヶ月・・・長いね・・・
>でも、だからこそガマンしようね。


・・・・うん・・・・
・・・ガマンする・・・
寂しいけど・・・会いたいけど・・・ガマンする。

会えたらいっぱい愛し合おうね。
いっぱい愛情確認しようね。

カズくんのこといっぱい愛するから・・・
私のこともいっぱい愛してね・・・
今日もカズくんと繋がってるって思ってがんばるね。

カズくん・・・愛してるよ。
カズくんも私だけのものだからね。」



ジョージアを飲みながら手紙を読む。

頑なに手紙は1日1通としていた。・・・何度もやりとりをすれば、すぐに自分を見失ってしまう。・・・だから、それ以外では繋がらない。
1日1通だからこそ、1通が長文になっていく。
読むのが、書くのが1日の楽しみだった。
一語一句を噛みしめるように読み込んでいく。・・・行間を読み込む・・・亜貴の息遣いすら読みこんだ。

「3か月後に会う」・・・それだけを決めていた。



プリウスを出て缶を棄てる。
事務所に顔を出して挨拶・・・・まだ、夜勤のひとりしかいなかった。駐車場は24時間営業だ。


・・・さて、今日も始めるか・・・


駐車場の中。
腰道具をして・・・ペンチやドライバーのぶら下がったベルトだ。
脚立に乗る・・・・天井照明の蛍光管を外す・・・・ビスを外してカバーを外す。
中を覗き込んで小さな文字を追う・・・メーカー。型番。照度。消費電力。
クリップボードの紙に書き込んでいく。

カバー、蛍光管を元に戻して脚立を降りる。
・・・・次のエリアに行って、また、脚立に乗る。・・・同じ作業を繰り返す。


一見すると同じような照明器具も、詳細に見ると、メーカーも違えば、照度、消費電力も違う・・・・そのひとつひとつを確認していく。
同時にレイアウト・・・照明レイアウトを描いていく。・・・・そこに、照明データを書き込んでいく。


屋上に上がって行く。灰色の空が広がった。
4mくらいのポールの上に水銀灯が設置されてる。それが10本ある。
ポールに脚立を立て掛け登っていく。水銀灯のカバーを外して中を確認していく。


このビルとは、もう長い付き合いになる。・・・・10年になるか・・・
前に、まだ会社をやっていた時、ビル全体のリニューアル工事を請け負った。それからの付き合いだ。



「・・・うん・・・そうだね・・・
私もそういう気がしてるよ。
気じゃなくて、絶対そうだよね。

震災があって、カズくんの気持ちがすごくよくわかって・・・
私も絶対離れられないって思ったもん。
今でもその気持ちはかわらない。
この先も絶対変わらない。
これからも一緒にいるためにはガマンしなくちゃね。
ガマンしなくちゃいけないこといっぱいだね・・・
カズくんに会ったら・・・会えたら大泣きだね・・・
・・・それも困るでしょ・・・・(笑)


>亜貴を感じるものが欲しい。


私もカズくんを感じるものが欲しい。
だから何か欲しい・・・
リストバンドは常にはしないけど、バドミントンの時につけるのはあるよ。
その中でも自分で買ったのは1つだけ。

あんまり使ってないものだけど、それでもいい?

お揃いのは・・・何かいいのないか探してみるね。
意外とリストバンドってなんだよね~
ヨネックスが一番多いかもね。
ナイキも持ってるけど、あとあるかな・・・?
いいのあったらお揃いで買っておくね。

カズくん・・・愛してるよ。
カズくんだけ愛してるの」



事務所の入り口で腰道具を外す。中に入る。
机6席の島があって・・・すでに全員が出社してきている。そこを通り過ぎて突き当りの会議室に入っていく。・・・応接室でもある。
広さは4畳半ってとこだ。
テーブルがあって、両側にソファが2脚づつ並んでいる。

ひとり、ノートPCで作業をしてる。・・・・この人が社長だ。・・・・年齢は60歳を少し超えたはずだ。

「昨日も車で寝たの?」

少し笑いながら社長が言う。

ボクは頷いた。
プリウスで寝泊まりしていた。
ここで・・・この会議室で寝ればいいと社長には言われていたけれど、長い付き合いだとはいえ、顧客の社内で寝るというのは気が引けた。


泊まり込みでの作業は3日目になる。
補助金対応の作業だった。


政府は補助金を連発していた。

「東日本大震災」

日本全国の原発が停止した。
そのため国内の電力供給が著しく低下した。
連日の計画停電で凌いでいた。国を挙げて省エネに取り組まなければならなかった。

省エネ対策の補助金が矢継ぎ早に出された。国の補助金。自治体の補助金。国からは省庁ごとに補助金があった。
建物の補助金。設備への補助金。車両の補助金・・・・エコカー減税、エコカー補助金もあった。

「省エネ」といえば、照明のLED化、空調設備の最新機種への入れ替えが最も効果が高い。エレベーター設備も省エネ効果の高い機種がある。


補助金の申請には「省エネデータ」を作らなければならなかった。
照明をLED化した場合のデータ。空調設備を最新設備に入れ替えた場合、エレベーター設備を入れ替えた場合のデータ。
現状の電気使用量と、対応した製品への入れ替えをした場合の電気使用量。・・・・削減率が何%になるのか。イニシャルコストはいくらになるのか・・・etc

その作成には、ビル全ての照明設備、空調設備、エレベーター設備の確認をしなければならない。
ビル一棟の照明器具、設備、全ての確認だ。

「補助金」

総じて、その申請期間は短い。アナウンスも十分じゃない。
たった1ヶ月、その間に、省エネデータを作り上げ、申請まで終わらせなければならない。

ふたりで手分けして資料の作成にあたっていた。

各設備の消費電力などの技術データをボクが確認した。・・・・・照明器具、1台1台を確認していく。
そのデータを元に申請書面を仕上げていくのが社長の仕事だ。


昼食にする。
毎日、社長がお弁当を用意してくれている。
今日は、この辺では有名なトンカツ店の弁当だった。・・・・毎日、高価なお弁当を用意してもらっていた。・・・密かに楽しみにしていたんだ。


「今の気持ち・・・そのまま書いてもいいよね・・・
気持ちが落ち着いたり・・・沈んだり・・・その日によって違うんだけど・・・
家ではちゃんとふつーにしてるよ。
でも、実際は全然ふつーじゃなくて、今が一番ツライ・・・
体調もあるんだろうけどね・・・
このままでいいのかな・・・って・・・
がんばろうって思ってるのに、心のどこかでは・・・もうがんばれないって思ってる自分もいる・・・
逃げても、カズくんのこと忘れられるわけじゃないし・・・
カズくんへの気持ちも消えないし・・・
今よりもっと寂しくなるのもわかってるし・・・
こんなこと考えても、私がカズくんから離れられないんだけどね・・・
カズくんにまた会える日までは・・・がんばるからね。」



事務所では、すでにみんなが帰っていった。・・・・夜勤のひとりだけとなっていた。

真夜中に全ての資料が出来上がった。
イニシャルコストは3千万円。消費電力の削減率は40%となった。

あとは、この資料を役所に提出するだけだ。・・・・郵送か、提出か。
夜が明けたら社長が役所に持ち込むと決めた。



4日ぶりに自宅に帰った。
真暗なリビングに入っていけば鼾が聞こえてきた。

・・・・電気を点ける。

座卓の上に郵便物が山になっている。
国民健康保険、国民年金の封筒があった。・・・・「督促状」の文字。
それだけじゃない「督促状」と赤字で描かれた封筒、葉書が何通かある。

・・・・ボクの生活は決して楽じゃなかった・・・いや・・・むしろ苦しい生活といっていい。・・・それでも、もう、日雇い派遣で作業員となって働くことはない。

自分で請け負った、自分だけの仕事で糊口がしのげるようになっていた。

会社を潰して・・・・しばらくは何もできず・・・そのうちに派遣で働くようになった。・・・・けっきょくボクは現場仕事しかできない。

日雇い派遣で、穴掘りやセメント運びをやっていた時に、以前の顧客から仕事の電話をもらった。・・・・こなしていくうちにそれが広がっていった。
気がつけば、派遣に・・・バイトに行かずにすむようになっていた。

仕事は「建設業」だ。・・・・世の中には星の数ほどある。・・・・誰もボクを選ぶ必要はない。
・・・そんな中で、ボクを選んでくれている人たち、ボクに仕事を任せてくれる顧客がいる。・・・それで日々のご飯が食べられる。生活ができた。


ありがたかった・・・・
・・・・どれほどありがたいと思ったことか・・・

今の顧客は、全てがボクの会社の経緯を知っている。
・・・・ボクが騙されたように・・・いいように使われたんだということを知っていた。

顧客、全てに恩義を感じていた。
文字通り、今の生活があるのは顧客ひとりひとりのお陰だ。


その顧客が困っている。
計画停電。建物の損傷・・・・

今、恩を返さずしていつ返すのか。
金の事は後回しだった。
とにかく、目先の困っている顧客の問題を解決していくことが先決だ。

壊れた設備を直し、発電機を用意し・・・各種の補助金向けの資料作成を行った。


「>リストバンド・・・今見てるよ。
>でもいいのがない・・・今使ってるやつは、いっぱい亜貴の臭いつけてね
>会うとき・・・会った時、ず~~~っとつけて愛し合おうか・・・?そしたら、いっぱい匂いつくよね・・・・???笑
>んで、交換しようね。


うん・・・
交換しようね・・・
私のリストバンド・・・・甘いにおいするよ。
香水なんだけどね。
カズくんがつけたら怪しくなっちゃうけど・・・いいの?
新しいのあるから、そっちのほうがいいかもね・・・


かずくーーーーん・・・・会いたいな・・・・
いっぱい愛情確認して・・・愛されて・・・カズくんに髪の毛触られながら眠りたい・・・

愛してるよ・・・・」



当たり前で・・・今でも借金の返済は続いていた。
返済金額は・・・会社を潰したボクには「無理のない金額」ということで決まった。
しかし、その金額に銀行とボクとでは大きな開きがあった。

・・・・それはそうだろう。元金は5億円とかって金額だ。

「無理のない金額」では返済とはならない。
働いても働いても、ほとんどが借金の返済に消えていった。
とても、国民健康保険や、国民年金までにまわらない。
・・・・しかも二人分だ。お嫁さんの分もだからな。

元々、お嫁さんは正社員で働いていた。・・・だから、社会保険だった。
そこからリストラされ、国民健康保険になった。国民年金になった。
世帯主であるボクに納付書は送られてくる。

その金額が高い。
ふたり合わせれば1ヶ月に5万円とかって金額だ。・・・・地方なら、ちょっとしたアパートが借りられるような金額だ。

それに・・・・遅れれば、督促状が次から次へと送られてくる・・・・いったいどれが正しいのか、どれが支払済みなのか・・・どれが未払いなのかがわからなくなる。

一度、払ったあとで「二重払い」になってると通知がきたことがある。

わけがわからなかった。

わけがわからないのは、保険や年金だけじゃない。・・・・税金もわからない。

今までは会社が全てやってくれていた。
保険、年金がそうなら、税金の計算、支払いも、その全てを会社の事務がやってくれていた。

今は個人だ。たんなる自営業だ。
個人で売り上げを計算して、・・・・そこから税金も計算して収める。・・・それを元に自治体の税金が請求され、保険料とかも決まるらしい。

税金の計算方法なんて学校で習ったことがない・・・そもそも、サラリーマンしかやったことがないボクには「確定申告」なんて言葉も、これまでの人生で縁がなかった。

税金が高いと感じていた。
保険料だって高い・・・

・・・・たぶん、もっと良いやりかたがあるんだと思う。

わからない。
わからない・・・誰も何も教えてくれない。

税理士とかに相談すれば、もっと安くなるんじゃないかと思う・・・でも、税理士に相談する費用もない・・・
ただ、請求されたものを、そのまま支払うだけだ。

頭が悪いんだと思う。・・・要領が悪いんだと思う・・・



「じゃあ・・・お出かけしよう(笑)
リストバンド買いにね・・・
ちゃんと手つないで行こうね(笑)
カズくんと手つなぎたいな・・・
ギューって握りたいな・・・

でもね、ホントにどこでもいいから普通に買い物したり、ご飯食べたり、お散歩したりしたいって思うよね・・・

普通にデートしてみたい(笑)
ブックオフでカズくんにエッチ本買ってもらいたい(笑)

こっちも週末は雨みたい・・・
カズくんも風邪には気をつけてね。

カズくん大好きだってば。」



・・・・もう、生きていることに希望があるわけじゃない。


お嫁さんが好きだった。・・・大好きだった。
お嫁さんと出会うためにこれまでの苦労があったんだ・・・・本当にそう思ったくらい、お嫁さんが大好きだった・・・

結婚できた。
反対されていた結婚が許された。・・・・やっと許された。

・・・・しかし、結婚した直後に、お嫁さんは会社でリストラにあい「鬱病」を発症した。・・・・そこからは自宅療養の日々になってしまった。
時間が経って・・・病状が回復してきて・・・・社会復帰のステップとしてアルバイトにも出れるようになって・・・・さぁ、ここから良くなっていく・・・そう思った矢先での「東日本大震災」だった。

・・・・また、病状は悪化した。
今では、ほとんどを寝て過ごしていた。


死ぬことが怖いと思ったことはない。
死ぬのが嫌だと思ったこともない。
心の中に、決して溶けない「氷塊」があった。

「死にたい」・・・・積極的に死にたいと思っていないだけだ。
そして、同じくらい、積極的に「生きたい」とも思わなかった。

ただ、死ぬのもめんどくさいから生きてるだけだ。

・・・・それでも、生きていくにはお金がかかった。生きてるだけで、どうして、こんなにもお金が必要なんだろうと思う・・・
社会保障や、税金・・・なんでこんなにも高いのかと思う。

自営業であれば、毎月決まった売り上げがあるわけじゃない・・・・毎月、決まった収入があるわけじゃない。

売り上げは売り上げだ。・・・・そこから諸々の経費を差し引いて、ようやく収入と呼べるものになる。・・・赤字になっている時もある。
時給換算すれば派遣の収入を下回ってることもいっぱいある・・・


・・・いったい何をしてるんだろう・・・いったい何のために生きてるんだろう・・・



「>なんか、ピグで会って・・・すぐに感じたもんね・・・
>このヒトだ!!!って。


そうだよね・・・(笑)
初めて話した時、楽しくてまたお話したいなぁ・・・って思った(笑)
話していくうちにいうか、気づいた時にはもう好きになってたんだよね。
どんな人なんだろう・・・って気になって・・・(笑)
会ったら、もっと好きになっちゃったし。
だって・・・カズくん良い人なんだもん(笑)
ピグで話してる時と同じですごく優しくて・・・
好きにならないわけないよね(笑)


>だから・・・待てないよ・・・体がおかしくなってくる・・・
>なんか体が枯れていくのがわかるよね・・・?
>潤いがなくなってるってのか・・・しぼんでいく感じ・笑


・・・うん・・・わかる(笑)
キュンキュンしてると、何もしないでも潤うんだよね。
今は毎日パックしないとダメだもん(笑)
カズくんパックがないからさ・・・(笑)

ほとんどの人に言われるんだけど、私っていつもニコニコしてるイメージみたいで・・・(笑)
今はあんまりニコニコしてないのか?・・・元気ないんじゃない?って言われることが多いの(笑)
おかしいでしょ・・・(笑)」



コンビニ駐車場。
昼食だ。おにぎりを食べていた。
フロントガラスを雨が叩く。
・・・もう冬になっていく・・・さっき店に入った時に濡れた。冷たい雨だった。


助手席の携帯が鳴った。
駐車場の社長からだ。
ジョージアでおにぎりを流し込んで出る。


「・・・いえ、大丈夫です・・・そうですか・・・・」


補助金の申請は却下された。

補助金は、審査のうえで可否が決定されるんだった。

もちろん、それでもいい。
顧客に対しては何もない。
もともと、こういう結果も織り込み済みで始めたことだった。


・・・しかし・・・

この補助金を申請したのは、他にも3件の顧客があった。・・・全てで、泊まり込みで資料を作成していった。


・・・・その全ての案件で申請を却下されていた。


たぶん、申請は、コストパフォーマンスを重要視しているんだろう。・・・・そうであれば、より、削減金額の大きなところが選ばれるのは当然だろう。
国としてみれば、3千万円の補助金も1社なら、3億円の補助金も1社だ。
同じ1社なら事務作業の手間は変わらない。
それなら、より大きな案件を選ぶのは当然のことだろう。

・・・・世の中は、そういうものだろう。

求職で、「年齢不問」「学歴不問」と言いながらも暗黙のルールがある。・・・同じように、ここでも、暗黙のルールがあるんだろう。
大企業が選ばれるようになっているんだろう。
ボクの顧客の規模では、対象とはならないってことなんだろう。


今月は・・・全ては、この補助金対応で動いていた。
補助金が却下となった今、・・・今月、全てはタダ働きと決まってしまった。


ボクは、今月無収入となったんだった。


今、顧客に恩を返さずしていつ返すのか。・・・・その思いに嘘はない。
でも、その思いだけでは生活はできない。


・・・・・どこからかで、生活費を工面しなければならない。
なんとかして、この震災の最中、お嫁さんとご飯を食べていかなければならない。


会社のものとはいえ、借金を滞納した・・・ブラックリスト入りとなったボクにお金を貸してくれる銀行はない。



雨の国道。
プリウスを走らせる。

・・・・サラ金の看板が見えてきた。
ATMだけが設置されている無人店舗だ。
何社もの店舗が集まっている。

敷地にプリウスを乗り入れ停める。
降りしきる雨の中、店舗の中に走って行く。

ATM。カードを入れてボタンを操作する。

お金を貸してくれるのはサラ金だけだ・・・・それも、大手は貸してくれなかった。闇金ってことはないけれど、それほど名前も知られてないようなサラ金ぐらいしか、ボクにお金を貸してはくれなかった。
・・・・そして、大手じゃなければ金利は高い。
それでも借りないわけにはいかない。・・・生活ができない。


店舗を出る・・・雨に濡れる・・・隣の店舗に入る。
またATMの操作を行う。


自営業は、売り上げがすぐに現金になるわけじゃない。
顧客が支払ってくれるまでは現金にはならない。
仕事をするための仕入れは先行して発生する。・・・今回は、発電機の支払だけでもかなりの金額になっている・・・・そのために現金がいる。


常にサラ金からの借金があった。

ボクにお金を貸してくれるサラ金は多くない・・・・そして大きな金額を貸してはくれない。
1社20万円とかで限界だ。・・・それらを数社からかき集めて、なんとか毎月のやりくりをしなければならない。・・・・月々5万円からの国民健康保険、国民年金は、簡単に払える金額じゃなかった。


・・・・・すでに、何ヵ月もを滞納していた。

正確な滞納金額はボクにもわからない・・・・


結婚した時・・・・いや、元々、同棲を始めた時、生活費の負担を、お嫁さんとふたりで決めていった。
さすがに折半ってわけにはいかない・・・・ボクの方が歳上だし・・・男だし・・・

それでも負担する割合を決めた。

・・・しかし、お嫁さんが会社をリストラされてからは分担金が止まった。
まさか、「払え」とは言えない。

「鬱病」

働けない。
治療費だってかかっている。

そんな状態でお金の話なんかできるはずもない。
当然として、生活費の全てをボクが賄った。・・・・5億円の借金返済をしながらだ。

昼はコンビニおにぎり2個までと決めていた。
・・・・駐車場会社での泊まり込み。毎日のお弁当は助かった・・・楽しみだった。


無人店舗を出る。
・・・・雨に叩かれる。
冷たい雨だ・・・放射能が混じっているかもしれないな・・・・


・・・・もう・・・知ったことか・・・・


・・・・もう・・・人生にウンザリしていた。


毎日の救いは・・・亜貴との手紙だけだった。



「>亜貴・・・ずっとボクに抱かれて・・・お願い。

ずっと・・・カズくんに抱かれるよ・・・

カズくんに抱いて欲しいもん・・・
カズくんがいいんだもん・・・

愛してるよ。

すごく、すごーく愛してるよ」



亜貴だけが救いだった。
亜貴だけが夢だった。
亜貴だけが人生の希望だった。


亜貴に会ってリストバンドを交換しよう。
ふたりでお揃いのリストバンドをしよう。


・・・2ヶ月が過ぎた・・・・


感想 10

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