「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

文字の大きさ
3 / 99

「無機質な機微」氷塊。



「東京なんて行ったことない・・・・・一回だけ、ディズニ―ランドだけ・・・」

「いや、ディズニ―ランドは東京じゃないから(笑)」

そんな話をしていた。

彼女は宮城県に住んでいた。
ボクは東京。

ずっと、建築関係の仕事だ。
仕事は出張も多かった。
これまで、日本全国、いろんなところに行ったことがある。

・・・今でも、いろんなところに行く。

インターネット時代の今、仕事の依頼は日本全国からやってくる。

九州に朝一番の飛行機で現場に入り、施工の指示を出す。
そして最終便で東京へ戻る。そんな強行軍をやらかすこともあった。

・・・もちろん、それは特殊なケースだけど。

そんなこんなで、東北にも仕事で入ったことはある。

特に宮城県には仙台がる。
東北の玄関口だ。
なんども足を運んだことがある。

「そうなんだぁ~~~」

彼女は感嘆していた。

地元の専門学校を卒業して歯科衛生士に。
すぐに結婚して、子供ができた。

ずーーっと地元にいる人生。
県外に出たい気持ちはあったけど、親が許してくれなかった・・・・と。

「ピグ」がわかればブログもわかる。

彼女は、なんでもない日常を綴っていた。
人となりが垣間見えた。

仲のいい家族・・・・彼女、旦那さん、そして娘さん。幸せ家族のブログがそこにあった。

旦那さんは、彼女のことを思い、誕生日にはケーキを買って帰る。
彼女も旦那さんのためにケーキを焼く。
そして手作りの美しい料理が並んでいた。

・・・・美しい料理だった。

「美味しそう」というのとは、ちょっと違う。
レストランのメニュー画像のような料理が並んでいた。

日常の「家庭料理」を、これほど美しく感じたことがなかった。

そして、夫婦が、どれだけ娘さんを愛しているかがわかった。

絵に描いたような「幸福家族の肖像」がそこには綴られていた・・・・


ボクのブログは植物の生育日記と食べ歩き。・・・・登場するのは、お嫁さん。そして仕事仲間。・・・たまに、今もつきあいが続く地元の友達。
ここにも「幸福家族の肖像」が見えているに違いない。

ブログがあれば、人となり、バックボーンがわかる。

彼女は、建てたばかりの一戸建ての庭で花を育ていた。植物の会話でも盛り上がっていく・・・・

気がつけば1時間以上が経っていた。

今日は、ボクに次のスケジュールがある。
客先でのミーティングが入っている。

「もう行かなきゃ・・・・」

「うん、私も。今日こそイオン行かなきゃ(笑)」

「近いの?」

「うん、近いよ。だからすぐ行ける。10分くらい(笑)」

・・・・それでも、後ろ髪を引かれた・・・
いくら話しても話は尽きない・・・


それでも、ブログはわかった。
ピグの部屋もわかった。
どこの誰だかわからないってわけじゃない。


「これから毎日 きたよ するからねー」

「うん きてね 私も きたよ するからね」


ピグの部屋には「きたよ」という、文字通り部屋に来たことを残すシステムがあった。
「いいね」をするようなものだ。

お互いにピグの部屋に入る許可を与えた。
これで、ボクは大手をふって彼女の部屋に出入りができる。
彼女がボクの部屋に来てくれる。


「ピグとも」になった。
「ピグとも」になれば、お互いが「IN」しているのがわかるようになる。
入っていなければピグは白黒で表示され、「IN」していればカラーで表示される。
相手が自分の部屋に来れば、すぐに表示される。

お互いが「ピグ」に入っていれば、すぐに会える。


・・・・もう少し話したい・・・・お互い、そうだったに違いない。

・・・しかし、今日は本当に時間がない。

「じゃあねー」

ボクはピグの部屋を後にした。



電源を切りPCをカバンに納めた。
プリウスの電源ボタンを押して始動させる。・・・プリウスは車じゃなかった。これまでの車のようにセルモーターが回ってエンジンがかかることもない。
家電と同じ・・・PCと同じように電源スイッチを押して始動させる。

束の間の仮想現実から、ウンザリするリアル現実に戻る。

毎朝の通勤ラッシュ。緩和されることのない慢性的な渋滞。・・・バブル崩壊から下げ止まらない不景気・・・

・・・世の中が嫌になっていた。もう、とっくに人生が嫌になっていた。

心の中に氷があった。
決して溶けることのない氷。
・・・・冷たく重い「氷塊」を抱えこんでいた。

南極の氷には年輪があるんだという。

その年輪から、その氷がどのような歴史を刻んできたかがわかるという。

ボクの「氷塊」にも、深い年輪・・・深い傷が刻み込まれているんだろう。

・・・子供時代・・・そして、最近では10年前か・・・

もう人生に熱くなることはない。
決して氷が溶けることはない。


・・・・ハンドルを切り、渋滞の17号線に入っていく。


彼女のピグが頭から離れなかった・・・・


ピグはピグでしかない。
データ、デジタルの世界の産物だ。
その表情からは感情はわからない。
人間が発する心の機微はわからない。

・・・・いや、わかった。

・・・毎日会いたかった。
毎日、話したかった。

・・・・そして毎日会った。毎日話した。


無機質な「ピグ」の表情から、お互いが、お互いの心の機微を感じとっていった・・・



感想 10

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。