30 / 99
「君の名は」幽霊かと思った・・・
不意に ゆい がピグに現れた。
「ゆい・・・」
「カズくん」
固まった。
画面の中でふたりのピグが固まっていた。ふたりとも立ったまま動けなかった。
小さく床が揺れている。毎日毎日余震が続いている。未だ治まる気配がない。
・・・いつ、また、ネットが落ちるかわからない。
それほどノンビリ話せる状況だとは思えない。
ゆい が話す。
地震直後に停電になった・・・・
家自体は、それほど損傷を受けていない。ただし、電気・・・水・・・ライフラインが止まった。それで避難所へ行った。
ようやく電気も復旧・・・・まだ断続的に停電になるけど・・・それで、家の様子を見に来た。またすぐに避難所に戻らなきゃならない、と。
・・・そうだったのか・・・
・・・やっぱり生きていてくれた。
そして、避難所生活だったんだ・・・思った通りだった・・・
床が揺れ続けてる・・・
工場の屋根が落ちた・・・エレベーターが緊急停止して閉じこめられた。・・・そんな話が身近で起こっていた。・・・ボクも危うく閉じこめられそうになったことがある。
ゆい だけじゃなかった・・・・ボクには連絡のとれない人が未だに何人もいた・・・・
・・・・ゆい は生きていてくれた。
良かった・・・・本当に良かった・・・
単純に嬉しかった・・・ホッとした・・・
でも、あまりにも突然のできごとで呆然としていた。
・・・なんと言えばいいのか・・・言いたいことはいっぱいある。言うべきこともいっぱいある・・・なのに言葉が出てこない。思いつかない。
ピグのふたりが無言で立っていた。
立ち尽くしているように見える。
「カズくん・・・手紙読んだよ・・・・」
ゆい の無言は、ボクの手紙を読んでいたからだった。
そこには、ボクの2週間以上、毎日毎日毎日・・・そして1日に何回も書いた ゆい への気持ちが綴られていた・・・
「うん・・・」
それしか言えない。
最初は ゆい の安否を心配する手紙だった。・・・また、すぐに会えると思っていた。
しかし、1日、2日・・・5日・・・ゆい は音信不通となった。・・・ゆい と、このまま会えなくなってしまうんじゃないか・・・「心配」から「不安」へと変わった。
・・・後悔していた。気持ちを言えなかったこと、気持ちを伝えなかったことを後悔していた。
受け入れられなくたっていい。
ボクが ゆい をこんなにも愛していると伝えておきたかった。
間違いなく、人生で一番の「恋」だった。
人生で一番の「愛してる」だった。
気持ちを伝えずに離れ離れに・・・この後、一生、離れ離れになってしまうという恐怖・・・そして、後悔・・・せめて気持ちを伝えておくべきだった。
ゆい の心の片隅に、ボクの気持ちを留めたかった・・・
・・・・切々と書き綴った。訴えた。
ゆい が・・・貴女が好きだと・・・人生で一番の恋だった、と・・・
10日を過ぎても ゆい からの返事はない・・・
「生きてる」
信じてはいた・・・・でも、それは「信じたい」という気持ちが、希望が含まれていた・・・ ゆい が死んだとは認めたくない・・・
だからこそ・・・いつからか手紙は、ボクの中で「読まれることのない手紙」へと昇華されていた。
・・・だから、素直に、言葉を飾ることなく、ありのままの言葉で綴った。
「生きていてほしい!」
「ゆい が、貴女が大好きなんだ!」
魂からの叫びをそこに綴った。
「愛している」・・・その言葉こそは使わなかったけれど・・・それ以上の気持ちと、ゆいに会えない泣きごとを綴った。
・・・・その手紙を ゆい が、今読んでいた。
気恥ずかしさ・・・しかし、読まれること、日の目を見たことの方が嬉しかった。
・・・・一生読まれない悲しさから比べれば、読まれる気恥ずかしさの方が良いに決まっている。
・・・それでも、何も言えなかった。何を言えばいいのかわからない・・・
そもそも、ゆい の反応がわからない。
これで「告白」をしてしまったことになる。
ふたりの関係に白黒をつけなければならなくなった。
・・・震災前にも、想いを伝えようとしたことはある・・・「告白」しようとしたことはある。
・・・できなかった・・・できなかったのは、絶対に ゆい は受け入れないと思ったからだ。
「告白」した段階で ゆい はボクの前からいなくなると思ったからだ。
ゆい を失うことが怖かった。
「告白」せずに ゆい と「ピグとも」で居続けることを選んだ。
「震災」が起こり、ゆい を失い、図らずも告白することになってしまった。
泣きながら告白した。綴った。訴えた。
・・・・ゆい は受け止めるのか。
・・・それとも・・・・
ピグの「カズくん」は、ランニングシャツ1枚で無言で立っている。
判決を待つように直立不動で立っている。
・・・ゆい の言葉を待つ。判決を待つ・・・
・・・・地震!
大きい!
東京、宮城、お互いの地面が揺れていた。
・・・・また会えなくなる。
停電になれば、ネットが落ちれば、また会えなくなる。
・・・嫌だ・・・・もう嫌だ。
これ以上 ゆい と会えない生活は耐えられない!
2週間会えなかっただけで憔悴し切った・・・ゆい をどれだけ愛しているかを思い知らされた。もう、片時だって ゆい と会えない生活は耐えられない!
地面は揺れている。大きい。本棚が軋んだ音をたてている・・・いつ停電になるか、いつ回線が遮断されるかわからない。
勇気を振り絞った。
ボクは言った。・・・キーボードを打った。
「名前教えて」
一瞬の間。躊躇。・・・・そして
「進藤亜貴子」
「電話番号教えて」
ゆい いや、亜貴子が電話番号を知らせた。
地面の揺れが止まらない。
「カズくん、行かなきゃ・・・・」
「うん」
亜貴子が消えた。
・・・・・漆黒の中で目覚める。
布団を抜け出す。
仕事部屋に入りPCを立ち上げる。
リビング。
窓の外は明るくなっている。
・・・ベランダに雀がいた。・・・たまに見かけることがある。鳩がいることもある。
今日はいい天気だ。快晴だ。
大きく伸びをした。
日経新聞を読みながら珈琲を飲む。
プリウスに乗り込み客先に向かう。
ミーティングは問題なく終了。
車をコンビニへと入れた。
食料品は少ない。
残っていたオニギリと、残っていた菓子パン、そして缶珈琲を買う。・・・今日は、お気に入りのジョージア・ブラックがあった。よかった。
プリウスに日差しが入る。
「今日はいい天気だよ あったかくなってきたしな」
オニギリを食べながらメールを打つ。
すぐに着信音がした。
「こっちもいい天気だよ まだ寒いけどねー 今お昼なの?」
亜貴からのメールだった。
・・・亜貴と呼んでいた。
長い間 ゆい と呼んでいた。そこから「亜貴子」とは呼びにくい。
省略して2文字で亜貴と呼んだ。
ピグで1日に何通も手紙を書いた。
その手紙が、1日に何通もの携帯メールになった。
食べ終わって、ゴミ袋を持ってプリウスから降りた。
今日はいい天気だ。
春らしく、暖かくなってきた。
・・・・地面は相変わらず揺れる。
のべつ幕なし緊急地震速報が鳴り響く。
原発は予断を許さない。・・・自衛隊ヘリが海水を浴びせていた。
イオンでも食料品は不足している。
ガソリンスタンドは給油制限だ。
計画停電で工場の操業が止まっていた。
被災は進行形。復旧のメドすら立たない毎日だ。
・・・・それでも春はやってくる。
亜貴が生きていた。
亜貴とメールで繋がった。
・・・メールをすれば返事がきた。
ゴミ箱に袋を棄てた。
大きく伸びをする。
・・・・亜貴の声が聞きたいなぁ・・・
まだ、声を聞いたことはなかった。
見上げれば青空だった。
なんだか埃っぽい。
放射能が混じっているかもな。
それでも、春の青空だった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。