「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「今日も会いたい」理由。



フロントガラスから見える空が青い。
目的地はナビに入れてある。残りの距離は200kmを切った。
プリウスの時計が11時を回った。

パーキングに入る。
売店で買ったオニギリ2個をお茶で流し込む。・・・亜貴にメールする。
自動販売機でジョージア・ブラックを買った。

・・・・静かだ。
快晴だ。パーキングの周りの新緑がきれいだ。

駐車場に止まっている自衛隊車両、消防車両、警察車両・・・不釣り合いな、穏やかな陽差しを浴びていた。
窓に反射している光が眩しい。

ヘルメットをキッチリと被った自衛隊員が売店を行き来している。
・・・・彼らは、皆一人で行動していた。
決して3人、4人と徒党を組むようには歩かない。・・・そして歯を見せて歩くようなこともしない。
軍服を着た人間が、休憩、食事とはいえ徒党を組んでいるのは・・・ましてや歯を見せ喋りながら歩くのは威圧感がある。・・・そんな配慮があるのかもしれない。
何より、これから向かうのは、未曽有の震災の被災地だ。歯を見せる心情など1mmもありはしないんだろう・・・すれ違う時、思わず頭が下がった。


駐車場に止まっている、横に大きく赤十字が描かれた自衛隊車両をボンヤリ見ていた。

・・・・考える。

携帯にメールの着信音。亜貴からだ。

・・・・考える。


立ち上がって大きく背伸びをする。・・・そのまま身体を右に倒す・・・そして左・・・

仕事で長距離を運転することがよくある。
休憩中に少し時間をかけてストレッチをするようにしていた。
背中を伸ばし、脹脛を伸ばし・・・固まった身体を解していく・・・

空き缶をゴミ箱に捨てプリウスに戻る。

・・・よし、決めた。そうしよう。

携帯を取り出した。


「・・・・会いたい」


亜貴に返事をした。

電源スイッチを入れ、プリウスを走らせる。


東北に近づくにつれ空が曇ってきた。・・・天候じゃない・・・空の明度が悪くなっていく・・・子供の頃に経験した光化学スモッグのような空だ。明らかに空に不純物が混じっている。緊迫感が増していった。



高速を降りた。

一般道に入る。
走っているのは・・・目につくのはダンプの隊列だ。そして自衛隊車両、警察車両・・・一般車両の割合が少ない。

粉塵が凄い。
空が黄色かった。明らかに黄色い粉塵が舞っていた。フロントガラスに薄っすらと積もっていくのすらわかる。
遠くに山々が見えた・・・それが霞んでいる。
・・・・そして・・・町並みが、村が、家々が青かった。
家の屋根が青かった・・・ブルーシートの群れだ。
未だ復旧の最中・・・いや手付かずの状態・・・・ようやく復旧が始まったといっていい時なんだろう。

道路は黒い・・・アスファルト色だ。しかし歩道は土色だ・・・土砂を被ったということか、そして歩く人がいない。だからいつまでたっても土色のままなんだろう。ところどころに廃材のようなものが山になっていた。

幹線道路から山道へと入っていく。・・・とはいえきれいな舗装された道路だ。
前にも後ろにも車がいない。すれ違う車にすら1台も出会わなかった。
ナビゲーションの示すコテージが見えてきた。
道路からの木製の大きな門をくぐって敷地に入っていく。

同じような造りのコテージがいくつも並んでいた。
コテージで、ひとつの町が形成されているくらいの規模だ。
キャンプやスキーなんかで使われるらしい。
近くにはテニスコート、体育館といったスポーツ施設も並んでいた。

ほとんど客はいないように思えた。
人影を見ない。止まっている車両もほとんどない。

元来が、レジャー用の施設、そこへの「震災」だ。
ガスは使えず、電気も1日に数時間は停電になる。
そして、山の中だ、近くに食堂もない。
人間が泊まりに来る要因がなかった。
・・・・おそらく「災害ボランティア」だけなんじゃないかと思う。
そして、昼間のこの時間、彼らは活動中なんだろう。だから無人ということなんじゃないのか。


フロントの施設で鍵を受け取った。

与えられたのは一番奥まった場所のコテージだった。ログハウスでもなんでもない。小さな平屋のアパートといったつくりだ。

プリウスを玄関脇に止め、カバンを持って中に入る。

2Kだ。
8帖ほどのリビング・・・テレビと座卓、それに座椅子が置かれた居間。それとつながってキッチン・・・台所といった方がシックリくる。
同じく8帖ほどの寝室。布団が置いてある。

・・・どこか、誰か知り合いのアパートといった感じだ。すこし懐かしさにも似た郷愁を感じる。
気兼ねなく落ち着ける空間か。

・・・しかし、居間の壁にはヒビが入っていた。・・・いや、他にも数か所。
柱と壁の間に隙間ができていた。
キッチンへの扉が閉まらない。開きっぱなしだ。
地震で「建てつけ」がずれてしまったんだろう。

台所の隣のシャワーを浴びた。
・・・・水しか出ない。
4月とはいえ、まだ寒い。身体が冷えた。

地面は揺れていた。絶えず揺れていた。
しかし「揺れ」の種類が違っていた。

震源地・・・・被災地の真ん中だからということか、地震の力を強く感じた。
同じ「震度3」でも、その「底力」が違うように感じる。
地面の・・・文字通り地面の下から一気に「ドン!」と突き上げてくる地震だ。

着替え終えてテレビをつけた。
座椅子に座れば、常に地面が微動しているのを感じる。


亜貴からメールがくる。


「今からなら行けるけど・・・ナビで検索したら・・・家からカズくんのとこまで22キロってなったよ・・・ちょっとしか会えないけど、いい?」


・・・夕方には、娘さんを迎えに行かなきゃならない・・・だから、本当に滞在時間は短いんだろう・・・30分強といったところか・・・

・・・でも・・・少しの時間の方がいいんだ。


「少しでも会いたいから来て・・・」


亜貴に返事をした。


今日は会う予定にしていなかった・・・・ボクが、いつ到着するかわからなかったからだ。

途中、到着のメドがついた段階・・・お昼にオニギリを食べた時に「今日も会いたい」とメールした。


・・・・いきなり、明日会うのが怖かったからだ。


明日は午前中から会うことになっている。
亜貴がお昼ご飯を買って来ることになっていた。


「ドン!」

床から突き上げられた。ドドド・・・と地響きが聞こえるほどの地震だ。震度はそれほどじゃないだろう。それでも東京で感じるのとはケタ違いのエネルギーを感じる。・・・・しばらく揺れる・・・そして治まった。


亜貴と初めて会う。


それに、ボクは400kmからの距離を・・・しかも、まだ余震が続く中をやってきた。
・・・・文字通り「命がけ」の行動だ。

目的は「亜貴に会う」それだけだ。

午前中から会う。
そこには、お互いの「1日一緒にいる」という意思があった。

・・・・しかし、もし、明日、会って・・・亜貴がガッカリしたらどうなんだろう・・・

亜貴の中でのボクと、実際のイメージ・・・何かが違う・・・

そのあと、亜貴の、礼儀として、我慢しながら一緒にいるという姿を見たくなかった。
・・・・途中で「ちょっと用事を思いだして・・・」と早々に帰られてしまう。そんな姿も見たくない。

・・・・だから、あらかじめ今日会った方がいいと思った・・・


会う前に一応写真は送った。
拒否られはしなかった。
でも、容姿には、どうしょうもない「生理的」なものがある。
・・・・どうにもこうにも受け付けないってものがある。

・・・・被害妄想かもしれないけれど、ボクは、それくらい「容姿」に自信がなかった。


テレビからは、アナウンサーが震災関連の情報を話していた。
さっきの地震に関しては何も言わない。
いっこいっこの地震を話題にすることもできないほどに地面は揺れていた。
ここでは・・・被災地では、地面が揺れ続けているのが日常だった。


今日「試しに会う」
それで亜貴にジャッジをしてもらえばいい。

明日1日一緒にいたいと思うかは亜貴が決めればいい。

「ちょっと用事ができちゃって・・・・」

今日の夜に、そんなメールがきてもかまわない。


・・・・もとより、
フラれるために会いに来た・・・失恋するために会いに来たんだ。
この辛い「純愛」を終わらせるためにボクは東北へ・・・命の危険すら冒して亜貴に会いにやってきた。

亜貴にも、ボクの「今日も会いたい」という意図は通じてるはずだ。

亜貴から返事がきた。


「うん わかった すぐ行くから待っててねー」




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