「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「初めて会った」フリーズ・・・救った一言。



「もうすぐ着くよー」

亜貴からメールが届いた。

ボクは窓際に立った。そこからならコテージの門・・・入口が見える。
街中と違って、ここの空気は澄んでるように感じた。・・・山の中だからだろう。穏やかな陽の光が注いでる。


・・・車がコテージの門を入ってくるのが見えた。

・・・・亜貴だ!

エントランスで車が止まった。
携帯が鳴った。


「今、ボクからは見えてるよ・・・そのまま真っすぐ・・・突き当りの建物だよ・・・」


亜貴の車がゆっくりとこちらに進んでくる。・・・中で電話している亜貴が見えてきた・・・

コテージの前に停車する。電話を切った。


・・・・降りてきた亜貴。


・・・思わず息を飲んだ。
ジーンズの足が長い・・・薄い黄色のロングカーディガン。
肩にかかる髪。品のいいブラウンが春の光の中で輝く。
笑顔でこちらを見ている。


ドアがノックされる。開けた。亜貴が入ってくる。
背が高い。
・・・・ボクと同じくらいか・・・少し高いかもしれない。
・・・そして笑顔。眩しい笑顔だった。


「これ、買ってきたよ」


お弁当屋さんでご飯を買ってきてくれた。
この辺の食堂はやっていない。
しかし、亜貴の家の方のお弁当屋さんは営業してるんだそうだ。


座卓を挟んで座る。・・・座卓は長方形で、上座といっていい場所にボク・・・ボクから見て左列、ひとり分空けて亜貴が座った。

座卓の上にお弁当の袋。

亜貴が見つめていた。・・・亜貴に見つめられていた。
真直ぐにボクを見つめてくる。
印象的な瞳だった。・・・・濡れてるように輝く瞳だ。

「濡れるような瞳」・・・表現として、活字では読んだことがある。しかし、実際にお目にかかったことはない。・・・・初めて見た。
・・・・そして、笑顔だった。
ホントにホントに眩しい笑顔だった。

亜貴の笑顔が眩しかった。
これまでの人生で笑顔を眩しいと感じたことはない。
そんな経験をしたことがない。

初めてだった。
・・・・ボクは見つめ返すことができない。
見つめるどころか、満足に顔すら見られなかった・・・どこを見ていいのかわからない。
下を向くのも失礼・・・だけど、どこを見ればいいんだ・・・??

言葉は悪いけど「蛇に睨まれた蛙」のようだった。
亜貴の眩しい笑顔に固まってしまっていた。フリーズしてしまっていた。
・・・・心臓だけが早鐘を打っていた。
本当に、口から心臓が出てくるって表現は有りなんだと思った。
自分の心臓の音が自分で聞こえた。

「眩しい笑顔」だけじゃない。亜貴は美しかった・・・・もう形容詞が思いつかない。
誇張じゃなく、こんなに美しい女性がいるんだろうかと思った。

・・・・いや、テレビの世界なら、芸能人なら、そりゃいるさ・・・そうじゃなく、一般の女性で、一般の主婦で、こんなに美しい女性がいるんだろうかと思った。
ブログを見ていた時・・・埃ひとつ落ちていない部屋・・・染みひとつないキッチン・・・そこから想像していた女性と、現実の亜貴は見事に一致した。・・・いや、容姿を想像したことはない・・・雰囲気、空気感が見事に一致していた。

大きな目、そして瞳。シャープな顎のライン。
綺麗な白い歯が笑顔から覗いていた・・・さすがに歯科衛生士だ・・・・
キリっとした眉が、全体の印象を「美人」として整えている。
にもかかわらず、絶やさない笑顔が・・・微笑みじゃなかった。・・・笑顔が人懐っこく、美人特有の「ツン」とした感じを消している。
東北美人の特徴で色が白い。それを引き立たせる・・・肩にかかる髪は黒色・・・光が入れば微かなブラウン。綺麗なウェーブがかかっていた。

・・・亜貴の笑顔から「嬉しさ」を読み取った。

・・・ボクに会えて嬉しいってことなのか?・・・え?ボクで?・・ボクで??・・ホントに?ホントにそうなの?
半信半疑が拭えない・・・亜貴の美しさを目の当たりにして、なおさらに半信半疑が拭えなくなった。
・・・こんな美しい女性が、ボクに会えて嬉しいって思ってるの・・・?ガッカリしてない・・?

・・・・こんなことがあるんだろうか・・・

ボクは・・・ボクは・・・

「フラれるために会いに行く」

そう思って亜貴に会いに来た。
それは事実だった。

・・・それは、自分の「容姿」にまったく自信がなかったからだ。

ボクは・・・「自分がフラれる」としか考えなかった・・・だから、そこで思考停止をしていた。亜貴の容姿は考えないようにしていた。


・・・・そもそも、できすぎの話だ。

ピグで会って、話が合って・・・・そして、お互い「好き」になる。

・・・これだけで奇跡だ。

そして、「会いたい」とお互いが思い、そして「会う」

・・・ここまででいくつの奇跡が積み重なる?・・・・確かに「震災」という要因がなかったら会わなかったに違いない。

さらに、そこで、相手が「美人」だった・・・・そんなことはありえるはずがない。
そんなことは、映画や小説でもあり得ない。
あまりに出来過ぎで、恥ずかしくて制作できないくらいのご都合主義の設定だ。

亜貴の容姿を考えることは、亜貴に対して失礼だと思っていた。

・・・ボクは亜貴の内面を愛したんだ。
ピグで・・・電話で・・・話しただけで愛してるんだ。

亜貴の容姿は関係ない・・・
そう思っていた。

・・・・裏切られた。
見事にボクの傲慢な考えを裏切られた。

・・・亜貴の容姿を考えない。
そこには「自分のために」という思いもあった。

人間社会には「類は友を呼ぶ」という言葉がある。
いい意味でも使われるけど・・・単純に、同じような人間が群れてテリトリーを作るという意味だ。
亜貴がボクと同じ種類の女性であれば、ボクが許容されるんじゃないかと思った。
亜貴を愛している・・・亜貴と一緒にいたい・・・そのためには同じ世界の女性のほうがいい・・・そんな思いがあった。
・・・だから、亜貴の容姿を考える必要がなかった。


見事に裏切られた。
雑誌でしか見たこともないような、美しい女性が目の前にいた・・・
嬉しい裏切りではあったけれど・・・


・・・・こりゃダメだ・・・


これでは、亜貴とボクでは、住む世界が全く違う。
やっぱり「フラれる」完全にフラれると思った。
・・・まぁ、フラれるためにやっては来たんだけどさ・・・

あまりの亜貴の美しさに・・・嬉しさもありながら、100%フラれることを覚悟してしまい、歓びと絶望とがゴチャ混ぜの混乱状態だった。
・・・いやホントに混乱の極致だった。
何からどう考えていいのか・・・頭が全く整理できない。


亜貴は笑顔で、真直ぐボクを見つめてくる。

・・・・ボクは、亜貴の眩しい笑顔にアタフタしていた。額に汗が浮く・・・まったく言葉が出ない。
「フリーズ」という言葉が一番適切だ。

亜貴が何かを話している。
一応、作り笑い・・・引きつった笑顔で頷いてはいた。相槌も打ってはいた。でも全然話は入ってこない。・・・もちろん亜貴のことを見るなんてできやしない。

・・・ついに、沈黙。・・・に近いような状態になる・・・・


「とりあえず、お湯沸かそっか?」


亜貴が笑っている。

見事に言われた。
そう、約束していた。会ったらボクは何も言えなくなってしまう・・・そしたら「とりあえずお湯沸かして」と。

思わず亜貴の顔を見た。見つめあった。
アタフタ作り笑い・・・いや、爆笑に近かった。

一気に肩の力が抜けた。

・・・・亜貴に救われた・・・

・・・なんて素晴らしい女性なんだろうと思った。

ボクは、間違いなく亜貴を愛している。・・・その想いが加速していった・・・


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