「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「甘いキス・・・火花が散った」愛してるを伝える。



真っ暗だ。・・・漆黒の中にいる。
そして静寂。・・・物音ひとつしない。

布団の中にいた。
見つめる天井も漆黒の先だ。

・・・眠れない。

「とりあえず、お湯沸かそっか?」

亜貴の眩しい笑顔が頭をよぎる。

・・・明日は、午前中から亜貴が来てくれる。
眠れないのは興奮からか、緊張からか・・・・

「ドン!」と背中を突き上げられるように地震がくる。
寝室は畳敷きだ。その床下、地面から文字通り突き上げられるように地震がくる。
こうして身体を横たえていれば、尚更に直に地震を感じる。

余震は続いていた。
時々、地面から叩かれたような地震がくる。
震度自体は大きくないんだと思う。
ただ、被災地の余震には・・・なんというか・・・「底力」を感じた。

・・・これも眠れない要因だった。


「大きな地震がくる」


まことしやかに噂が流れていた。・・・亜貴からも聞いた。ここ東北では、通常の大手新聞にすら記事として書かれていた。・・・驚いた。

常に揺れていた。常に微振動のような揺れがあった。一向に揺れが収まる気配がない。

携帯を開いて時間を見た。・・・2時前か・・・こうしてダラダラと2時間近くを過ごしていたことになる。


諦めて起き上がる。

ポットからお茶を入れた。
窓から夜空を見上げた・・・・新月に近い・・・星が点在していた。


・・・・ここで死んじゃったらどうなるんだろうな・・・


昼間見たブルーシートの家々・・・緑色の自衛隊車両・・・ダンプの集団・・・道路端に積み上げられた廃材・・・黄色い粉塵・・・そして絶えず揺れる地面・・・大きな地震がくる噂・・・

・・・大きな地震がきて、建物の下敷きになって、ここで死んでしまったらどうなるんだろう・・・

・・・ボクは、名古屋に行っていることになっている。
遺体が宮城県・・・・ここは福島県か・・?・・いずれにしろ、ここで発見されたらどうなるんだろうな・・・・

お嫁さんは、どう思うんだろう・・・
ちょっとした映画とか小説の世界・・・・ミステリーになってしまうな・・・

・・・・お嫁さんは、ちゃんとひとりで眠れているかな・・・・



「ドン!」

突き上げられる地震で目覚めた。
寝室・・・布団の頭側の窓は一面ガラスのサッシで、カーテンが掛かっている。その隙間から朝の光が入っていた。

備え付けのインスタントコーヒーを淹れる。テレビをのんびり見る。
水しか出ないシャワーを浴びた。

身体を拭いていたら携帯が鳴った。メールの着信音。

「もうすぐつくよー」

亜貴からメールがきた。

昨日会ったことで落ち着いていた。
そして、昨日の夜の亜貴からのメールで完璧に落ち着いた。
・・・・亜貴の優しさが身に染みた・・・・

今日はちゃんと伝えなきゃ・・・
「愛してる」って・・・亜貴にちゃんと伝えるんだ。



コーヒーカップを持って窓から見ていた。
コテージに亜貴の車が入ってくる。

車を降りる亜貴・・・笑顔だ。・・・眩しい笑顔だ。
・・・・なんか、ホントに思わず見とれてしまう美しさだ・・・



亜貴が、お茶を入れてくれた。

二人でお弁当を食べる。

座っていたのは昨日と同じ場所。
亜貴が笑顔でいてくれる。緊張が溶けていった・・・それでも亜貴を見つめることはできない。テレビを見ながら亜貴を盗み見た。
亜貴は真直ぐ、ずーーっとボクを見ている


「そんな見つめないでよ・・・恥ずかしいじゃん・・・」

「だって「生カズくん」だって思って・・・嬉しくて」


亜貴がニコニコ笑いながら言う。

負けじと見つめ返した。
ニラメッコみたいだ。

・・・・見つめれば見つめるほど・・・溜息しか出ない美しさだ・・・
間違いなく、ボクがちゃんと会話した女性史上、最も美しい女性がそこにいた。
・・・ダメだ。照れて見つめられない・・・・思わず下を向く。


「カズくんの負けね」


亜貴の弾ける笑顔だ。


・・・・今日は伝えなきゃ・・・
「愛してる」ってちゃんと伝えるんだ。



建物の裏手、寝室の一面サッシを開ければ、ちょっとしたバルコニーのようになっていた。
小川が流れていて、対岸には木々が生い茂っている。森になってる。こちら側に人が入ってくることはない。
木製の小さなテーブルがあって、小さな椅子があった。
そこに出てコーヒーを飲んでいた。・・・ボクはブラックで、亜貴は砂糖とミルクを入れて。
ビックリするくらい素敵な場面だった。

コーヒーカップを持つ亜貴の爪が綺麗だ。程よい長さ・・・そして、光ってる・・・なんていうんだろう「いかにも」といった色がついてるわけじゃない。でも肌色・・・透明とは違う・・・微かな桜色に光っていた。・・・こんな風に、爪にまで神経を行き届かせている女性に人生で出会ったことがない。

天気が良かった。
山の中なので空気が澄んでいる。
4月とはいえ、肌寒い・・・・
陽の光を浴びて小川が輝いている。


・・・・静かだ・・・

「愛してる」って伝えなきゃ・・・


欄干に寄りかかって小川を見ていた。・・・何か魚はいるのかな・・・?
・・・・隣に、手の届くところに亜貴が座っている。・・・触れたい・・・亜貴に触りたい・・・


静かだ・・・・

「・・・・ブラックしかダメなんだ・・・ミルクが苦手で・・・缶珈琲も色々あるけど、ジョージアブラックが一番・・・」


つまらない話をしている。自分でもわかっている・・・会話が止まるのが怖い・・・亜貴から笑顔が消えるのが怖い。
つまらない話を喋り続ける。
わかっているんだろう、亜貴もわかってくれてるんだろう・・・つまらない話を「そうだよね」「そうなんだぁ~」とニコニコしながら聞いていてくれてる・・・


「愛してる」って伝えなきゃ・・・


「ドン!」と地面が揺れた。亜貴の小さな悲鳴。


・・・揺れはすぐに治まった。


亜貴と目が合った。
キラキラと潤んだ瞳・・・・

もう、我慢できない。

思わず抱きしめた。
亜貴の顔がボクの胸にあった。
・・・・心臓が破裂しそうなくらいフル稼働していた。
外からでも音が聞こえるんじゃないかってくらい鼓動が大きかった。速かった。


「・・・すごいよ・・・心臓」

亜貴の笑顔。


亜貴の腕を掴んで部屋に入る。
端から見えれば、強引に亜貴が引っ張られているように見えただろう。

布団に倒れこんだ。・・・腕の中に亜貴がいた。
見つめあう。・・・瞳に拒絶はないと思った。
唇を奪う。


・・・・キス。


唇から火花が散った。・・・火花だ・・・こんな経験は初めてだった。
止まらない。舌が絡み合った。
貪るように舌を絡めあった。


・・・・なんなんだコレ・・・・


甘いキスだった。


「甘いキス」


聞いたことはある。
・・・でも「比喩」でしかないと思っていた。
「火花が散る」・・・・比喩でしかないと思っていた。
・・・・違った・・・あった。現実にあった。
そんなキスがあったんだと初めて知った。


舌が絡みあう・・・・止められない・・・・貪り合う・・・
亜貴の甘い味を貪った・・・・


唇から火花が散った・・・脳がショートした・・・ショート・・・日本語では短絡だ・・・短絡思考になったボクの脳は、もう何も考えられない。


・・・「愛してる」と伝えることにすら脳が働かない。
舌を離し、唇を離し、一言「愛してる」と伝えることすらできない。

もう、何も考えられない。
ただ、本能のままに身体が動いた。我慢できなかった。

ただ、亜貴の唇が欲しかった。ただ亜貴の舌が欲しかった。
キスをし、舌を絡めた・・・亜貴に触れていたかった。亜貴と繋がっていたかった。


・・・初めてだった。


キスはSEXへの通過点だと思っていた。
キスを重要なものだと考えたことがなかった。
唇と唇を接することに、何の意味があるのかとすら思っていた。
甘い幻想も何もない。
舌を絡めての唾液の交換に、いったい何の意味があるのかと思っていた。

キスはSEXへの通過点であって・・・高速道路なら入り口・・・料理なら前菜でしかない。
入り口は入り口の意味しかなく、前菜はメインディッシュのためにある。
プロローグはプロローグでしかない。プロローグだけで完結することはない。
前菜は前菜、メインディッシュじゃない。あくまでメインディッシュのため、メインディッシュを惹きたてるものでしかない。

キスはSEXへの前菜でしかない。

・・・・違った。

キスはキスというメインディッシュに成り得た。
亜貴とのキスは、それだけで十二分にメインディッシュに成り得た。

・・・いつまでも味わっていたかった。

亜貴の唇を、舌を味わっているだけで十二分に官能的だった。
次へ・・・亜貴の身体を味わいたいと・・・進みたいと思いながら、唇が、舌が離せなかった。

唇から・・・舌から発した欲情は下半身を直撃している。
ジーンズの中で痛いほどに欲情していた。疼いていた。・・・それでも、唇が、舌が離せない・・・今はただ、ただ、亜貴の唇が、亜貴の舌だけが欲しかった。

・・・・初めてだった。

もちろん経験が豊富なわけじゃない。
それでも、唇が、舌から離れられないといった経験はしたことがなかった。
キスをしながら・・・いやキスをしながらだからだからこそ、無意識に次の手順を考える。・・・キスが官能的なことはない。キスで感じることはない。キスで脳がショートすることはない・・・

人生で、これほど相手を求めたことは、欲したことは・・・夢中になったことはない。
亜貴は、ボクの人生で全く経験したことのない世界の存在だった・・・・

亜貴を求めた・・・もっともっとと求めた・・・舌から溢れる亜貴を求めた・・・舌が絡み合う・・・そして・・・そして、それはボクだけじゃない・・・亜貴の舌もボクに絡みついていた・・・


・・・そうだ・・・絡みつく、求め合う互いの舌が、痛いほどに「愛してる」と叫んでいた。


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