79 / 99
「旦那さんとSEXしちゃ嫌だ」東京リアル。
宗さんこと、さとう宗幸が喋っている。
テレビで「OHバンデス!」をやっていた。
運転席の亜貴と手を繋いでいた。指を絡ませて観ていた。
新幹線の白石蔵王駅。
隣接する駐車場に車を入れていた。ここからならホームまで5分もあれば行ける。
ギリギリまで一緒にいたい。
画面には時計が表示されていた。
別れの時間が迫ってくる。
・・・今度はいつ会えるかな・・・・
それでも、なんとなくは気分が楽だった・・・これまでよりは。
亜貴の処女をもらった。
亜貴もボクに刻印を刻んだ。
お互いの行為が許されたこと・・・それは、そのままお互いの「愛」の証でしかない。
遊びや、一時の快楽を求めてるんじゃないことの証だ。
これまで以上に、より強く絆を感じた。
もう離れ離れになることはできない。離れ離れになることはない。お互いの強い意志を感じた。
次がないんじゃないか・・・いなくなるんじゃないか・・・そんな不安がなくなった。
梅雨に入っていた。
細かい雨が降っている。
フロントガラスに雨だれが流れている。
全てのガラスに雨粒。
・・・そして、湿気で曇っている。
夕方だ。
薄暗さから更に外が見えなくなっていた。
平日の駐車場は車も多くない。
そもそも「白石蔵王駅」自体が、利用客が少なかった。
・・・・しかし・・・なんでこんなところに駅を造ったんだろう・・・不思議な駅だ。
東京から来ると、終点、仙台のひとつ前の駅になる。
仙台までの所要時間は15分だ。
その手前は、福島駅。所要時間12分。
新幹線ってのは、「速さ」が売りなわけで、「駅間12分」ってなところに駅を造るってのは意味がわからない・・・・まぁ、何らかの政治的な・・・・そんな「大人の事情」でできた駅なんだろうな。
そんなことで、全ての新幹線が停まるわけじゃない。停まるのは「やまびこ」だけだ。
それも理由だろう。乗降客自体が少なかった。
駐車場に車は少ない・・・・とはいえ、ほとんどが、新幹線への送迎なわけで、到着時刻になると車が増えてくる。
・・・こうしてる間にも、2台の車が入ってきていた。
黙って・・・・指を絡めて、画面を観ていた。
話すことはいっぱいある気がする。
話さなきゃならいことがいっぱいある気がする。
・・・・なのに思いつかない。
それに、何かを話すには、もう時間がない。
お互いの体温を感じていたかった。
絡んだ指先で、心が会話している。
「旦那さんとSEXしちゃ嫌だ・・・」
画面を見たまま、気持ちを絞り出すように言った。
・・・他に言い方がみつからなかった。
「うん・・・しない・・・できない・・・」
・・・たぶん、そうだろうとは思っている。
「もう目も合わせられない・・・触れられるのも逃げてる・・・子供がいるときはいいんだけどね・・・二人っきりの時は・・・怖い・・・」
事実だろう。
・・・ボクも・・・ボクもそうなっていた・・・・
お嫁さんとは一緒に寝ている。
同じ布団で寝ていた。
いつだって抱いて寝ていた。
付き合って・・・・一緒にいる時は、いつも抱いて寝ていた。
結婚してからは、毎晩・・・・いつも抱いて寝ていたんだ・・・・
・・・それが、亜貴と繋がるようになって「抱く」ことができなくなっていた。
「ギュってしてください」
不安を感じたように、お嫁さんに言われたことがある。
つとめて自然に、お嫁さんを抱きしめた。
・・・・その時・・・・ボクの身体には汗が流れていった。
冷や汗じゃない。・・・よく冷たい汗が流れる・・・そんな表現があるけれど、ボクの場合は、生ぬるい汗が背中一面に流れていた。手の平にもびっしょりと汗をかいていた。
・・・お嫁さんへの嫌悪感じゃない。
亜貴に対しての罪悪感だった。
・・・・おかしな言い分だけど、亜貴と「夫婦の絆」のようなものを感じてしまっていた。
もう、頭の中でも、そして身体も・・・亜貴が奥さんになっていた。
亜貴は・・・・恋人じゃない。彼女じゃない。奥さんだった。
お嫁さんといることに・・・亜貴に対して罪悪感を感じてしまっていた。
・・・・そして、たぶん、亜貴も同じなんだろう・・・
・・・お互いのリアルな生活の方が「浮気」ということになる。
・・・苦しかった。
常にふたつの世界があった。
東京でのリアルの世界。・・・リアルの身体が存在している世界だ。・・・生活があり、仕事がある世界。
もうひとつ。
頭の中には亜貴との生活があった。
ボクたちは、お互いの生活を把握していた。
常にメールで繋がり、お互いがどこにいるのか、何をしているかを完全に把握していた。
・・・もう、お互いを夫婦として認識してしまっていた。
そして、お互いが、この生活の方を大事だと思ってしまっていた。
・・・時間だ。
亜貴が唇を尖らせている・・・今にも泣きだしそうだ。
「まーたムンつけて」
笑顔で、亜貴のお母さんを真似た口調で言う。
亜貴が鼻で笑った。
「じゃあ。洗濯お願いね」
さらに畳みこむように、少しおどけたように言った。
絶対に切ない顔で別れたくない。
「はーい」
亜貴が笑顔を取り戻す。
亜貴に、シャツ、下着類を預けた。洗濯しておいてもらうことにした。
新幹線で来るのに少しでも荷物を減らしたかった。・・・・もちろん、亜貴に洗濯をしてもらうという幸せのためもある。
・・・むしろ・・・それが一番大きい。
平日。
夕方。
白石蔵王駅。
そして梅雨。
・・・人通りは少ない。曇った車内。外から中が見えることもない。
亜貴の手を引いた。
キスをする。
・・・我慢できずに舌を絡めた。
・・・断腸の思いで舌を離した。
車を出た。
亜貴に手を振る。亜貴も手を振っている。
駅の入口。
ガラス扉を開いて中に入る。
・・・すぐにカバンから携帯を取り出す。
電源を入れる。画面を確認しながら自動改札を抜けていく。
亜貴といる時には電源を切っていた。
電話に出るわけにもいかない。・・・出たくもない。
1分1秒だって、亜貴との時間を邪魔されたくなかった。
電源を入れていれば、出ないわけにもいかない電話もある。
出なければ、いらない詮索を受けることにもなる。
留守電を確認しながら長いエスカレーターを登っていく。何件か入っている。
ホーム。
留守電を聞く。
・・・すぐに新幹線が入ってきた。
新幹線に乗り込み指定席へ。
荷物を置いてデッキに出る。
折り返す必要のあるものに電話をしていく。
簡単な確認事項のような留守電ばかりだ。
そもそも、亜貴と会う日は電話に出られない。出るつもりがない。
そのために、その日までに仕事に支障のないようにと万全を期していた。
1件が終わり、2件・・・そして、最後の電話。
相手が出た。
「折り返しが遅くなりました・・・・」
話は納期・・・施工スケジュールの件だった。
品不足だった。
日本全国で資材が入らなくなっていた。
東日本が壊滅していた。
メーカーの製造ラインが止まっている。
流通も滞っている。
施工の発注をもらっても、なかなかスケジュールが組めない。
むかしから日本全国で仕事をしてきた。
出身地は関西だ。
ツテを頼って西日本・・・九州、四国の業者からも資材の手配をかけていた。
それによって進められた案件は多かった。
本当に助かっていた。
特に、地元、関西勢の仲間たちは、「支援」の意味を込めて手を貸してくれていた。
「阪神淡路の時には世話になったからな」
そう言って、みんなが助けてくれた。
九州勢の手助けも大きかった。
ひょんなことから九州の会社と取引が始まり、それが大きくなっていた。売り上げで一番・・・いや、利益で一番大きかったのは九州だった。
そして、地理的に、一番震災の影響を受けていないのが九州だ。
それで、比較的、資材の入りがスムーズだった。
そのルートを使って仕入れを行った。
「情けは人の為ならず」
人と人との繋がりで、人間は生きている。
生かされている。
それを実感していた。
電話で進捗状況を説明する。
新幹線の窓の外。
東北の景色が流れていく・・・・
誰も知らない、亜貴との秘密の世界から、ビジネスモードへと頭を切り替えていく・・・
東京。高層ビルが立ち並ぶリアル世界へと頭を切り替えていく・・・
ビジネスモードの声・・・そして会話・・・・
新幹線のデッキからは電波もよくない。トンネルでは会話も途切れてしまう。
「電波良くないですね・・・どこにいらっしゃるんですか?」
気心の知れた顧客が言った。
「珍しく新幹線の中なんです・・・・名古屋からの帰りです」
普段は車移動だ。
電車に乗る事自体が少ない。
嘘をついた。
名古屋には、お世話になっている大きな顧客がいる。毎月のように名古屋には行く。電話の顧客もそれは知っている。
なんの疑念も抱かず、納得した。
電話を切った。
この日、この時、この時間・・・ボクが東北にいることは、世界中で亜貴以外は誰も知らない。この地球上で、二人だけの秘密の時間だった。
ここで死んだらどうなるんだろう・・・・
地面は揺れている。
絶えず揺れている。
震度5クラスの地震など珍しくもない。
マンションのエレベーターが停まるなんぞも珍しくなかった。
もし、再びの大地震によって新幹線が停まったなら・・・津波に呑まれてしまったなら・・・・
・・・ボクの遺体が、この地で発見されたなら・・・・
ここで死んだらどうなるんだろう・・・・
・・・・車窓からは東北の山々が見える。
山々が後ろに向かって流れていく。
東北を後にしていく・・・・
・・・・亜貴から離れていく・・・・
亜貴から離れていく。
亜貴から離れていく。
亜貴から離れていく。
新幹線のドアにもたれ、東北の山々を眺めた。
もう、亜貴から離れたくない・・・・
・・・・もう、無理だ・・・
亜貴と一緒にいたい・・・・
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。