「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「旦那さんとSEXしちゃ嫌だ」東京リアル。



宗さんこと、さとう宗幸が喋っている。
テレビで「OHバンデス!」をやっていた。

運転席の亜貴と手を繋いでいた。指を絡ませて観ていた。


新幹線の白石蔵王駅。
隣接する駐車場に車を入れていた。ここからならホームまで5分もあれば行ける。
ギリギリまで一緒にいたい。


画面には時計が表示されていた。

別れの時間が迫ってくる。


・・・今度はいつ会えるかな・・・・

それでも、なんとなくは気分が楽だった・・・これまでよりは。

亜貴の処女をもらった。
亜貴もボクに刻印を刻んだ。

お互いの行為が許されたこと・・・それは、そのままお互いの「愛」の証でしかない。
遊びや、一時の快楽を求めてるんじゃないことの証だ。
これまで以上に、より強く絆を感じた。

もう離れ離れになることはできない。離れ離れになることはない。お互いの強い意志を感じた。

次がないんじゃないか・・・いなくなるんじゃないか・・・そんな不安がなくなった。


梅雨に入っていた。

細かい雨が降っている。
フロントガラスに雨だれが流れている。
全てのガラスに雨粒。

・・・そして、湿気で曇っている。

夕方だ。
薄暗さから更に外が見えなくなっていた。


平日の駐車場は車も多くない。
そもそも「白石蔵王駅」自体が、利用客が少なかった。


・・・・しかし・・・なんでこんなところに駅を造ったんだろう・・・不思議な駅だ。


東京から来ると、終点、仙台のひとつ前の駅になる。
仙台までの所要時間は15分だ。

その手前は、福島駅。所要時間12分。


新幹線ってのは、「速さ」が売りなわけで、「駅間12分」ってなところに駅を造るってのは意味がわからない・・・・まぁ、何らかの政治的な・・・・そんな「大人の事情」でできた駅なんだろうな。


そんなことで、全ての新幹線が停まるわけじゃない。停まるのは「やまびこ」だけだ。
それも理由だろう。乗降客自体が少なかった。


駐車場に車は少ない・・・・とはいえ、ほとんどが、新幹線への送迎なわけで、到着時刻になると車が増えてくる。

・・・こうしてる間にも、2台の車が入ってきていた。



黙って・・・・指を絡めて、画面を観ていた。
話すことはいっぱいある気がする。
話さなきゃならいことがいっぱいある気がする。
・・・・なのに思いつかない。

それに、何かを話すには、もう時間がない。
お互いの体温を感じていたかった。
絡んだ指先で、心が会話している。



「旦那さんとSEXしちゃ嫌だ・・・」



画面を見たまま、気持ちを絞り出すように言った。
・・・他に言い方がみつからなかった。


「うん・・・しない・・・できない・・・」


・・・たぶん、そうだろうとは思っている。


「もう目も合わせられない・・・触れられるのも逃げてる・・・子供がいるときはいいんだけどね・・・二人っきりの時は・・・怖い・・・」


事実だろう。

・・・ボクも・・・ボクもそうなっていた・・・・


お嫁さんとは一緒に寝ている。
同じ布団で寝ていた。
いつだって抱いて寝ていた。

付き合って・・・・一緒にいる時は、いつも抱いて寝ていた。
結婚してからは、毎晩・・・・いつも抱いて寝ていたんだ・・・・


・・・それが、亜貴と繋がるようになって「抱く」ことができなくなっていた。


「ギュってしてください」


不安を感じたように、お嫁さんに言われたことがある。
つとめて自然に、お嫁さんを抱きしめた。


・・・・その時・・・・ボクの身体には汗が流れていった。


冷や汗じゃない。・・・よく冷たい汗が流れる・・・そんな表現があるけれど、ボクの場合は、生ぬるい汗が背中一面に流れていた。手の平にもびっしょりと汗をかいていた。

・・・お嫁さんへの嫌悪感じゃない。

亜貴に対しての罪悪感だった。

・・・・おかしな言い分だけど、亜貴と「夫婦の絆」のようなものを感じてしまっていた。

もう、頭の中でも、そして身体も・・・亜貴が奥さんになっていた。
亜貴は・・・・恋人じゃない。彼女じゃない。奥さんだった。

お嫁さんといることに・・・亜貴に対して罪悪感を感じてしまっていた。

・・・・そして、たぶん、亜貴も同じなんだろう・・・

・・・お互いのリアルな生活の方が「浮気」ということになる。


・・・苦しかった。


常にふたつの世界があった。

東京でのリアルの世界。・・・リアルの身体が存在している世界だ。・・・生活があり、仕事がある世界。

もうひとつ。
頭の中には亜貴との生活があった。


ボクたちは、お互いの生活を把握していた。

常にメールで繋がり、お互いがどこにいるのか、何をしているかを完全に把握していた。
・・・もう、お互いを夫婦として認識してしまっていた。
そして、お互いが、この生活の方を大事だと思ってしまっていた。


・・・時間だ。


亜貴が唇を尖らせている・・・今にも泣きだしそうだ。


「まーたムンつけて」


笑顔で、亜貴のお母さんを真似た口調で言う。
亜貴が鼻で笑った。


「じゃあ。洗濯お願いね」

さらに畳みこむように、少しおどけたように言った。
絶対に切ない顔で別れたくない。


「はーい」

亜貴が笑顔を取り戻す。

亜貴に、シャツ、下着類を預けた。洗濯しておいてもらうことにした。

新幹線で来るのに少しでも荷物を減らしたかった。・・・・もちろん、亜貴に洗濯をしてもらうという幸せのためもある。

・・・むしろ・・・それが一番大きい。


平日。
夕方。
白石蔵王駅。
そして梅雨。

・・・人通りは少ない。曇った車内。外から中が見えることもない。


亜貴の手を引いた。

キスをする。

・・・我慢できずに舌を絡めた。


・・・断腸の思いで舌を離した。


車を出た。

亜貴に手を振る。亜貴も手を振っている。


駅の入口。
ガラス扉を開いて中に入る。

・・・すぐにカバンから携帯を取り出す。
電源を入れる。画面を確認しながら自動改札を抜けていく。



亜貴といる時には電源を切っていた。

電話に出るわけにもいかない。・・・出たくもない。
1分1秒だって、亜貴との時間を邪魔されたくなかった。

電源を入れていれば、出ないわけにもいかない電話もある。
出なければ、いらない詮索を受けることにもなる。


留守電を確認しながら長いエスカレーターを登っていく。何件か入っている。

ホーム。
留守電を聞く。
・・・すぐに新幹線が入ってきた。


新幹線に乗り込み指定席へ。
荷物を置いてデッキに出る。

折り返す必要のあるものに電話をしていく。
簡単な確認事項のような留守電ばかりだ。

そもそも、亜貴と会う日は電話に出られない。出るつもりがない。
そのために、その日までに仕事に支障のないようにと万全を期していた。

1件が終わり、2件・・・そして、最後の電話。


相手が出た。

「折り返しが遅くなりました・・・・」

話は納期・・・施工スケジュールの件だった。

品不足だった。
日本全国で資材が入らなくなっていた。

東日本が壊滅していた。
メーカーの製造ラインが止まっている。
流通も滞っている。

施工の発注をもらっても、なかなかスケジュールが組めない。


むかしから日本全国で仕事をしてきた。
出身地は関西だ。
ツテを頼って西日本・・・九州、四国の業者からも資材の手配をかけていた。
それによって進められた案件は多かった。

本当に助かっていた。

特に、地元、関西勢の仲間たちは、「支援」の意味を込めて手を貸してくれていた。


「阪神淡路の時には世話になったからな」


そう言って、みんなが助けてくれた。


九州勢の手助けも大きかった。

ひょんなことから九州の会社と取引が始まり、それが大きくなっていた。売り上げで一番・・・いや、利益で一番大きかったのは九州だった。

そして、地理的に、一番震災の影響を受けていないのが九州だ。
それで、比較的、資材の入りがスムーズだった。
そのルートを使って仕入れを行った。


「情けは人の為ならず」


人と人との繋がりで、人間は生きている。

生かされている。

それを実感していた。



電話で進捗状況を説明する。


新幹線の窓の外。
東北の景色が流れていく・・・・


誰も知らない、亜貴との秘密の世界から、ビジネスモードへと頭を切り替えていく・・・
東京。高層ビルが立ち並ぶリアル世界へと頭を切り替えていく・・・

ビジネスモードの声・・・そして会話・・・・

新幹線のデッキからは電波もよくない。トンネルでは会話も途切れてしまう。

「電波良くないですね・・・どこにいらっしゃるんですか?」

気心の知れた顧客が言った。

「珍しく新幹線の中なんです・・・・名古屋からの帰りです」

普段は車移動だ。
電車に乗る事自体が少ない。

嘘をついた。
名古屋には、お世話になっている大きな顧客がいる。毎月のように名古屋には行く。電話の顧客もそれは知っている。
なんの疑念も抱かず、納得した。


電話を切った。


この日、この時、この時間・・・ボクが東北にいることは、世界中で亜貴以外は誰も知らない。この地球上で、二人だけの秘密の時間だった。


ここで死んだらどうなるんだろう・・・・


地面は揺れている。
絶えず揺れている。

震度5クラスの地震など珍しくもない。
マンションのエレベーターが停まるなんぞも珍しくなかった。

もし、再びの大地震によって新幹線が停まったなら・・・津波に呑まれてしまったなら・・・・

・・・ボクの遺体が、この地で発見されたなら・・・・


ここで死んだらどうなるんだろう・・・・


・・・・車窓からは東北の山々が見える。
山々が後ろに向かって流れていく。

東北を後にしていく・・・・


・・・・亜貴から離れていく・・・・


亜貴から離れていく。


亜貴から離れていく。


亜貴から離れていく。



新幹線のドアにもたれ、東北の山々を眺めた。


もう、亜貴から離れたくない・・・・



・・・・もう、無理だ・・・


亜貴と一緒にいたい・・・・


感想 10

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