「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。

ポンポコポーン

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「請求してこい。くれてやる」不倫の代償。



「くれてやる。引き取る覚悟はできてるんだろな」


亜貴の旦那からメールがきた。

上等だ。
引き取ってやる。

ただし、お前から下賜されるんじゃない。
お前から奪い取ってやる。


・・・しかし・・・亜貴が何を考え、どう思っているのか・・・・


携帯は旦那に握られている。
電話はできない。メールもできない。

繋がるのは、ボクが渡したホットライン・・・家族割の携帯だけだ。
・・・だからといってこっちから電話するわけにもいかない。
ショートメッセージを送るわけにもいかない。

亜貴が携帯を取り上げられたということは、旦那もよっぽどの覚悟をもってやっているに違いない。
ホットラインだって、見つかってる可能性はある・・・

とにかく状況が全くわからない。

亜貴が連絡してくるのを待つしかない。


・・・・しかし・・・連絡してこなかったら・・・・・・?


連絡がなかったら、ホットラインの携帯も取り上げられたってことだろう。

・・・・いや・・・あるいは・・・・連絡をする必要がなくなってしまったってことか・・・・


もう、連絡はしない・・・・


・・・・そういう結論も有り得る・・・・



頭の中で、同じ堂々巡りが繰り返される。


・・・それでも仕事をしなければならない。
それでも日常は回っていく・・・・



天気予報は当たりだ。
降り出した。
細かい雨が降り出していた。
ワイパーが雨を走らせる。

都内。
東京の東京。中心地。
東京丸の内をプリウスで走っていた。
高層ビルの群れ・・・・それでも新しいビルはない。
由緒正しい老舗の高層ビル群が立ち並ぶ。
新興地域じゃないってことだ。
近代日本ができてからの、由緒正しい中心地だということだ。


東京駅を左手に見る。
この辺りには郵政公社、NTTの本社ビルが並ぶ。
片道4車線の直線道路。突き当りには皇居だ。
その周辺には国会議事堂、外務省、警視庁・・・・日本のお役所の総本山が並んでいる。
今日は、ここを突き抜け赤坂の客先に向かう。


車移動が多い。常にハンズフリーで電話ができるようにしてある。
電話が鳴った。・・・知らない携帯番号からだった。

若い女の声。
女が会社名を名乗った。・・・知らない会社名だ。

携帯にも営業電話がかかってくることはある。長く使っているし、個人・・・・仕事でも使っているのでいろんなところに番号は知れ渡っている。
不動産の営業・・・カードの営業・・・保険・・・サプリ・・・色んな電話・・・色んな営業電話が飛び込んでくる。


・・・女が不審そうな声を出す・・・

「・・・・鈴木さんの携帯ですよね・・・・?」

「いえ、違いますが・・・・」

「鈴木さんではないですか・・・?
あれ・・・おかしいですね・・・失礼ですが、お名前は・・・?」


頭の中で警告灯が点滅していた。
女の声に、微かな東北訛りを感じた。・・・いや、標準語だ。・・・ごく僅かなもの・・・微かな匂いといっていい程度のものだ。

押し問答をして電話を切る。もちろん名前を教えるはずはない。


生き馬の目を抜く東京のビジネスシーンで生きてきた。社長を務めていたこともある。

過去に経験した「キナ臭さ」を感じた。

知らない電話番号には出ないと決めた。



客先でのミーティングが終わる。

傘を差して駐車場へ。プリウスに戻る。

運転席に座って携帯を開く。
留守電メッセージが溜まっている。

確認してみれば、全てが営業電話だった。
皆、折り返しの電話を求めていた。

・・・・営業電話で、折り返しの要求・・・・


フロントガラスを雨が流れる。・・・考える。考える。


カバンからノートPCを取り出し立ち上げる。
ブログを確認する。


・・・・ひょっとして・・・・

一縷の望みを託してメッセージを確認する。


・・・・やっぱりメールは来てはいない・・・・


フォルダーには、亜貴からの手紙が並んでいる。・・・・これまでのやりとり、その全てが保存されていた。


初めてのやりとり・・・・ぎこちない・・・・他人行儀なやりとり・・・


・・・・それが、毎日のやりとりへと・・・・日々の生活の楽しみ・・・「糧」となっていった。


そして、「東日本大震災」


ボクが、ひたすらに亜貴の無事を祈った手紙が並ぶ。


「お百度参り」のように、一心不乱に・・・毎日祈った手紙が・・・・泣きながら祈った手紙が並んでいる。


・・・・そして、再び繋がった。

亜貴は無事だった。


「愛してる」


「愛してる」


「愛してる」


真っ赤なハートの付いた、愛を伝えあった手紙が並ぶ・・・・


ここには、亜貴とボクの・・・・大げさに言えば、ふたりの・・・全ての歴史が並んでいた。



・・・・アクセス数が異常に増えていた。


ブログのアクセス数が、異様な数字となっていた。


「今日は多いな・・・」そんな上がり方じゃない。
1ページ1ページを丹念に「誰か」が見ている。


社長をやっていた時がある。
会社をやっていれば色んなことが起こる。
新規取引の開始・・・・経営上の秘密の保持が必要な案件・・・・

そんな時、身辺に異変が起こることがある。・・・何かが動いている「キナ臭さ」を感じる時がある。


・・・あの時と同じだ。


ある時、訴訟を抱えた。
こちらが原告だ。訴えた側だ。
告訴した相手は巨大企業だった。

それから、やたらと営業電話が増えた。

電話料金が安くなります・・・
電気料金が安くなります・・・
ガス料金が・・・
保険料が・・・

そのどれもが、ウチへの訪問を望んだ。アポイントを求めてきた。


ある日の朝。出勤。
玄関をゴミ袋を持って出た。
エレベーターを降り、マンション入り口のゴミ置き場に置いた・・・・車に乗り込もうと・・・財布を玄関に忘れたのに気づいた。部屋に戻った・・・

すぐに降りてきた。

そこで見た。

ゴミ袋を持ち、小走りで立ち去る男の後ろ姿。
すぐにライトバンに乗り込み走り去った。

無くなっていたのはボクが出したゴミ袋だった。
ボクが置いたゴミ袋だけが無くなっていた。

ゴミ袋を置いた瞬間に無くなる・・・・男が見張っていたってことだ。


あの時と同じ「キナ臭さ」・・・同じ匂いを嗅いでいた。

・・・・そう、何かが動いている。

ボクの周りで何かが起こっている。
誰かが動いている。

・・・間違いない。

プロが動いている。
旦那の差し金に違いない。

亜貴の携帯を取り上げた今日・・・・昨日の夜か・・・・いずれにしろ、即日にこの動きだ。前もって準備していたに違いない。
念入りに計画された動きであるのは間違いない。


家は付き留められている


・・・・さて、どうするか・・・・


旦那にバレたのは、どうでもいい。
別に「失敗した」だの「後悔」だのはなかった。

むしろホッとしている自分がいた。

もう覚悟を決めるべきだと思っていた。


2ヶ月に1度は会った。
狂おしいほどに抱きあった。・・・・愛しあった。

毎日求めあった。
毎日、数限りなくメールをした。
時間を作って声を聞いた。
一瞬すら離れていたくなかった。

気持ちは夫婦となっていた。
・・・もう離れて暮らすのが限界だった。


亜貴と人生をやり直したい・・・・
・・・ただし、亜貴が良ければの話だが・・・

・・・しかし、お嫁さんはどうする・・・?
亜貴にだって子供がいるんだぞ・・・・

・・・そう・・・・いつも、こうやって堂々巡りを延々と繰り返す。
だから、前に進めなかった。

だから、むしろ旦那にバレたことでホッとしていた。
結末はどうであれ、前に進むことになる。

・・・・そう、結末はどうあれ、だ。

前に進めるのか・・・あるいは・・・・


何も、旦那と話し合う必要はない。
粛々と弁護士を入れて話せばいい。
双方、専門家同士で話し合えばいい。
「逃げる」のとは違う。
そのために弁護士という職業がある。

そのほうが感情的にならずに済む。


慰謝料を払うことになるんだぞ。

「不倫」の慰謝料の相場は300万円だそうだ。

300万円なんぞ「くれてやる」

亜貴と手を繋いで・・・誰憚ることなく歩ける代償が300万円なら安いもんだ。
倍の600万円でも安いもんだ。

お嫁さんにも慰謝料は払う必要がある。

それでも、全部を含めて1,000万円もあればいいのか。

それがどうした。

ボクは5憶円とかって借金を背負っている身だ。
今更、そこに1,000万円が乗っかったところで何ほどのことがある。

5億円・・・・元金の返済が滞り、リスケジュールを組み、年間14%からの延滞金がつく身の上だ。
延滞金だけで、計算上は年間7,000万円とかの数字だ。

ボクにとって「金額」とは「数字」でしかない。
カネとはモノの値段、プライスという数字の単位でしかない。

500万円、1,000万円・・・・はたまた1億円・・・だからどうした?

「カネ」なんてものに全く感情が動かないんだよ。

旦那への慰謝料が500万円だろうが1,000万円だろうが、はたまた2,000万円だろうがボクにとっては同じことだ。


請求してこい。

「くれてやる」

お前が、亜貴を、

「くれてやる」

そう言ったのと同じだ。
カネなんぞ、くれてやる。


・・・・問題は亜貴がどう思っているかだ。

ボクの思いが、ボクの考えが、亜貴にとって迷惑だったら困る。
お姫様を守り、いつかのように「ドン・キホーテ」になるのは御免だ。

・・・・何より、亜貴を困らせたくはない。


・・・しかし・・・亜貴と連絡が取れなくては、亜貴がどうしたいのかわからない。


亜貴からのメッセージはない。


ボクのブログには取引先、友人たちの顔写真もあった・・・その気になれば個人を特定できる要素がいっぱいあった。
どこに飛び火するかわからない。


・・・・こうしている間にも、アクセス数は伸び続けていた。
誰かが・・・いや、複数の人間が見ている・・・読んでいる・・・・読み込んでいるってことだ。


フロントガラスを雨が叩く。
稲光が走った。


・・・・まぁ、しょうがないな・・・


今は、時間との戦いだろう。
逡巡している暇はない。



・・・・・PCを操作する。


ブログ画面。
設定・管理・・・・・・

いくつかのクリック・・・入力・・・


Enterキーを押した。


ボクは5年続けてきたブログを落とした。

全てを削除した。
休止じゃない。
アカウントごと、きれいサッパリと落とした。


・・・・これで、全てが消えた・・・・


亜貴との手紙が消えた。

亜貴との思い出、その全てが消えてしまった・・・・



まず、ひとつめの「不倫の代償」
ペナルティを払った。


プリウスのシートに身を預けた。


携帯が鳴った。・・・・知らない番号だ。

無視を決め込んだ。


車内。
鳴り響くベルの音。



雨は強くなっていた。
空は真っ暗だ。

大粒の雨に叩かれた。

雷鳴が轟く。

稲光・・・神の怒りなのか・・・・走っていた。


感想 10

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