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「メルセデスの理由」初めて招かれた。
祭壇の花子が笑っている。
・・・・ボクは、
珈琲を啜った。
また、クッキーに手を伸ばした。
薄く巻かれたクッキー・・・・・ヨックモックは、あと1本しかなかった。
・・・・次は、どれを食べようかな・・・・
ここは、花子の部屋だ。
大きなベッドが置かれている。
介護用とかで使われる「電動ベッド」だ。
背中の部分が、「背もたれ」として起き上がってくるあれだ。
他にも、
ボクにはわからない、「医療用」かと思える器具がいくつもあった。
・・・・そうだ・・・・
ここは「部屋」じゃない。
「女の人の部屋」じゃない。
「病室」だった。
花子と会うのは、
最初は、
いつも、
コンビニだった。
そこから、ここ・・・
自宅の駐車場。
「シューちゃん」こと、
メルセデス・ベンツ・AMGの中となった。
決して、
家には・・・・花子の部屋には招かれなかった。
・・・・その理由がこれだったんだろう。
この部屋を見れば、
一目で、
花子が重病人だとわかる。
この部屋を見たなら、
ボクは、
花子と会うことを躊躇しただろう。
・・・・少なくとも、
連れ出すこと、
表を出歩くことを躊躇しただろう。
・・・・・間違いなく、
花子の処女を奪うことはしなかった・・・・恐れを抱いてできなかっただろう。
お母さんが花子を見つめている。・・・・ボクからは表情は見えない。
ボクは、カップの珈琲を見つめていた。
・・・・お母さんが続ける。
・・・・それでも、入院して1週間もすれば回復していって・・・・退院日も決まって・・・・
・・・・ああ・・・・けっきょく、今回も大事にはいたらなかったな・・・良かったな・・・・
・・・そう思いました。
・・・・私たち家族にとっては、
もう、20年近く、こんな闘病生活でしたから・・・・慣れとはいわないですけど・・・
本当にホッとしたんですよね。
良かった・・・
・・・・そしたら、
2月になって、また病状が悪化していって・・・それでも、大丈夫だって・・・信じていたんですけどね・・・
お母さんが顔を伏せた。
ボクは、またクッキーに手を伸ばした。
すでに、ボクの好きなシガールは終わってしまった。
・・・・次は、
由緒正しいクッキーに手を伸ばす。
由緒正しいクッキーは、喉にまとわりついて好きじゃない。・・・・せめて、果肉とか散りばめられてるやつとかがいいんだけどな・・・・
・・・・しかし、
今度は、
今回は何かが違いました・・・・
何かが・・・
いつもより、
何か・・・・
何か、
娘が、
真っ黒な暗雲に包まれている感じがしました。
娘は、
止まらない咳で息もできなくなり・・・
・・・・当然に眠ることもできませんでした・・・・
・・・・そのうち意識が混濁するようになり・・・
・・・でも、
私は、そのほうがいいと思いました。
意識を失っている方が・・・・
眠っている方が・・・・
身体への負担は少ない・・・・・苦しみが少ない・・・
・・・・ある時、
病状が落ち着いた時、・・・・咳が落ち着いた時・・・・
意識を取り戻した時、
私に言ったんです・・・・
苦しい息の下、
私に言ったんです。
全てが終わったらカズくんを呼んでって・・・
全て・・・
遺骨とか・・・そんなの見せたくない・・・全てが終わったら、カズくん呼んで・・・
そう言ったんです。
・・・・そして、
また、意識を失いました・・・・
だから、
連絡できなかったんです。
ごめんなさい・・・
お母さんのすすり泣きが聞こえた。
クッキーの上。
迷い箸となったボクの手。
・・・・拳を握り締めた。
花子が笑っていた。
久しぶりだねぇ~~~~
やっと部屋に入ってもらえた・・・・
チョー嬉しぃ~~~~
・・・なんだか、
そんな笑顔に見えた・・・
・・・・あるいは、
「カズくん・・・ビックリした???」
そんないたずらな笑顔か。
死んだとは思えなかった。
どこか遠くに行った。
海外留学に行った。
そんな感じだった。
花子は、
一足先に、
身体の自由の効く世界に・・・・
・・・留学に旅立ったんだった。
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