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「シガレットケース」柑橘の紫煙。
お母さんの涙が響いた。
窓の外は細かな雨だ。・・・・まだ、梅雨には早い。
ボクの好きな雨だった。
窓が大きい。
近くの公園の樹木が見えた。
季節の移り変わり・・・美しい景色がよく見られただろう。
花子の笑顔。
写真の隣には小物が並んでいた・・・化粧品とかか・・・・シガレットケース・・・・見覚えのある品もあった・・・・・
遺品ということだろう。
・・・・さっきから気になっていた。
「見てもいいですか?」
お母さんが黙って頷いた。
よく見た品。
シガレットケースを手に取った。
手に取ってみれば、
思っていたより、よっぽどしっかりした造りの品だった。
ボクは・・・
ボクが以前持っていたシガレットケース・・・従姉からもらったやつだ・・・
高校生の時に使っていた、
ブリキの・・・・筆箱・・・ペンケースのようなものかと思っていたけれど、
そんなものとは、ぜんぜん「質」が違った製品だった。
本物の「シガレットケース」だった。
刻印が読み取れた。
「Tiffany & Co」
・・・・え・・・?・・・ティファニー製なのか・・・??
・・・・そういえば、
「ティファニーで朝食を」
あの映画の中で、オードリーヘップバーンがシガレットケースを使っていたか・・・・
確かに、花子が手にするとあのイメージだった。
「華子」としてのイメージだったけど・・・・
「娘の誕生日のプレゼントだったんです・・・」
・・・そうだったのか・・・・
ちょっと意外だ。
お母さんが続ける。
何が欲しい・・・??
聞いたら、
ネックレスが欲しい・・・・ティファニーのが欲しい・・・
・・・・でも、
娘は金属アレルギーだったんですよね・・・・病気から・・・免疫が下がったからか・・・金属アレルギーでした。
それで、
身に着けるもの・・・・ネックレスはダメだとなって・・・
それで、シガレットケースに・・・
ティファニーのネックレス・・・・
思わず呟いた・・・
「そう・・・そうでしょうね・・・・」
お母さんが頷く。・・・ボクの意に同意した。
「崩壊の街」ボクは不倫に落ちた。
劇中でティファニーのネックレスが登場する。
ボクが、彼女へのプレゼントとして贈ったものだ。
小さな、
リボンのネックレス。
「チョーカー」のように見える。
ボクが・・・
彼女を、
「貴女はボクのものだ」
そう縛るために贈ったネックレスだった。
花子は、
実物のネックレスを調べたらしい。ティファニーのサイトから。
デザインが可愛く、
一目惚れほどに気に入り、
誕生日プレゼントとしてせがんだ。
・・・・しかし、金属アレルギー。
実際に身に着けることはかなわない。
それで、
シガレットケース・・・・ただし、ティファニー製をとせがんだ。
しかし、
今は「喫煙は悪」とすらされる時代だ・・・・そして、電子タバコの時代でもある。
ティファニーのシガレットケースは、「ビンテージ」でしか見つからなかった・・・・つまりは高価な品だった。
・・・・なるほど・・・
そういうことか・・・
しかし、
花子には・・・・華子には似合っていた。
背が高く、
キリリとした眼元。
シガレットケースから煙草を取り出す仕草は絵になっていた。
都会を闊歩する、
「デキる女」・・・・そんなイメージだった。
中を開けてみる。
まだ、数本の煙草が入っている。
1本を取り出す。
すぐに、柑橘の微かな香りが舞った。
・・・そう、
花子が吸っていた・・・
そして、
ベッドで、
ボクも、この柑橘の紫煙を吸い込んだ・・・
・・・・この匂い、
アメリカ逃避行で、
ラスベガスの裏町で嗅いだ匂いだった。
「・・・・これは・・・・・医療用のものですか・・・・?」
お母さんの少し驚く顔。
黙って頷いた。
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