不思議体験・外伝。

ポンポコポーン

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「自己嫌悪で逃亡」愛されていた。



夕闇。


ワイパーが雨を弾く。


新宿の摩天楼が霞んでいた。



都庁の、上部、1/3ほどが隠れていた。


新宿歌舞伎町を走れば、明るいネオンサインだ。



「東日本大震災」


あの時、

街から一斉にネオンが消えた。


あれから10年・・・眩い都会が戻っていた。



緊急事態宣言。


自粛生活・・・・


それも終わった。



夕闇の歓楽街、新宿は、


夜はこれからとばかり人々が闊歩している。



人は忘れる。・・・・・忘れ去っていく。


記憶も・・・・感情も・・・・


全てを忘れ去っていく・・・・消し去っていく・・・



「忘れること」



それは、

人間の、

人間たる能力だ。



・・・・そうでなければ生きてはいけない。


辛い・・・苦しい・・・そんな記憶をいつまでも留めていれば、


人間は生きてはいけない。



「忘れ去る」


「前を向く」



・・・・生きてる人間には、それでいいだろう。


・・・・しかし、


忘れ去られた人間は・・・


死んでいった人たちは・・・・


・・・・ただ、

忘れ去っていけばいいのか・・・・・




・・・・・愛されていた・・・



花子に愛されていたんだと、

あらためて打たれていた。



シガレットケース。


「Tiffany & Co」



本当は、ネックレスが欲しかった。



花子の切ない想いをみた。


ボクは、

花子の気持ちを、

本当にわかっていたのか・・・・理解していたのか・・・・


・・・・花子が、

あれほどの重病人だともわかっていなかった。


「余命宣告」をされていたこと・・・・わかっていなかった。



花子は、


言葉以上に、


命の限り、ボクを愛してくれていたんじゃなかったか・・・・




「ティファニーのシガレットケース」



・・・・花子は・・・


ボクに持っていてほしかったんじゃないのか・・・そう思った。



今日、呼ばれた趣旨・・・

それは、「形見」をボクに手渡すセレモニーだったんじゃないか・・・

・・・・そう、

途中で感じてしまったんだった。



違うかもしれない。

考えすぎかもしれない。


・・・・しかし、


ボクには、そう思えたんだった。



ティファニーのシガレットケース。


貰ってもいい。

手元に置いておいてもいい。


花子の生きた証を、ボクの心に刻んでおいてもいい。



シガレットケースはいい・・・



・・・・・しかし、


それが、


「シューちゃん」


「メルセデス・AMG」だったらどうなんだろう・・・



花子は、
手放すことを決めていたという。



それを、



「お泊りデート」


その後に、意を覆したという。



「カズくんに運転してもらうから」


「カズくんに乗ってもらうから・・・・」



花子は、


AMGをボクに譲ろうと考えていたのではないだろうか・・・・


・・・・それを「遺言」としたのではなかったか・・・


・・・・もちろん、

これは、

ボクの早合点かもしれない。


・・・・しかし・・・


どうにも、そういう空気を・・・・匂いを感じたんだった。




シガレットケースならいい。



「わかりました」


二つ返事でもらえばいい。



・・・・しかし・・・



「メルセデス・AMG」はダメだ・・・



・・・いや、

欲しい。


欲しいと思う。


純粋に「良い車」だ。


運転してしまえば、

本当に、惚れ惚れとする車だった。



「貰ってほしい」



言われれば、

これほどに嬉しいことはない。



・・・しかし、



ボクには、

あの車は乗れない。


「所有ができない」



今のボクにとって、


車とは、


荷物を運んだり・・・・工具を積んだり・・・


実用的な「道具」でしかない。


・・・・しかし、

そんなふうに、あのAMGは使えない。

車に失礼だ。



今のボクには、


あの車は身に余る。



・・・・それに、


譲られるにしても、「無料」というわけにはいかないだろう。


幾何かの対価は支払うべきだと思う。



あの車は・・・・・

確か、新車価格で10,000,000円を超えた価格だったはずだ。


・・・・だとすれば、

対価として、いくらが適正なんだろうか・・・中古車ならいくらで流通しているんだろう・・・



半額で500万円・・・



「・・・いや、そんなつもりではありません・・・費用はいいのです・・・」


言われたとしても、

そういうわけにはいかない。


「まったく、費用はいいのです・・・」



そう言われても、200万や、300万円は包むべきだと思う・・・



・・・・しかし、


ボクには、


そのお金がなかった。


そんなお金が用意できる生活ではなかった。



・・・・自己嫌悪が打ち寄せていた・・・・



それで、

慌てて席を立った。



「メルセデスは引き受けられません・・・・ティファニーだけ頂きます」



そんな言葉を吐きたくなかった。


「いえ・・・本当に費用はいいのです。貰っていただくだけでいいのです・・・」


お母さんと、あの場で・・・・花子の前で、押し問答をしたくはなかった・・・・


・・・・自分の情けなさに身が縮んだ。


100万円・・・200万円のお金に汲々としている自分が情けなかった。


自分の小ささに嫌気がさした。



ボクは、


逃げ出すように、

花子の家を辞したんだった。




ワイパーが流していく。

滲む光・・・傘の人々・・・・



東京都心部を抜けた。


スカイツリーが見えてきた。




・・・・ボクは・・・

花子に応えてやれなかった・・・・何もわかってやれなかった・・・・



自己嫌悪。

自己嫌悪・・・・自己嫌悪・・・


胸に、突き刺すような痛みがあった。


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