90 / 126
「自己嫌悪で逃亡」愛されていた。
夕闇。
ワイパーが雨を弾く。
新宿の摩天楼が霞んでいた。
都庁の、上部、1/3ほどが隠れていた。
新宿歌舞伎町を走れば、明るいネオンサインだ。
「東日本大震災」
あの時、
街から一斉にネオンが消えた。
あれから10年・・・眩い都会が戻っていた。
緊急事態宣言。
自粛生活・・・・
それも終わった。
夕闇の歓楽街、新宿は、
夜はこれからとばかり人々が闊歩している。
人は忘れる。・・・・・忘れ去っていく。
記憶も・・・・感情も・・・・
全てを忘れ去っていく・・・・消し去っていく・・・
「忘れること」
それは、
人間の、
人間たる能力だ。
・・・・そうでなければ生きてはいけない。
辛い・・・苦しい・・・そんな記憶をいつまでも留めていれば、
人間は生きてはいけない。
「忘れ去る」
「前を向く」
・・・・生きてる人間には、それでいいだろう。
・・・・しかし、
忘れ去られた人間は・・・
死んでいった人たちは・・・・
・・・・ただ、
忘れ去っていけばいいのか・・・・・
・・・・・愛されていた・・・
花子に愛されていたんだと、
あらためて打たれていた。
シガレットケース。
「Tiffany & Co」
本当は、ネックレスが欲しかった。
花子の切ない想いをみた。
ボクは、
花子の気持ちを、
本当にわかっていたのか・・・・理解していたのか・・・・
・・・・花子が、
あれほどの重病人だともわかっていなかった。
「余命宣告」をされていたこと・・・・わかっていなかった。
花子は、
言葉以上に、
命の限り、ボクを愛してくれていたんじゃなかったか・・・・
「ティファニーのシガレットケース」
・・・・花子は・・・
ボクに持っていてほしかったんじゃないのか・・・そう思った。
今日、呼ばれた趣旨・・・
それは、「形見」をボクに手渡すセレモニーだったんじゃないか・・・
・・・・そう、
途中で感じてしまったんだった。
違うかもしれない。
考えすぎかもしれない。
・・・・しかし、
ボクには、そう思えたんだった。
ティファニーのシガレットケース。
貰ってもいい。
手元に置いておいてもいい。
花子の生きた証を、ボクの心に刻んでおいてもいい。
シガレットケースはいい・・・
・・・・・しかし、
それが、
「シューちゃん」
「メルセデス・AMG」だったらどうなんだろう・・・
花子は、
手放すことを決めていたという。
それを、
「お泊りデート」
その後に、意を覆したという。
「カズくんに運転してもらうから」
「カズくんに乗ってもらうから・・・・」
花子は、
AMGをボクに譲ろうと考えていたのではないだろうか・・・・
・・・・それを「遺言」としたのではなかったか・・・
・・・・もちろん、
これは、
ボクの早合点かもしれない。
・・・・しかし・・・
どうにも、そういう空気を・・・・匂いを感じたんだった。
シガレットケースならいい。
「わかりました」
二つ返事でもらえばいい。
・・・・しかし・・・
「メルセデス・AMG」はダメだ・・・
・・・いや、
欲しい。
欲しいと思う。
純粋に「良い車」だ。
運転してしまえば、
本当に、惚れ惚れとする車だった。
「貰ってほしい」
言われれば、
これほどに嬉しいことはない。
・・・しかし、
ボクには、
あの車は乗れない。
「所有ができない」
今のボクにとって、
車とは、
荷物を運んだり・・・・工具を積んだり・・・
実用的な「道具」でしかない。
・・・・しかし、
そんなふうに、あのAMGは使えない。
車に失礼だ。
今のボクには、
あの車は身に余る。
・・・・それに、
譲られるにしても、「無料」というわけにはいかないだろう。
幾何かの対価は支払うべきだと思う。
あの車は・・・・・
確か、新車価格で10,000,000円を超えた価格だったはずだ。
・・・・だとすれば、
対価として、いくらが適正なんだろうか・・・中古車ならいくらで流通しているんだろう・・・
半額で500万円・・・
「・・・いや、そんなつもりではありません・・・費用はいいのです・・・」
言われたとしても、
そういうわけにはいかない。
「まったく、費用はいいのです・・・」
そう言われても、200万や、300万円は包むべきだと思う・・・
・・・・しかし、
ボクには、
そのお金がなかった。
そんなお金が用意できる生活ではなかった。
・・・・自己嫌悪が打ち寄せていた・・・・
それで、
慌てて席を立った。
「メルセデスは引き受けられません・・・・ティファニーだけ頂きます」
そんな言葉を吐きたくなかった。
「いえ・・・本当に費用はいいのです。貰っていただくだけでいいのです・・・」
お母さんと、あの場で・・・・花子の前で、押し問答をしたくはなかった・・・・
・・・・自分の情けなさに身が縮んだ。
100万円・・・200万円のお金に汲々としている自分が情けなかった。
自分の小ささに嫌気がさした。
ボクは、
逃げ出すように、
花子の家を辞したんだった。
ワイパーが流していく。
滲む光・・・傘の人々・・・・
東京都心部を抜けた。
スカイツリーが見えてきた。
・・・・ボクは・・・
花子に応えてやれなかった・・・・何もわかってやれなかった・・・・
自己嫌悪。
自己嫌悪・・・・自己嫌悪・・・
胸に、突き刺すような痛みがあった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。