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「下取り1/10以下の車」おヘソが曲がる・笑。
しおりを挟むベイブリッジを東京に向かう。
漆黒の車両。
太い、
本革巻きのステアリングを握る。・・・・手触りが最高だった。
「首都高速湾岸線」
何度も通った道路だ。高速だ。
・・・・しかし、
全く違った世界に感じた。
何台もの車でここを走ってきた。
・・・・会社を潰して・・・・「ひとり自営業」としてやりなおして買った車・・・
最初は、
ポンコツの日本車だった。
そこから、多少良くなってきてプリウスに乗り換えた。
アクア・・・
いろんな車で走った。
「1年に3度の交通事故」
最近では、代車のシエンタ。
代車のカローラフィルダー。
それらとは全く違った味だった。
同じ「車」という乗りものじゃない。
それほどの違いだった。
「メルセデスベンツ・AMG」
「貰った」というわけじゃない。
・・・・いや、
限りなく貰ったに近いんだけどな。
兄貴は、
代々、AMGを乗り継いでいた。
新型が出る度に乗り換えるってパターンだ。
そういう人多いよな。
同じ車を代々乗り継いでいくってパターン。
で、
新型が出て、乗り換えようと思った。
・・・・が、
時代は、
「失われた30年」の時代。
日本が一番景気の悪かった時代だ。
兄貴の会社も苦しんでいた。・・・・それで「見送り」
・・・・から、なんとかなるかぁ・・・もう、ベンツ乗り換えてもいいかなぁ・・・と思っていたら、
今度は「緊急事態宣言」
・・・・それも、なんとか乗り越えてきた。
なんとか、目鼻はついてきた。
ここんとこは、かなり景気も戻ってきた。
そこへきて、
AMGの車検も迫ってきた。
それで、
ようやく、
新型に乗り換えるって決断をしたんだった。
・・・・とっころが・・・
当然に、
乗り換えるにあたっては、今乗っている車を下取りに出すってことになる。
査定の価格が提示される。
その値段が、
「タダ同然なんだよ」
憤懣やるかたないって表情で、兄貴が煙を吐き出していた。
もちろん、「無料」ってわけじゃない。
価格は付いている。
しかし、
兄貴にとっては「タダ同然」って金額だった。
100万円を切るってな価格だったらしい・笑。
いやいや、
100万円の値段って凄いじゃん!!
ってボクなんかは思うけど、
なんつったって、
兄貴のAMGは、
新車で購入した時には1500万円ってな価格だ。
そこからみれば、
1/10以下。
そりゃ、
「タダ同然」って感じにはなる。
これには、
当然、ディラー側にも言い分があって、
まず、
年式が古いこと。
兄貴のAMGは、
現行からは「2世代前」のモデルになる。・・・・いっこ前のモデルは、景気が悪くて乗り換えられなかったからな。
そして、
車検の残りがない事。
新たに販売するには車検を通さなければならない。・・・ここで費用がかかる。
あとは・・・・
「AMG」ってこと・笑。
・・・・え???笑。
AMGは、マニアックな車だ。
その特殊さゆえに圧倒的なファンも多いけれど、
今の時代は、
「エコ車」って時代だ。
電気自動車が、
「自動車」って世界の覇権を握ろうかってな時代だ。
少なくとも、
小排気量。ハイブリッド。
エコな時代。
低燃費が正義って時代だ。
そんな時代に、V6の3,000CCのエンジンを積んだ。
エコとの真逆な、
前近代的な車は、
買う人間がいない・笑。
まだ、
「1世代前」なら、買う人間もいるけれど、
「2世代前」となると、買う人間はいない。
もっと古くなれば、
「ビンテージ」ってな価値もつくけど、
「2世代前」は、
ただの「古い車」でしかない。・・・・しかも、燃費はチョー悪い・笑。
そんなことで、
「100万円以下」ってな提示額になったらしい。
で、
なんだか、
癪に障ったらしい・笑。
・・・・これ、
たぶん、対応した営業の人間のミスじゃないかと思うけど、
いたく、兄貴はご立腹だった・笑。
だったら、
「売ってやんねーよ」
そうヘソを曲げちゃったらしい・笑。
もちろん、
だからといって他に手はない。
ベンツに下取り・・・・買い取らせるしかないんだけど・・・・
ただ、
「なんだか釈然としないんだよねぇ・・・・」
ってな感情をもってしまった。
「失われた30年」
なんとか会社を維持してきた。
「緊急事態宣言」
なんとか生き抜いてきた。
日頃の苦労が実って、
ようやく、危機的状況も抜けてきた。
「頑張ったなぁ・・・オレ」
そんな気持ちを胸に、
洋々とベンツを買いに行ったら、この仕打ち。
とにかく気分が悪かった。
なんだかなぁ・・・・
すんげーーー気分が落ち込んじゃった・・・・
すんげー気分が悪かったんだよな・・・・・
そんなことらしい。
で、
だったらと、
前から、
この「AMG」の価値を、よーーーく知っている。
ベタ褒めしていたボクに、
今や、
「弟分」といってもいいボクに、
やってもいい。
「カズくんさぁ、オレのベンツ、貰ってくんない?」
となったらしい・笑。
・・・・なーるほどなぁ・・・・・
「ただし・・・・問題はあるんだけどね」
兄貴が笑って珈琲を飲んだ。
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