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「東京漂流の先」悦び。
首都高速湾岸線を走る。
慣れた道路だ。
毎日のように走るルートだ。
しかし、
これまでとは全く違っていた。
同じ、「自動車」だというのが信じられない。
それぐらい、
この前まで乗ってきた車とは違ったものだった。
タイヤが4個ついている。
同じなのはそれだけ、
乗り味・・・・走り・・・
全くの別世界がそこにあった。
フワフワ感が全くない。
タイヤが路面に接着しているのを感じる。・・・・「接地」ではなかった。
「接着」だ。
車体そのものが、路面に抑えつけられているのを感じる。
・・・・・それらが、
速度が、
上がれば上がるほどに感じられた。
速度が上がれば上がるほど、
車体が安定してくるんだった。
・・・・さらには、このモデルは、「4マチック」・・・・4輪駆動のモデルであるために、なおさらに車体の安定性が高かった。
・・・・・久しぶりだった。
この感覚。
・・・・・・・・・・人生で、久しぶりの感覚だった。
けっきょく、
兄貴から、
「メルセデスベンツ・AMG」
譲り受けた。
譲り受けるにマストの費用。
車検は、
予想通りの金額だった。
やっぱり、
一番金額がかかったのは、「タイヤ交換」だ。
しかし、
それも、ボクにとっては、・・・・いや、「ボクたち世代」にとっては、
「そんなもんだろうな」って感じだ。
許容範囲って金額だ。
ボクたちが若者だったとき・・・
18歳になれば、みんなが免許を取りに行った。
大学に入れば、
就職すれば、
何はなくとも「車を買う」
そんな世代だ。
で、
みんなが、
「吊るしの車」じゃ満足できず、
スポーツ性能のタイヤに交換したり、
オーディオをグレードアップしたりした時代だ。
さらに、
突き詰めていくヤツなら、
エンジンをいじっていったり、
足回りをいじったりって世代だ。
「男の子」は、
みんながみんな、車に熱中した。
その頃の、
「タイヤ交換」
なんつったら、
1本10万円。4本で40万円。
これは、フツーの金額だった。
今とは、為替レートも違う。
「1ドル240円」ってな時代で、
輸入タイヤは、1本10万円でも買えないってな時代だった。
で、
ピレリ、
ミシュラン。
ヨーロッパの高性能タイヤとなれば、それぐらいの価格は平気で覚悟だった。
脳内に、
その金額。相場感が出来上がっている。
なので、
AMGでのタイヤ交換。
「1本10万円」・・・・じっさいは、もうちょっと安く済んだ。
別に、驚くような金額ではなかったわけだ。
まぁ、
ふつー、それくらいするよな・・・・って感じ。
あとは、
10年経過の部品とかも、
まぁ、
そんなもんか。だ。
オイル交換も、
ヨーロッパ車、外車は、
国産車から比べれば高い。
それも、
そもそもが、容量が多いってこと。
オイルも、
高性能エンジン対応のオイルとなると、
国産車のファミリカーの3倍くらいにはなる・・・・それはしょうがない。
・・・・・あとは、
兄貴への「お礼」もあった。
「カズくんさぁ、オレのベンツ、貰ってくんない??」
言われたからといって、
ガキ、
小僧っ子じゃあるまいし、
「車」・・・・ましてや「AMG」となれば、
「あざーーーす!!」
全くの「タダ」ってわけにはいかない。
・・・・なんたって、新車価格は1500万円だ。
だからといって、
あまりに高額だと、
譲られる意味がなくなっちゃうし、
兄貴の顔を潰してしまうことにもなる。
・・・・塩梅が難しい。
それで、
「半額」ってことで、了承してもらった。
ベンツの「下取り価格」
その半額で譲り受けることにした。
これなら、
兄貴も、気兼ねなく受け取れるだろうし、
ボク自身も、
「市場の半額で手に入れた!!」
お得感は満載だ。
首都高速湾岸線を東京へ走る。
夕方のラッシュにはまだ早い。
車の流れはスムーズだ。
羽田空港。
飛び立つ飛行機。翼が眩しく輝く。
海底トンネル。
海底に向かっての下り。
オレンジの光が流れる。
上りへと変わる。
これまでの車の、1/3もアクセルを踏む必要はない。
圧倒的なパワーだった。
抜けた。
眩しい陽の光が降り注ぐ。
前を走るファミリーカーが道を譲った。
・・・・別に車間を詰めたりはしていない。
ルームミラーに映った、漆黒のベンツ。
道を譲りたくなる気持ちはわかる。
気持ちをいただき抜き去った。
・・・・久しぶりの感覚だ・・・・
・・・・遥か昔、
ポルシェに乗っていたことがある。
人生。
世の中に切り込んでいった、
血気盛んな時期だった。
その自分のモチベーションを・・・・・テンションを上げるためにポルシェを使った。
ポルシェからエネルギーをもらっていた。
同じドイツ車。
そして、
ベンツとはいえ、
こいつは、・・・・「AMG」は、スポーツカーだった。
ベンツをベースとしたチューンドスポーツカーだ。
じっさい、
今では、
「AMG」とは、
メルセデスの中の、ひとつの「グレード」のような扱いになってはいるが、
元々は、
メルセデスベンツを専門でチューンする工房だった。
「AMG」とは、
創業者ふたりのイニシャルからの社名だ。
メルセデスの中でも、
同じモデルでも、
通常モデルとAMGでは、
全く別物だった・・・・・乗り比べたことがある。・・・・これと同じで、ノーマル車を運転したことがある。
エンジンの滑らかさが全くの別物だった。
大量生産の工場部品と、
一点物のように研ぎ澄まされた工房品・・・・精密部品の違いだった。
スーツでもそうだ。
大量生産品と、
一点物のオーダースーツでは、細部が全く違う・・・・結果、総合的な性能が全く違うものになる。
「着心地」は、全くの別物となる。
最高の職人によって仕立てらえたスーツは、
天使の着心地に包まれる。
「AMG」には、
そんな、
微に入り細に入り、
研ぎ澄まされた質感に溢れていた。
・・・・・唸るしかなかった。
いつものボクと違って、
音楽は流していない。
パドルシフトに操られる、
エンジン音に聞き惚れた。
「首都高速湾岸線」
いつもの道路が、
極上の路へとなっていた。
・・・・人生の歓びがここにあった。
悦びか。
未曾有の大不況。
会社倒産。
・・・・年越し派遣村があった。
「東日本大震災」が起こった。
そして緊急事態宣言。自粛時代。
・・・入退院を繰り返した。
・・・18歳で東京に出てきた。
思えば、
「東京」
長い時間を流されてきた。
今、
ボクの愛機は、「メルセデス・AMG」となった。
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