超能力者なので、特別なスキルはいりません!

ごぢう だい

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異世界1

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 気が付くと草原に寝ていた。昼の様な明るさだが時間は何時だろう? すぐにバッグからタブレットを取り出し、時間を確認する。現在午前十時四十七分。

 起きて周りを見渡すと、笑えるくらいに草しかない草原だった。さて、とりあえず道を探したいのだが、どの方角に道があるのか分からない。この世界じゃタブレットのマップ機能も使えないし、自分が向いてる方向が東西南北の何処かもわからない。と、その場でタブレットを操作してみると、地図と書かれたアイコンがあった。この世界の情報を全部インストールしてくれた神様に感謝! まさか地図情報までくれるとは! やるじゃん気が利くじゃん女神様!!

 と思ったのはそのアイコンを開いて見るまでだった……。自分が何処にいるかも分らない、ただの地図帳だった…。まぁ確かに? この世界はインフラが整ってないからスマホやタブレットのマップ機能が使えないのはわかる。衛星とか基地局とかそー言う技術もないわけだし? そこはまぁ百歩譲ろう。だからと言って東西南北さえわからない草原に放り出すって、人として…、いや神様としてどうよ?

「何でこんなトコに放り出したのよ…。あの駄女神……。もう一度首捻ったろかい……」

 仕方なく私は何処へともなく歩き出す。とりあえず眼前に木々がない方向へ。

 数分歩いて、自分の身体に変化が起こってる事に気付いた。超能力が強化されてるっぽい。今までにない精神力の充実を感じる。二度目の落雷の影響なのか? もしかしたら今なら空飛べるんじゃね?と思い、試しにやってみた。そしたら三十メートルくらい浮いた。その高さで周りを見渡すと、道があるのは歩いていた方向と真逆だった。とりあえずゆっくりと地面に降りる。念動力で自分を持ち上げてると精神力の消耗がハンパない。これからの旅路に何があるかわからないので、精神力の消耗は極力避けよう。ティッシュくらいは自分の足で取りに行こう。と思う私であった。

 十分ほど歩くと、上空から見えた道にでた。さてここでまた問題だ。私は右に行くべきかそれとも左に行くべきか? 地図帳は持ってるけど自分が何処に居るのかわからない。ここの地名も分からない。「この先〇〇村」との表示看板もない。だからと言って、さっきの様に上空から確認すると、残りの精神力を全部消耗する危険性もある。さて、どうしたもんか…?

 その時私はふと思い出した。公立図書館で読んだ軍事関連の専門書の事を。人間と言うのはよっぽど訓練されていないと、無意識に右へ右へと行くらしい。

「ならこの場合は左か……」

 私は左に向かって歩き出した。

 歩き出して二時間、タブレットで時間を確認したら午後二時に迫っていた。だが行けども行けども道は続き、おまけに喉も渇いてきたので、ここいらで休憩を取りながら、この世界で水分を取る方法をタブレットで探した。何種類か見つかったが、この辺に生えているのはスイドウジュと呼ばれる大木ばかりだ。直径三十センチの幹の真ん中に一~二センチのパイプの様な管があり、そこを根っこから吸い上げた水が、樹木全体に水を行き渡らせてるらしい。その樹木から水分を補給するには、ドリルか鉈か斧が必要と書いてあった。

「困ったなぁ。持ってるのはタブレットとガラケーと参考書とノートと筆記用具だけだしなぁ……」

 目の前に水を出してくれる木があるのに…。と思いながら辺りを見渡すと、石しか転がってなかった。この石を高速であの木にぶつけたら…、或いは……。

 足元に転がっていた手頃な石を拾う。重さは二百グラムくらいだろうか? とりあえず掌に載せて超能力を使ってみる。

「発射」

 一瞬で加速した石は、木に直撃する手前で音速を超えたっぽい。どどーんっと周辺の空気を震わせる轟音を立てて、目標であった直径約三十センチくらいのスイドウジュが根本から一メートルくらいの高さから折れた。そのとてつもない轟音に、辺りの鳥たちが一斉に逃げ出す。折れた途端に噴き出す水。驚きながらも慌てて駆け寄って喉を潤した。近くにいて音に失神した鳥たちが空から落ちてきていた…。自分の目もちょっと点になった…。

「あ~~…、びっくりしたぁ…」

 二度目の落雷で、私の超能力ってこんなに強化されてるんだ。と改めて思う。これ対モンスターでも絶対通じるな…。かなりグロい結果になるだろうけど。まぁ私グロ平気だし。

 そんな事を考えながら、また道を歩き出す。そうやって二十分ほど歩いてると、前から駆けてくる蹄の音がした。見ると手に手に槍や剣をもったマッチョで臭そうな四人の男達が馬に乗ってこっちに向かってくる。そして私を取り囲むように止まる。

「さっきこの近くですごい音がしたが、お前がやったのか?」

「違います。突然の落雷があって木が……」

 怯えた演技で咄嗟にウソを言う私。

「空は思いっきり晴れて澄み渡ってるが…?」

「…………」ちょっと苦しかった?

 その内の一人が「確認してくる」と言ってその場を離れた。

「怪しい奴だ…。お前は何者だ? どっから来た?」

 馬上の一番年上で一番臭そうな男が、槍を私に向けて尋ねる。…コイツ首でももいだろか……。

「旅の者ですが、気付いたらこの道を歩いてました…。カガミ村と言う所の出身です……」

「カガミ村……、聞いた事のない村だな…。お前もしかして迷い人の類か?」

「…迷い人…?」

「ここ二十年ほどの間に、各地で起きてる奇妙な現象だ。旅をしていたらいきなり霧に包まれ、霧が腫れたら知らない土地に来ていたと言う……。そう言う者の事を迷い人と呼んでいる。お前もそんな霧の中を通って来たのか?」

 その話に便乗しておこう。一から説明してもわかんねーだろーし…。

「そうです! 村を出て道を歩いていたら、いきなり濃霧に包まれまして、気が付いたらこの道に立ってました…」

 精一杯の困った顔をして見せる私だが、正直自分にこんな演技力がある事に驚いてる。ガッコでもぼっちだったのに。もしかしたら、これが私の隠れた才能?

「おおーい! クロルさぁーんっ!!」

 先ほど「確認してくる」と言ってた男がもう戻って来た。はえーなオイ。

「おお、どうだった?」

「それが…、どう見ても落雷の仕業とは思えないっス。落雷なら縦に裂けて派手に焦げてる筈なんですが、スイドウジュの木は真横から折れてたっス! 落雷の仕業とは思えないっス」

 よく観察してやがんなこの野郎……。クロルと呼ばれた男が私に視線を向ける。

「…お前が魔法か何かで、何かしたんじゃないのか?」

「そんなっ! 私魔法なんて使えませんっ! それに見ての通り刃物や武器も持ってませんっ」

 眉毛をハの字にして手を組んで懇願のポーズ。うーむ…、こんなベタな演技前世でもやった事ないぞ。

「とりあえず村まで連行するっ! 大人しく来てもらおう。後ろに乗れっ!」

 クロルがそう言う。一番男臭そうなお前の後ろはまっぴらだ。なのでハッキリと言う。

「あ…、あの…、私男性の匂いがちょっと苦手で……。出来ればあちらの人の後ろに……」

 と、遠慮がちの演技で、一番若そうな男を指名する。指差された男は途端に顔を真っ赤にする。てめーコクってもねーのにその反応ヤメロ!!

「な……っ!!」

「ぎゃははははっっ!!!」

「隊長ってば全身筋肉の塊だし…、わはははっ!!」

 クロルは絶句し、他の二人は大爆笑。言っとくが、オメーら二人も似た様なモンだからな? 口には出さねーけど。指名された男はますます顔を真っ赤にしている。

「わっ、笑うな手前ぇらっ! くっそっ!! おいニールっ! お前がその女を乗せろっ!!」

「はっ…、はいっ!!」返事の声が裏返ってる。ヤメロよそんなDTなリアクション。何で処女の私がこんなに落ち着いてんだよっ!

「行くぞっ」と、準備が出来た私たちにクロルが言う。ニールの後ろに乗った私は、なるだけ身体をくっつけないように姿勢に注意していた。

 馬に乗っているので正確な時間は分からないが、陽は傾きかけていた。そして、初めて乗った馬の乗り心地は最悪だった……。
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