1 / 3
1
しおりを挟む
ある昔、三ッ石という三つの岩山が突き出た岩礁があり、その周辺の海に鮫の夫婦がいました。
鮫は灰色と白色の大きな体にザラザラとした肌、鋭い歯が何十本とある口、弓のような尾ビレを持ち、恐ろしい怪物のようであります。だがこの鮫夫婦はいつも仲良く暮らしており、二匹の子鮫のために魚を獲ったり敵の鮫と戦っては追い返したりして子鮫を育てながら守っていたのです。
特に夫の鮫はこの辺りの主をしており、この海を通る人間の船が来ては船底に体当たりをして人間を脅かして追い払う凶暴な主ですが、これも可愛い子鮫を守る為であり、体に傷をつけながらも船を近寄らせないように毎日毎日そうして暴れていたのです。
「全く、人間というのは懲りない奴だ。今度来たら船を壊して食っちまうわい」
「まぁまぁ落ち着いて下さい。追い払えただけでも良かったじゃありませんか」
「そうじゃがの、——だが此の頃ワシらの縄張りに人間の船が来るではないか」
「確かに多いですわ……」
鮫夫婦はこの海で魚を獲ろうとする漁師と船に困っていた。魚を獲られては食べ物が無くなることや小鮫が網や釣り針に引っかかって連れて行かれると思うと心配でたまらないのである。——
「では子供の食べ物を獲ってきますわ」と言い、妻の鮫は魚を獲りに出かけた。
夫の鮫も食料を探しに妻の鮫とは別方向の沖へと泳ぐ。
すると近くで魚を獲る地元の漁師二人と船が止まっている。これを見た夫の鮫は怒り、「この野郎!」と言いながら船に思いっきり体当たりしたのだった。
船は大きく揺れ、二人の漁師は危うく海に落ちそうになった。
「しまった、主の鮫が来ちまった」
「まずい、退くぞ!」
二人の漁師は慌てて船を漕ぎ、陸地へと急いで逃げる。
「逃がすか!」と夫の鮫は続けて体当たりを行い船を壊そうとしましたが、必死に漕いだのか陸地まで近づいてくると村人達が槍や銛を持ち構えていたので、夫の鮫は諦めて沖へ戻りました。
悔しい気持ちでいっぱいな夫の鮫はヤケクソにあちらこちらと泳ぎ回り、アジを四匹ほど捕らえて妻と子が居る三ッ石の沖へ帰るのでありました。——
妻の鮫は夫が不機嫌そうに帰って来たのを見て優しく問いかける。
「お帰りなさい、一体どうしたのですか?」
「またじゃ—、またワシらの海に人間が来おったのじゃ。次こそは船から落として喰ってやろうとしたのにあと一歩のところで逃げられちまったわい、ちくしょう!」
「そうでございましたか、——でも御前様が無事に帰ってきただけでも安心して良かったですわ」
「御主はいつも優しいのう——」
「そりゃー御前様の妻でございますから。それに何かあると子供達が悲しみますので——」
「すまぬのう——、いつも助かるわい」
すると後方から二匹の子鮫が向かってきた。
「お父ちゃんだー! 、おかえりなさい」
「おおー子供達よー、いい子にしてたかい?」
「うん! うん!」
「そうかいそうかい、流石我が子じゃ」
「お母ちゃんお腹すいたよー」
「はいはい、今ご飯にしますからね」
「やったー!」
妻の鮫は捕ってきたイシダイ一匹とワラサ二匹を海底の岩場に置き、持ってきたアジと一緒に家族で美味しく食べました。
「美味しいよお父ちゃん」
「そうかい、残さず食べるんだぞ」
「はい!」
「よしよしいい子じゃ」
「お母ちゃんおかわり!」
「はいはい、ちょいとお待ち」
鮫夫婦は子鮫との幸せなひと時を過ごし、夜も遅くなったので岩場を背にして眠りについたのである。
鮫は灰色と白色の大きな体にザラザラとした肌、鋭い歯が何十本とある口、弓のような尾ビレを持ち、恐ろしい怪物のようであります。だがこの鮫夫婦はいつも仲良く暮らしており、二匹の子鮫のために魚を獲ったり敵の鮫と戦っては追い返したりして子鮫を育てながら守っていたのです。
特に夫の鮫はこの辺りの主をしており、この海を通る人間の船が来ては船底に体当たりをして人間を脅かして追い払う凶暴な主ですが、これも可愛い子鮫を守る為であり、体に傷をつけながらも船を近寄らせないように毎日毎日そうして暴れていたのです。
「全く、人間というのは懲りない奴だ。今度来たら船を壊して食っちまうわい」
「まぁまぁ落ち着いて下さい。追い払えただけでも良かったじゃありませんか」
「そうじゃがの、——だが此の頃ワシらの縄張りに人間の船が来るではないか」
「確かに多いですわ……」
鮫夫婦はこの海で魚を獲ろうとする漁師と船に困っていた。魚を獲られては食べ物が無くなることや小鮫が網や釣り針に引っかかって連れて行かれると思うと心配でたまらないのである。——
「では子供の食べ物を獲ってきますわ」と言い、妻の鮫は魚を獲りに出かけた。
夫の鮫も食料を探しに妻の鮫とは別方向の沖へと泳ぐ。
すると近くで魚を獲る地元の漁師二人と船が止まっている。これを見た夫の鮫は怒り、「この野郎!」と言いながら船に思いっきり体当たりしたのだった。
船は大きく揺れ、二人の漁師は危うく海に落ちそうになった。
「しまった、主の鮫が来ちまった」
「まずい、退くぞ!」
二人の漁師は慌てて船を漕ぎ、陸地へと急いで逃げる。
「逃がすか!」と夫の鮫は続けて体当たりを行い船を壊そうとしましたが、必死に漕いだのか陸地まで近づいてくると村人達が槍や銛を持ち構えていたので、夫の鮫は諦めて沖へ戻りました。
悔しい気持ちでいっぱいな夫の鮫はヤケクソにあちらこちらと泳ぎ回り、アジを四匹ほど捕らえて妻と子が居る三ッ石の沖へ帰るのでありました。——
妻の鮫は夫が不機嫌そうに帰って来たのを見て優しく問いかける。
「お帰りなさい、一体どうしたのですか?」
「またじゃ—、またワシらの海に人間が来おったのじゃ。次こそは船から落として喰ってやろうとしたのにあと一歩のところで逃げられちまったわい、ちくしょう!」
「そうでございましたか、——でも御前様が無事に帰ってきただけでも安心して良かったですわ」
「御主はいつも優しいのう——」
「そりゃー御前様の妻でございますから。それに何かあると子供達が悲しみますので——」
「すまぬのう——、いつも助かるわい」
すると後方から二匹の子鮫が向かってきた。
「お父ちゃんだー! 、おかえりなさい」
「おおー子供達よー、いい子にしてたかい?」
「うん! うん!」
「そうかいそうかい、流石我が子じゃ」
「お母ちゃんお腹すいたよー」
「はいはい、今ご飯にしますからね」
「やったー!」
妻の鮫は捕ってきたイシダイ一匹とワラサ二匹を海底の岩場に置き、持ってきたアジと一緒に家族で美味しく食べました。
「美味しいよお父ちゃん」
「そうかい、残さず食べるんだぞ」
「はい!」
「よしよしいい子じゃ」
「お母ちゃんおかわり!」
「はいはい、ちょいとお待ち」
鮫夫婦は子鮫との幸せなひと時を過ごし、夜も遅くなったので岩場を背にして眠りについたのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる