12 / 32
二年
しおりを挟む「弘通ってさ、もう矢弘のこと嫌いじゃなくなったの?」
秋が終わりかけていた頃に、佑霧は思い出したように弘通に問いかけた。
「え?そう見えんの?」
「うん。嫌いには見えねえ」
「あー、そういや佑霧に話してなかったけど、俺アイツと色々あって」
当初弘通が予想していた通り佑霧と矢弘は馬が合ったようで、矢弘の弘通に対する嫌がらせから始まったものの、あれから三人でいることは多かった。
「ああ、まぁなんかあんだろうなとは思ってた。初めから」
「なんか悪ィな、何も言ってなくて」
「んや、今話してくれるんだろ?」
佑霧が缶の酒の残り3分の1くらいを一気に飲み干していく。
弘通はその上下に動く喉仏をぼうっと無心で見つめていた。
今日は佑霧の部屋で呑んでいる。
飲みといっても度数の低い缶の酒のみ。
「おー……つか、俺がなんとなくずっと矢弘のこと嫌ってたのはお前知ってんじゃん」
「うん。だからあの最初の食堂の時俺ビックリした」
「本っ当にあん時は……矢弘ぶっ殺してやると思ってた」
弘通の目はどこか遠くを見ている。
佑霧は腹を抱えて笑った。
お互い少し酔っているようだ。
「あ、やっぱなんかあったの?あん時」
「俺はあの日脅されてアイツと飯食うようになったんだよ。」
「え何?何をネタに脅された訳」
弘通は少し悩んだ。
もう綺麗に消えてなくなったあの傷跡の話を佑霧にするかどうか。
ただこの話を隠したままだと話が先に進まないだろうし、もう完治した傷の話をいつまでも恥ずかしがる必要もないと思った。
「あん時さぁ、矢弘の首に歯形ついてたじゃん」
「付いてたな。もう消えたけど」
「アレ俺が付けたんだよね」
「え?」
佑霧は目を丸くした。
思わぬ事実だったのだろう。そりゃそうだ。
だけど弘通はそこまで話してからふと、矢弘が俺のこと脅して嫌がらせしてきたなんて言ったら、友達のこいつはショックを受けたりするのか?と考えた。
もしこの話をしたことで、矢弘と佑霧の関係が悪くなったりしたら、と。
それを考えるにはもう遅いのだが。
「お前何してんの?」
「違う違う。俺がヤべぇ奴みたいになってんじゃん」
「お前ヤベぇよ」
「違ぇよ。俺も首にガーゼ貼ってたじゃんそん時」
佑霧の白い目が痛くて思わず早口になる。
数少ない友人に引かれたくない。
「……あぁ、確かに。」
「俺の首のガーゼは……矢弘に付けられた歯形隠してたんだよ」
「……は?」
心底理解不能だとでも言うような顔で見られて、何だか居た堪れなくなる。
あの佑霧がこんな顔をするなんて珍しい。
「お前ら何してんの?」
「なんつーか……戯れ合いで?」
「ヤベぇな。……え、だってアレ部屋替えしてすぐだったよな?」
「そうだよ。顔合わせて二日目?」
「二年目でも噛まねぇよ」
佑霧は苦笑した。
入学してすぐ仲良くなったから、佑霧とはもう二年の仲なのか。未だよく分からない所もあるけれど。
「で、それきっかけに……」
「そういやさぁ、」
「何?」
「お前ら一緒のベッドで寝てたって矢弘言ってたけどマジなの?」
「あぁ……そう、それも嫌がらせで……」
それは現在も続いているとは流石に言えなかった。
佑霧は密かに、(だからなんかこの二人いつも距離近いのね)と納得した。
実際初日から一つのベッドで眠ったことで互いのパーソナルスペースを侵し、二人の距離感は少し通常とズレていた。
「で、そういうのきっかけに何つうかちゃんとコミュニケーション取るようになって、」
「取り方ね」
「で、矢弘は俺に嫌がらせしてその反応を面白がるのが好きみたいだったから」
「捻くれてんな」
「俺は嫌がらないようにしたんだよ」
「……はぁ」
佑霧は少し首を傾げた。
「つうか、俺も矢弘が嫌がることしてやりたいと思って、俺が嫌がらないのが矢弘からしたらつまんねぇかなと思って、」
「なるほどね」
「そう」
「無反応で返したんだ、嫌がらせに対して」
「……うーん」
弘通は曖昧な返事をした。無反応というよりは……
佑霧は日頃の二人の様子を思い浮かべる。
「……いやけどさ、なんか分かるよ。その矢弘がしてた嫌がらせっていうのはなんとなく。」
「だろ?」
「お前に嫌なこと言ったりするのよくあったもんな」
「そうそう。俺はアイツが嫌がらせしてきてんだって知ってたけど、お前よくあんな奴と仲良くできたな」
「いや、だって、お前ら……」
「ん?」
佑霧は二人のそういう絡み方を、楽しんでやっているものだと思っていた。
「例えば、矢弘お前に小さいって言うじゃん」
「言われるな、よく」
三人で図書館で資料を探した時も、並んで歩いている時も、矢弘が5センチ下の弘通を見下ろすタイミングがあれば、その都度矢弘は嫌味を言った。
実は三人の中だと佑霧が一番身長が低いのだが、矢弘は佑霧には何も言わない。
「そん時お前、いつも「可愛いだろ?」って言うじゃん」
「いや本気で思ってねぇよ?」
「それは分かるけど」
「最初アイツちょっと動揺してただろ?アレは俺の勝ちだったな」
悪餓鬼のように笑う弘通を見て、何が勝ち?と佑霧は思った。
「お前そんなキャラだったっけ?」
「え?」
弘通は目を丸くした。
「矢弘に嫌がらせされんの、なんか寧ろ嬉しそうじゃん今は」
「それでいいんだよ。嫌がる姿が見たいのに嬉しそうにしてたらがっかりすんだろ」
佑霧はここ最近の矢弘のことを思い返して、がっかりしてる様子はないけどな……と思った。
寧ろ矢弘の皮肉に好戦的に言い返す姿を楽しんでいるように見える。つまり二人とも楽しそうなのだ。
「実際はどうなの?」
「ん?」
「矢弘に馬鹿にされたりすんの」
「いやウゼぇよ。」
「本当に?」
「え?……あーでも、なんか嫌なこと言われても、俺の嫌がる顔が見たいから言うんだって知ってるから本気にしないというか……、本気で嫌だと思うことはねぇな」
「……なるほどねえ」
なんかおかしくね?と佑霧は思ったが、
けどまぁ仲良くしてんならいいや、と思って新しい缶を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる